変愛小説集 (講談社文庫)

著者 :
制作 : 岸本 佐知子 
  • 講談社
3.60
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本棚登録 : 743
感想 : 42
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062779074

感想・レビュー・書評

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  • 木に恋した人、バービー人形と交際する男、母親との恋愛ハウトゥー、若者を丸のみにした人妻……。そんなちょっと変わった恋愛ばかりを集めた、「恋愛」ならぬ「変愛」小説集。
    癖も色々あるなあ、HENTAIは日本の作風だけじゃないなあと感じさせてくれる一冊です。

    この中に収録されている、木に恋する話こと『五月』(アリ・スミス)の書き出しが美しくてとても好きです。ブックリスト作った時にも書きましたが何度でも言う。
    また、『柿右衛門の器』(ニコルソン・ベイカー)という話も良かったです。磁器に魅せられた女性たちの話。

  • 恋愛は無理だけど、これなら自信があります。。。
    祝文庫化!

    単行本時の収録作
    「五月」アリ・スミス
    「僕らが天王星に着くころ」レイ・ヴクサヴィッチ
    「セーター」レイ・ヴクサヴィッチ
    「まる呑み」ジュリア・スラヴィン
    「最後の夜」ジェームズ・ソルター
    「お母さん攻略法」イアン・フレイジャー
    「リアル・ドール」A.M.ホームズ
    「獣」モーリーン・F.マクヒュー
    「ブルー・ヨーデル」スコット・スナイダー
    「柿右衛門の器」ニコルソン・ベイカー
    「母たちの島」ジュディ・バドニッツ

    講談社のPR(版元ドットコム)
    http://www.hanmoto.com/jpokinkan/bd/9784062779074.html
    (単行本)
    http://bookclub.kodansha.co.jp/product?code=214544

  • SFや妄想の要素が強め。女性向けSF短編集。ある短編集のなかに紛れ込んだ、ちょっとアウトローな1篇をよりあつめた感じ。

    最初、SFやファンタジーに頭が切り替わってない状態で読み始めてしまったので、少し拒否反応があった。最初の2~3編くらい。だんだん慣れていく。もっと来いよ、という感じになる。

    人を選ぶ。妄想好きな若い女子にはおすすめ。中編くらいから、出オチ(小ネタ)レベルの短編まで幅広いので気軽に読める。

    一番好きなのはバービーちゃんでした。面白すぎてはまった。恋愛ってなんだろう、と答えが出そうで出ない感じがもどかしくもあり。

    恋愛に限らず、執着とか憧れとか、広い意味でのセレクトになっていて、読み終えてなるほどという感じ。キュンキュンしたい女子には勧められないけども、SFちょっと好きな人にはおすすめ。

    忘れないうちに、全話の感想をメモっておく。


    1 五月。
    木に恋する?話。主人公が少し病み気味で、レズビアンのカップル。これを一番最初に持ってくるのがすごいなと思う。好きな人(木)を遠くから眺めて、夢見がちになったりした遠い日の記憶を思い出させる。
    相手の女の子もやっぱり変わっている。最後に木の下で寝転ぶシーンがある。気持ちよさそう。子どもらしい繊細な感覚のあるお話。

    2 僕らが天王星に着くころ。
    宇宙服に皮膚がなっていく話。ちょっと、皮膚とかの変化がやや苦手めなので、きもこわ設定のSFでした。絶対に映像化して欲しくない。
    彼氏が必死に引き留めようとするのが可愛い。ぜんぶ却下されるけど色々考えるのが、男ってこんなとこあるよね、と思う。
    昔、好きだった人に手を握っていてもらえれば、たとえ死が間近に来ても何もこわくない気がしたなあと懐かしくなる。

    3 セーター。
    こんな女の子いる。全部手作りでおしつけてくる子。それで、その 大きな自己欺瞞=セーター に飲み込まれて、どこかに行ってしまうという設定が、作者はそういうのに辟易したことがあるんだろうなあと思った。ちょうどいい長さのSF短編。

    4 まる吞み。
    若い男の子を飲み込んでしまった金持ち奥さんの話。最初の、まだこの世界観に慣れきっていないときに出てきたのもあって、けっこうグロく感じた。SF妄想話。終わりはあっさりとしている。ギャグと言うか、夢落ちのような感じなのでそこまで深刻じゃないけども、人を選ぶかもしれない。

    5 最後の夜。
    死にたがっている本命彼女と、浮気中のかわいい彼女と過ごす一夜。だいぶ本命彼女がヤンデレだよ。出てくる登場人物がみんな嫌なところがあって、そのバランスがいい。その嫌なところが、突飛な設定なのに、あるある、という気持ちになる。

    6 お母さん攻略法。
    小ネタ。危ない方向に行きそうで、おっと、大丈夫かとひやひやしたが、ただのネタだった。

    7 リアル・ドール。
    いちばん好きだった話。設定を読み取って、そっちに行ったかという、ちょうどいい「やられた感」がある話。しかも設定だけじゃなくて、中身もちゃんと面白い。
    あり得ない設定なのに、ものすごくリアルな恋愛。特に、「そろそろこの恋も終わりが近いな」とか主人公が思うあたりが、ああ恋の賞味期限ってあるよね、みたいな今まで思ってたけど形にできなかったことを言い当てられた感。

