ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。 (講談社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (496ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062772242

感想・レビュー・書評

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  • 同年代の女の子たちの間にある、『私の方があの子よりはまし』という暗い感情、マウンティングがとてもリアルで身につまされた。口では相手を褒めて自分なんて…と言いながらも、常に自分の位置を確認せずにはいられないあの感情はなんなのだろう。
    競うものが自分の仕事や学歴、容姿なんかであるならまだわかるけど、年を重ねるうちにそれは彼氏の容姿や仕事、自分がいかに大切にされているかであったり、結婚相手となれば職業や年収、住んでいる土地や家のランク、子どもができればその子どもの成績や運動神経、性格までがマウンティングの指標となる。女同士の比べ合いには終わりがない。

    その中でいつも自分は下層にいると感じていたチエミ。彼女には自分がなくて、そんな自分を変えるすべを知らなくて、周りの人が全て自分より上手くいっていると思っていたのだろうなぁ。
    そういう気持ち、本当によくわかる。
    わかるからとっても切ないお話だった。

  • タイトルの「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ」という意味が、ラストでやっとわかった時に、この物語の全てがそこには詰まっていて、なるほどこのタイトルのつけ方は秀逸だなと思いました。

    母子関係をテーマとした物語は他にもいくつかあって、これまで印象に残っているのは、湊かなえさんの「ポイズンドーター・ホーリーマザー」「夜行観覧車」。最近気になっているのは、角田光代さんの「坂の上の家」。
    作家さんが、母子関係をテーマとした作品を手がけるとき、きっと、自分自身の生い立ちと向き合うだけでなく、心の奥底に沈めた記憶や生々しい感情が溢れてくる。苦しくて、忘れたいから封じた過去、それと、対峙していく作業。
    親との関係は、親子の間でなされることだから、みんな自分の親子関係の異常性には気付かない。誰かからみたらある人の親子関係は異常だし、ある人から見たら誰かの親子関係は異常だ。だから、自分では自分の親との関係性こそが普通だと思っていて、その関係性が、後に自分の人間関係のベースとなってゆく。だんだんと社会が広がってゆく中で、自分の親の異常性に気付く。

    チエミの母子関係を、異常と思うかどうか。わたしは異常、とまでは思わなかったけれど、チエミがチエミの力で切り開いていく力を、奪う存在だったのかな、という気はする。この点では及川さんと同意見だ。
    子どもに様々な選択肢があるのは、親が様々な選択肢を呈示することができ、かつ、子どもに選択する力があるからだ。子どもに力があったとしても、親がその力を元から奪っていては、選択肢なんてなんの意味もない。選択肢だけがあってもダメなんだ。親が、奪うこと、それが何よりの悲劇なんだ。略奪は支配のはじまりだ。まずは、親が子どもを信頼すること、それが、すべてのはじまり。

    • さてさてさん
      naonaonao16gさん、こんにちは!
      いつも感想読ませていただいています。
      この作品、naonaonao16gさん書かれている通り、親...
      naonaonao16gさん、こんにちは!
      いつも感想読ませていただいています。
      この作品、naonaonao16gさん書かれている通り、親子関係について色々と考えさせられるものがありました。ある意味閉じた世界なので、なかなか自分の家の関係というものが世の中と比べてと、比較することもままならず、異常性というものに気づきづらいというのは全く同意見です。一日で読むには結構な文章量でしたが、思うところ多岐な一冊だと思いました。
      今後ともよろしくお願いします。
      2020/05/11
  • 辻村さんの作品は、傲慢と善良やかがみの弧城、ツナグなどから読み始めたため本作品は20番目に読みました。いずれも私の読む力が弱いためか、冒頭は苦労しました。途中から一気に夜ふかしさせられてしまいました。親子関係は、数十億以上の関係性の種類がありますね。うちも、ふつう、、ではありません。刃傷沙汰ではなくて少し救われました。

  • 湊かなえみたいな作風だと思った。
    今の私の気分ではなく、
    あまり気乗りしないまま読み進めたが、
    「すべての娘は、自分の母親に等しく傷つけられている。」
    とか母娘関係についてぐさりとえぐられるような部分が時々あり、身に迫るような思いも抱いた。
    どんな家庭にも、親子関係には、美点や汚点というか素敵なものとネガティブなものとがあるのだろうと思う。
    「傲慢と善良」みたいに結婚前後の女性の苦悩が描かれているのも、読んでいると苦しいが、リアルだなぁと思う。

