- Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062775656
作品紹介・あらすじ
雑然と生い茂る庭にそびえたる古い一軒家。「おおばあ」ことぼくの祖母はここに一人で暮らしていた。黒い革でできた頑丈な長手袋を常に身につけ、威風堂々としているおおばあ。その家の庭には、檸檬の木、枝垂れ桜、木蓮、枇杷の木、南天、花水木・・・てんでばらばらに木々が埋めつくしていた。
ぼくはこども時代のほとんどをこの古めかしい家ですごし、赤頭巾ちゃんに出てくるオオカミみたいに大きな口と大きな目と大きな耳を持つおおばあといつも一緒だった。
ぼくに父さんはいない。
いつの頃からいなくなったのか、ぼくは知らない。母さんもおおばあも父さんなんてはじめから存在していなかったかのように振る舞っている。ぼくたちの間で父さんの話はご法度だった。
おおばあの家にはいつも誰かしら訪れていた。
おおばあが不思議な力を持っているからだ。相談に来た人は何かしら、そのときのお礼の気持ちをおいていく。いえの中はガラクタでいっぱいだった。
そんなある日、ぼくは病院で一人の眠っている少女に出会う。彼女と呼吸を合わせている内に、ぼくは彼女の夢の中に入って行った・・・・・・。
「眠りは安息をもたらすよ。明日へのエネルギーを蓄える糧となる。夢の世界は束の間の世界だ。束の間だからこそ幸福でいられるんだ。夢の世界に長くいちゃいけない。取り込まれてしまうからね。エネルギーは外側ではなく内側で全部使われてしまう。長く長く続く夢はあの子から体力を奪っていくだろうよ。そして夢か現実か判らないまま彷徨い続けることだろう。帰れなくなるんだ、永遠に」
――祖母との交流、母子の関係、父の秘密、そして友情。「呼吸」の意味を知る、ぼくの成長物語
ワルプルギス賞で人気を集めた、片島麦子のデビュー作。
感想・レビュー・書評
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黒い革でできた頑丈な長手袋を常に身につけ、威風堂々としているおおばあ。不思議な力を持つ彼女のもとには、悩みを抱える人々が絶えず訪れ、お礼にさまざまなものを置いて行く。
数学者でリアリストの母さんと対照的なおおばあ。全く思い出せない父さんと、くっきり記憶にある伯父さん…。父不在の女系一家で、ぼくは黒犬のやじろべえと共に、所在なさを感じているが、ふとした拍子におおばあの持つ不思議な力が自分にも受け継がれているらしいことに気づいて…。
ワルプルギスと言えば、魔女ものでは有名なキーワード。ワルプルギス賞受賞のこちらもやはり、魔女的な要素を感じるストーリーだった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
威風堂々としたおおばあと孫の緑の主に小中学生時代がほのかな雰囲気で語られて、現代ものだけれどそこはかとないファンタジーさが心地好い。呼吸を合わせることで夢の中に入り眠り続ける少女を起こし、死に触れる。自分を好きになろうとする変化が急で、させられた感があったけれど、その先の結末が意外でストンとなった。
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片島麦子の初めての本になるのだろうか。
ほぼ1年前に文庫オリジナルで出版されている。
読み終わって、最初に考えたことは、この人は他にどんな本を書いているのだろうという事だった。
おばあさんと孫の話はたくさんあるし、児童文学若しくはファンタジーの定番ではあるけれど、それでも面白かった。 -
祖母と孫が織りなす成長物語と言えば、孫の性別は違いますけど真っ先に思い浮かぶのが「西の魔女が死んだ」です。ただ、ファンタジックな成長物語としては本作の方があきらかにハイレベルで、「西の…」を全く評価できない俺でも脱帽です。
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某書店文庫担当者さんのオススメだったので読んでみた。
物語は主人公が回想する形で進んでいく。それだからか、なんとなく白いベール越しにみているような、もやっとした世界観がなんかいい感じ。
「おおばあ」の存在感がすごいだけじゃなく不思議な力を持っているのに案外簡単に死んじゃったり、主人公ロクの父親に関する事がちょっとした謎解きになっていたり、あれだけ伏線らしきものがあったにもかかわらずロクとミウリがいい仲にならなかったり、この辺が面白いポイントだったかな。
著者はこれがデビュー作らしい。
ラストは続編を期待してしまう終わり方だったし、次の作品も読んでみたいなぁ。
いずれにしても、こういう作品って自分ではたぶん選んで読まないから、いいきっかけになった。