同和と銀行 -三菱東京UFJ“汚れ役”の黒い回顧録 (講談社+α文庫)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062813877

作品紹介・あらすじ

大阪府、大阪市の行政をはじめとして、警察、国税、そして芸能界までに太いパイプを持ち、バブル時代の関西圏に多大な影響力を及ぼした財団法人「飛鳥会」理事長・小西邦彦。三和銀行(現・三菱東京UFJ銀行)淡路支店取引先課長に着任した岡野義市の最大の使命は、その「同和のドン」の懐深くに飛び込むことだった-。これまで「謎」「タブー」とされてきた、メガバンクと同和団体幹部の暗部に切り込む超弩級のノンフィクション。

感想・レビュー・書評

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  • 元三和銀行員・岡野氏が、飛鳥会代表・小西氏の人物像や行動を振り返る、回顧録。
    ノンフィクションであるが、意外と読み易い。

    パッと見は「銀行が脅されて80億円の融資をして、それが貸し倒れた」と思われがちな事件。でも銀行にとっても小西氏は都合の良い存在だった、という内容。

    岡野氏は、みんながビビってた小西さん相手に自分はよく渡り合った、銀行内でもお偉い方に感謝されてた、と全く後悔ない様子…

    小西逮捕の騒動の後は自殺者まで出てしまってるし、後任や後世に迷惑・負担をかけてしまう、「そのときが良ければ」の取引はするべきじゃないよなあと思ってしまった。

  • ヘビーな内容のため、読み進めるのに意外と時間がかかってしまった。

    この本を読む前に同じ著者の「地面師」を読んでおり、そちらも一連の事件の背景を読みやすくまとめた一冊という好印象を持った。しかしこの「同和と銀行」は、取材のち密さと内容の濃さ(大変な濃さ……!)、そして取材対象に向けた熱意といった面で、前者を凌駕する読書体験をもたらしてくれた。

    この本でも述べられているように、銀行をはじめとした金融機関というものはビジネスに利用できるものはとことん使い尽くし、一旦取引が事件化したとなるとあっさり裏切るものだという印象を抱いている(なので銀行が憧れの就職先、というちょっと前までの傾向には個人的に違和感を抱いていた)。

    しかしあの高度成長期、そしてその後のバブル経済の中、銀行もその他企業もとにかくなりふり構わず利益を追求していたからこそ、日本経済はあれまでに栄えたのであり、そのために利用できるものを利用して何が悪い、という気持ちも十分理解できる。企業は生き残るために、サラリーマンは自らと自らの家族を守るために、とにかくシャカリキになって働いていた、そんな中で同和関係者、反社会的勢力をやむを得ず利用していた。この本で描かれているバブル期の景気のよさは、今から振り返ると本当に華やかだが、冷静にその実態に迫ってみると、ちょっと前まで貧しかった日本から必死に背伸びしようと必死な人々の姿が見えてくる。そこから伝わってくる悲哀感が根底にずっと鳴り響いているような、回顧録だった。

  • ノンキャリのバンカー・岡野義市が三和銀行(現・三菱東京UFJ銀行)淡路支店取引先課長に着任した際の最大の使命は、「同和のドン」こと小西邦彦の懐深くに飛び込むことだった―。超弩級のノンフィクションです。

    本書はバブル時代の関西圏に絶大な影響を及ぼした財団法人『飛鳥会』理事長。小西邦彦とそのバンカー人生の殆どを彼との交際につぎ込み『汚れ役』とも称された叩き上げ。岡野義市との『二人三脚』の歩みを描いたものです。

    三和銀行(現・三菱東京UFJ銀行)に商業高校を卒業して入行したノンキャリの岡野は営業力や実務能力を発揮して着実に出世の階段を上っていきます。そんな彼が淡路支店取引先課長に着任した際の最大の使命は『同和のドン』としてその名をとどろかせていた小西邦彦の懐に飛び込んでいく、というものでした。最初は岡野もどうやってその任務を実行していいかわからず、ノイローゼ気味になってたところを本人曰く開き直りで『支部長、阪神が強いでんな』といいながら目の前のソファーにドンと腰かけると、そこから一気に彼との距離が縮まったのだそうです。

    それから彼と小西との関係を通じて『銀行と闇社会』とのつながりが延々と描かれているんですけれど、目が飛び出るような金が小西を通じて闇社会に流れているという事実と、岡野との非常に『濃ゆい』つながりの深さにとてつもなく深い闇をのぞいたような気がしました。さらには夜のネオン街での豪遊。アイスペールにブランデーを日本、たっぷりと注いでそれを宴席に居るメンバーで回しのみをする場面にもバブル時代の空気を感じることが出来ました。

    この時期の狂喜乱舞が後の『失われた十年(もしくは二十年)』につながっていくのかということを考えると、日本全体が狂気に走っていた時代なんだな、ということを思ってしまいました。やがて、バブルの宴も終わり、小西の体に癌の病魔が巣喰い始め、銀行が闇社会とのつながりを絶つ方向に舵を切り始めると文字通り『手のひらを返したよう』な態度になっていく姿は「盛者必衰」と呼ぶにふさわしいものでした。最終的に小西は『飛鳥会事件』の判決の後にならの自宅で病死し、現在の三菱東京UFJ銀行は『小西邦彦ならびに「ともしび福祉会」に対して約80億円の貸金返還請求訴訟を起こしたが、小西邦彦の死後に遺族が遺産相続を放棄したため、融資回収はほとんど進んでいない』(ウィキペディアより)のだそうです。