    そして、あらためて、我が子を大事に(かつ自立もできるように)育てたいと思った。

  • 女性作家の方でないと、これは書けなかったのではないか。と、思う。微妙な女性の心の動きや気持ちを、何ならものすごく複雑に書き綴っている。共感するところも、共感しないところもありながら、ただただ、胸が苦しくなった。
    婚活、結婚、仕事、出産、そして地方都市と東京…みずほとチエミ。
    30歳という歳だからこそ疎遠になった彼女たちの、複雑な思いが絡み合った友情関係。物語はチエミの母親の殺害事件と同時に彼女の失踪事件でもう一度、手を繋ぎたい、探したいとみずほが腰を上げるところから始まる。
    当時、仲の良かった友達と、チエミの会社の同僚などに話を聞き、みずほが連絡を断っていた期間のチエミの背景を掘り下げていく中で、チエミの、そしてみずほの、周りの人たちの複雑な女性特有の感情が溢れ出す様に渦を巻いていく。そこに、赤ちゃんポストという大きな存在が。
    少しづつ、真相に近づいていく感じは、ミステリーの様でした。
    そして、私は悲しかった。30歳という年齢の迫りくる強迫観念は痛いほど分かるし、あのドロドロ感もとても分かる。でも多分、この小説はそれだけじゃなくて、これから先、歳を重ねていく過程の中で、それがこの時期の必要な試練だったのであれば、どう乗り越えるのか。自由に解き放たれて色んな生き方や幸せが、特殊なことじゃなく、普通に転がっている世界になればいいなと思う。

  • 家族病理を問う長編。長いよ! 辻村先生。そして自身の内面を鋭く抉られるんです。自身の傲慢さと他者視点にはどう足掻いても立てないことに愕然とするんです...。秀逸なプロットと終盤の回収。みずほ編とチエミ編のボリュームの対比が...。この感覚は自身で手に取って感じて欲しい。

  • 幼い頃から親友同士だったみずきとチエミ、高校に上がる頃から疎遠になってしまったけど、大人になってから一緒に合コンに参加するようになった。大人だから言わないけど、お互いに少し遠慮した関係に。チエミのお母さんが脇腹を刺されて死んでしまい、チエミが失踪する。みずきはチエミのことを知っている人たちを訪ねて、チエミを探す。富山の高山の赤ちゃんポストにチエミが来るのではないかと期待するが、その赤ちゃんポストが閉鎖になってしまう。第二部ではチエミ視点で描かれる。先に読んだ「傲慢と善良」と似た展開。ゼロハチゼロナナの意味に最後まで気づけなかった。途中で明示されてたのに。
    全ての娘は母親に傷つけられている。仲良すぎるが故に自立できない母娘、子どもの頃の行き過ぎたしつけを悔やむ母と許せない娘、殺してしまう側になってもおかしくなかった。
    翠ちゃんにはまたどこかで会いたいものだ。

  • 娘が母親を殺し、行方不明となる。
    幼馴染みでフリーライターのみずほは、逃げ続けるチエミを追いかけ、友人たちや関係者を訪ね歩く。
    母と娘との間に何があったのかと、ミステリーの形式を取りながら、母娘関係や女同士の関係など、女性にしかわからない心の襞を、著者は鮮やかに描き出している。

  • 元親友が母を殺して失踪した。進路を違えてから疎遠になっていた親友とその母も、殺人事件を起こすような母娘ではなく、むしろ自分の母と比べてうらやましくなるような温かい人だったのに、どうして……。主人公は、元親友との過去のやりとりをヒントに彼女の周囲の人間に事情聴取を行い、事件が起きた謎を探っていく。

    という物語なのですが。
    母と娘のあいだに横たわる確執はもちろん描かれていますが、それ以上に強烈なのが、女同士の友情。友情というか、マウントというか、憧れと嫉妬、同調圧力といったドロドロした感情が、男とのもつれた恋愛も絡めて、リアリティたっぷりに色濃く延々と描かれる。はたしてこの物語は謎を解決して終わるのかしら……? と途中で投げ出したくなりつつも、文章力に引き込まれて読んでいたら、さすが辻村さんでした。ラストにどんでん返し。タイトルの意味がわかった時は泣きたくなった。

