- Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062772679
感想・レビュー・書評
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幕末から明治にかけて活動し、坂本龍馬や高杉晋作らの肖像写真を撮影した、日本写真界の草分け的存在である職業写真師・上野彦馬を主人公とする、時代ミステリー小説。
彦馬の弟子・富重利平や元勲の他、シーボルトの娘で女医の楠本イネや、その娘の高子など、実在の人物たちが数多く登場し、史実に基づいたフィクションが展開する。
未だキナ臭さの燻る新都市・東京を舞台に、長崎から警視庁に招聘された彦馬が、日本初期のプロカメラマンとして、化学知識と写真技術を駆使し、事件の謎に迫るという趣向が斬新。
文明開化の新時代で、科学捜査の嚆矢となる写真師たちの先進性が取り上げられる一方、江戸から東京へと移り変わっても、人心までは急激には変わらない実状や屈折した心情も並行して描かれる。
新政府内での権力争い、藩閥政治の根っこにある確執など、いつの世も変わらぬ人間同士のしがらみを残したまま、シリーズ化が待たれる。 -
★見えん魂も実は一緒に写っとるたい。(p.287)
ミステリかと思えばある意味歴史ものだった? 有名人物たちのこういう暗躍があったかもしれないって感じの。それなりに楽しめます。
女装した男が殺された事件に端を発し明治初期の政治的ゴタゴタが明るみに出てくる。彦馬も巻き込まれ坂本龍馬の暗殺、西郷隆盛というけっこう謎な人物、江藤新平の決起などに、お札の肖像画になったこともある有名人たち、政権から追い出された者たちがからんでくる。
最近明治が始まった頃が舞台の小説をたまたまやけどけっこう読んでます。今回のもそのひとつ。畠中恵さんの『明治・あやかしモダンシリーズ』今回のにも銀座の煉瓦建築街の表記はありました。牛鍋屋も出てきます。山田風太郎さんの『ラスプーチンが来た』。朝井まかてさんの『ボタニカ』。そして堀直子さんの『そして永遠に瞳は笑う』が今回の小説を読む直接のきっかけ。
【一行目】凍てつくような寒さが続き、昨夜からの雪が道に積もっている。
▼簡単なメモ
【青山千世/あおやま・ちせ】報国学舎で学びながら東京日日新聞で働く女。男装。男女同権をめざす。後の山川菊栄。
【石井宗謙/いしい・そうけん】シーボルトの弟子。おいねの師。高子の父。
【伊藤博文】大隈重信とともに新時代の政治家。《私は……過去はどんどん忘れて消して壊して、常に新しい町に生まれ変わらせたい》p.303
【上野彦馬/うえの・ひこま】→彦馬
【内田九一/うちだ・くいち】彦馬の弟子。東京で写真館「九一堂万寿」を開業しブイブイ言わせ豪邸も建てた。
【江藤新平】佐賀で決起したらしい。
【おいね】シーボルトの娘。築地で産婦人科の病院をやってる。
【大久保利通】この時点でほぼ国のトップと言える。源一郎は後に《常に冷静、冷徹で、幕末維新において、最も政治家らしい人物だった。》と書いた(p.150)。《最善を望むが、それが叶わぬときは、次善を尽くすという選択を間違いなくやってのけるのだ。》p.151
【大隈重信】伊藤博文とともに明治政府の新しい勢力。
【亀谷徳次郎/かめや・とくじろう】彦馬の弟子のひとり。
【カロタイプ】カメラの一形式。美しさではダゲレオタイプに劣るがネガが残る。
【川路利良/かわじ・としよし】大警視。警察のトップ。「るろ剣」にも登場する。彦馬を警察のお抱えにしたいようだが探偵としての能力にも期待しているフシがある。
【木戸孝允/きど・たかよし】政治家。元の桂小五郎。彦馬は彼と大久保利通だけがまともな政治家だという。
【清/きよ】内田九一の弟子だがまだ日が浅いので雑用しかしていない。
【日下部金兵衛/くさかべ・きんべえ】写真家。下岡蓮杖の弟子。
【グラバー】トーマス・ブレーク・グラバー。グラバー邸のグラバー。彦馬と同じ年。
【源一郎/げんいちろう】福地源一郎。後の福地桜痴。彦馬の古い友人、弟分だった。時代を代表する知識人の一人。東京日日新聞で働いている。
【西郷隆盛】写真嫌いでどんな顔かあまり知られていないが彦馬は撮っていて秘蔵しているらしい。それだけ信頼されていたようだ。
【斉藤一/さいとう・はじめ】佐川と親しい。元新撰組の隊長の一人。警察に入る予定らしい。「るろ剣」でもお馴染み。
【佐川】警部。「鬼の官兵衛」と呼ばれている。会津出身で家老にまでなった。《犯罪については、時と場所に意味があるはずだ》p.56
【下岡蓮杖/しもおか・れんじょう】西の彦馬に対して東のと並び称される写真家。ただ化学の造詣はない。