    最後のほうで作者の取材に答える岡野は
    「(中略)私は“汚れ役”として銀行に利用されたことに悔いはありません」
    と述懐しているのが本当に印象的でした。この本はこれまで「謎」「タブー」とされてきた、メガバンクと同和団体幹部の暗部に切り込む超弩級のノンフィクションなのだそうです。ここに書かれてあることが今、どういった形でどのような影響があるかは寡聞にしてわかりませんが、金の集まるところには本当にいろいろな人が集まってくるものだ、ということが本当に良くわかる一冊でありました。

  • 経済事件ドキュメントとして大傑作/ ニュースや紙面でしか事件を知らない人は、同和の偉い人が銀行を脅迫して資金を引き出したようにしか見えないだろう/ 三菱東京UFJの80億円返還訴訟/ 暴力を背景にしただけの経済事件ではないことがはっきりと書かれている/ 銀行主導の土地開発で散々同和団体の威力を利用して、共存・協調して稼いできた銀行が支部長を裏切るくだりは泣ける/ 支部長はヤクザなど銀行から借りられない連中に名義を貸して、三和銀行から金を借りてやっていた/ しかし担保もしっかり入れさせ、筋は通していた/ 貸倒れはない/ しかし銀行が怠慢で担保処分せず焦げ付いた/ 名義人に掛かる一斉返還訴訟80億/ 老人ホームを運営し、大金を注ぎ込み、老人たちを旅行に連れて行って自分で酌して回る/ 弱者に優しい部分を見せられ、読んでいてほだされてしまう/ 大阪のニューゲートビルや、大阪駅前第三ビルのサージ事件、許永中など、バブル期の見所満載/ 大阪府警や税務署までもこの同和の支部長に遠慮をしているのが、時代を感じさせる/ 読んでよかった/

  • この事件自体全く知らなかったので、肝心の飛鳥会事件のことは中心には描かれなくてちょっと戸惑った。
    それでもバブル期の金融機関のガバガバ融資にはびっくり。保証機関とかどうなってたんだろ。
    三和銀行側でパイプ役になっていた岡野という人が小西の人となりを語っているんだけど、あの立場にいたのに「私は悪くありまへんで!犯罪絡みのことはなーんも見てまへん!」という主張がに終始見え隠れしててすごい。

  • 同和の大物と銀行との関係を描いたノンフィクション。
    ただ、ネタ自体の意外性があまり大きくないせいか今一歩といったところであった。
    想定の範囲内の内容。

  •  バブル期、不動産開発、その前提としての地上げに暗躍した裏社会、その開発資金を融資した銀行、その表に出せない活動に銀行が裏社会を利用した。かかる構図は他のルポでも描かれるが、本書はそこに、同和対策という歴史的淵源ある弱者救済政策というスパイスを併せ持った実態に切り込んでいく。

     そもそも同和対策といえども、基本的には箱モノ行政の延長線上にあり、それは利権を生むものであることに、特別な事情は見出せない。

     本書は主として銀行側の汚れ役であった担当者へのインタビューを軸に展開するが、彼の浮世離れした言動と共に、銀行上層部の無責任さには呆れるばかり。

     つまり、この銀行担当者もまた、汚れ役であったが故にか、普通に生活している庶民感覚を欠落させていったと言わざるを得ないだろう。

     また、飛島会事件の主役でもある同和のドンに対する国税、大阪府市の行政担当者の甘い対応と、悪い意味での共生関係には、やりきれなさが残る。

     結局、税金を使って箱モノを作る手法が真の「弱者」救済になるのか、さらにはこのドンが弱者の代表と言ってよいのか、銀行を悪とする本書からですら疑問なしとしないことが見えてくる。

    2010年(底本2009年)刊行。

  • 160422読了

  • 真相に迫っていくスリルとか、多角的な検証はなく、サブタイトルにもある通り、良くも悪くもある銀行員の回顧録。なんでこんなに小西が権力を握れたのかわからないんだけど、差別と権力にあるようなことをやってきたのかねえ。しかし、いつも思うことだけど、こんなに非生産的で行きていける昭和期はうらやましい。

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著者プロフィール

森 功(もり・いさお) 
1961年、福岡県生まれ。ノンフィクション作家。岡山大学文学部卒業後、伊勢新聞社、「週刊新潮」編集部などを経て、2003年に独立。2008年、2009年に2年連続で「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞作品賞」を受賞。2018年には『悪だくみ 「加計学園」の悲願を叶えた総理の欺瞞』で大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞受賞。『地面師 他人の土地を売り飛ばす闇の詐欺集団』『官邸官僚 安倍一強を支えた側近政治の罪』『ならずもの 井上雅博伝――ヤフーを作った男』『鬼才 伝説の編集人 齋藤十一』など著書多数。


「2022年 『国商 最後のフィクサー葛西敬之』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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