おまえさん(下) (講談社文庫)

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著者 : 宮部みゆき
  • 講談社 (2011年9月22日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (616ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062770736

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宮部 みゆき
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米澤 穂信
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おまえさん(下) (講談社文庫)の感想・レビュー・書評

  • 南辻橋のたもとで、斬り殺された身元不明の亡骸が見つかる。
    それから間もなく、かゆみ止めの新薬「王疹膏」を売り出していた瓶屋の主人、新兵衛が斬り殺される。新兵衛亡きあとには、美しい後妻の佐多枝と、前妻との間の美しい一人娘・史乃が残された。
    本所深川の同心・平四郎は、調べに乗り出す。斬り口の類似から、この二つの事件の関連を調べるうちに、過去の因縁にたどりつく。

    ぼんくら、日暮らしに続くシリーズ3作目。
    美形の甥っ子・弓之助、若き同心・信之輔、岡っ引きの政五郎、記憶力抜群のおでこ、お菜屋のお徳…。
    なじみの面々に、新しく登場する玄徳医師や十徳長屋の丸助、信之輔の大叔父・源右衛門、弓之助の兄の淳之助らがからんで、ますますにぎやかに。
    キャラが立っていて、ストーリーも面白いのは面白いのです。
    が、前半で伸びに伸びた枝葉を、後半はちまちまとチョキチョキする感じで、だいぶ失速してしまいました。
    おでこのお母さん、おきえの話や、富札で大当たりして人生が変わった仙太郎の話、弓之助のお家騒動、お六と彦一の話(←前の話覚えてないし…)は、どれも本筋がわからなくなってしまうくらいの長さで、もういっそのこと、「おまえさん」は1冊にして、その他の話を短編集として別冊にしたらよかったのでは、と思いました。
    多少つながりはあるとはいえ、事件としてはほぼ別だし。色んな伏線を回収しているうちに、弓之助の冴えに冴えた推理の位置づけも曖昧になってしまってたのが残念です。

    目立たないけれどよかったのは、平四郎の奥方。ご慧眼でした。
    “「罪というものは、どんなに辛くても悲しくても一度きれいにしておかないと、雪のように自然に溶けてなくなることはないのだと、父は申しておりました。」”
    そして、不細工、不細工、不細工としつこいほどに表現されて(金壺眼だとか表現の仕方は色々ですが)、ちょっと可哀想になる信之輔でしたが、苦難のときを乗り越えて、同心として大きく成長し顔つきも変わり。
    彼の今後の活躍が楽しみになり、どうか素敵な出会いもありますようにと思うのでした。(にしても、彼の恋心は、平四郎が煽りに煽ったんじゃないのー、可哀想に。)

  • 今年の「読み初め」にしようと思って我慢していた、とっておきの一冊。元日と二日にわたって読みふけって、たっぷりと堪能した。こういう全幅の信頼感を持って読んでいける作家さんはちょっと他に思いつかない。素晴らしかったです。

    時代小説は苦手で、宮部さんの作品も現代物が好きだ。でも、本作に連なるシリーズは楽しんで読んできた。いつも感じるのは、登場人物がみんな生きていて、ほんの端役に至るまで人間としての奥行きがあることだ。のっぴきならない「その人らしさ」が立ち上ってくるようだ。特に、善人とは言えない人たちの描写に力がある。「人間」というものを抉りだしていくその筆致は、現代物ではしばしば胸に痛すぎる気がしてしまうが、こういう時代物ではワンクッションある感じがして、ほっとする。

    善人といえば、本シリーズおなじみのお徳さんがその代表だろうが、本作では丸助さんという、これまた絵に描いたような「いい人」が登場していて、しみじみ温かい気持ちにさせてくれる。こういう人たちが、宮部作品では実は主役なんじゃないかといつも思う。こういう人間を書きたいから小説を書いているんじゃないかなあと勝手に思ったりしている。

    考えてみると宮部さんの書かれるものではいつもそうかもしれないが、本作では特に、印象的で語りたくなる人物が目白押しだ。老番頭の善吉さん、本宮源右衛門、弓之助の兄淳三郎、玄徳医師、夜鷹のお仲…、まだまだいるが、どの人をとっても主人公となる物語が作れそうだ。いやまったく素晴らしいです。

