隠し絵の囚人(下) (講談社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062774130

作品紹介・あらすじ

伯父が語り始めたのは、勢力を増すナチスがベルギーに侵攻しようとしていた一九四〇年夏の出来事。ユダヤ人のダイヤモンド商の頼みでアントワープからロンドンにピカソ・コレクションを届けた伯父は、アイルランドをめぐる英仏独の政治的駆け引きに否応なく巻き込まれていく。MWA賞最優秀賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 本作の上下巻共に共通しているのは36年前の1940年と現在の1976年も物語が同時進行し36年前に死亡したと思われてた叔父の真実に迫るストーリーと叔父の36年間の恨みを晴らす事に協力する甥(主人公)のストーリーが36年の時間を次々に交錯しながら物語は進行します。

     きっかけは叔父がかつて仕えていた実業家所蔵のピカソが贋作に変わっていた事実を明らかにする為に叔父と甥が協力して過去を辿り証拠を探すのだが、36年前の叔父に起こった事件の根はイギリスとアイルランド政府の陰謀に巻き込まれた事が原因だったのだが、36年後の現在でも当時の事件は重要な機密事項で叔父と甥に深く関わりながら事件の真相究明を阻む事となり更には甥の彼女である実業家の孫娘が殺人事件に巻き込まれ警察に拘束されてしまう。

     叔父の36年に亘る恨みを晴らすのか、殺人事件に巻き込まれた実業家の孫娘の無実を晴らすのか、

     小説に登場する人物が多くしかもお互いの関係が複雑だったりして詠み進めながら頭の中を整理する必要がありますが本当に面白いミステリーです。
                 
     

  • 戦前ピカソの絵を所蔵していた実業家の遺族がピカソの絵の所有権を取り戻そうと裁判をしていたが、うまく行かなかった。その家族の孫娘であるレイチェルと知り合いになったスティーブンは二人でピカソの絵の謎を探しだそうとするが、その行く手には様々な謎が現れてくる。そして戦前のアイルランドでの出来事を少しずつ伯父は話し始める。

  • ゴダードの小説は傑作が多いのですが
    これはMWA受賞作だけあって 文句なく面白いです。
    贋作・スパイ・IRA 盛りだくさんの要素が重なって
    飽きません。お勧め。

  • MWA賞受賞のミステリーな訳なんですが、正直すっきりとしない解決ですね。まぁ、アメリカのミステリーと違い、ヨーロッパのミステリーにはありがちですが。

    それにしても、ロバート・ゴダートは、いつもヨーロッパの込み入った歴史を、小説のプロットに上手く使ってきますね。ヨーロッパ各国の歴史に疎い日本人からしてみると、「え?そんな事が問題になるの?」と言うところが無いわけでは無いですが。今回の場合は、イギリスとアイルランドの愛憎が、この作品のプロットに大きく活かされています。

  • ゴダードの最高傑作だと評されることの多い作品だが、どうだろうか。謎は謎を呼ぶ展開、という形式では少なくとっもなく、筆者が新たな作品構成に取り組んだのだろうと感じられる。シンプルではあるけれど、話の展開が速く、人物造型も巧みで読ませると思う。けれども、幾重にも張り巡らされた謎の展開という持ち味を期待すると、若干物足りないようにも思えるのだが。

  •  死んだとされいた伯父が突然姿を現す。彼は、36年間アイルランドの監獄に収監されていたという。
     1940年と1967年をピカソの贋作がつなげていく。

     やっぱりゴダードは上手い。
     構成力が半端ないと思う。初めて「リオノーラの肖像」を読んだ時も、その構成力に打ちのめされたのだけど、その時のことを思い出した。

     なぜ収監されていたのか語らない伯父だが、ピカソの贋作を追っていく過程で、何があったかが薄紙をはがすように明らかになっていく。現在と過去の関連づけが上手くて、人は、決して<点>で存在するのではないと感じた。そう、時間も、人と人の関わりも、常に複雑に絡み合ってつながっている。
     36年の間自由を奪われていた伯父ですら、結局その絡み合いから脱することができない。が、彼はそれを断ち切り新しいつながりのために戦うのだ。
     
