虚夢 (講談社文庫)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062769716

作品紹介・あらすじ

「本当に“あの男”の姿をみつけたいのだろうか」
「心神喪失」の通り魔犯に娘を殺された夫婦。4年後、街ですれ違った男は“あの男”だった。
謎解きだけでは終わらせない! 注目の作家

通り魔事件によって娘の命は奪われた。だが犯人は「心神喪失」状態であったとされ、罪に問われることはなかった。心に大きな傷を負った男は妻とも別れてしまう。そして事件から4年、元妻から突然、「あの男」を街で見たと告げられる。娘を殺めた男に近づこうとするが……。人の心の脆さと強さに踏み込んだ感動作。

感想・レビュー・書評

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  • 通り魔事件によって娘の命が奪われた小説家・三上と妻の佐和子。12人の無差別殺傷事件の犯人は心神喪失状態と鑑定され不起訴となる。その後、心に傷を負った夫婦は離婚。そして事件から4年後、元妻・佐和子から、犯人を街で見たと三上に連絡が入る。精神障害者と法理の在り方、加害者・被害者の心情が描かれたヒューマンミステリ。

    前読レビューに続き、薬丸岳8作品目。
    【闇の底】で心が抉られたばかりだったが、自然と積読棚から手に取った本作品。己の中にある本性、正邪を確かめようではないかと。今日今現在の、私の性根を記しておこうではないかと。以下、素人読者の意見と知識によるレビューであることをご許容願いたい。


    もはや私は薬丸岳作品にある種の信頼を置いている。
    よって作品としてのストーリー、構成、展開、伏線回収、結末まで圧巻、一気通貫で読み耽った。

    解説で列挙されている参考文献からも、著者が執筆にあたり如何に加害と被害の立場を重んじて、多角的な観点から創られたのかがひしひしと伝わってきた。

    そして向き合うべきテーマは【刑法第39条】だ。

    数々の作家が題材として取り上げる刑法第39条。
    ・心神喪失者の行為は、これを罰しない。
    ・心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する。
    上記のとおり問われるのは 【責任能力の有無】だ。

    まず私個人の意見としては人を殺める行為に対して【責任能力の有無】を問う必要性を感じない。人権を有する以上、自他ともに生命に対する責任も有すると考えるからだ。

    また、本書でも回想シーンのセリフで【精神鑑定】について語られている。

    ・精神科医は人の心の正常と異常をどのように判断するのだろうか。(それは正しい基準なのだろうか)
    ・犯罪者へ精神鑑定は本当に必要なのだろうか。

    これは常々私も思っていた。動機が理解しがたい凶悪犯罪などに決まって行われる精神鑑定。果たして必要なのだろうかと。

    被害者にとっては犯人の精神状況や責任能力の有無などが秤にかけられ、刑罰の重さが変わるなど到底理解、納得できるものではない。健常者同様に『極刑に処すべき』というのが私の【罪】に対する一意見である。


    一方で、本作では特に統合失調症にフォーカスを当てている。過去は精神分裂病と呼ばれていた精神疾患である。
    脳の病気であり、複合的要因(遺伝を含)により発症する。幻覚や妄想といった精神病症状が見られ、本人は自覚がないと言うケースが多いと言う。

    私も勉強するまでは、誤解していたことも多々あったのだが、まず素人の私からも申し上げたいのは精神障害者=危険人物ではないということだ。

    毎年法務省より犯罪白書というものが更新されるのだが、刑法を犯した検挙者の総数に対し精神障害者が罪を犯す割合は、一般人と比較してもわずか1%に過ぎない。

    よって『精神疾患と犯罪を結びつけるのは『偏見である』というのが私の【病】に対する一意見である。

    最後に、前述で述べたとおり本作品は多角的観点から創造されているため、被害者・加害者ともに公平な目で読者に問うてくる。

    重いテーマであるが、己の死生観や倫理観を問い直す機会にお薦めしたい一冊である。

  • 刑法三十九条
    「心神喪失者の行為は、これを罰しない」
    確かに、そうなんかもしれんけど、そんな人にでも殺された被害者の家族らの気持ちは、誰に殺されようと同じ。
    更に罪に問われないとなると…

    そういう人に娘を殺された!
    その加害者が、たった4年経っただけで、娑婆に出てる!行方を追うが…
    薬丸さんは、少年法とか、今回の刑法三十九条とか、法の問題点を突いてくる
    重た〜いテーマなんやけど、しっかりと色んな仕掛けを仕込んでる。
    ラストが、あっ!っとなる。
    これは単に、加害者の人だけではなく、そういう制度に対する復讐でもあるな。
    なかなかでした!
    薬丸さんは、良い!更にいっぱい買ってるので、まだまだ楽しませて貰います!