  • 「ぼんくら」「日暮らし」に続くシリーズ三作目。ぼんくら同心・平四郎や煮売り屋のお徳、政五郎親分など大人たちの相変わらずぶりと、あれ?と言った感じに書かれる弓之助やおでこさんの成長談がとても楽しいです。宮部さんって!!!!と、いくらでも!!をつけたくなるくらい面白い!&上手い!のお話でした。

    これまでのお馴染みのメンバーに加えて、人目をひくくらいにぶさいくな若手同心・信之輔や、死体の検分を好むご隠居・源右衛門、そして、事件に関わる瓶屋や大黒屋の面々など、新キャラの人々がほんの端役に至るまで、その心理の動きを丁寧に追われ、気持ちの奥底に持っている屈託、歪み、嫉妬などを焙りだされる。しかもしかも!そんな暗いものを提示しているというのに、結局は人間の温かさや優しさをたっぷり感じさせてくれる宮部さんには、もう脱帽、というしかないです。

    一行、一行がよく練られていて、速読のヘキがある私(これ、すっごくイヤなんだよね、自分ではなんとか改めたいと思っているんだけど)が速読できなかった、という嬉しさ。
    だって、台詞の一言や、(そもそも、台詞にカギカッコを使うか否かも含めて)地の文の中の一単語、にいたるまでじっくり味わって読まないとその人物の気持ちが本当には読者に伝わらない、というのがはっきりわかるから、これは何がなんでもゆっくり読まないと、と思わせられるんだものね。

    分厚い上下二巻の物語で、事件の背景の複雑さを解明しながらも、一番のテーマは、人を恋うる気持ちなんだなぁ、と。

    色々な恋が描かれ、それぞれの切なさ、どうにもならなさ、に悲しくなったり、幼い恋にふふっと気持ちが和むと同時に、でもまたやるせなくなったり。う~~ん、上手く言えない!!

    “おつむりと顔のいい”弓之助の、一見ちゃらんぽらんな兄・淳三郎がとても好きだった。
    彼の人たらしぶりにはもう、ホント、参っちゃってね。
    まだこのシリーズは続くんだろうから、淳三郎のその後が読みたくてたまらない。

    宮部さん、また、お願いしますよぉ~~~!(*^_^*)

  • 3シリーズの中で1番面白かった。
    シリーズごとに味のある新しい登場人物がが次々と出てくるのも、お話を飽きさせずにさせている。

    さすが宮部さんというべきか、この2冊の本の中に様々な人が出て来て、それぞれに深い物語がある。決してその物語同士が絡み合っているわけではなく、全くの別のお話。
    でも、その深いところにある因縁は同じだったり、その出来事を通してある登場人物が人間として成長して行ったり…そして最終的に3人の人殺しの犯人追求に至ります。

    決して難しいわけではないが、とても複雑に構成されたお話。
    読み応えがあります。

    私が1番好きなお話は、おでこの母親、おきえのストーリーでしょうか。
    ただ、冷たい母親ではなかった。辛い決断をすることもあるけれど、それを背負って行く覚悟がある女性の強さ、そして母としてのなくすはずのない子を思う優しさ。胸が温かくなるというよりは、心が引き締まる思いがした。

    このお話をはじめ、宮部さんのお話には色々な生き方をしている女性が登場する。
    夫に死なれ、お菜やを営むおせっかいのお徳、子供を捨てて女として生きて行くおきえ、2人の夫に死なれるさたえ、夜鷹のお継とお仲、失恋する娘、好いた人を亡くす娘…
    どんな境遇にあってもいづれも、心の根っこは温かい。
    自分もそうでありたい、と思った。

  • みっちり書き込まれた充実の時代小説。
    第三弾ともなると、元気ないつものメンバーだけでなく、関わり合う多くの庶民達もいきいきしてきますねえ。
    二十年前の因縁まで含めた複雑な人間関係を解きほぐしていくと‥

    瓶屋(かめや)の主人が殺された事件のあらましがわかってきたと、同心の平四郎は関係者を集める。
    話をするのは、平四郎ではなく、甥の弓之助。
    ほんの子どもだが大したおつむりの持ち主なので、笑わずに聞いてみてくれと。

