絞首刑 (講談社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062774079

作品紹介・あらすじ

国家の名のもとに、命を奪う「死刑」。著者は、数々の証言から執行現場を再現しつつ、実際に起きた五つの事件を通して処刑に至る道程を検証する。なかでも、一九九四年発生の連続リンチ殺人事件で死刑判決を受けた元少年たちへの取材は精緻を極める。死刑制度の根幹に迫った、渾身のルポルタージュ。

感想・レビュー・書評

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  •  保身と倫理が対立した場合、たいていは保身に走る。
    刑法に関わる部分で保身に走った場合、その保身は死刑という殺人を伴う可能性があり、冤罪が起こる限り合法的な死刑が殺人である場合がある。

     死刑確定確定後に再審によって無罪となった冤罪事件は
    免田事件(逮捕1949年、再審無罪1983年)
    財田川事件(逮捕1950年、再審無罪1984年(丸年)
    島田事件(逮捕1954年、再審無罪1989年)
    松山事件(逮捕1955年、再審無罪1984年)
    足利事件(逮捕1991年、再審無罪2010年)
    と5件となっている。ちなみに、『BOX』という映画にもなった袴田事件は再審判決後、現在は審理中となっている。

     先進国で死刑制度がの残っているのはアメリカの幾つかの州と日本だけで、アムネスティ曰く、世界が死刑廃止に向かう理由は人権に対する配慮が大きい。
     しかし、本書を読むと、日本においては、人権といった大乗な概念ではなく、冤罪が起こっているという事実によって死刑制度は廃止されるべきということがわかる。

     本書には大きく2つの文脈があり。1つは死刑囚にまつわる、出自から犯行の動機、そしてその後の心の変容についてのルポ。
     そしてもう1つは、死刑制度にまつわる、接見や冤罪といった制度についての分析。
     1つめの死刑囚にまつわるルポでは、懺悔し更生していると思われる人がいるのに、死刑という極刑は必要なのかという問題を提起している。
     2つめの死刑制度にまつわる調査では、政府が冤罪をうやむやにしようと死刑を執行したという調査結果を記している。
     特に2つ目の指摘は、冤罪の可能性の生まれた死刑囚の死刑執行を早めて、DNA鑑定のミスをうやむやにしようとしているのではないかという指摘である。
    このような隠蔽体質は、
    三井環事件 2002年
    陸山会事件 2011年
    高橋洋一郎逮捕 2009年
    などにも見受けられ、都合の悪いことは、強引に隠蔽しようとする体質が見える。
     上記の出来事を踏まえると、本書を読む限りは本当にうやむやにしようとして死刑執行をした気がする。

     そのなりふり構わない行動は、たまに私たちの目にも入ることがあって、目にする度にゾクッとする。死刑を廃止にするか否かを考える時、私たちは被害者側に身を起きがちである。
     それは、自分が死刑に値するような犯罪を起こすことなどないという思い込みから来ているのであり、確かにほとんどの人が殺人なんてしないんだけど、画一的社会から一歩足を踏み出した途端、力ある人に目をつけられる。それは殺人に限らず、権力に接触した場合にも起こりうる。

     2017年に共謀罪が成立したことで、こんな体質の警察や検察がより動きやすくなって大丈夫なのかと心配になる。

  • 後半はとんでも本。ルールを無視して開き直り。法務省矯正局の批判に終始。

    • ことぶきジローさん
      著者は最近、テレビでも見かけますね。違和感のあるルポルタージュでした。多くの方が良いコメントを書いているようですが、自分はこんなのはルポルタ...
      著者は最近、テレビでも見かけますね。違和感のあるルポルタージュでした。多くの方が良いコメントを書いているようですが、自分はこんなのはルポルタージュじゃないと思いました。
      2016/05/31
  • あれれ。最後の最後に論旨がズレてる。死刑制度の是非を巡るルポルタージュだと思って読んでいたのに最後の最後に刑務所や拘置所に対する批判に変わってる。さらには連続リンチ殺人事件の死刑判決を受けた元少年に対する主観だけでの擁護とは一体。この本は何なんだろう。こんなのはルポルタージュでも何でもない。酷いな。

  • 素晴らしい内容だった。
    一つの事件&死刑囚ごとに章を分け、事件の背景、犯人の動機と行動、裁判、遺族の心情、死刑囚の心理と心境の変化が、事件ごとにフラットに描かれてる。

    著者は明らかに死刑廃止論者なんだけど、その自身の理念はあとがきまで我慢しているのもよかった。

    深い位置まで死刑囚に関わっているから、当然心情的には死刑廃止に傾くのは当然でそれを否定することはない。死刑/死刑囚に近い人ほど死刑廃止論を持つのは皮肉である。

  • ここまで色々取材できたのがすごいなあというのがシンプルに感じたこと。
    面会中の写真はどうやって撮影できたのか気になる。
    死刑はどちらかというと賛成の立場だけど、こういった実際に死刑に関わる人たちの声を聞くと揺れてしまう。

