プールの底に眠る (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 622
感想 : 79
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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062775021

作品紹介・あらすじ

夏の終わり、僕は裏山で「セミ」に出逢った。木の上で首にロープを巻き、自殺しようとしていた少女。彼女は、それでもとても美しかった。陽炎のように儚い1週間の中で、僕は彼女に恋をする。
あれから13年……。僕は彼女の思い出をたどっている。「殺人」の罪を背負い、留置場の中で――。誰もが持つ、切なくも愛おしい記憶が鮮やかに蘇る。

――「プールの底から何が見える?」という好奇心から石川県へ。金沢21世紀美術館に「スイミング・プール」という体験型の作品があります。一見したところ普通のプールに見えるのですが、強化ガラスの上に約十センチの深さの水が張られているだけで、なんと、ガラスの下には部屋があるのです。
その部屋から水面を見上げると、上のプールサイドでこちらを覗き込んでいる揺らめく人影が見えます。水面の揺らぎに反射した日の光が溢れるプールの底で、この小説のイメージが湧きました。泳げない高校生のお話がふと。と言うのも、私が全く泳げないからです。猫と同じくらい水が苦手。
だからプールにはコンプレックスがあります。学校の水泳大会で泳げない生徒三人だけのビート板レースがあり、それは苦い思い出の一つ。プール・コンプレックスから小説が一つでき上がったからって、都合よく思い出が美化されません。今でも苦いまま。
そんな鬱積した気持ちが生んだ小説を読者がどう読むかは自由です。好きなように読んでください。ただ、ご存知のように小説はフィクションなので、作中にある迷惑行為を現実ですると、こっぴどく怒られます。そして回り回って私も怒られてしまうので、ご遠慮くださいませ。 (ノベルス新刊刊行時著者コメント)

感想・レビュー・書評

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  • 裏山で自殺しようとしている少女“セミ”と出逢ってしまった少年“イルカ”。
    少年が、美しく闇を持った少女に恋をした7日間の記憶を30歳となり父親となる“元イルカ”が、たどり当時の気持ちに決着をつけようとする。
    プールの底から、見上げた景色を描こうとした感じは、その揺らぐ少年少女達から伝わりました。
    子供の頃の思い出は、プールの底から見上げたような記憶なんだろうと思った。


    由利は、どうなっちゃったかは、気になるところ。

  • たった一週間の美しくも儚いイルカとセミの物語、あの頃に戻れる幻想的なミステリー #プールの底に眠る

    ■レビュー
    全編通して綺麗で儚い世界観で、それでいて悲哀あふれる作品です。
    文章の芸術性が高く、純文学のソレを思わせる書きぶりで心にしみるセリフも多い。

    ただ結局どこに着地するのかもわからず、テーマである愛情についても、軽いのか重いのか良く分からないという不思議ワールドを体験できます。

    なにより登場人物たちのやりとりが素晴らしい。
    現実的な出来事や会話は全くなく、まるでおとぎ話のように夢心地。そして辛い思いを水の底でじっと息をひそめるような彼らですが、お互いを思いやる気持ちは、じっくりと読者に伝わってくるんです。

    ミステリーとしても、これまた他の作品には存在しない感触を味合わせてくれます。
    緻密な推理を積み重ねてロジカルに解き明かす作品ではなく、エンタメ感で引き付けるわけでもない。ただじわじわ出される事実に読む手が止まらなくなってくる。
    たぶん初めて読むときは、変に真相を追うよりも純粋に物語を楽しむのがよさそうでした。

    自身のいつかの青春時代を思い出すような、幻想的で美しい作品でした。

    ■推しポイント
    小学生の頃に、友人を傷つけてしまったことがあります。
    私にとってはたわいもないことだったのですが、ひょっとすると友人は今でも恨んでいるかもしれません。なんとなくずっと罪の意識が消えず、時に思い出してしまうことがあるんです。

    人間は知識や経験が浅いと、失敗したり挫折したりします。しかしその間違いがあってこそ、今の自分であり、二度と同じことをしない教訓になっていく。

    失敗も成功も、すべて現実なんです。
    しかしそれが生きるということであり、明日からも胸をはって進む理由なんですよね。

  • 乙一作品と春樹作品と辻村作品を混ぜたような。

    主人公の男の子「イルカ」が一見弱々しいような、でも
    陰(というか狂気)をもっているところが乙一感・・・(?)
    そこが良い。

    カラスのこととか、最後まで詳しく明かされていなかったような?
    ここ以外にもはっきりしなかったところがあると思う
    そもそもセミをいじめていた子なんていなかったのか・・・?
    セミの由利への嫉妬??