    なんでしょうかね、女の幸せは結婚と出産という価値観に縛られた社会。SNSで大袈裟に祝福される女のイベント。雑誌で盛られる「モテ」の定義。それに翻弄されるアラサー女達。親世代と子世代の価値観の違いや、社会の闇が引き起こした殺人。それに比べてタイトルに込められた意味が光る。母にとって娘はいつまでも娘で、大事な宝物なのだね。

    つまりは、自分をしっかりと持ちましょうという話(←まとめすぎ)

  • 久しぶりに読む辻村深月さんの作品。
    あの独特の「胸に迫る感じ」が欲しくなり、購入、読了。

    最初から最後まで、ひたすらにずっともやもやしながら読んだ。
    読んだ後も、なぜだかすぐに感想が出てこず…というか難しい…ただただ、胸がざわついているというか、そんな感じだった。

    なぜか?と考えてみると、この小説の中に出てくる友人との関係性に自分にも思い当たる節があるからかもなぁ…と感じた。

    仲が良い友人に対しても、実は蔑んでいる部分もある。
    でも、羨ましい部分もある。
    そして、その上で成り立っている友情もある。
    その現実的に成立している、でも少し気持ち悪い関係性を鋭く指摘されたようなところがあるのかなぁと、そんな風に感じた。

    人間って、なんでみんな同列では満足できないんだろうか。
    「人より抜きん出たい」っていう発想が無ければ、みんな飯くらいは食べられる幸せな人生を送れるかもなぁなんて、思ったりするけれど…
    限りなく甘ちゃんの発想かな(笑)

    なんかこう、生きるって難しい。

    色んなものが無くなってしまったチエミ。
    でも、父親からの信頼と、そしてみずほとの友情は残っている。
    重たい話ながら読後感が悪くないのは、そこの救いがあるからかな。
    チエミの幸せな今後を願ってやまない。

    <印象に残った言葉>
    ・将来、同じ年の子のお母さんになろうよ。(P115、チエミ)

    ・あんたが普段ちゃんと管理しておかないから、懲らしめるために、試すためにやったのよ。みずほ、これからもきちんとしなさい。(P235、みずほの母)

    ・自分の人生の責任を、人に求めて不満を口にして終わり。そんな生き方、楽じゃないですか。与えられるものを待つだけ、自分で選ぶのではなくて、選ばれるのを待つだけなんです。その証拠に、会社にどれだけ不満を持ったところで、契約の更新がされるかどうかに怯え、彼女の口からは一度として転職という言葉が出なかった。自分で何かを決断したことがないから、変化が怖くてたまらない。(P297、亜里紗)

    ・すべてを人のせいにして呪うなら、悪いのは高校の先生じゃない。あなたの限界を決めたのはあなたの親だ、と。(P299、亜里紗)

    ・お母さん。これは、ひどい。(P364、みずほ)

    ・私には、最初から、何もなかった。(P476、チエミ)

    <内容(「Amazon」より)>
    地元を飛び出した娘と、残った娘。幼馴染みの二人の人生はもう交わることなどないと思っていた。あの事件が起こるまでは。チエミが母親を殺し、失踪してから半年。みずほの脳裏に浮かんだのはチエミと交わした幼い約束。彼女が逃げ続ける理由が明らかになるとき、全ての娘は救われる。著者の新たな代表作。2013年おすすめ文庫王国 エンターテインメント部門 第1位。(講談社文庫)


    事件を起こすなら、私のほうだと思ってた。

    母を殺してしまった娘と、母との確執を抱える娘。どんな母娘(おやこ)にも起こりうる悲劇。

著者プロフィール

1980年山梨県生まれ。2004年『冷たい校舎の時は止まる』で第31回メフィスト賞を受賞しデビュー。11年『ツナグ』で第32回吉川英治文学新人賞、12年『鍵のない夢を見る』で第147回直木三十五賞、18年『かがみの孤城』で第15回本屋大賞を受賞。『ふちなしのかがみ』『きのうの影ふみ』『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』『本日は大安なり』『オーダーメイド殺人クラブ』『噛みあわない会話と、ある過去について』『傲慢と善良』『琥珀の夏』『闇祓』『レジェンドアニメ!』など著書多数。

「2023年 『この夏の星を見る』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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