    女ながら差配をつとめるおとしも呼び出され、納得いかない表情。
    気丈でいささか出しゃばりだが、それなりの理屈もある。
    瓶屋の後妻の佐多枝が印象的。
    夫を亡くして程なく隣家に再嫁し、病がちで離れに暮らしているといういかにも頼りなげな女性だったが。実は意外に芯がありそうなのだ。

    瓶屋新兵衛亡き後は、一人娘の史乃(ふみの)が若いながら店を仕切っていた。
    父の再婚で、父との間に溝が出来たらしい‥
    再婚のいきさつを誤解したままだったせいもあったのだ。

    弓乃助の名推理や、おでこの記憶力で主に話が進んでしまうのでは物足りなかっただろうけど、そんなことはなく、大人達もそれぞれに活躍。
    少年には理解出来ないだろう男女の機微も描かれて、読み応えたっぷり。

    十徳長屋に住む丸助という老人もいい味出してます。
    そこへ弓乃助の兄で、河合屋の三男・淳三郎が登場。
    弓乃助ほどの美貌ではないがむしろこれぐらいの方が誰にでも好かれるだろうという外見。明るい性格で、絵に描いたような遊び人だが、女にはもてまくり、どこにでも溶け込む。
    平四郎は、これは探索に役立つとさっそく頼むことに。
    今後の登場も楽しみです。

    若き同心の間島慎之輔の物語ともなっていて、真面目一方の堅物だが、まだあまりにも青すぎて、知らず知らず私情で動いてしまった。
    そういう思いも経て、同心の顔になっていく。
    良い終わり方でした。

  • いやぁ~~面白かった!!!
    下巻に入ってから更に引き込まれた感アリ。
    今回は、政五郎の思考動向もたくさん出てきたが、
    気になってたおでこの問題も解決し、なんだかホッとした。
    そして何と言っても心を打ち抜いたキャラは淳三郎だった!!!
    以前、弓之助の口からこの三男坊の風来坊風なことは語られていた。
    弟からも咎められる三男ってどれだけ遊び人なんだろうと思っていたけれど、ところがところが。血は争えないもので、何とも魅力的ないい奴なんだな、これが。
    そんな淳三郎と丸助のやりとりが、とてつもなく良かった。
    信之輔の想いは、とことん挫かれたが、最後にはいい顔になれたし。

    宮部さんの時代小説には、本当に惹かれる人物が多々出てくる。
    それらがみんな、形は違えどとんでもなく傷ついて萎れていたりするが、
    その傷ついた心を、また違う人物が見事にそれとは知らぬ形で癒してくれたりする。
    その瞬間「おおおお!!!」となって、私はたまらない。
    男はどこまでも莫迦で。
    女はどこまでも嫉妬やきで。
    あぁ、めんどくさい。でも、どこか憎めない。
    宮部さんの時代ものは本当に面白く、そんな人間味に始終あふれているなぁと思う。大好きだ。

  • 男はどこまでも莫迦で。
    女はどこまでも嫉妬やきだ。
    どっちも底なしだ。
    俺はもう勘弁してもらうよ。

    長い1200頁以上にも及ぶ本格時代推理モノの今回は、本格的な恋のあれこれの話だった。

    人間の心は底なしである。

    宮部の小説はいつも長いが、描いていることはいつもその一点だ。

    雑誌での連載は09年に終わり、後は終章を描くだけになっていたのに、今まで延びてしまい、「申し訳ないから……」と単行本と文庫同時発売になったいきさつは、推測するほかはないが、宮部が恋の落し処に未だ迷っているという証左なのだ、と私は思ったね。同じ年齢(とし)の私が思うのだから、間違いは無いと思うよ。

    白髪の多い薄い鬢を指で掻いて、源右衛門は初めて恥じ入ったようにうつむく。
    「やはり、わからん」
    むしろ学問を続けるほどに、わからないことが増してゆくようだった。
    「それでも、儂は学問をしてよかった。人というものの混沌が、その混沌を解こうとして生み出した学問が、儂にわからぬことの数々を教えてくれた」