    8 獣。
    子どもの頃を思い出す。子どもの頃に見上げていた大人たち、どこか遠くを見ている彼らを不安げに見上げていたことを思い出す。「世の中は、自分が想像しているよりもおかしなことは起きないんだ」という主人公の幼い日の気づきに、はっとさせられる。

    9 ブルー・ヨーデル
    これは、二番目くらいに好きだったかもしれない。映画を観ているように丁寧な描写でよかった。終わりも、ぜんぶ解決されるようでされない感じが、いいよね。ミステリーではないのだから、このSFの消化不良感がいいよね、と思う。

    10 柿右衛門の器。
    透明感というか、質感のある話だった。焼き物が好きなので、読んでいて楽しいところもあった。すごく悪いことが起こるのかな、と思ったけど、陶器のようにあぶなっかしい感じを匂わせつつ、きちんと収まったので読んでいてほっとした。

    11 母たちの島。
    いいんじゃない、ありそうじゃないこんな島、と思う。ここまでくると、だいぶこのおかしな世界観に慣れ切っていて、どんなのでも来い、という感じになっている。
    恋愛って、ぴったりの男女だけでは盛り上がらないのかなあ。意外と周りにいる第三者が盛り上げてくれるものなのかもしれない。
    酔いまくっていく女子たちが愛おしくもあり、まさしく変愛だなあと思う。

  • 現代英文学の変な愛にまつわるアンソロジー。

    ○五月 アリ・スミス

    木に恋をする話。
    原文では一人目の話者も、二人目の話者も性別が不明らしい。(俺は、初読のときにふつうにレズカップルの話だと思った)
    ラストがぐっとくる。

    ○僕らが天王星に着くころ レイ・ヴクサヴィッチ
    ある意味シンプルな構造。
    奇病もの(そんなラベルはないか?)の王道。


    ○セーター レイ・ヴクサヴィッチ

    これはよくわからなかった。
    恋人が編んでくれたセーターが着られないというだけの話。
    オチがループ落ちというか。

    ○まる呑み ジュリア・スラヴィン

    人妻が若い男を呑み込んでしまい、奇妙な同居(?)生活を送る話。
    訳文と設定のせいなのか、舞城っぽいなと。

    ○最後の夜 ジェームズ・ソルター

    妻を安楽死(?)させようとするも失敗して愛人との関係がバレる……。
    苦い読後感。

    ○お母さん攻略法 イアン・フレイジャー

    恋愛ハウツー本の文体模写。
    いちばんタネが割れていて、興奮出来なかった。

    ○リアル・ドール A・M・ホームズ

    妹のバービー人形と交際するものの……。
    人形遊びのグロテスクさについての話。

    ○獣 モーリーン・F・マクヒュー

    これはよくわからなかった。
    文章は面白かったけど。

    ○ブルー・ヨーデル スコット・スナイダー

    飛行船に乗っているはずの昔の恋人を追いかける男の話。
    妄想に取り付かれいるっぽい語り。
    ブルー・ヨーデルはこの男だ。

    ○柿右衛門の器 ニコルソン・ベイカー

    大伯母さんを器にしてしまう話。
    なのだが、わかりやす過ぎた。

    ○母たちの島 ジュディ・バドニッツ

    戦争で敵国の血が混じった子どもを産んでしまった女たちの島。
    そこに外人の男が漂着して、オチがつく。
    いちばんぐっときたかも知れない。
    愛がテーマのアンソロジーの締めに相応しい作品。

  • 「最後の夜」「リアル・ドール」「柿右衛門の器」が好きだった。あとがきにもあるように、リアル・ドールの妹が良い味を出している。

  • とてもどきどきした。知らなかった世界を見た。

  • 『五月』『僕らが天王星に着くころ』『母たちの島』

  • 「まる飲み」が一番好き。好きな人を丸呑みにして腹の中で飼うという発想がすごい。確かに自分という箱の中に閉じ込めてしまえば、いずれ終わる関係への恐怖に怯えなくていいのかもしれない。
    「”変愛”小説集」というだけあって強烈な話が多い。

  • 選ぶなら最初の「五月」(アリ・スミス)が一番好きだ。A・M・ホームズ「リアル・ドール」面白かった。ニコルソン・ベイカー「柿右衛門の器」も好き。

  • だって知ってた?あの人の髪、プラスチックなのよ。頭と髪の毛が一体になってるの。そんな人と付き合うなんて、もうぜんぜん無理だし。

    ー「リアル・ドール」p.129より

著者プロフィール

岸本 佐知子(きしもと・さちこ):上智大学文学部英文学科卒業。翻訳家。主な訳書にルシア・ベルリン『掃除婦のための手引き書』、ミランダ・ジュライ『最初の悪い男』、ニコルソン・ベイカー『中二階』、ジャネット・ウィンターソン『灯台守の話』、リディア・デイヴィス『話の終わり』、スティーヴン・ミルハウザー『エドウィン・マルハウス』、ジョージ・ソーンダーズ『十二月の十日』、ショーン・タン『セミ』、アリ・スミス『五月 その他の短篇』。編訳書に『変愛小説集』、『楽しい夜』、『コドモノセカイ』など。著書に『気になる部分』、『ねにもつタイプ』(講談社エッセイ賞)、『なんらかの事情』、『死ぬまでに行きたい海』など。

「2023年 『ひみつのしつもん』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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