スケアクロウ(上) (講談社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062774659

作品紹介・あらすじ

人員整理のため二週間後に解雇されることになったLAタイムズの記者マカヴォイは、ロス南部の貧困地区で起こった「ストリッパートランク詰め殺人」で逮捕された少年が冤罪である可能性に気づく。スクープを予感し取材する彼を「農場」から監視するのは案山子。コナリー史上もっとも不気味な殺人犯登場。

感想・レビュー・書評

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  • 新聞記者マカヴォイが主人公の2冊目。
    前作より10年後という設定で、新聞がネットに取って代わられつつある時代の流れも描いています。

    ジャック・マカヴォイは、ロサンジェルス・タイムズの記者。
    「ザ・ポエット」の事件で名を上げ、高給取りだったため、人員整理の対象になってしまった。
    2週間だけ後任の教育に当たった後に、退職することに。
    後任のアンジェラ・クックは野心的な若い女性。
    同僚はいずれアンジェラも良い記者になるだろうが、そうなるまでに多くの事件を見逃すだろうとマカヴォイを惜しむのだった。

    若い黒人が白人女性を殺した容疑で逮捕された。
    小さな事件と思われたが、家族の抗議を受けたマカヴォイは事情を調べ始める。類似した事件に気がつき‥

    犯人スケアクロウの側からも描かれます。
    マカヴォイらの動きに感づいた犯人は‥
    ネット犯罪と連続殺人犯という事件のほうは、いかにも派手な題材。
    FBI捜査官のレイチェル・ウォリングが登場し、10年ぶりにがっつり取り組むことに。
    マカヴォイからのたった一本の電話で動くレイチェル。

    作者自身が同じロサンジェルス・タイムズの新聞記者だったので、実感がこもった内幕小説ともなっています。
    コナリーの主人公でなんといってもカッコイイのはハリー・ボッシュなんだけど、マカヴォイは他人と思えないらしい書きっぷりが、なかなか面白いです。

  •  敏腕記者ジャック・マカヴォイ。そう、『ザ・ポエット』以来、13年ぶりの登場である。パートナーとして組んでゆくヒロインは、他シリーズも含め、すっかりお馴染みになった感のある美貌のFBI捜査官レイチェル・ウォリング。これも『ザ・ポエット』のオリジナル・コンビそのままである。『ザ・ポエット』当時は、コナリーもハリー・ボッシュシリーズを4作書き上げたばかりで、ノンシリーズでは、これが初の作品となった。強烈な個性と一匹狼ぶりを発揮する正統派ヒーロー刑事(デカ)のボッシュこそがコナリーとのイメージが強かった中で、純然たるノン・シリーズの単発ものとして、『ザ・ポエット』はびっくりするほど面白く、コナリーとしては珍しく、サイコパスのシリアル・キラー・サイドの視点でも描かれるクライム・ミステリーとして、とても劇的なインパクトを持った作品であった。

     その後、マカヴォイもウォリングも、シリーズ作品内にちょくちょく顔を出すようになり、彼らの主人公作品はしばらく書かれなかったものの、二人の存在感は作を増すごとに強くなっていった気がする。少なくともコナリー読者は、これらの人物のシリーズ間クロスオーバーを、作者からのサービスとして好意的に受け取ってきたことだろう。

     本書は、マカヴォイが久々の登場にも関わらずいきなりリストラを言い渡される、いささか衝撃的なシーンで幕を開ける。『ザ・ポエット』当時、マカヴォイが在籍していたロッキー・マウンテン・ニューズ紙は既に倒産してなくなっており、現在のロサンジェルス・タイムズ紙も経営難に陥り、優秀な人材であっても給料の高い人間たち100人程を解雇しなければならないという空前の苦境に陥っていた。マイクル・コナリーが作家になる前に記者として腕を磨いていたロサンジェルス・タイムズ紙の現在の状況が、どうやらこの作品を書こうという強いモチーフとなったらしく、そのあたりの事情は、巻末の作者インタビューや、作家・真山仁のアメリカ・ジャーナリズムについて省察された解説に詳しい。むしろいつも以上に、解説やあとがきの部分が手厚く編集されていると言っていい。同じく活字と紙を媒介とする出版社にとっても他人事ではないだろう。

     ニュースの場が(小説の場も、だが)Webサイトに移動し、紙ベースでの需要が急速に減ったいわばメディア革命とも言うべきインターネットの功罪、による新聞社の危機は、何もアメリカだけに始まったことではないらしく、日本でも同様に各社予断を許さぬ状況であるようだ。しかし、紙ベースでは印刷完了の朝を待って飛び出す驚きの記事であれ、一時間ごとに更新されるWebニュースでは即座に発信されてしまい、実質上スクープ記事が消え失せることや、しっかりと意志を持った各新聞社が社会に発信する方針・意見・提言などによるそれぞれの個性なども失われようとしている現在のメディア危機の状況を、コナリーは嘆いているに違いない。国が誤った方向に社会を導こうとしたり、政府や他組織が暴走しようとするときにそれらを黙認せず正義と公正の社会的番人のような役割を果たすという、新聞社の誇り高き編集室の使命感が、今は、退職者の空席だらけのデスクを歯欠け状態のように連ねた、空疎で中身のないスペースにまで落ちぶれている、そんな状態がマカヴォイの眼には映っている。突然降って湧いたような個人の苦境、会社の落魄から、今ある事件を探りマカヴォイは逆転を狙う。