  • 目には目を。凶悪犯罪の加害者に対する被害者遺族の憎悪と周囲の同情、そこに許しは到底無く、ただ復讐心へと駆り立てる。その結果は何も生まれない、それどころか刑執行に携わる刑務官の精神を蝕んでいく現実に誰も感知しない。愚挙とも言い切れる日本の極刑はなぜいまだに多数支持されるのか、これを正義と言い切る人々は他者を慮る思考を捨てたも同然、自己責任に帰結する現代の病であろう。確かに苦しい、だが居心地良くない感情に真正面から向き合う姿勢こそ徳となる。加害者だけではなく私たちが共に考えることが大切。

  • 読者が考えるために必要なことをきちんと取材して述べている、かつ著者の主張も明確、それは死刑賛成とか反対とかの議論ではなく死刑と死刑囚を具体的に目に見える形で提示しようということなんだと理解しました。良質のルポになっていると思います。

  • 死刑判決が執行された事件の端末や被告の人となりを鋭くえぐるノンフィクション。

    拘置所の中で、キリスト教に帰依し別人のように改心する者あり、控訴せず死刑を受け入れる者あり。検事の作成した調書には自分が言ってないことが書いてあると主張する者あり。著者が雑誌FRIDAYに被告の写真とともに記事を掲載した際に拘置所所長から送られてきた手紙が印象的。法務省による、全てが「ブラックボックス」化され「開かれていない」刑務所、拘置所について大いに考えさせられる。

    被害者の兄「犯罪の被害者遺族は、大切な人を突然奪われることによって不幸な谷底に叩き落とされる。刑事司法やマスコミ、大多数の人々は、平和な崖の上から見下ろしながら『可哀想に』と同情の声をかけてはくれるけれど、本当の意味での救いの手を差し伸べてくれようとはしない。その代わり、崖の上から加害者を突き落とすのに夢中になっているだけではないか・・・」

    死刑判決が出たのに控訴しなかった被告は「自分のやった事の責任として死刑になるのは、制度がある以上は仕方のない事だと思っています。しかし、今の日本の裁判は真実をあきらかにして裁くのではなく、検察の言い分を聞くだけで、決して真実や証拠すらも公正に見てくれません」

    「名古屋拘置所長からの「抗議文」を再び眺め、あらためて憤りがこみ上げてくる。このような組織が内々に発する"通達"を根拠とし、日本の刑事収容施設は極度の閉鎖性を頑迷に護持している。そして、同じ組織が「死刑」という究極かつ絶対不可避の刑罰を司り、徹底した密行主義の下ですべてを隠している。刑事司法面で見る限り、この国は相当な後進国というしかない」

  • 死刑のさまざまな「当事者」に、これほど密着したルポは少ないんじゃないだろうか。青木理は、ワイドショーのコメンテーターをやっているせいでなめられがちだが、これはいい本だった。正直、死刑は廃止すべきだな、うん。

  • 死刑囚や被害者遺族に対する調査・取材をもとに、死刑制度について語った本。私は、死刑制度に格段の関心を持っているわけではなく、同テーマについての知識をつけたり、考えを深めてきたことは無かった。しかし、本書で大きく扱われていた、取材をもとにした死刑囚の考えや行動、冤罪に関する事案について触れ、司法や犯罪に関する感覚がすこし敏感になったと思う。インタビューや事件の経緯の細かく丁寧な記述は読みごたえがあり、取材や調査においては、とても粘り強く多大な力をかけて実施されたことが伝わってくる。末尾の方の、法務当局や拘置所への批判は、大切なことだとは思うが、やや感情的になりすぎている印象もあり、それまでの流れとのつながりも踏まえて、別の場所で語ってくれても良かったかなあと思う。

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著者プロフィール

1966年長野県生まれ。ジャーナリスト、ノンフィクション作家。慶應義塾大学卒業後、共同通信に入社。社会部、外信部、ソウル特派員などを経て、2006年に退社しフリーに。テレビ・ラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『日本の公安警察』(講談社現代新書)、『絞首刑』(講談社文庫)、『トラオ―徳田虎雄 不随の病院王―』(小学館文庫)、『増補版 国策捜査―暴走する特捜検察と餌食にされた人たち』(角川文庫)、『誘蛾灯―鳥取連続不審死事件―』『抵抗の拠点から 朝日新聞「慰安婦報道」の核心』(講談社)、『青木理の抵抗の視線』(トランスビュー)などがある。

「2015年 『ルポ 国家権力』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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