  • このシリーズは本当に登場人物の人物造形が魅力的。新たに登場した弓之助の兄、淳三郎がまたとてもいい。軽い、女あしらいが上手い、顔もいい、一見馬鹿に見えるけどそうではない。読者としても彼の魅力はよく分かるし、普段は大人びている弓之助がいちいち彼に突っかかるのも微笑ましい。
    そして間島信之輔が思い悩むシーンが多かった今作だが、彼の苦しみもよく分かる。この下巻は普段より恋愛に焦点が当たっていたようだが、お徳の「幸せ者のそばには必ず気の毒な者がいる。それは仕方ないことなんだから、それに一生囚われたままでいる方が不幸だ」という台詞が胸に染みた。
    ただ、ミステリーとしては前作『日暮らし』の時も感じたことだが、あまりにも弓之助の推測頼り過ぎるのでは。彼にも間違うことがそろそろないと割に合わないと思ってしまった。
    とりあえず弓之助ロスになってしまっているので、次回作に期待したい。いつか出るのかな、、

  • 「ぼんくら」「日暮らし」と続いて、この「おまえさん」。傑作ですね。読み進めながら、まだ終わってほしくない、この物語がずっと続いてほしい。と思いながらの読了です。
    どの場面もすばらしかったですが、特に残っているのが丸助・弓之助・淳三郎の三人でお重をつつきながら語り合う場面でした。
    続編が読める日を待ちわびています。

  • 宮部みゆきさん「おまえさん」下巻、読了。弓之助の推理話から始まり、序々に明らかになっていく事件に関する事柄。やっと事件解決の目処が立つと思った矢先の急展開。平四郎と弓之助、そして信之輔は、絡まった人間関係を解きほぐすことが出来るのか。。面白かった。このシリーズは平四郎の人柄と周りを取り巻く面々との会話が楽しい。そして、煮物屋のお徳、弓之助と三太郎、信之輔や源右衛門など個性的なキャラクターが良い。上下巻で1000ページを超えるボリュームながら、読みやすいです。是非、今後も読んでいきたいシリーズ。興味がある方は「ぼんくら」から読むことをオススメします♪

  • 再読。下巻の最初に謎解きがあり犯人がわかったにもかかわらず、結末までにまるまる1冊を費やす、宮部さんにしかできない展開。これだけ魅力的なキャラクターを様々に描きだすのに、こと色恋のからんだ女性を描くとなんと辛辣なことか。またそれを同じ女性の視点でばっさりと切り捨てるあたりが秀逸。男はみんな振り回されっぱなし。しかしおでこまでいつの間にか色恋とは、ビックリさせんなよ。これも続編が待ち遠しいシリーズのひとつ。巻末に解説がないなあ、と思ったらこれ単行本と文庫本が同時発売された大サービスだったんだっけ?

  • たくさんの片恋が描かれている。
    なかでも信之輔のからまわりっぷり、見抜かれっぷりは痛々しい。
    私もどちらかというとそっち寄りの人間だし、コンプレックスが大きいからか、自分のことのように恥ずかしかったし、腹が立ったし、悲しかった。

    なので、失恋で身投げしようとした女に慰め(ともいえないような)言葉をかけるシーンがとても心に残った。
    「みんな馬鹿なのだ」みたいな言葉だったかな?彼がその言葉を口にできるようになるまでの過程を思うと切なくてたまらなかった。

    淳三郎や源右衛門、お仲など相変わらずキャラクター作りはさすが、という感じ。
    でも今回の謎解きはいまいちだったように思う。
    動機が弱くないかな。終盤で犯人の心の動きが少しわかったけど、それでもちょっと・・・。頭悪い人ではないはずだし、確証もないのにそんなに思いこんで関係のない人まで殺すとは考えにくい。弓之助の推理もできすぎかなー。兄といるときの弓之助は子供らしくてかわいかった。
    「ぼんくら」「日暮らし」のファンへのおまけ、というイメージです。おまけにしては長いけど。

    番外編で、淳三郎のその後のエピソードを書いてくれないかな~

  • おもしろかった! 謎解きもいいけど、江戸の町の人々の暮らしをゆるゆると読むのがすごくここちよかった。長いけど、もっともっとずっと読んでいたいと思うくらい。そして、仕事、とか、生き方、とかいろいろ考えさせられて奥深かった。江戸も現代も同じだな。でも江戸のほうが人の生き方は今よりシンプルでよかったかもしれない、などと思ったりも。
    さらに続編出ないかなあ。もっと読みたい。