     甥っ子が主人公で、彼が四苦八苦やってて、伯父は陰で動いてるっぽいんだけど、格好いいです。
     素敵オジサマでした。

     うん、ゴダードは、いい感じに枯れたオジさんを描かせると本当に上手い。

     ゴダードの職人技を充分に堪能いたしましたm(__)m

  • KL 2013.8.18-2013.8.21

  • 下巻に来てやっと?ミステリーらしく殺人事件が起こります。
    宝石と絵画と、テロと。
    美術市場の後ろ暗さと、ダイヤモンド市場の闇、それに当然のように絡む政治が背景ではあるけれど、あくまでも人間ドラマが主体のミステリーですね。
    絵画の薀蓄はほとんど出てこない。ひとつのツールでしかない扱いです。
    最後の文句がすべてを言い表しているかも。
    「ある者は記憶にとどめられ、ある者は忘れ去られる。ただ、それがいつでも正しい結末であるとはかぎらない。」
    その、忘れ去られた「ある者」の波瀾万丈の真実の物語。

    そして珍しく辛い★3つの理由は、あまりにワクワクドキドキが少なすぎたせいかな?決して面白くなかったわけじゃないんだけどね。

  • 第二次大戦で死んだと言われていた伯父が突然現れたことにより、大戦時のアイルランドとイングランドを巡る歴史の闇を探ることとなった主人公を描いたミステリー。
    MWA賞受賞作とのことだったので、久しぶりにゴダードの小説を読んだが、文量こそ上下巻の大作であるものの、話の密度が全体的に薄く、やや期待外れ。文庫の帯には「ゴダードが本当に凄いのは現在である!」とあったが、やはり初期の名作群(「千尋の闇」、「リオノーラの肖像」他)の水準には遠く及ばない感じであり、もうあのレベルの作品は期待できないのかと思うと、正直残念。

  • ここ近作続いている軽いタッチの作品の中では、ずば抜けて完成度が高い。全盛期と言われている重厚ベースではなく、ライトな感じでこのままいくのかな。ちょっと残念な気もするけど、本作品レベルのストーリーが書けるならそれもいいのかも。

    なかなか込み入ったストーリー。1940年に起こった絵画詐欺事件を、1976年の今、関係者の血縁者が真相を追うという展開。登場人物もかなり多く、過去と現在が交差する形でカードが徐々に表を向いていくので、結果的には時間もページも要する。でも飽きることはなく、迷宮とも思える36年のブランクの闇に軽く酔う感じで、なかなか充実した読書時間となった。

    これまでのゴダードだったら、絵画詐欺の方にウェイトを置いて書いてたように思うが、本作品での詐欺事件は、作品を形成する多くの要素のひとつに過ぎない。そこが重厚ベース時代との大きな違いかな。リピーターから見ればモヤモヤ感は残るだろうが、展開の妙で読ませるという意味では、全盛期を彷彿させる仕上がりになっているのはなかろうか。

    真相を知って確かに拍子抜けしたけど、これは結果でなく、誰と何がどう繋がったかというプロセスを楽しむ作品なのだと思う。時代と事件に翻弄された人たちが、永きときを経て何をどう感じたのか──そこに人生の深みが見えなくもない。これでいいのだ、ゴダード。

    余談だが、エルドリッチ役は作者の推すマイケル・ケインではなく、ゲイリー・オールドマンかなーと思ってみたり。

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著者プロフィール

1954年英国ハンプシャー生まれ。ケンブリッジ大学で歴史を学ぶ。公務員生活を経て、’86年のデビュー作『千尋の闇』が絶賛され、以後、作品を次々と世に問うベストセラー作家に。『隠し絵の囚人』(講談社文庫)でMWA賞ペーパーバック部門最優秀賞を受賞。他の著作に、『還らざる日々』『血の裁き』『欺きの家』(すべて講談社文庫)など。

「2017年 『宿命の地(下) 1919年三部作 3』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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