スケアクロウ(下) (講談社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062774666

作品紹介・あらすじ

有能な犯罪心理分析者レイチェルが導き出した案山子の人物像は、女性の下肢装具に性的興奮を覚える倒錯者。マカヴォイは、情報強者の案山子が張り巡らした幾重もの危険な罠をどうやってかいくぐるのか?大スクープのゆくえは?巧妙なストーリー展開で、読む者を一瞬も飽きさせない究極の犯罪小説。

感想・レビュー・書評

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  • 新聞記者ジャック・マカヴォイが連続殺人事件に気づく。
    類似した事件の現場ラスヴェガスへ赴くが、突然クレジットカードが使えなくなり、預金も何者かに引き出されているという事態に。
    相手はハッカーなのだ‥

    FBIの捜査官レイチェル・ウォリングとは12年前に事件で知り合い、捜査に協力した。
    そのときの短く激しい関係を不適切とされて、レイチェルは5年間左遷され、マカヴォイとは会わなくなった。
    マカヴォイのほうは、思い出さない日はほとんどなかった。
    レイチェルは危険を察知して、マカヴォイのもとに上司の許可を得ずに急行したため、またしても査問にかけられることに。
    ところが、事件はまた急展開?!

    不気味な連続殺人犯と追いつ追われつの展開は、ジェフリー・ディーヴァーか誰かの作品みたいな。
    手際よくスリリングに描かれます。
    FBIの捜査でわかったことはレイチェルを通して説明されるので、読者にもわかりやすい。
    レイチェルは個性的で有能だと思うけど、今回の展開は映画に出てくる理想の女性のよう。
    新聞記者のリアルな描写以外は、スピーディなエンタメに徹した仕上がり☆
    ひととき夢中になって~堪能しました。

  •  敏腕記者ジャック・マカヴォイ。そう、『ザ・ポエット』以来、13年ぶりの登場である。パートナーとして組んでゆくヒロインは、他シリーズも含め、すっかりお馴染みになった感のある美貌のFBI捜査官レイチェル・ウォリング。これも『ザ・ポエット』のオリジナル・コンビそのままである。『ザ・ポエット』当時は、コナリーもハリー・ボッシュシリーズを4作書き上げたばかりで、ノンシリーズでは、これが初の作品となった。強烈な個性と一匹狼ぶりを発揮する正統派ヒーロー刑事(デカ)のボッシュこそがコナリーとのイメージが強かった中で、純然たるノン・シリーズの単発ものとして、『ザ・ポエット』はびっくりするほど面白く、コナリーとしては珍しく、サイコパスのシリアル・キラー・サイドの視点でも描かれるクライム・ミステリーとして、とても劇的なインパクトを持った作品であった。

     その後、マカヴォイもウォリングも、シリーズ作品内にちょくちょく顔を出すようになり、彼らの主人公作品はしばらく書かれなかったものの、二人の存在感は作を増すごとに強くなっていった気がする。少なくともコナリー読者は、これらの人物のシリーズ間クロスオーバーを、作者からのサービスとして好意的に受け取ってきたことだろう。

     本書は、マカヴォイが久々の登場にも関わらずいきなりリストラを言い渡される、いささか衝撃的なシーンで幕を開ける。『ザ・ポエット』当時、マカヴォイが在籍していたロッキー・マウンテン・ニューズ紙は既に倒産してなくなっており、現在のロサンジェルス・タイムズ紙も経営難に陥り、優秀な人材であっても給料の高い人間たち100人程を解雇しなければならないという空前の苦境に陥っていた。マイクル・コナリーが作家になる前に記者として腕を磨いていたロサンジェルス・タイムズ紙の現在の状況が、どうやらこの作品を書こうという強いモチーフとなったらしく、そのあたりの事情は、巻末の作者インタビューや、作家・真山仁のアメリカ・ジャーナリズムについて省察された解説に詳しい。むしろいつも以上に、解説やあとがきの部分が手厚く編集されていると言っていい。同じく活字と紙を媒介とする出版社にとっても他人事ではないだろう。