  • 続き物の最終刊だそうですが、前二つは未読です。でも面白かった。

    これねー。ラストがちょっと気に食わなかった。
    ちゃんと引っ立てて罰を与えるべきだよね。

    というのは、哲次の兇行がね…
    最初はきっと、本当に悪を打つつもりで殺しを始めたと思うんです。
    もちろん鬱屈はしてますよ?故郷に帰っても冷たくあしらわれ、居場所をなくして江戸に立ち戻り、そこで再会した恩師の奥さんと子供のために仇を討つ…自分の鬱屈した気持ちを、鬱屈したままで、それでも自分自身には立派な事をしたと言い訳が立つ…

    しかし、歯車が狂い始めた。本来殺すべき理由もない人物を殺めた時に、自分のしている事は正しくないと今度こそ本当に気付いたと思うんです。

    夜鷹のお継を殺したのは、自分たちの犯行とばれないように…ですが、これね、多分史乃が殺しを示唆したんだと思う。「あんな夜鷹の…」って吐き捨てるように言った史乃殺されたのが夜鷹である事も、哲次と関係を持っていた事も知っていた感じでしたね。「殺されて当然」みたいな態度も、おそらくそのためだと踏んでます。

    つまり、哲次は自分の信念とは違う殺しを強制させられた。もちろん、捜査の目をくらませるためという大義名分も、身分的にも殺しても差し支えない人物ではないという意味でも、反対することはできなかったでしょう。あとは、後ろめたさもありーの。
    だけど、これでこの一連の殺人は「勧善懲悪」から「私怨」に成り下がってしまった。

    その時、史乃への想いも死んだのではないか、と…

    ラストで大捕り物になった時、井筒平四郎たちは「史乃のことが本当に大事なら、大人しくお縄につく」と思っていました。事実その通りであったでしょう。
    しかし、哲次はあがらった。「あんな女のために捕まるのはまっぴらだ」とでも言うように、子供を人質にとり、冷たい冬の川に飛び込んででも、捕まるのを嫌がった…

    間島信之輔が哲次を前にしても、あれほど恋いこがれた史乃に罵声を浴びせられても、冷静でいられたのは、それがわかったからではないかと思うのです。

    そこには哲次に愛された史乃も、信之輔が愛した史乃もおらず、ただ自分の熱病に焼かれて燃え尽きた女がいただけではなかったのでしょうか。

    だからこそ思うんですよねー。ラストできちんと哲次の口から史乃に対する想いを語ってほしかった。狂うならその後でも遅くないと思うんですけど(笑)。


    それにしても、間島信之輔が恋に翻弄される様はよかったですねー。真面目で一生懸命だからこそ、滑稽でみっともなくて、それが愛おしい。誰でも一度は経験のある苦い思い出ってやつですね。
    信之輔にはこれを糧に良い同心になってもらいたい。


    ところで、上巻ではすっかり悪女っぽく描かれていたおきえの描写も素晴らしかった。
    愛する男の子供だからこそ、愛する事の出来ない我が子…
    つらいですね。可愛さ余って憎さ100倍とは言いますが。
    多分この人、三太郎を何度か手にかけそうになったんではないかな…と想像します。
    そうでなければ、あれほどまでにかたくなに三太郎を突き放す事は出来ないでしょう。
    でも、誰よりも三太郎を愛していたのも事実だと思うのです。
    そうでなければ、殺して捨てていた方が手っ取り早かったでしょう。誰かに罵倒されるのも恐れず、人様に子供を任せたりしなかったでしょう…

    人の愛憎というのは、1か0かで割り切れるものではなく、つらくても不格好でも吹っ切れる事も大事なのだな…とも思いました。その辺のもやもやした感じも、宮部みゆきの良い所だな、と思います。

    こうやってあれこれ考える余地があるのも、その「もやもや」があってのことですから。

  • 実に良かった!! もうお見事というよりほかない!