     さてこの作品もまた、『ザ・ポエット』と同じく犯人側からの視点での章が頻繁に挿入される。インターネットのサーバー・メンテナンスとセキュリティとを請け負う会社のサーバー集積室を農場(ファーム)とみなし、そこの番人である案山子、即ちスケアクロウが、電子の世界を縦横に活用しては陰惨な事件を演出するという犯罪を扱った本書では、スケアクロウそのものが最も不気味な犯人像と評価されるほど手ごわく、その動きや犯罪のやり方も予想外である。いわゆる捜査側を電子的に監視したり、生活に影響を与えたりすることができる。ここまで我々の生活はネットに依存しているかと思うほど、最初のマカヴォイの恐怖と混乱は印象的だ。ネタバレにならぬよう書く事は不可能なので、本書がネット犯罪プラス・シリアル・キラーものであるとだけ、端的に言っておこう。

     マカヴォイ&ウォリングのコンビとスケアクロウとの知略の対決が全面的に見ものなのだが、マカヴォイのみならず、職場での経歴を危機に晒してしまうウォリングの人生の転換点という点についても、とても興味のあるサブストーリーとなっている。無論、ハリー・ボッシュ・シリーズでも深く関わっていた彼女の恋愛人生という面においても。主人公たちの公私ともにストーリーの中にしっかりと取り込み、大胆にアップテンポに展開するスリリング極まりない今作は、ツイストまたツイストと、極上のひねりに満ちた傑作となっている。『ザ・ポエット』を敢えて先に読まずとも、この一作単体で充分にコナリー・ファンをまたも獲得してしまいそうな気配に満ちた、重厚な、いわば一発の銃弾のような物語なのである。

    • 燃えつきた棒さん
      シュンさんの確かな持続が感じられ、懐かしく拝読しました。僕もこんなレビューが書けるようになれたらなあ。
      シュンさんの確かな持続が感じられ、懐かしく拝読しました。僕もこんなレビューが書けるようになれたらなあ。
      2013/05/14
  • マイクル・コナリーといえば「ハリー・ボッシュ」シリーズだと思うが、同シリーズはハリーが抱えているものが重く、どうしても沈み込んでいく方向に話が進みがちである。なので、実は好作はハリー・ボッシュ以外のところにある、と思っており、中でも傑作だったのが「ザ・ポエット」。前置きが長くなったが、その「ザ・ポエット」で主人公だったジャック・マカヴォイが本書の主人公ということで期待度は十分。その期待を裏切らない作品だった。

    ジャック・マカヴォイはロスアンゼルス・タイムズの記者だったが、解雇通知を受け、2週間で後任を育ててやめることになっている。

    ジャックは、自分が書いた殺人事件の記事で、容疑者とされた若者の祖母から、うちの子ではないという電話をうけたのがきっかけで、事件に関わっていくようになる。

    真犯人は早い段階でわかってしまうが、緊張感あるストーリーは素晴らしい。傑作。

  • 正直に言うと、最初はあまり期待していなかったのですが、読み進めると、その最初の印象は一変。一気に物語に引き込まれます。特に上巻の後半あたり、ジャックがLASに行くあたりのところから、話が突然進みますねぇ。
    上巻で、“敵”の存在が明らかになりました。下巻で、その姿の見えない敵に、果たして、どうやって戦いを挑んでいくのか。楽しみです。

  • 初読の作家ですがかなり人気シリーズを
    手がけてるんですね。ノンシリーズかと思って
    今作から読み始めたんですが...なんとこれも
    シリーズものだった...。あぅぅ。
    でも読み易さもストーリー展開とテンポの良さも
    相まって、なかなかに引き込まれますね。

    実績はあるが故に高給取りとなってしまった
    新聞記者の主人公「マカヴォイ」は所謂リストラ勧告を受け
    引き継ぎの新人育成に残りの勤務を当てられる。
    その中で、自身が扱った事件の容疑者が冤罪ではないか...という
    匂いを察知し、独自で調査に乗りかかる。
    その中、過去に類似した女性殺害事件にブチあたる...。

    事件を追う「マガヴォイ」の視点と犯人側の
    「スケアクロウ」側の視点がいいタイミングで切り替わり
    緊張感、緊迫感がいい感じに伝わってきます。
    この「スケアクロウ」....ネット、IT、コンピュータに
    関しての超天才かつ、異常者w。そのスキルの
    高さと行動力がハンパじゃないw。そして怖いw。

  • このタイトルからしてハリー・ボッシュ・シリーズかと思っていたが、何と『ザ・ポエット』以来の新聞記者ジャック・マカヴォイ物ではないか。あれから十年以上の時を経ての続編に驚いた。犯人スケアクロウとマカヴォイの視点で交互に展開される章の切り替えが想像力を掻き立て、ハラハラ、ドキドキさせてくれる。相変わらずコナリーは上手い。

    時代を反映してか、今回はインターネットを駆使し、同じタイプの女性を狙う、これまでのコナリー作品には登場したことの無い犯人が描かれている。

    マカヴォイとともに再びFBIのレイチェル・ウォリングが犯人を追うというのもまた一つの楽しみである。

  • おぃおぃ!こうでなくっちゃ!面白くてスルスル読める!下巻へ!

  • スケアクロウ(上) (講談社文庫)

  • 下巻に

  • 二週間後にリストラされることになった新聞記者が主人公。殺されてトランク詰めにされた殺人事件に疑問を抱き、FBIの元恋人と一緒に調査をする。主人公が調べていく様子と、犯人である天才ハッカー側の章と交互に語られる。最初から犯人がだれか明かされているけれどおもしろく読めた。

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著者プロフィール

Michael Connelly:1956年生まれ。LAタイムズ元記者。代表作としてはボッシュ・シリーズ、リンカーン弁護士シリーズがあり、当代随一のストーリーテラー。

「2023年 『正義の弧(下)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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