ゼロの王国(下) (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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感想 : 15
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062772747

作品紹介・あらすじ

愚かなまでに清い吉田青年の純粋さに憧れる人々は、彼を中心にしたサークル活動を開始。平等な社会の実現を目指し、誰もが憎しみや貧困から逃れられるという「繰り返しの作業」に没頭する。一方、不幸せな結婚に向かうユキに惹かれる吉田青年は心を襲う初めての感情に戸惑う。"聖なる愚か者"の恋のゆくえは。

感想・レビュー・書評

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  • ほとんど装丁買いといってもいいくらい、この文庫の装丁が可愛くてお気に入りです。中身のほうも、今まで読んだ鹿島田作品の中では、いちばん読みやすかったかも。内容自体がわかりやすいというよりは、物語のほとんどが会話で進行するので、単純にすいすい読めるという意味で。

    解説を読むとわかりやすいんですが、ドストエフスキーの「白痴」を下敷きにしているということで、物語そのものだけでなく、文体が翻訳ものっぽい雰囲気なんですよね。現代の日本人はこんな喋り方しないし、初対面でいきなりこんなべらべら喋ったりしないしっていうのも含めて、翻訳ものにありがちな違和感が最初はあるんだけど、そこに慣れてしまえば後は大丈夫。

    主人公の吉田青年は、ピュアすぎて紙一重な人なんですが、私欲ないので、ある種のタイプの人間にはものすごく好かれてしまう。途中、このまま誰かに担ぎ上げられたら、新興宗教の教祖になっちゃえるんじゃないか?というほどのカリスマ性も発揮するんですが、そこまでなるにはやはり善良すぎるのかな。

    足るを知り、愛情は与えるのみで他者に何も「求めない」吉田青年の清貧ともいえる生き方は、一種の理想ではあるのだけれど、そこに惹かれて彼を愛する女性たちを、なぜか彼は幸せにしてあげられない。ラスト、エリを失い、ユキも失って、彼はようやくその理由に気づくのだけれど、このカタルシスは良かったなあ。目からウロコの真実というほどではなく、多分当たり前のことなんだけれど、彼にとっては盲点だったその真実が、こちらの胸にもストンと落ちてきます。なんていうか、ハッピーエンドでした。

    • みりんさん
      私も途中、教祖展開かと思いました(笑)
      私も途中、教祖展開かと思いました(笑)
      2013/04/26
    • yamaitsuさん
      あのまま教祖になってもおかしくなかったですよね(笑)。そうすると全く違う作品になってしまいそうですが。
      あのまま教祖になってもおかしくなかったですよね(笑)。そうすると全く違う作品になってしまいそうですが。
      2013/04/26
  • 愚かなまでに心の清い青年への憧れから、人々は彼を中心としたサークル活動を始める。
    ある者は名前を書き続け、ある者は椅子を磨き続ける。
    過酷な「繰り返しの作業」の果てに、平等な社会(ユートピア)は生まれるか。
    世にも滑稽な“聖なる愚か者”吉田青年の、恋のゆくえは。

  • 憎しみや悲しさから逃れようとすればするほど、
    人間らしさが溢れ出し純粋さをも凌駕する。
    自己犠牲が美しいとされる世界で、
    絶対的に信じているものはいとも簡単に揺らぐ。
    純粋な吉田君に対するみんなの思いは
    宗教的で憧れで憎しみをも孕んでいる。
    そんな吉田君でさえもユキへ感じた感情はとても人間らしいものだった。

  • なんとか最後まで読み切ったという感じ。
    しかし最後にロシア文学者の解説を読んで、いろいろ腑に落ちた。
    描きたいことは分かるけどもう少しまとめられなかったのか…などと思いながら読んでいたけれど、ドストエフスキーの現代日本版ということで納得。
    『白痴』を過去に読んでいれば、また面白かったのかも。

  • 本当に、主人公はゼロに経ち帰ったのだなと言う印象。
    不倫だろうと純愛!みたいな話はよくあるけれど、相手がいるなら相手との決着を付けない限りは、他人から見れば不倫だと言う事を主人公と共に思い知らされた。

  • めちゃくちゃで退屈で苦痛で時間と金の無駄の象徴のような作品。
    主人公の吉田君のように、宛名書きのような退屈な作業に喜びを見出すような奇特な人でもない限りおすすめできない。まさに修行。

  • 無理やり読み切った。一体これは何だったのだろう。。

  • 愛する人に自分を愛してもらいたい。
    与えることだけが相手のためになるとは限らない。
    あなたに愛されたい、と言ってもらえたら嬉しい。
    そんな自然な愛の在り方に、吉田青年が気付くことができてよかった。
    その過程で多くのものを失ったけれども、また多くの人間と愛の物語を吉田青年はきっと紡いでいくのでしょう。

    芝居がかった会話、劇的な展開だというのに淡々と流れていく様子が読んでいてとても面白かった。
    演劇を観覧しているような感覚をくれる本でした。

  • むつかしい文章。。。

  • これ絶対一年前は読めなかった。
    滑稽、ばかみたいって一蹴してたと思う。

    読みにくいし難しいのに手が進む。
    吉田青年の聖人君子ぶり、面白かったなあ。
    彼みたいな人はいないんだよね。
    だからラストは個人的に好きでした。
    恋愛は見返りあってこそなんだと思う。
    愛したいし愛されたいのが人間の本能で本望でしょう。

    愛している人のリストであると同時に、
    愛してほしいと思っている人のリストでもあったのだ。

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著者プロフィール

1976年生まれ。1999年、「二匹」で第35回文藝賞を受賞しデビュー。2004年、『白バラ四姉妹殺人事件』で第17回三島由紀夫賞候補、2005年『六〇〇〇度の愛』で三島由紀夫賞受賞。2006年「ナンバーワン・コンストラクション」で第135回芥川賞候補。2007年『ピカルディーの三度』で野間文芸新人賞受賞。2009年「女の庭」で第140回芥川賞候補、『ゼロの王国』で第5回絲山賞を受賞。2010年『その暁のぬるさ』で第143回芥川賞候補。

「2011年 『小説家の饒舌 12のトーク・セッション』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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