新装版 赤い人 (講談社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062772594

作品紹介・あらすじ

明治十四年、赤い獄衣の男たちが石狩川上流へ押送された。無報酬の労働力を利用し北海道の原野を開墾するという国策に沿って、極寒の地で足袋も支給されず重労働を課せられる囚人たち。「苦役ニタヘズ斃死」すれば国の支出が軽減されるという提言のもと、囚人と看守の敵意にみちた極限のドラマが展開する。

感想・レビュー・書評

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  • H30.8.1 読了。

    ・明治期の無期懲役囚達が北海道に渡り、自分たちの生活の場である樺戸集治監(刑務所)の建築から周辺の原野を切り開いて開墾、道路建設、病院、寺などの建築などに携わり、まさに北海道開拓史を支えたことがすごくわかった。
     学校の授業では教えてくれない歴史がわかる貴重な作品だと思う。

  • 淡々と語られているので、道路やら畑やらどんどん拓けていってるような気になって読んでました。実際には何十年も経ってる話なんですよね。
    網走土産でみたことがあった五寸釘の寅吉が出てきました。脱獄と生への執念がすごい。あのお菓子からは想像つかないよ。

  • 明治維新直後の日本。不平士族の反乱や政府部内での対立などで刑務所に収監される囚人が急増。その需要に応えるため、政府は新たな収監所として、北海道に目を向ける。厳寒の地での収監は刑罰としては適しているし、北海道開拓の労働者としても期待できる。囚人の人権なんて考える必要のない時代、政府は容赦なく囚人を北海道へ送り込む。

    囚人たちは番号のついた赤い服を着せられ、移送される。たどり着いた北海道で待ち受けるのは防寒対策が不十分な獄舎と粗末な食料、過酷な労働。使い捨ての開拓員としてこき使われた囚人のほとんどは凍傷に悩まされ、亡くなる者、脱獄する者が後を絶たない。

    第2次大戦後のソ連によるシベリア抑留に似たようなことが、被害者側の日本ですでに行われていたことに歴史の皮肉を感じる。そして、こうした犠牲によって北海道が開拓されたことは知っておくべきだ。

    名もなき囚人たちの壮絶な苦悩が歴史文学作家、吉村昭の丹念な取材力と淡々と事実を記す表現でより強調される。ただ、あまりに読者の気が滅入る事実ばかりを並べすぎた反動なのか、後半から脱獄犯列伝みたいになってしまうことに、すごい違和感がある。

  • 新千歳空港の書店にこの本があるのは、まさにあるべき場所で売られているといった赴き。在庫を切らさないようにしているのかな。
    北海道を訪れたら、北海道を訪れる前に、一度は読んでおきたい開拓と命の歴史。

  • 明治初期の囚人が北海道に送られて開拓していく。彼らは皆重罪犯だが、時代の転換期だったし本当は悪く無い人もいたんじゃないか…?囚人の扱われ方がとにかく酷くて真冬でも足袋すら支給されない。典獄は上席に足袋などを求めるが、北海道の寒さをわかっていないのか、却下される。で、支給されない。日本らしい縦割りだなぁ。作業効率を考えて自腹で勝手に支給してもバレなそうだけど。典獄は桁違いにお給料もらってたみたいだし。そんな感じで囚人は安い労働力としてこき使われバタバタと死んでいく。脱走する人も続出し、逃げきれず死んだり、看守に殺されたりする。海外を視察した偉い人によってこの待遇はあり得ない。という風潮が流れ、明治後期か?監獄自体廃止される。生き残った人もいるらしい。人権とは、を考えさせられる。

  • 北海道樺戸集治監を舞台に労働力として押送された囚人達と看守達のドラマ、明治という時代にさまざまな思いが交錯する背景、細かな取材、さすが吉村昭
    ゴールデンカムイのモデルとなった人物も多数あり

  • 北海度の発展と囚人たち。淡々と語られるその内容は初めて知るものばかり。歴史とは…学校では習わない歴史の存在を痛感した。

  • 北海道開拓史の暗部。
    囚人による苛酷な強制労働の上に成り立つ。北海道開拓の一端を囚人達が担っていた。しかし、囚人達は国益のために使い捨ての労力として扱われていた。
    樺戸集治監の盛衰物語とも言える。
    ほんの少し昔の日本の暗部であり、史実でもある。
    それを多くの資料から掘り起こし、淡々とした筆致で描きる吉村昭氏。すごい。

  • あらすじを見て、囚人を北海道開拓に従事させていたなんてまったく知らなかった!と手に取った。
    囚人たちが、監獄やいまも残る国道整備に貢献したこと、危険を伴う炭鉱や硫黄山での作業に従事させられていたことを知った。
    (硫黄山での作業はゴールデンカムイにも出てきたぞ、と思いながら読んだ。)

    囚人を北海道開拓という困難な労役に充てるだけでも驚くけど、斃死しても構わない、という姿勢だったことにも驚かされる。
    また、囚人の中には明治維新において旧幕府側に立った士族や国事犯も含まれていて、殺人犯や窃盗犯なら労役に充ててもいいと思っていたわけではないけれど、ショックを受けた。
    官吏と囚人は元は同じ士族の身分だったけれど、時代が変わるときにどちら側に立ったかで運命が別れたということが苦しかった。時代の転換はそれほどの大きなことで、否応なく選択を突きつけられ、敗者側になるような選択をした場合には、それまでの暮らしとは全く異なる運命を受け入れざるを得なくなるのだと感じさせられた。

    ゴールデンカムイを読んだ身としては、あの人やこの人が出てきたのも面白かった。

  • このリアリティは凄い。

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著者プロフィール

一九二七(昭和二)年、東京・日暮里生まれ。学習院大学中退。五八年、短篇集『青い骨』を自費出版。六六年、『星への旅』で太宰治賞を受賞、本格的な作家活動に入る。七三年『戦艦武蔵』『関東大震災』で菊池寛賞、七九年『ふぉん・しいほるとの娘』で吉川英治文学賞、八四年『破獄』で読売文学賞を受賞。二〇〇六(平成一八)年没。そのほかの作品に『高熱隧道』『桜田門外ノ変』『黒船』『私の文学漂流』などがある。

「2021年 『花火 吉村昭後期短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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