    セミが不安定になったあとに由利も不安定になって、
    会いに行ったイルカと、それを悟ったセミと・・・ここ良いね。

    自分は歯車の一つで、周りの歯車を動かしつつ、動かされていて、
    って言う文に、そうだよなってなった。

    終章からのところ、予想はできたけれど良かった。
    「ついた嘘はいつか廻り廻って、自分や誰かを傷つける」

    セミの見つけ方も。
    少し、青臭いというか決めすぎている感じもあるけれど、良いな。
    (プールの底に眠るライター、か)

    ちょこちょこ伏線を引いていたり
    え?ってなる一言を先において、そのあと説明、っていうのもおもしろかった。
    良い言葉もいっぱい。
    幸福感が増すほど影は色濃くなり、
    その影はセミではなく僕自身の影で。
    答えはすぐ近くにあるけれど気づかずすれ違ってしまう。
    それが命取りになるとも知らず。
    でもそれが人生か。

    「「そしてイルカさんは私にいつかまた心が宿るって思っている?」
    「うん。人は心を創りながら生きている。心がなくては生きていけない。
    僕はそう信じたいんだ。」」

  • 中盤までは青春のほろ苦さを思い出しつつ面白く読めたんだけど終盤の失速感が残念だった。
    由利が結構いいキャラだったんだけどセミとイルカの物語を描きたかったのなら由利を出す必要はあったのかな?
    デビュー作だから色々欲張りすぎちゃったのかなって気がした。
    特に最後の終章が説明的でご都合主義過ぎたかなぁ。

  • 冒頭のイルカとセミのやりとりは、正直「なんじゃこりゃ?」と違和感だらけで、読み進めることに不安を感じてしまいました。が、最終的には半日で一気読みしてしまったほど、本作に没頭させられてしまいました

    その魅力が何なのかを一概に言い表せないのですが、キャラの特徴や性格などを少しずつ少しずつ積み重ね、知らぬうちに読み手にその存在を理解させるところがその一端なのではないかと思っています。

    それを痛感したのは、終盤の「今度こそ○○」というひとこと。たったこれだけで「あ、アイツだ!」と連想できるほど、登場人物の特徴を脳内に植え付けられていたんだと気づきました。

    この辺りは同じメフィスト賞作家の辻村深月氏に似ているように思います。作風的にも(以前読んだ「私を知らないで」も)初期辻村作品に近い青春ミステリだったことから、非常に良く似た“匂い”を感じました。

    「私を知らないで」は同じ青春ミステリでも甘酸っぱさよりは“苦み”が強い印象でしたが、本作はかなりハッピーな気分で読了出来ました。終章の途中までは少し落ち込みましたが、最後の最後での大逆転で「キターッ」的なハイテンションに。

    久々に夢中にさせられた作品でした。

  • メフィスト賞受賞作にして、著者のデビュー作。ちゃんと伏線回収するミステリなので、ファンだけでなく、ミステリ好きは触れていただきたい。当時はミステリエンタメの最前線と呼ばれていたようで、最近だと『冬の朝、そっと担任を突き落とす』というショッキングなタイトルの本や、『ひとすじの光を辿れ』というゲートボール×女子高生というまた一風変わった作品を出している。ミステリを基本としてこれからも様々な作品を出してほしい。

  • メフィスト賞受賞のデビュー作。
    「眠れない夜にイルカになる。」ではじまる冒頭のイルカの話が好き。金沢21世紀美術館のプールが構想元と聞き、昔レアンドロのプールで撮影した写真を見返した。このキラキラした水の底にゆっくり沈んでいくイルカを想像するとせつなくて美しい。

    一気に読んだ。これが伏線だったのか!の連続で気持ちよく読める。セミだから7日なのかとか、それ名字だったんだとか、原のバットかな?とかの細かい気づきが楽しい。ワサビ味のふりかけの話も好き。

    ラノベ風の表紙もあいまって、少年少女の恋愛ものかと思って読みはじめたら、しっかりミステリーだった。さすがメフィスト賞。他の作品も読んでみたい。

  • 読み終えて、なんだろうこの本はストーリーをあまり書きたくない。不穏なほうにいくのかなと思いきや揺れ動いた。読む人に委ねたいと思う本だった。
    最初は違和感があったのだけど、それが独特なんだと思えてやがて没頭できた。
    伏線がはりめぐらされたイルカとセミの童話。

  • 登場人物たちの抱えているものがちょっと重たくて、なかなか共感するところまで至らなかった。
    これまで白川三兎の作品は短編2作と長編は本作含めて2作しか読んでいないが、暗い背景を抱えている登場人物が多い。
    それでも最後には希望を見せてくれる展開が多いので、素直に爽やかな青春小説とかも読んでみたいのだが、どうだろう。

    本作はメフィスト賞を受賞したデビュー作(文庫はその改稿版)だが、いつもの構成のうまさは当初からあったようで、個々のエピソードから小さな小物に至るまで、ほかの事象とかかわりあっている。
    登場人物のキャラクターも、「あの事件が彼を形作った」みたいな簡単な話ではなくて、「あの事件でこうなって、それがこう影響して……」という複雑な連なりを見せる。

    そのおかげでストーリーもやや複雑になっているが、その展開にも結末にも不満はない。
    一つだけ希望を述べさせてもらえば、由利の現在が気になる。

  • 序盤で主人公の過去の出来事が語られ
    その中の人々があとになって主人公とのつながりが
    説明される
    そんな展開で最後まで
    そして最終章では・・・と

    それなりには楽しめました

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著者プロフィール

2009年『プールの底に眠る』で第42回メフィスト賞を受賞しデビュー。『私を知らないで』が「本の雑誌」増刊『おすすめ文庫王国2013』にてオリジナル文庫大賞BEST1に選ばれ、ベストセラーに。他の著書に『ふたえ』(祥伝社文庫)『ケシゴムは嘘を消せない』『もしもし、還る。』『小人の巣』『田嶋春にはなりたくない』『十五歳の課外授業』『計画結婚』『無事に返してほしければ』などがある。

「2020年 『他に好きな人がいるから』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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