【写真】《写真は単なるもんば写す手段じゃなか。撮る者の魂のこもるとたい。》p.168。《姿の写るだけでなく、見えん魂も実は一緒に写っとるたい。》《俺は、その人たちの写真に残った魂ば、感じることができっとたい。》p.287
【舎蜜局必携】彦馬が書いた化学の入門書というか紹介書。とてもデキがいいらしい。
【庶民】《庶民の方は、政府が変わっても、さして変わらぬ暮らしである。》p.172
【瀬川】伊藤博文のところにいる謎の男。
【赤報隊】相楽総三(「るろ剣」で相楽佐之助の師匠的存在の人物)を隊長とする集団で、明治政府に裏切られ切り捨てられた。新撰組の出身者が多かった。
【大警視】今で言う警視総監。この話の時点では川路利良。
【高子/たかこ】おいねと医学の師である石井宗謙の娘。
【ダゲレオタイプ】彦馬の父が手に入れたカメラ。一枚しか写せないし左右が反転する。
【東京警視庁】明治七年、一八七四年創設。元の津山藩邸を改築。
【藤堂高猷/とうどう・たかゆき】彦馬たちのために高額な写真機を買った。
【富重利平/とみしげ・りへい】→利平
【偽金】幕末期、戦費調達のため各藩で偽金をつくった。後に諸外国に損をさせたと問題になった。
【彦馬/ひこま】上野彦馬。主人公。日本で最初のプロカメラマン。人物写真が好みのようだ。色男でモテモテ。剣の腕も直心影流の達人。
【ふゆ】千世の妹。芸事や落語が好き。
【古川俊平】彦馬の弟子のひとり。坂本龍馬の写真を撮ったのはこの人という説もあるらしい。
【ベアト】フェリーチェ・ベアト。イタリア系イギリス人の写真師。
【堀江鍬次郎/ほりえ・くわじろう】長崎医学伝習所で彦馬の同僚だった。
【町並み】《町並みが変わると、人の暮らしは当然、心も変わるだろうな。》p.165
【三瀬諸淵/みせ・もろぶち】医師。高子の夫。シーボルトの弟子の二宮敬作(にのみや・けいさく)の弟子。
【宮下小五郎】元赤報隊メンバー。彼の死を発端としていろいろキナ臭いことになるが
【利平/りへい】富重利平。彦馬より年上だが彦馬の弟子。ともに日本で最初のプロカメラマン。写真のことしか考えていない。特により速くより簡単に撮影するためのテクノロジーに興味があるようだ。 -
この時代の多様な人物達をモデルとした作中人物達が、現代的な鑑識捜査が確立する以前に、それに近い考え方で事件の謎解きに挑む様子や、もう少し違う意味の「歴史の中のミステリー」に関することに向き合う様子など、なかなかに愉しい物語になっている。
題名の“ホトガラ”は?フォトグラフ(写真)とか、フォトグラファー(写真家)が転訛した、「明治時代初期的な外来用語の綴り方」なのであろう…
時代モノの楽しさと、事件モノの楽しさを合わせ備えたような物語…大変に愉しい!! -
明治版科学捜査官 上野彦馬シリーズ 待望のスタート! 坂本龍馬の肖像を撮った男が、維新の闇に鮮やかに斬り込む!
フロックコートに山高帽、洒落モノで女好き・上野彦馬と、昔気質の堅物・富重利平の名コンビが追うのは、“消えた西郷隆盛”の謎!?
維新後の混乱を極める東京府で、女装した浪士が惨殺される。警視庁大警視・川路利良は、捜査の切り札として日本初のカメラマン上野彦馬を長崎から招聘する。彦馬が撮った現場写真は、新政府内の闇をも暴く重大な布石となるのか!? 写真技術で鮮やかに謎を解き明かす、明治版科学捜査官を描く。<文庫書下ろし> (Amazonより抜粋) -
(収録作品)証拠写真/西郷の顔/青い血痕/幻影都市
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登場人物が贅沢。
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時代小説+歴史小説なので、説明が多いのがちょっと難点。
上野の西郷さんの像が完成して、奥さんが除幕式に見に来たときにこれは違う!って言ったエピソードを知っていたらなかなか楽しめるかも。
この時代、時代を動かしていた人達はほんと若かったんだなぁとしみじみ。
今だと30代~40代なんて国会で発言できるのかも疑わしいくらいの年齢ですし。 -
右肘を付いた姿勢で遠くを見つめる袴姿の竜馬を撮影した、上野彦馬を主人公にした探偵物語。
文明開化、写真、探偵この3つが組み合わさったらどんな化学変化をみせるのか楽しみしていましたが、平民の生活を中心に語られると思った物語は、明治維新の立役者たちが関わってくる 偉人たちの物語でした。
そのため、風俗よりも権力闘争に比重が偏ってしまったのが残念。 -
日本の大転換期が実在の人物を散りばめて書かれているので歴史に興味がある人には面白いと思う。
設定も興味深かったのですが、なんにしろ主人公の彦馬の魅了が足りないような…。
大の女好きで、剣術の達人、科学、医学にも明るい、とキャラクターは面白そうなのに、それが活きてない気がしました。