少年をいかに罰するか (講談社+α文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (432ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062811439

感想・レビュー・書評

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  • 『家栽の人』の「少年」に対する姿勢は明瞭で、桑田判事の次のような言葉に集約されます。


    「どんなに厳しく罰しても少年はいつかは出てきます。誰かの隣に住むんです。その時少年が笑っていられるように考えるのが大人/司法の役割ではないでしょうか」

    加害少年の幸せを望むかのこの桑田判事の言葉は一見甘く聞こえるけども、「笑っている(=幸せ)」というのは「再犯を犯さない」状態も指しているわけで、これは社会にとっても望ましいこと、つまり公益に即しているとも言えます。



    ただこの更正と教育を基本とする考えは、厳罰を望む被害者・被害者家族の感情と対立することが多いでしょう。特に殺人などの回復困難な重大犯罪の場合、被害者側は突如こうむった理不尽に対し、加害者への厳しい処分にせめてもの慰撫と納得を見い出さない限りは、人生への復帰もままなりません。「応報感情を満たす」という意味合いではなく、犯罪によって「社会」が受けた傷を修復するという観点から、懲罰的処分にも必要性は認められるべきでしょう。問題は、加害者の人生への復帰と、被害者の人生への復帰が対立した場合、どちらを優先させるのか。残念ながら『家栽の人』の視界には犯罪被害者の存在は入っておらず、こういった論点は示されていませんでした。




    あと欠けていると感じたのは、加害者と社会との利益対立という問題。公益といっても、被害者感情にのっかる形で犯罪者叩きをしたがる世論を満足させることではもちろんありません。要は「犯罪者が犯した罪に相当する罰を受けていないと、社会のモラルは劣化する」という考えに基づく対立軸です。



    100万盗んで使い切り、刑事罰が罰金10万。

    こういう超極端な事案を想定してもらえばわかりやすいでしょうが、単純に罪に対して罰が軽ければ「やり得」ということになってしまいます。少年犯罪に限らず、ルールを破った者が得をして、ルールを守った者がバカを見る社会になっては、秩序と倫理は崩壊します。「悪いことしたらバチが当たる」という原始宗教的な観念の代役を司法に求めるのは筋違いかもしれませんが、実効性を持つ以上は、期待はしてしまうものです。



    ちなみに『少年をいかに罰するか』は決して厳罰化か現状維持か、あるいは懲罰か保護教育かといった単純な対立軸で議論されたものではなく、どっちかと言えばもっと根本的な法理念とそれを適正に運用するためのシステム構築に関する議論が主体でした。一部法曹関係者からは空理空論という批難を受けたようですが、評論家とジャーナリストという、第三者的立場だからこその提言も多く、興味深かったです。

  • お二人の、少年法とその複雑なシステムに対する知識の深さ、加害者被害者両面からの深掘りや報道まで、多面的に語れる凄さを感じた。
    自分が目にするもの、聞くもの、それが本当に「真実」を捉えているのか、偏っているのか、一部を切り取ったにすぎないものなのか、単なる推測や感想なのか、しっかり考えて受け取らないといけない。

    出版から15年近く経つ。また二人で、現行の少年法とそれを取り巻く環境に関し語り合って欲しい。

  • 読み助2014年12月2日(火)を参照のこと。http://yomisuke.tea-nifty.com/yomisuke/2014/12/2-part2-bac7.html

  • 2009/
    2009/

  • 2008/10/15 Amazonにて購入。
    2012/8/26~9/11

    最近、再び注目を集める少年犯罪。本書は2001年に改正、2007年に再改正された少年法について、藤井誠二氏と宮崎哲弥氏が対談形式で課題、問題点を指摘していく。私は厳罰化やむなし派であったが、本書を読んで少し考えが変わった。心の問題というのを何処まで他人が推し量れるのだろうか。難しい問題であり、今後も注意深く見守る必要がある。

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著者プロフィール

1962年、福岡県生まれ。相愛大学客員教授。慶応義塾大学文学部社会学科卒業。専門は仏教思想・政治哲学。サブカルチャーにも詳しい。近著に、『仏教論争―-「縁起」から本質を問う』(ちくま新書)、『ごまかさない仏教―-仏・法・僧から問い直す』(新潮選書、佐々木閑氏との共著)、『知的唯仏論―-マンガから知の最前線まで─ブッダの思想を現代に問う─』(新潮文庫、呉智英氏との共著)、『さみしさサヨナラ会議』(角川文庫、小池龍之介氏との共著)、『宮崎哲弥 仏教教理問答』(サンガ文庫、白川密成・釈撤宗・勝本華蓮・南直哉・林田康順の各氏との共著)、『日本のもと 憲法』(監修、講談社)など多数。

「2020年 『いまこそ「小松左京」を読み直す』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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