東京ダモイ (講談社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062764407

作品紹介・あらすじ

舞鶴でロシア人女性の遺体が発見された。時を同じくして抑留体験者の高津も姿を消す。二つの事件に関わりはあるのか。当時のことを綴った高津の句集が事件をつなぐ手がかりとなる。60年前極寒の地で何が起こったのか?風化しても消せない歴史の記憶が、日本人の魂を揺さぶる。第52回江戸川乱歩賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • ガツンとくる物が読みたくなり手に取った一冊。

    過去にソ連の捕虜となりシベリアに抑留された経験を持つ高津は、それを風化させまいと一冊の句集を自費出版しようとする。
    試みが実現するその前に、あるロシア人の女性が近くの埠頭で遺体となって発見された。その後高津は行方不明となってしまう。
    残された出版担当者槙野は守銭奴の鬼上司に尻を叩かれ大口顧客である高津の行方を追う。可哀想な彼にエールを送りたくなるのは自然の理かろうて...ズズッ…(   ՞灬ة旦)
    この単純な殺人事件は後に謎が深く複雑に絡み、多くの人間と時空を繋ぐ因縁の物語へと発展して行く。

    句集で語られる彼の人生は壮絶だ。
    彼ら兵士達はソ連兵の管理課に置かれたとしても「ダモイ(帰郷)」出来る事を信じて疑わなかった。だが、彼等の乗る貨車はシベリアに向かっていた。国は彼等をソ連の労働資源の提供ではなく、奴隷にでも使ってくれと見放した様なものだ。ダモイなど、有り得なかったのだ。過酷な労働と残酷な命のやり取りに額の皺は刻まれるばかりだった。
    年月を経て、ある日の中尉殺害事件をきっかけにダモイが叶う事となる。娯楽の俳句を通じて出会った4人の仲間達との友情を心に留め、高津は日本に帰還した。
    ーーーーーーーーーーーーーー

    60年前を綴る名も無き一兵士の句集
    その中で語られた未解決の中尉殺害事件。
    そして現代で起きたロシア人女性殺人事件と繋がりを見せるシベリア抑留兵士達の影。
    この因果が全て繋がった時、高津の目的と志しが明らかとなり、そしてその瞬間私の心は震え上がり腕には鳥肌が浮かんでいた。
    武士だ、もののふだ、SAMURAIだ。
    今なら迷わず土産屋に置いてある「侍」の文字がプリントされたTシャツを購入するだろう。
    「剣を抜かずに勝つ」
    無駄な血を流さず、相手の刀を汚さないことが尊ばれる。彼は最後まで刀を抜かなかったのだ。

    420ページにもなる作品に加えて、句集の中で数々の俳句が出てくる。心得の粒子もない私は調べ調べの読書となった。
    にも関わらず、付け焼刃の知識と付属する解説により意味を知れば知るほど高津の句集の深みが身に染み渡る様で驚く程夢中になった。あっという間に読み終えてしまった。
    しかもただの句集ではない、ミステリなのだ。犯人の情報が隠されているのだ。唆るであろう(含)
    私のツルツルの脳では俳句から犯人を特定する事は  勿論  できなかったが、余裕があれば是非隠された真実と繋がりを探し出してみてほしい。
    ーーーーーーーーーーーー

    この作品を手に取り感じた、現実でも起こったであろう壮絶なる兵士の物語がこの世に確実に存在している事。そしてそれを決して風化させるべきではない事を、しっかりと胸に留めておきたいと思いました。
    面白かった。

  • 第52回江戸川乱歩賞受賞作。
    なので、バリバリのミステリーと思っていたら、シベリア抑留から始まる重いストーリでした。
    ダモイは帰郷のこと。なので、東京ダモイはシベリア抑留者達が日本へ帰郷することでした。

    本書で描かれる極寒の地での抑留生活が辛い。
    昨年、「ラーゲリより愛を込めて」の映画を見ましたが、本書で描かれる内容はそれをはるかに超える凄惨さでした。

    ストーリとしては、
    シベリア抑留経験者の高津はその経験を一冊の句集として自費出版しようとしていました。
    そんな中、舞鶴港で発見されたロシア人女性の遺体。
    同時に、高津も行方不明に。
    自費出版会社の担当者槙野はその行方を追うことに。
    さらに警察もその行方を追います。
    ロシア人女性を殺害したのは高津なのか?

    その句集の中には、60年前のシベリアのラーゲリで起きた日本人将校の斬首事件のカギとなる記述が。
    句集の中の謎解きが始まります。
    日本人将校を殺害したのは誰なのか?

    高津の句集に描かれたラーゲリの生活の様子がリアルで辛い。
    そして、高津が句集を通して訴えたかったものとは。

    句集から60年前の事件の真相を明らかにするところが斬新。

    お勧めです。

  • ブク友のNORAxxさんのレビューをみて、興味を持ち読んでみた。
    非常に重厚な物語。ミステリーなんだけれども、描かれる人間ドラマの印象が強い。
    私の無き祖父がシベリア抑留者だったので、より地続きで内容が心に迫ってくる。親も、私も直接抑留の話を祖父から聞くことができなかった。しかし、唯一、テレビドラマでシベリア抑留の話を再現していたのを一緒に見た時に、「こんなに綺麗な環境じゃなかった」とぼそっと、一言つぶやいたことを思い出す。
    本書を読んで、改めてシベリア抑留のことを学んでみたいと思った。
    ミステリーという形で、名もなき人物の視点から戦争の惨禍と人間の尊厳を描き切った力作。文学作品とも呼べるかと思う。

