おまえさん(下) (講談社文庫)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (616ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062770736

感想・レビュー・書評

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    人は何にでもなれる。厄介なことに、なろうと思わなくても何かになってしまうこともある。
    柿になったり、鮑になったり、鬼になったり仏になったり、神様になってみたりもする。
    それでも、所詮は人なんだ。人でいるのが、いちばん似合いだ。
    -
    この長大な物語をこの5行に修練させるとは。
    宮部さん恐るべし。

    物語は刀傷の同じような複数の殺人事件を巡って、八丁堀のぼんくら同心井筒平四郎と彼のチーム岡っ引きの政五郎、そして弓之助・おでこの三太郎とお馴染みのメンバーに新しい仲間を加えて謎の解明に挑む。

    上巻と下巻の冒頭までは事件の謎解き。そして下巻は事件の絵解きといった塩梅かな。
    雑誌掲載は2006年から2009年までの三年がかりと結末の一編は書きおろし。
    「小暮写眞館」の時は、話が頭の中で出来上がっていて、宮部さんはそれを文字に起こすだけだったというのを宮部さんのインタビューで聞いたけれど、この話はどうだったんだろう。
    連載時のタイトルが「おまえさん」だったのだとしたら、ちょっと恐ろしいな。

    自分のことを「わたくし」と言うか「わたし」と言うか。「その人」のことを名前で指すか「あの人」と言うか。
    言葉遣いや「ふうん」という仕草までものすごく注意深く書かれている。

    「キャラが立つ」などというレベルではなく登場人物がいきいきとしている。
    それでいて「映像化」なんて思いも寄らないのはそれだけ完成度が高いってことなんだろうな。

    全部解決したように見えて、いくつか積み残しもあるようで、続刊が今から楽しみ。

    ところで「磯の鮑」の絵解きが無かったのは「解る人だけわかればいい」って事でいいのかな。

  • 下巻読了。信之輔がおしんに言うセリフに胸が締め付けられた。「当たり前だ。おまえはどれほど永いあいだ密かな想いを抱いてきたのだ。それがひと晩やふた晩でおさまるものならば、どうしてこんなに苦しむだろう。おまえ一人が莫迦なのではない。おまえ一人が見境がないのではない。おまえ一人が真っ暗ななかにいるのではない」どんな思いでこれを呟いたか。どんな思いであきらめたか。鏡に映るその顔を少しも恨みはしなかったか。あがいてもあがいても想い人の心は手に入らない。その痛みが文字を通して伝わってくるようだった。

  • 「温情」の物語、とでもいおうか。
    喉もとからせりあがってくるように切ない。
    本筋のクライマックスに向けて、井筒平四郎いがいの登場人物の視点で描かれる他の筋がすごくいい味がしている。
    ぐちぐち、ずぶずぶと悲しみに暮れていきそうなところを、最後で大風呂敷で温かく包みこみ、怨霊も半分透けた姿のままニヤリと笑って空に消えていく。そういうほっこりするラストはさすがとしか言いようがない。
    シリーズの前作が読み返したくなってきた。

  • 下巻。

    ほぼ謎は解けたようなもので
    あとは解に対するそれぞれの逡巡と
    サイドストーリーの回収が行われている。

    いろいろな想い。
    途中出場の淳三郎さんがとても良いポジション。
    間島様の苦悩が辛い。
    自分の姿を重ね合わせるのはなぜか間島様。

    全てを一度に受け止められるほど自分は器量が大きくなかった。
    もう一度読まないと消化できないような。
    複雑な想いが複雑に絡んでいる。


    宮部みゆき、初めて心から面白いと思った。
    嗜好が変わってきたのかな。

  • シリーズ3作目。
    やはり宮部さんの江戸モノは安心して読めます。
    今後は、淳三郎兄さんの活躍と信之輔の成長に期待したいので、是非続作を書いて欲しいです。

  • 面白かった。とにかく面白い。
    今回は、「恋」を題材に、人の愚かさとその愚かさとの様々な向き合い方とを描いている。問題は、愚かさではなく、愚かさとの向き合い方なのですね。
    愚かさは、結構自分ではどうしようもなくて、それは日々をしっかり積み重ねて暮らしている人にも、そうした積み重ねを台無しにするような形でやっていくる。
    前作『日暮し』では、自分ではどうしようもないことが他からやってきたけれど、今回は自分自身が「恋」の形で引き寄せてしまう。恋ゆえの愚かさをどうやって受け入れるか。これを単に因果関係で説明することはいやしいことである、と佐々木先生がおっしゃる。しかし、わからないときは学問をしなさい、と源右衛門先生はおっしゃる。
    弓乃助が、どうしようもないことを真に納得し受け入れるまであと少し。ついにここまで来たってかんじがする。
    次回作が楽しみ。『ぼんくら』シリーズを何度も読み返しながら待っていようと思う。

  • 上下通して。謎解きだけだったら、半分で終わっているかもしれない。むしろ、後半のいくつかの短編がとても良かった。上質の人情噺を聞いているようで、しかも前半部分にちゃんとリンクしていて、上手いなあと、つくづく思う。これだけの大部な作品なのに、破綻もなく、ゆるぎなく立ち上がって来る物語の構成に安心して、身をまかせていられる。作者は、気が滅入るような、身動きがとれなくなるような、途轍もない悪意や憎しみみたいなのを書かせても絶品だけど、根本にあるのはやはり弱者への愛なんだろう。死ぬ必要もなかった夜鷹の真相に気づいたときの弓之助の反応にそれが垣間見えた。新登場の魅力的なキャラも多くて、次回への仕掛けも十分で、次作も楽しみ。

  • 登場人物の一言、一言が胸に染み入る作品。

  •  長い・・・。
     文庫とはいえ、600ページ上下巻。

     長い割に、終結部、やや淡泊か。

     三分の二ぐらいでも良かったか。

     ただ、源右衛門他登場人物の造形、サイドストーリーなど、引かれる部分はあったが。
     ちょいと残念。

  • ぼんくらの続編。
    分厚い上下巻、しかもいきなり文庫化。嬉しい限り。
    内容もあっさり片付くかと思いきや
    、人の心理とはわからない。
    それぞれの人となりがよくでていて心情が細やかに書かれていて面白い。

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著者プロフィール

1960年東京都生まれ。87年『我らが隣人の犯罪』で、「オール讀物推理小説新人賞」を受賞し、デビュー。92年『龍は眠る』で「日本推理作家協会賞」、『本所深川ふしぎ草紙』で「吉川英治文学新人賞」を受賞。93年『火車』で「山本周五郎賞」、99年『理由』で「直木賞」を受賞する。その他著書に、『おそろし』『あんじゅう』『泣き童子』『三鬼』『あやかし草紙』『黒武御神火御殿』「三島屋」シリーズ等がある。

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