    上下巻かなりのボリュームだが、読んでいる間一度もだれることなく読ませる力がある。
    読んでいることが楽しく、しかも読み飛ばすのではなく丁寧に読ませるのだ。もったいなくて読み飛ばすことなどできない。

    登場してくる人物それぞれが丁寧に描かれ、誰一人として端役といえない気がしてくる。
    人の気持ちの歪みや暗い闇の部分も書かれているのに、読んでいる間また読後になんともいえない温かさを感じさせる。
    これぞ宮部みゆきという作家の真骨頂だろう。

    一人の人間の持つ様々な面、年をとってからの生き方、若さゆえの迷いや悩み、どうしようもない想いへの決着のつけかた。
    その他にも様々あったと思うけれど、どれも深く胸にしみてくる。
    自分もある程度年をとった今読んだからこそのこの思いかもしれないけれど。

    この本を読めて幸せでした。宮部さん、ありがとうございました!!

  • 宮部みゆきはやっぱり上手い、と思った。
    色々な人間関係が丁寧に描かれている。
    信頼し合う夫婦、真情を隠した訳有り夫婦、成熟した男女と若い男女のそれぞれの思い、子を捨てる親、親に反発する子、様々な親子の情、立場が違う老若それぞれ、女同士、男同士の感情のぶつかり、妬み嫉み、『余分の命』と言われる家族の中に居場所のない立場の老人や跡取り以外の子供、地域の世話人、夜鷹、登場人物の数だけストーリーがあり、それらが、絶妙な案配で進んで行く。多少のご都合主義はあるが、それが小説の評価を下げるとは、私は思わなかった。

  • やっぱ宮部さんの作品は優しいですね。始まりは辻斬りでも、読み終えるとほっこりするというか…これもキャラクターがそれぞれ憎めない人たちばかりだからかな。きのうまで知らないどうしだった人が、ちょっとした縁でどんどん繋がっていくのも、現代劇だとむしろ違和感を覚えますが時代劇だとすんなり受け取れるのが不思議です。にしても、河合屋の兄弟はいいですね(笑)いつか、五兄弟全員が登場&活躍してほしいな^^

  • 読み終わっちゃった。

    読んでいる間もずっと、読み進めてしまうのが勿体なくて。

    本作は宮部みゆきさんの著書で(現段階で)一番お気に入りのシリーズの続編でして。書店で帯を見た時かなり興奮しました。

    お江戸捕物帖です。
    事件そのものは恐ろしいのですが、それよりも人の哀れさが強いですかね。そして主人公の同心が怠け者で人間観察好きの飄々とした気ままなオヤジって言うのが。

    シリアスな事件と、それを語る視点の抜け感、人情味、登場人物たちの可笑しさや、人間臭さが見事に相俟っていて、読み手の心を離さないんですよね!

    主流と伏流のバランスも計算されていて気持ち良い読後感。
    伏流と思っていたものが最終的に主流に到達するって言うんですか。それが見事。

    伏線に思えるエピソードや人物が沢山登場して、推理も楽しめるし、思っていたのと違う形で、ちゃんと全てが伏線として繋がっている。綺麗です。

    書きたいこと、伝えたいこと、本意はご本人にしかわからないですが、読み手にしっかり伝わる重ね方だと思います。

    前作までもそうだったように、登場人物の姿がくっきり瞼の裏に浮かぶのも凄い。表情まで。

    男女のことはわからない。面倒です。恐ろしい。でも本当はそれだけじゃないと言うぽつりにキュンと来ます。

    筆者としての考えや結論はどっしり安定していながら、様々な角度から人間の感情や考えを描けるのが素晴らしい。

    オリラジあっちゃんがTVに出ているのを観ていて、誰かに似てる、と思ったら、井筒平四郎に対する私の脳内イメージでした(笑)

    あと淳三郎が脳内でるーみっく絵で再生されます(笑)へらりとした笑顔が。

    今回は三人の視点で書かれてたのかな?