    • NORAxxさん
      dsukesanさん、こんにちは。
      素敵なレビューを投稿して下さったのに年を超えて今拝読させていただきました。申し訳がないです。
      そして、興...
      dsukesanさん、こんにちは。
      素敵なレビューを投稿して下さったのに年を超えて今拝読させていただきました。申し訳がないです。
      そして、興味を持って下さりありがとうございます^ ^

      おじいさまのその一言、言葉の短さに反して深い感情を感じます。伝えられる歴史がドレスアップして綺麗に提供される現代ですが、その重みのある一言が私に見えてなかった物を見せてくれたような気がします。

      素敵なレビューをありがとうございました。
      2022/01/16
    • dsukesanさん
      NORAxxさん、こんにちは。
      ご丁寧にコメントを頂き有難う御座います。
      いつも、紹介される本の紹介をいつもとても楽しく読ませて頂いてます^...
      NORAxxさん、こんにちは。
      ご丁寧にコメントを頂き有難う御座います。
      いつも、紹介される本の紹介をいつもとても楽しく読ませて頂いてます^_^これからも、色々な本の感想を楽しみにしています!
      2022/01/16
  • 1947年11月の極寒の地シベリアで、旧ソ連軍が抑留日本兵を強制労働させるためのラーゲリ(俘虜収容所)で起きた日本人将校の斬首事件。それから60年をへた舞鶴港で絞殺されたロシア人女性。 この時空を超えた不可解な二つの事件を結ぶ謎と、「ダモイ(帰郷)」を信じた兵士たちの秘められた執念と悲哀を背景に、 意外な展開で読者を惹きつける江戸川乱歩賞受賞のミステリ小説。この物語の読みどころは、シベリア抑留者の熾烈な体験記とラーゲリ内で詠まれた俳句から殺人凶器を推理し、犯人を絞り込むところが秀逸であった。

  • 剣を抜かずに勝つ

    極限のシベリア勾留を体験して
    ダモイを果たし
    何も持たずに生き抜いた一兵士の生き様
    涙なしには語れない

    戦争を知らず、恵まれた現代を
    当たり前のように生きていられる事に感謝する

    私利私欲に支配されない生き様
    尊敬するべきはずの老人たち
    すぐ近くにもいるのかもしれない

  • 第52回江戸川乱歩賞受賞作2作品の内の1冊と言う本作品。「ダモイ」とはロシア語で「帰郷」と言う意味なのだそう。日本へのシベリア抑留での過酷な状況、内地への想いに心苦しいものがあった。前に読んだ本にも収容所で俳句の会があったと記してあったことを思い出した。

  • 薬丸岳さんの次の乱歩賞とゆうのと、そのタイトルから、読みたい候補上位だったが、やっと手に入れた。白砂で知った鏑木さんだが、期待を裏切らない作品かと。良作。

  • ミステリーとしても読ませるが、物語の鍵となっているシベリア抑留に関する描写に引き込まれた。フィクションではあるものの、巻末の参考文献には数々の手記が並んでいて、抑留経験者の証言に忠実に書かれたのだろうと感じた。戦中戦後を題材にした本や映像は数あれど、シベリア抑留というものにはあまり光が当たらない。声をあげている経験者がたくさんいる。あげていない経験者はもっとたくさんいる。この歴史的事実が、時代の流れとともに影をひそめてしまわないことを願う。

  • 作者の作風が好きで、ダモイの意味は全く知らずに読み始めた。知識としては知っている抑留について改めて考えた
    全体を通して辛く厳しいラーゲリ生活が書かれているけれど、槙野が句に引かれる気持ちがよくわかる
    #鏑木蓮

  • 鏑木氏のデビュー作。

    シベリア抑留
    俳句の謎解き
    老人の社会貢献
    かそけき恋
    自費出版の社会的価値

    モチーフが多すぎて
    焦点が定まらない印象を受けた。

    ただ一人、高津の正しさだけが
    最後まで純粋で美しい。

    推理の過程は複線で進み
    多くの人がからんでいて複雑すぎる。

    俳句の解読なんて…もっと
    興味惹かれるはずなのに。

    つまりは盛り沢山すぎて
    全体の構成要素から
    勝手にいくらか間引いて
    読みやすくして読み進める
    しかなかったからだろう。

    まだまだ、今の鏑木氏が持つ
    筆力は感じられない。

    少しずつ、最近の作品まで
    読んでいこうと思う。

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著者プロフィール

鏑木 蓮(かぶらき・れん)
1961年京都府生まれ。広告代理店などを経て、92年にコピーライターとして独立する。2004年に短編ミステリー「黒い鶴」で第1回立教・池袋ふくろう文芸賞を、06年に『東京ダモイ』で第52回江戸川乱歩賞を受賞。『時限』『炎罪』と続く「片岡真子」シリーズや『思い出探偵』『ねじれた過去』『沈黙の詩』と続く「京都思い出探偵ファイル」シリーズ、『ながれたりげにながれたり』『山ねこ裁判』と続く「イーハトーブ探偵 賢治の推理手帳」シリーズ、『見えない轍』『見えない階』と続く「診療内科医・本宮慶太郎の事件カルテ」シリーズの他、『白砂』『残心』『疑薬』『水葬』など著書多数。

「2022年 『見習医ワトソンの追究』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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