さようなら窓 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062771665

作品紹介・あらすじ

「眠れるまで、またなにか話をしてあげようか」。家族と離れ、恋人のゆうちゃんと暮らしはじめたきいちゃん。いつからか、うまく眠れなくなったきいちゃんに、ゆうちゃんはいつも、少し不思議で胸がぎゅっとなる「おはなし」をしてくれた。寝る前に一篇ずつ味わいたい、12の連作短編集。

感想・レビュー・書評

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  • 歌人で作家の東直子さんの12の連作短編集です。
    静けさに漂う死の気配のようなものが、優しさよりも少し強く印象に残ります。以前に読んだ「薬屋のタバサ」にも感じた、人の弱さを、儚い優しさで包んだような作品でした。

    帯の一文より。「寝る前に一編ずつ味わいたい、現代の『千夜一夜物語』」

    解説の西加奈子さんの一文より。「東さんは、言葉と、人間を、その頼りなさを愛し、引き受けている人だと思う。」

    正に、その通りですね。

  • 家を出て
    ひょんなことから
    ゆうちゃんの家に転がり込むことになった
    きいちゃん。

    一人暮らし歴が長く
    ジャムだって作れる
    美容師のゆうちゃん。

    少し情緒不安定な
    二十歳の女の子・きいちゃんと
    困っている人をほっとけない
    優し過ぎる青年・ゆうちゃんの
    甘く切ない恋模様を描いた
    連作短編集です。



    ガソリンの匂いと共に食べた晩御飯の思い出、

    長生きしたカブトムシの話、

    アメリカ帰りの
    優しいおばあさんの話、

    不思議な転校生・サルコの話、

    特撮会社の岩職人、
    岩ちゃんの話、

    身体が小さくなる病気を患った
    先輩美容師ミリさんの話、

    など
    いつからか眠れなくなったきいちゃんのために
    毎晩話してくれる
    ゆうちゃんのちょっと不思議で
    切ないお話の数々。


    このひとつひとつの物語が
    本当に面白くて
    ついつい引き込まれていく。
    (ゆうちゃんの語り口の上手さと
    きいちゃんの素直な合いの手の妙!)



    優しくはあるけれど
    どこかドライで覚めた
    ゆうちゃんの言葉と、

    深い繋がりをいつも求めている
    きいちゃんの想いとの
    悲しい温度差。


    ほんの僅かな
    すれ違いから
    次第にギクシャクしてくる二人の関係。


    そこから自分の生活を見つめ直し、
    ゆうちゃんに依存した
    楽だけどふわふわしただけの場所から、

    自分の足で歩いていこうと
    もがき続けるきいちゃんの姿に
    なんか共感してしまいました。


    それにしても
    切なさを内包した
    キラキラとした言葉や、

    本業が歌人である東さんだけに、
    独特のリズムで進む文章が
    妙に心地いい。


    劇的な出来事なんてなくても
    当たり前に揺れ動く小さな感情を、
    壊れ物を扱うように繊細に積み重ねていく
    小説に心惹かれます。

    その意味でも
    この小説はまさにツボで、
    夢見るように儚くて
    切なく胸に残る、
    あたたかい文章に
    一気にファンになってしまったくらい
    そこに流れる空気感が好きなんです。



    二人手を濃い紫色に染めての
    ぶどうジャム作り。

    二人の指で作った
    ほどけない知恵の輪。

    微笑ましい
    ベッドの中のキツネ遊び。


    好きな誰かと過ごす
    永遠を感じるひととき。


    独り身の人は
    二人でいることの自由をうらやましく思うだろうし、

    たった一人の理解者と
    今を生きている人には
    いろいろと参考になる恋愛小説だと思います。

  • ふわふわした物語で、現実とファンタジーが混じったような表現も素敵だった

    ただ、きいちゃんのキャラクターに共感ができなくて
    このままいくと、ゆうちゃんと共依存みたくなるのでは、、
    と思っていたけど、2人の決断にがんばって!
    と最後は2人ともを応援したくなりました