    本作での私のお気に入りは源右衛門さんですね!チャーミングなお爺ちゃん大好きです(´▽`)

  • かなりの長編でしたが、おもしろく読み終えました。
    さすがにうまい作家さんですね。
    ミステリーというよりも、それぞれの夫婦関係や家族関係、
    人情などに重きをおいて描いてたのでしょうね。
    謎解きが早い段階で終了していたのだけれど、
    飽きずに読めました。

    平四郎の雰囲気が心地よく、心のつぶやきもまたほほえましく
    心地よいです。
    それぞれ登場人物が、生き生きと描かれていました。
    信さんは途中、平さん的にいうと「めんどくせえ奴~だなあ」と
    しんどくなりましたが。。。
    最後、成長しましたね。

    シリーズの1.2も読んでみよう。

  • 大長編にどっぷりでした。
    シリーズお馴染みの面々に、新米同心の間島信之輔と弓之助の兄の淳三郎が加わって、面白さと深みが増したと思います。
    おまえさんというタイトルにも表れているとおり、今回はいろんな恋が描かれます。
    初恋、淡い恋、深い恋、嫉妬、片想い、横恋慕、などなど。
    それに絡んで、時には凄惨なシーンもあり、人間の恐ろしい面を描きつつも、罪を犯した人間を憎むだけで終わらせない深さ、温かさは宮部さんの真骨頂といった感じです。
    長く続いてほしいシリーズですね。

  • 哀しくも納得のいく結末に安堵。

    過ちを犯すも、人の情に救われ身を持ち直す者……、
    身を恥じ入り消えてなくなりたい程の失策を乗り越えて人間的に一皮剥けた者……、
    長い不遇を堪え忍び、自分を生かせる場を見出だした者……、
    慎ましくも誠実に、身の丈に応じて生きてゆく者……、

    宮部みゆきの江戸話、やはりいい!

    親しみのもてる新キャラ二人がが良い味出してて……、三部作完結と言わずに続編を切に願いたくなった一冊。

    2012.01.30.了。新

  • 宮部さんはほんとに上手ですよね。どんどん引き込まれます。

  • めっちゃ面白かった♥個人的には淳三郎がスキ

  • -
    人は何にでもなれる。厄介なことに、なろうと思わなくても何かになってしまうこともある。
    柿になったり、鮑になったり、鬼になったり仏になったり、神様になってみたりもする。
    それでも、所詮は人なんだ。人でいるのが、いちばん似合いだ。
    -
    この長大な物語をこの5行に修練させるとは。
    宮部さん恐るべし。

    物語は刀傷の同じような複数の殺人事件を巡って、八丁堀のぼんくら同心井筒平四郎と彼のチーム岡っ引きの政五郎、そして弓之助・おでこの三太郎とお馴染みのメンバーに新しい仲間を加えて謎の解明に挑む。

    上巻と下巻の冒頭までは事件の謎解き。そして下巻は事件の絵解きといった塩梅かな。
    雑誌掲載は2006年から2009年までの三年がかりと結末の一編は書きおろし。
    「小暮写眞館」の時は、話が頭の中で出来上がっていて、宮部さんはそれを文字に起こすだけだったというのを宮部さんのインタビューで聞いたけれど、この話はどうだったんだろう。
    連載時のタイトルが「おまえさん」だったのだとしたら、ちょっと恐ろしいな。

    自分のことを「わたくし」と言うか「わたし」と言うか。「その人」のことを名前で指すか「あの人」と言うか。
    言葉遣いや「ふうん」という仕草までものすごく注意深く書かれている。

    「キャラが立つ」などというレベルではなく登場人物がいきいきとしている。
    それでいて「映像化」なんて思いも寄らないのはそれだけ完成度が高いってことなんだろうな。

    全部解決したように見えて、いくつか積み残しもあるようで、続刊が今から楽しみ。

    ところで「磯の鮑」の絵解きが無かったのは「解る人だけわかればいい」って事でいいのかな。

  • おまえさん、おまえさん、おまえさん・・・ああ、それでこの題名なのか~!この本はすごいです!いろんな思いがギュギュっと詰まっているのに、散漫としたり、上滑りするところが全然ない!☆5つ以上つけたい!!

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おまえさん(下) (講談社文庫)の作品紹介

父親が殺され、瓶屋を仕切ることになった一人娘の史乃。気丈に振る舞う彼女を信之輔は気にかけていた。一方、新兵衛の奉公先だった生薬問屋の当主から明かされた二十年前の因縁と隠された罪。正は負に通じ、負はころりと正に変わる。平四郎の甥っ子・弓之助は絡まった人間関係を解きほぐすことができるのか。『ぼんくら』『日暮らし』に続くシリーズ第3作。

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