しずかな日々 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
4.08
  • (300)
  • (351)
  • (166)
  • (24)
  • (5)
本棚登録 : 2875
感想 : 348
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062766777

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • R1.5.6 読了。

     小学校5年生の夏休みから、おじいさんとの同居することになった。平屋ですべて和室で、雨戸の開ける音で起床する、親友が泊まりにきたり、庭木に水かけしたり、廊下の雑巾がけをする暮らし。昭和によくあった風景。夏に縁側でスカを食べながら種飛ばしとか、なつかしい。

    ・「3人で ― ぼくと押野は麦茶、おじいさんはお酒で ― 飲み物を飲み、漬物をつまむ。なんだかそれだけのことなんだけど、ぼくたちはその時間をとても有意義に感じた。なんにもしゃべらなくても、ただここでこうしているだけでよかった。濃密で、胸が少しだけきゅんとしてしまうような時間だった。それぞれが、自分だけの世界をたのしんで、でもそれは、ここにいる3人でなければ見つけられない世界だった。」

  • 「エダイチ」というあだ名の小5の男の子が祖父の家で過ごした夏休みを描いた小説。題名「しずかな日々」の通り、祖父と二人で過ごす夏のゆったりと豊かな日々を感じられ、読んでいてとても心地良かった。自分が子供時代に祖父母の田舎で過ごした楽しいことが満載の夏休みも思い出した。愛想がないが誰よりも孫を思いやる祖父の限りない温かさ、引っ込み思案で学校生活を楽しめていなかったエダイチを変えてくれた友達「押野」とその仲間の友情もとても微笑ましかった。終わりに、その後何十年の経過が主人公によりすごい勢いで語られている箇所は不要かも…と思ったが、小5の男の子が過ごした夏休みの描写は秀逸だった。

  • 自分の5年生の頃を思い出す。子供なのだけれどもういっぱしの大人の気持ち。心の目覚めがよくとらえられている。14~15歳もターニングポイントだけれど、その時ほど生々しくないのが、懐かしい。

  • 主人公の少年にとって人生のターニングポイントとなった小学5年生の夏休みについての長編。
    普段読まない本だが、図書館にご自由にどうぞという棚にあったので貰い、読んでみた。
    母子家庭で人見知りの主人公は、クラスメイトの押野との出会いで広がる友人関係やおじいさんの家での生活によって成長?変化?していく。その夏休みはとても楽しそうで、なんだか微笑ましく思いました。
    私が過ごして来た夏休みでこんなに実りのある夏休みはあっただろうか。顕著に成長を感じられる夏休みを過ごしてこなかったなぁ、と今になって後悔。

  • 子供にも意思があり、平等に人を道を選ぶ権利があるのです。彼が選んだ人生は最善である、と何度も感じました。それは彼自身は勿論、彼を取り巻く全ての人達が笑える選択だからです。大人が気疲れする一方で、子供はそれを敏感にキャッチしています。大、小と並べたプレゼント、必ずしも大きい方が得だとは限らないと解ってはいるほどに彼はもう大人でした。どんな言葉よりも、いつも通り笑ってくれる人や肩や頭をポンポン、その大丈夫だよの合図が何よりも慰めになったりします。

  • なんてことはない日々の連続が今の自分に続いている。

    幸せ。何も大きな事件は起きないのに(小学生にとっては大事件かもしれないけど)、最後まで引きつけて離さない話。主人公は小学5年生の枝田光輝。父親は不在。彼の一人称で小学5年生の夏休みを中心とした「あの頃」の話。小学5年生になり、新しい友人・押野と出会う。そこから少しずつ変わっていく「えだいち」。新しい仕事を始める(何やら新興宗教?)母親と離れ、祖父と二人で暮らし始めた日々。

    主人公の成長が愛おしい。何かをきっかけに、少年は目を見張るほどに成長していく。ひねた「大人」になるのではなく、「子ども」を脱していく。それは、新たな世界を得たことも、自分の気持ちを言えるようになるということも、母との距離も、祖父の家で与えられた役割も、すべてが関わっている。この話は大人になった主人公が、過去を振り返っているが、このように「あれが自分の大人の一歩だった」と振り返る時期が誰にでもあると思う。それが、このような愛おしい記憶であるならば、幸せだろう。

    かつて子どもだった人にも、これから大人になろうという人にも、優しい話。

  • 実景を背にした二台の自転車が置かれた『広っぱ』ジオラマ写真をジャケットにしたセンスに激しく魅かれて購入。主人公が自らの人生において一つのターニングポイントとなった「小学校5年生の夏休み」を淡々と綴る回想録にあって筆者の客観的な描写力は読む者自身が『パラレルワールド』で経験して来たかのようなリアルな生活感が不思議であり心地よい。最後の一行で表題の意味が理解できた瞬間、何とも言えないホッコリとした読了感に包まれ、そして改めてジャケットデザインの「趣旨」に敬服。現実に疲れ、心がささくれた時の「処方箋」的な一冊。

  • 児童文学出身の人はやっぱり安定感がありますね。小学5年生の男の子が主人公ですが、スタンドバイミー的な、少年時代の忘れられないひと夏の思い出系。それだけだとありがちな話ですが、すでに大人になった主人公が淡々と当時を俯瞰で振り返っているので過剰な感傷がないのが良いです。人生はとくに劇的ではないけれど、それでも続いていくし、心のよりどころになる思い出がひとつでもあれば人は生きていけるっていう、前向きだけれど押し付けがましくないところが好きでした。

  • 父が病気がちで入院生活を繰り返していた頃、母親はパートに出かけるようになり、僕の家がたまり場であった。あの頃、家に遊びにきていた奴らは今、どうしているんだろうか。悪い事をするでもなく、放課後遊んでた。中学校で部活動が違い、離れていったり、高校が違いお互いに合うこともなくなった。もしもって考える事なんて人生のずっと後になってからで、こう生きる事があたり前だった。
    大人になり「しずかな日々」が嫌だと感じ、悩んでいた日々もある。
    年月を重ね、どうやらわたしも静かな日々を取り戻せそう。
    心がそこに収まっていく日。そのひとつのターニングポイントになる
    小説でした。

  • 小学5年生。えだいち少年の夏休み。
    誰にでも当たり前にあった日々が、大人になってふりかえるととても輝いてみえる。なんてことはない日常を丁寧な文章で綴られている。
    心温まる懐かしくなる本。

著者プロフィール

1970年神奈川県生まれ。2002年、第42回講談社児童文学新人賞を受賞した『十二歳』でデビュー。07年『しずかな日々』で第45回野間児童文芸賞、08年第23回坪田譲治文学賞、17年『明日の食卓』で第3回神奈川県本大賞、20年『昔はおれと同い年だった田中さんとの友情』で第69回小学館児童出版文化賞を受賞。『明日の食卓』は21年映画化。その他の著書に『消えてなくなっても』『純喫茶パオーン』『ぼくたちの答え』『さしすせその女たち』などがある。

「2021年 『つながりの蔵』 で使われていた紹介文から引用しています。」

椰月美智子の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×