彼女のこんだて帖 (講談社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062770194

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  • 「おふくろの味、というものを私は信じていない。」
    まさか本編ではなく、こんなクールな一行で始まるあとがきにこれほど泣かされるなんて。
    今は亡きお母様と料理の思い出を飾り気のない言葉で綴った角田光代さんの静かなのに溢れる思いの丈に、自然と涙がこぼれた。

    本編は料理にまつわる15帖からなるオムニバス小説兼レシピ集。
    四年間付き合った彼氏にフラれた女性が自分を奮い立たせるために作るラム肉のハーブ焼き。
    亡き妻の味を求めて料理教室に通った中年男性がようやくたどり着いた豚柳川。
    人目を気にせず好きなものを食べられる時間を謳歌する女性がつくるタイ料理。
    拒食症の妹を心配した青年が作ったピザ…。

    一編一編はとても短くてサラリとしているのだけど、料理をするということは、ただ単に食べるための支度というのではなく、自分の気持ちや誰かへの思いに向き合ったり、大切な記憶といった、個々人の人生に関わるものでもあるんだなあ、ということを、思い起こさせてくれる。

    そして、最後の〆は角田さんの思いが伝わる、あとがき。

    「どんなにかなしいことがあっても、日々は続いていく。日々が続いていくかぎり、私たちはごはんを食べなくてはならない。」
    「けれど私の個人的体験では、料理というものは、手間を超えた何かだった。食べることを超えた何かだった。」

    端的で静かなのに、どの言葉もとても胸に染みる。
    いつか、私も角田さんが体験した、さびしさと再生を体験するんだろうな、としみじみ思った。
    そして、年末には是非とも、母がお手製のつみれの味噌汁を食べたいとも思った。

    寂しい気持ちと優しい気持ちが一緒に胸に押し寄せてくるけど、なんだか少し元気になれるというか、心落ち着く作品集でした。

  • 前に同じ角田光代さんの料理エッセイ「今日もごちそうさまでした」を読んだ時に、これも面白いと薦めていただいた小説。
    まずぱらぱら捲ってみてびっくり。本編は4分の3くらいで、残りの4分の1は小説に出てくる料理のレシピ集(しかも写真つき!)になっているつくり。
    そして最後に角田さんのエッセイ的あとがきで締められていて、一粒で三度美味しい、初めて見るつくりの本でした。

    生きている限り、食べる、という行為は絶対に切り離せない。
    精神的、身体的な理由で食欲がわかない日もあるけれど、食べないでは生きていかれない。食に対するこだわりの有無は人それぞれあれど。
    たまには奮発して美味しいものを食べに出掛けよう、という日もあれば、面倒だから出来合いのもので済ませよう、という日もある。
    だけど毎日何かしらは口にしていて、それは人間の日常だ。

    この小説は、普通の人々の日常の中にある様々な料理を描いているのだけど、なぜかとてもスペシャル感がある。
    失恋したから食べるごはん、亡き妻の味を思い出しながら作るごはん、カップルのごはん、受験生のごはん、長年連れ添う夫婦のごはん…
    一編はごく短くさらっと読めるけれど、ゆるやかな愛情に満ちている。
    そして一話目の脇役が二話目の主役になり、二話目の脇役が三話目の主役になり、という形の連作になっている。最終話の仕掛けも良かった。

    温かく、そして少し切ない気分に。
    角田さんのあとがきを読んでいて、今は当たり前に食べている母親の料理もいつかは食べられなくなる日が来るのだ、と改めて実感。
    たまにしか食べられなかった時は有り難みがすごくあったのに、それが日常に溶けてしまうのはとても恐ろしい。
    それは夫婦なんかでもきっと同じで、作ってもらえることは当たり前ではないということを、頭の片隅にでもいいから置いておければ感謝の度合いは違ってくるのだと思う。