     ニュースの場が(小説の場も、だが)Webサイトに移動し、紙ベースでの需要が急速に減ったいわばメディア革命とも言うべきインターネットの功罪、による新聞社の危機は、何もアメリカだけに始まったことではないらしく、日本でも同様に各社予断を許さぬ状況であるようだ。しかし、紙ベースでは印刷完了の朝を待って飛び出す驚きの記事であれ、一時間ごとに更新されるWebニュースでは即座に発信されてしまい、実質上スクープ記事が消え失せることや、しっかりと意志を持った各新聞社が社会に発信する方針・意見・提言などによるそれぞれの個性なども失われようとしている現在のメディア危機の状況を、コナリーは嘆いているに違いない。国が誤った方向に社会を導こうとしたり、政府や他組織が暴走しようとするときにそれらを黙認せず正義と公正の社会的番人のような役割を果たすという、新聞社の誇り高き編集室の使命感が、今は、退職者の空席だらけのデスクを歯欠け状態のように連ねた、空疎で中身のないスペースにまで落ちぶれている、そんな状態がマカヴォイの眼には映っている。突然降って湧いたような個人の苦境、会社の落魄から、今ある事件を探りマカヴォイは逆転を狙う。

     さてこの作品もまた、『ザ・ポエット』と同じく犯人側からの視点での章が頻繁に挿入される。インターネットのサーバー・メンテナンスとセキュリティとを請け負う会社のサーバー集積室を農場(ファーム)とみなし、そこの番人である案山子、即ちスケアクロウが、電子の世界を縦横に活用しては陰惨な事件を演出するという犯罪を扱った本書では、スケアクロウそのものが最も不気味な犯人像と評価されるほど手ごわく、その動きや犯罪のやり方も予想外である。いわゆる捜査側を電子的に監視したり、生活に影響を与えたりすることができる。ここまで我々の生活はネットに依存しているかと思うほど、最初のマカヴォイの恐怖と混乱は印象的だ。ネタバレにならぬよう書く事は不可能なので、本書がネット犯罪プラス・シリアル・キラーものであるとだけ、端的に言っておこう。

     マカヴォイ&ウォリングのコンビとスケアクロウとの知略の対決が全面的に見ものなのだが、マカヴォイのみならず、職場での経歴を危機に晒してしまうウォリングの人生の転換点という点についても、とても興味のあるサブストーリーとなっている。無論、ハリー・ボッシュ・シリーズでも深く関わっていた彼女の恋愛人生という面においても。主人公たちの公私ともにストーリーの中にしっかりと取り込み、大胆にアップテンポに展開するスリリング極まりない今作は、ツイストまたツイストと、極上のひねりに満ちた傑作となっている。『ザ・ポエット』を敢えて先に読まずとも、この一作単体で充分にコナリー・ファンをまたも獲得してしまいそうな気配に満ちた、重厚な、いわば一発の銃弾のような物語なのである。

  • という訳で「スケアクロウ」との対決に突入する下巻。
    新聞記者の主人公「マカヴォイ」とFBI捜査官「レイチェル」
    のコンビが全く謎で、闇に潜んでいた犯人の姿と実体に
    迫っていく様と、迫られる側の「スケアクロウ」の反撃
    シーンがタイミング良く書かれていて、飽きる事なく読めてしまいます。

    今作のもう一つのテーマの紙媒体としての新聞、新聞社の
    抱える深刻な状況と問題と危機感。これをその新聞記者である
    「マガヴォイ」があくまでも記者として成すべき事や
    その矜持を持って事件に迫り、悪を暴く事が全体を通じて
    伝わってきます。紙媒体としての新聞の機能を追い込んだ
    「インターネット」。そのインターネットを自由自在に駆使して
    いた犯人と対立させている事...それが今作の核になっているようですね。

    初読の作家でしたが、翻訳ものが苦手という自分でも
    まぁ、普通に読めたので面白いとは思いますが、今作だけでは
    なぜ評判もよく賛辞されているのか...ちょっと分からない部分も
    あるので、代表シリーズの「ハリー・ボッシュ」作品も
    読んでみよう...かな。

  • 文章を書く職業の人間と、法執行機関の人間の物語と言えば『キャッスル 〜ミステリー作家は事件がお好き』がありますが、あちらも二人は熱愛に陥ります。こちらも、こちらで、熱愛ですよね?敵対する者同士(報道機関と警察)の愛って、ある意味、障害のある愛なので、ロミオとジュリエットみたいに燃え上がるのでしょうか?