    心神喪失の鑑定も人の心の中の事なんで、安易には、判断下せんな。
    鑑定する専門医の責任は大変なもんやな。

  • 佐和子の執念がすごい。人生をかけての計画、ここまできたならやり遂げさせてあげたかった。
    被害者遺族の理不尽な思い、理不尽だと声を上げるべきだと思っても三上のように諦めてしまう人の方が多い思う。
    ここからは三上の出番。この『虚夢』ように、社会に疑問を投げかける作品を世に送り出してほしい。

  • 本当に辛い病気なんだろうなと。当人の気持ちを、わかろうとしても、わかってあげることができない。んー、辛いですね。

    三上さんの漢気、素晴らしい。

  • 「心神喪失の行為は罰しない」病気だからしょうかない、正しい判断ができないからしょうがない、不運な出来事を「しょうがない」で片づけなければいけない被害者はたまったものじゃない、、、なかなか考えさせられる難しい問題。引き込まれる作品でした

  • 異常とはいったい何なのか。(中略)人を殺しても許されるという司法からのお墨付きがもらえるまで狂気に近づきたかった。
    これが被害者遺族の正直な感情だと思いました。復讐が出来るなら、一番狡い方法で同じ目に合わせてやりたい。少なくとも私はそう思いました。

  • 前々から読みたかった薬丸岳さん
    精神障害者による凄惨な殺傷事件
    加害者と被害者家族と更に別の障害者との関わり
    母親の渾身の芝居が、少しだけ希望を示してくれました


  • 自身も傷付けられ目の前で娘を殺されてしまった母親と、その過去からなるべく目を背け逃げ続けていた元夫が、過去と向き合い戦っていく話。

    刑法39条をテーマとするところに薬丸岳さん節を感じた。薬丸岳さんの描く、事件被害者の心境にはいつも胸を揺さぶられるし、自然と目が潤んでしまう。

    また、加害者にもスポットを当てているところが良かった。彼もせっかく落ち着きを取り戻していたのにね…。流石に再発の流れでは心が苦しくなった。きっかけがなあ…、と。逆を言えばきっかけさえあれば同じことが起こる状態であったということでもあるんだろうけど。

    人物ごとのオチに関しては、それまでの内容を踏まえれば想定内で衝撃度も特になかったけれど、全体で見れば、読んでいてどんどん引き込まれていく展開で面白かった。
    メインパーソンは確実に夫婦だと思うんだけど、私はゆきちゃんのことをもっと知りたいと思いながら読み終えたかも。ゆきちゃんの過去や、今後の動向、それに付き合っていく松岡と母親、のストーリーを読みたい。

  • 鳥肌がたった!
    本を読んでいて初めてざわざわっと鳥肌が立ってしまった。
    深く、えぐい、そして脆いながらも強い!

    刑法39条をテーマにした作品。
    今までの薬丸さんの作品同様、被害者の思い、憎しみ、そして葛藤と加害者側の思いが伝わってくる作品であり、刑法39条について考えさせられる作品です。

    ストーリーとしては、通り魔殺人で娘を失った主人公。しかし、犯人は統合失調症と診断され刑法39条により不起訴処分となります。心に大きな傷をおった夫婦は離婚し、主人公は自暴自棄な生活を送る日々。そんなとき、別れた奥さんから犯人を町で見つけたという連絡が。
    行き場のない被害者の思い、加害者を憎む気持ち。一方で、統合失調症だった加害者の心の闇。憎しみのあまり別れた奥さんもまた精神を病んでいってしまい、負の連鎖となるのか?加害者とどうなるのか?
    っとこれ以上はかけない...

    正直、途中まで、とてもいやな気分で読んでいました。
    特に元妻の精神が壊れていくところがとてもつらく、読み進めるのがつらくなってました。
    しかし、第六章。元妻の手紙を読んで、鳥肌が立ってしまいました。
    この章のために本作品があるのは間違いありません。

    以後、どんなコメントを残してもネタバレになるので、これ以上は書きません。

    刑法39条について、本当に考えさせられる作品だったと思います。
    お勧め。

    #やっぱり、こういった作品が好きだな!

  • 通り魔事件によって娘を殺害された主人公の三上考一。妻とも離婚し自暴自棄の生活を送っていた。ある時、娘を殺害した男を見かけたと元妻から告げられる。
    刑法三十九条によって処罰されなかった犯人に遺族はどう向き合うのか。精神障害者による犯罪をどう罰するべきか。深く考えさせられる内容です。

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著者プロフィール

1969年兵庫県生まれ。2005年『天使のナイフ』で第51回江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。2016年、『Aではない君と』で第37回吉川英治文学新人賞を受賞。他の著書に刑事・夏目信人シリーズ『刑事のまなざし』『その鏡は嘘をつく』『刑事の約束』、『悪党』『友罪』『神の子』『ラスト・ナイト』など。

「2023年 『最後の祈り』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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