  • すごく良かった。西加奈子さんの解説にあるように、東直子さんの本は、人間の危うさを描いている気がする。それを彼女は「こわさ」と言っている。
    この本の主人公のきいちゃんを観ていると、昔の自分を見ているようで、自分でもよくわからない断崖絶壁をきいちゃんがフラフラと渡り歩いている様は、ハラハラした。
    きいちゃんは、ゆうちゃんと出会って、支えてもらって、大切にされて、少しずつ足りなかった何かを取り戻していくようだった。
    でも、それでも、それが心から漏れていくスピードの方がずっと早くて、きいちゃんはいつも何かに飢えている。それは愛情だったり、死だったり、孤独だったり、いろんな形で、ゆうちゃんの物語に溢れているのだ。
    深い愛情に支えられて、きいちゃんは真っ暗な闇の中で、立ち直りたいと願うけど、結局最後の最後に立つことが出来たのは、彼女自身の強さゆえだった。そうしなきゃいけない、という義務感と、そうすれば何かが変わるかもしれないと思える希望が、きいちゃんを奮い立たせる。
    それをそっと後ろで見守って、ゆうちゃんも一つ決心するのだ。
    本当に昔の私を見ているようだった。この世に万ある本の中で、昔の自分にそっくりな主人公が出てくる本なんて、なかなかない。これもまた巡り合わせなのかもしれないなぁと思った。
    きいちゃんほどの修羅場は、私にはなかったけど、それでも、個人的には沢山辛いことがあった。私は彼と乗り越えることを選んだし、それを後悔していない。
    きいちゃんには、まだまだこれから辛いことがいっぱいあるだろう。でも、それ以上に素晴らしいことも沢山あるだろう。一つ乗り越えるたびに、彼女を褒めてあげたいと思う。過去の私が、今の私を少しだけ褒めてやりたいのと同じように。

  • 眠れなくて、胸がぎゅっと苦しくて、それを傍に居る人に悟られたくなくて、じっと丸くなっている。
    そういう経験のある人に。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「傍に居る人に悟られたくなくて」
      福田利之のカバー画が、仄かに明るくて優しげな感じなのに、お話は辛そう。。。
      「さよなら」「窓」って何だろう...
      「傍に居る人に悟られたくなくて」
      福田利之のカバー画が、仄かに明るくて優しげな感じなのに、お話は辛そう。。。
      「さよなら」「窓」って何だろう気になるなぁ~
      2012/05/29
  • 柔らかくて温かい優しさに浸かったままのきいちゃんに、時々いらいらさせられながら羨ましくもあった。

    自分で立ち上がらなくても笑っていてくれる存在がいるなら、そんな世界、理想的すぎるじゃないか。

    でも……それではバランスが保てないのだ。人間って難しいものだな。

    島本理生の『シルエット』を思い出す。無条件の抱擁。
    ゆるい小説が好きな方には、ぜひ。

  • ゆうちゃんがきいちゃんにするお話がどれも本当に面白くて、味わい深くて、不思議な話で、なんだかずっと心に残る。
    面白くて一気に読んでしまったけど、今度は、眠れないきいちゃんのように、寝る前に少しづつ読みたい。

  • ゆうちゃんのお話の中の登場人物の物語が気になってしまう。

  • 繋がった短編で、ゆうちゃんがきいちゃんに不思議な話をしたり、いろんな人に出会い、少しずつ不安定でゆうちゃんがいないと何もできなかったきいちゃんが前に進む話。
    ゆうちゃんの話が、どの話もその後が見えない話で感情の持っていく場がなく、読んでいてあーっとなりました。
    ゆうちゃんと離れて、ひとりで進んだ先がいいものであればと思います。

  • ほんわかした中にさみしさが詰まっている物語。
    自信なさげなきいちゃんと、どこまでも優しいゆうちゃん。読みながら「東直子」の世界だなぁ、とずっと感じていた。
    小説はもちろんよかったが、西加奈子のあとがきで、ストンと気持ちが落ち着いた気がする。

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著者プロフィール

歌人、作家。第7回歌壇賞、第31回坪田譲治文学賞(『いとの森の家』)を受賞。歌集に『春原さんのリコーダー』『青卵』、小説に『とりつくしま』『ひとっこひとり』、エッセイ集に『一緒に生きる』『レモン石鹼泡立てる』、歌書に『短歌の時間』『現代短歌版百人一首』、絵本に『わたしのマントはぼうしつき』(絵・町田尚子)などがある。「東京新聞」などの選歌欄担当。近刊にくどうれいんとの共著『水歌通信』がある。鳥好き。

「2023年 『朝、空が見えます』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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