    それはそれとして、インターネットを利用した犯罪は、様々な小説で描かれていますが、これはその中でも、中々に不気味でしたね。結局のところ、犯人が、なぜそのような犯行を行うようになってしまったのかと言う動機と言うか、原因を解明するに至りませんでしたし。

    でも、二人の関係もそうですし、主人公各々の仕事の環境もジェットコースターで、なかなか面白かったです。本書中でも、所々で言及のある、二人が登場する前回の作品『ザ・ポエット』が読みたくなりました。

  • 久しぶりに出会ったマカヴォイ。そしてレイチェル。相変わらず息をつかせぬ展開に一気読みしてしまったけれど、銃弾のペンダントというレイチェルのオトメな一面を見れたのは、同じくオトメ気質の私にはたまらないプロットだった。今後の二人がどうなるのか…恋愛小説ならこのまましあわせになってほしいところだけれど…。

  • 主な感想は上巻の方に書いたので、省略。

    本作とハリー・ボッシュ・シリーズに重なるのがレイチェル・ウォリング捜査官。ハリーともくっついたり離れたりを繰り返しているが、何か苦いものを感じる関係であるのに対し、マカヴォイとの間は、まだ相性がいいように感じる。

    レイチェル嫌いっていう読者も多そうだけど、個人的には魅力を感じる。

  • リストラからスタートしたストーリーは、事件の謎と並行して、新聞業界の内幕をも描いている。もうひとつの特徴が、FBI捜査官レイチェルとの関係。ロマンスと言えるほど甘ったるいわけではないが、やや湿っぽいドラマがボッシュ・シリーズとは大きく異なる部分だろう。レイチェルが元カレ(ボッシュ)について語るシーンがあるが、よくよく考えればボッシュって変人よね。そんな変人が主人公のシリーズに慣れてしまうと、ややソフトな本作品が新鮮に見えて過大評価してしまうのは仕方ないのかな。いや、面白いのは間違いないのだが。

    ネット社会を絡めたクライム小説は、最近読んだ『ファイアーウォール』と、昔読んだ『青い虚空』が印象的。誰もが一度は書くテーマなのでしょうか、作家によって事件との絡ませ方は様々。最初は荒唐無稽だと思いつつも、気付くと作者の術中にハマっているので、吸引力のあるネタなのかも。

    この犯人像は好き。事件そのものについては、もう少し掘り下げても面白かったと思うけど、業界の内幕とロマンスのパートにページを割いちゃったのかなあ。強引にドラマティックな部分もあるけど、マカヴォイ・シリーズなのでよしとしましょう。この評価は作品としてよりも、コナリーの新シリーズに対する期待感の大きさだわ。

  • さすがコナリー、面白かった。

    が、最近のコナリーはキャラクターに深みというか、コクというか、そういうものが薄れてきてるんじゃないか。

    ストーリーの運びもタメが無くなってきて、最後のカタルシスが小さい印象だ。

    その分スピード感は増している。

    本作は新聞業界の終焉とネット社会の怖さをテーマにしている。

  • 大満足~
    作者質疑応答もおもしろかった。

  • 物語はマカヴォイが解雇通告を受けるところから始まるという驚きの幕開け。ジャック・マカヴォイとレイチェル・ウォーレスがスケアクロウの正体に迫る。二転三転のストーリー展開、そして、ラストは…

    読者には最初から犯人は明かされているのだが、最後まで飽きずに読ませるマイクル・コナリーの上手さに脱帽。インターネットの悪用といった社会問題を上手く織り込んでいるのも良い。

    マイクル・コナリーの作品は扶桑社ミステリーの『ナイトホークス』からリアルタイムで読んでいるが、マカヴォイを主人公にした『ザ・ポエット』には驚かされたものだ。そして、十年以上の時を経て再びマカヴォイに会えるとは思わなかった。

    解説によると講談社文庫からハリー・ボッシュとミッキー・ハーラーのシリーズが二巻刊行予定らしい。まだまだコナリー作品を楽しめそうだ。

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著者プロフィール

Michael Connelly:1956年生まれ。LAタイムズ元記者。代表作としてはボッシュ・シリーズ、リンカーン弁護士シリーズがあり、当代随一のストーリーテラー。

「2023年 『正義の弧(下)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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