新装版 和宮様御留 (講談社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (512ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062778114

感想・レビュー・書評

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  • ずいぶん久しぶりに読み返そうと思ったのだが、持っている文庫本はあまりにフォントが小さくて、とてもじゃないが読めない(トホホ…昔の文庫を見るたびに本当にこれ読んでたのかと思ってしまう)。ちょっとためらったけれど、とっても面白かった記憶に押されて新装版を購入。いやあ、これは大正解!もう夢中になって一気に読んだ。

    幕末、公武合体の掛け声のもと、徳川家に降嫁した皇女和宮は、実は替え玉だった。この設定だけでも興味深いが、そこに幾重にも肉付けされていく、小説としての厚みがすばらしい。思いつくままにあげていく。

    ・一人目の替え玉として、フキという少女をつくりあげたことが、この小説のキモだろう。何も知らされずなんの抵抗もできず、思いもよらない運命に巻き込まれていくこの少女を作者は、否応なく苛烈な戦場にかり出され、狂ったり死んだりしていった若者たちのことを思いながら書いたそうだ。そう思うと、フキがいっそう哀れでたまらない。

    ・二人目の替え玉宇多絵にはモデルがいるそうだが、替え玉説は否定されているようだ。フキと違い、裕福にかしずかれて育ったと描かれる宇多絵は、まさに青天の霹靂としか言いようのない運命に静かに従う姿のみ描かれ、その内面は一切説明されない。そのことがかえって、権力の非情をまざまざと浮かび上がらせていると思う。

    ・考えてみると、和宮はそうした力を持つ側の人なのだが、降嫁を拒否し我が儘を押し通すといった印象がほとんどない。それどころか、彼女もまた犠牲者なのだと思わせられる。この点にも作者の筆の力を強く感じる。

    ・物語の背景にある、公家と武家の価値観の違いがとても印象的だ。優雅な技芸、洗練された生活様式を代々伝え続ける一方、風雲急を告げる時代の動きには暗く、関心を持とうともせず、武家を見下し「伝統」に固執する公家。そうした公家を軽侮し、富と力によってすべてをなぎ払おうとする武家。しかし結局は、どちらも外国からの強力な波に呑み込まれていく。作者の視線は冷静だ。

    ・全篇に登場する御所言葉が実に面白い。典雅でありつつ、どことなくユーモラス。「お嫌さんであらしゃりまして」「おするするにお運びあそばされ」などなど、耳について離れない。会話も手紙も持って回った言い回しの極地。京都人のいけずの源流だもんね。

    有吉佐和子の代表作の一つ「華岡青洲の妻」について、橋本治は「作者は最後の最後で、大声で怒っている」と喝破した。この小説は、嫁姑の争いを描いたとととらえられがちだが、青洲の墓は、彼のために身を捧げた妻や母のものよりずっと大きいと書くことで、その理不尽に対して渾身の力で怒っているのだと。この指摘には参った。さすがだ。この「和宮様御留」にも、抜群のリーダビリティの底に、まぎれもなく同様の怒りがある。そこに強く惹かれる。


    オマケ
    本作はかつてテレビドラマ化されたものを見た記憶が鮮明だ。調べてみたら、私が見たのは81年フジテレビの正月特別番組だった。フジテレビの黄金期だけあって、俳優陣が実に豪華。
    なんといってもフキ役の大竹しのぶが圧倒的だった。ほんと、この人って北島マヤそのものだわ~。和宮は岡田奈々(今どうしてるのかな)宇多絵は池上季実子、どっちも美しかった。和宮の生母観行院は森光子だったけど、原作とはイメージが違う。年増で険のある美人女優が良かったんじゃないかな。うーん、誰だろ。宰相典侍が園佳也子で能登命婦が吉田日出子というあたりは、もうそれしかない!というキャスト。他にも中村玉緒・乙羽信子・藤田まこと・丹阿弥谷津子・三益愛子・小林桂樹・佐藤慶などなど、名優がゾロゾロ。昭和のドラマが懐かしい。

  • なんか今はすごく自由なんだとつくづく思う。勝手に人生狂わされたり…大変な時代と思う。

  • NHK「大奥2」の岸井ゆきの演じる和宮を観て興味が湧いた。幕末を舞台にした大河ドラマでちょくちょく見かけてはいたのだが、たいていはサブ的な位置づけで印象派薄い人物だった。
    一方でNHK大奥2の和宮はほぼ主役と言ってもよいインパクトを残した。男装の和宮と女将軍の家持。完全にフィクションなのだが、画面に映る二人は実在の人物としか思えないほど「生きて」いた。
    フィクションではあるが、細部のリアリティーは歴史に忠実で、和宮の左手が無いこともこのドラマで知った。あまりに実在感が強いので、機会があれば増上寺の菩提に手を合わせに行こうと思っている。
    間違いなくフィクションなのに、どうしても生きていた気がしてならない。この感覚は何なんだろう…。

    本書の大筋としては、徳川家に嫁ぐことを拒否した和宮のために、母の観経院が使用人の女の子を替え玉として教育し江戸へ向かう、という話だ。

    前半は幕末の京の公家社会を詳細に描いていて興味深い。ただ、本の折り返しまでドラマが立ち上がらないので若干の退屈さはある。
    しかし後半に入り、江戸への道中で起こるサスペンスなイベントが連続して俄然面白くなる。

    NHKのドラマとは違う展開だったが、本書は本書で感じるものがあった。
    歴史に隠された「自分自身として生きられなかった人々」のことを思うと、今、自分にできることをしなければと思う。

  • 40年くらい前に大竹しのぶさんが演じたドラマがありました。子供でしたがゾクゾクするほど面白く内容も鮮明に覚えていて、原作を読みたくなり読みました。有吉佐和子さんの取材力がすごく、和宮様は本当に偽物だったのではと思わせます。御所言葉など馴染みのない言葉が使われていますが全く飽きさせず一気に読めてしまう歴史小説です。

  • それぞれの立場が重い

  • 失礼なことですが、一方的に和宮に同情して作られた小説だと思っていました。政治の道具として利用された可愛そうなお姫さま、という短絡なイメージ。
    それでも、和宮以上に道具とされたフキの有様に哀れみと悲しみ感じつつ読み進んで、入れ替わりなったときには、歴史小説ならではのおもしろさ、と唸っていたわけですが。

    本当に心底唸ることになったのは、あとがき読んでからでした。

    歴史小説ではなくて、歴史のおもしろさ。

    何より、幕末という時代が、今と地続きであるということを感じることのできる作者の生きていた時代に、憧れ覚えます。歴史の記憶というものが、その時代の臭いと共に触れられる世代。
    新装版として、復刊されたこと非常に嬉しく思います。

    これだから、歴史好きはやめられないとまらないです。

著者プロフィール

昭和6年、和歌山市生まれ。東京女子短期大学英文科卒。昭和31年『地唄』で芥川賞候補となり、文壇デビュー。以降、『紀ノ川』『華岡青洲の妻』『恍惚の人』『複合汚染』など話題作を発表し続けた。昭和59年没。

「2023年 『挿絵の女 単行本未収録作品集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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