    作ってみたいレシピもいくつかあった。
    何より読んでいてお腹が空いた。笑
    食べ物を美味しく食べられるって素晴らしい。そんなことをしみじみ思った。

  • 料理が出てくる連作短篇集って言ったらそれまでだけど、ぎゅっと日常のあれこれが詰まった作品だと思う。
    料理苦手だから巻末のレシピは挑戦しないかな…


  • 人生のうちで誰しも作る料理と、それにまつわるその人の特別なストーリーが心に残った。
    私も何かあったら特別な料理を作りたい
    この本は大事にする

  • 付き合っていた彼と別れた、母が作ってくれた思い出の味、旅行先で食べた料理。

    様々な時に食べる料理。感じ方は人それぞれではあるが、その時の思い出とともに残る味ってあるのではなかろうか。

    僕だったら何かな。大学生の時。大学の近くにあったカレー屋で食べたカレーかな。

    登場人物に直接のかかわりはなにのだけれど間接的にはつながっている。そういうことってきっと多いんだろうなと思う

  • 料理のレシピと、それにまつわる短い小説が載っている、面白い本。料理や美味しいごはんが好きな人にはおすすめ。わたしは、漬けもの名鑑と豚柳川できみに会うが好き。
    「私たちの毎日はかっこいいものとかっこわるいものでできあがっている。豊かであるというのは、きっとそういうことだ。」
    自分がかっこわるいって思い込んでるものは、相手から見たら羨ましいくらい素敵なものだったりする。一人でも生きていける現代だけど、色んな人と関わって、より豊かに生きたいよ。

    あとがきもよかった。
    「どんなにかなしいことがあっても、日々は続いていく。日々が続いていくかぎり、私たちはご飯を食べなくてはならない。」
    悲しいことがあっても、人間ってお腹すくしトイレに行きたくなる。そういうときいつまでも悲しんでられないなって思うのであった。

    「今日の夜何を作ろうか、とぼんやり考えることは、ときに煩雑だけれど、ときにこれ以上ないほどの幸福でもある」
    すごーく共感。帰り道の車の中で冷蔵庫の中身を思い浮かべながら献立を考える時間が、楽しいときがある。

  • 私が元気になるための必要経費、という一文が好きだなと思った。ちまきが美味しそうだった。短編集+レシピ本。オムニバス好きだから楽しく読めた。
    それでうまくいく〜?みたいなご都合展開。本当にいい小説で心温まる感じではあるけど、この本を絶賛する人とは分かり合えないな〜という感じではある。面白いんだけど。

  • 日常の料理にまつわるちょっといい話。1話目の脇役が2話目の主役になるという具合に、登場人物がリレーのように繋がる仕掛けも読んでいて楽しい。
    出てくる料理も美味しそうなものばかり。今夜はちょっとキッチンに立とうかな、そして食べてくれる人の反応を見たくなる小説である。勿論、レシピは巻末で。

  • 各主人公と、料理にまつわる
    短編集。
    物語のなかに登場する脇役の
    人が、次の章で主人公となって
    登場する。
    人と人のつながり、そして人と
    料理のエピソード。
    読みやすかったし、レシピも
    載っていて作ってみたいと思った。

  • 何か特別なことがあった日の食事って鮮明に覚えているものだと思う。
    特別、というのは記念日しかり、
    泣きたいほど悲しいことがあった日。
    とびきり嬉しいことがあった日。
    その時に食べたものってよく覚えているものだ。
    それを作ったというならば尚更だ。

    食べることは毎日の習慣。
    その習慣を、無駄にせずに大切に、噛み締めていきたい。

著者プロフィール

1967年神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部文芸科卒業。90年『幸福な遊戯』で「海燕新人文学賞」を受賞し、デビュー。96年『まどろむ夜のUFO』で、「野間文芸新人賞」、2003年『空中庭園』で「婦人公論文芸賞」、05年『対岸の彼女』で「直木賞」、07年『八日目の蝉』で「中央公論文芸賞」、11年『ツリーハウス』で「伊藤整文学賞」、12年『かなたの子』で「泉鏡花文学賞」、『紙の月』で「柴田錬三郎賞」、14年『私のなかの彼女』で「河合隼雄物語賞」、21年『源氏物語』の完全新訳で「読売文学賞」を受賞する。他の著書に、『月と雷』『坂の途中の家』『銀の夜』『タラント』、エッセイ集『世界は終わりそうにない』『月夜の散歩』等がある。

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