ピストルと荊冠 〈被差別〉と〈暴力〉で大阪を背負った男・小西邦彦 (講談社+α文庫)
- 講談社 (2017年1月20日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062817103
作品紹介・あらすじ
部落解放運動の闘士は暴力団の構成員だった。二足のわらじをはき、莫大な富と権力を握った男、小西邦彦。晩年に「飛鳥会事件」で逮捕され失意のなか、2007年にこの世を去った。バブルの時代には1ヵ月に呑み代1000万円、その力は市行政、警察、税務署、財界にまで及び権勢をふるった。昭和44(1969)年、部落解放同盟の支部長につき、40年の長きにわたりその職にあったが、次第に人生の目的は福祉事業へと変わってゆき、特別養護老人ホームや保育園の経営に邁進する。それは解放運動の関係者による不祥事が続き、運動が退潮してゆく時期となぜか重なった。
人生の「貧富と清濁」を体現した男の波乱万丈、74年の生涯を描く本格評伝!
感想・レビュー・書評
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「同和と銀行」のあとに読む/ 小西邦彦は殺しの軍団柳川一門であった、とは銀行の方に書いてあっただろうか?/ 柳川組四天王であった金田組では下っ端、しかし部落出身であることから金田から解同飛鳥地区の支部長に推される/ 作中でも書かれるが、大きな権力を持つまでには「〝あの〟柳川一門金田組構成員」であったという目に見えぬ威力が必ずあったと/ 金田に金を吸われ続けた小西は、金田が死に組が解散することで呪縛から逃れたが、その嫌ったバックボーンで立場を作ったのは事実じゃないかと、このくだりは銀行にはなかった気がする/ 銀行の方では小西の情の厚い部分が多く書かれたが、こちらは少しドライか/ ヤクザ絡みの記述はこちらが多い印象/ もし叶うならば、もっと色々な世に出ていない話を聞いてみたい/ 東京勢との邂逅や、エセ同和尾崎との絡みなどなかったのだろうか/ しかし、バブルとは面白い事件の宝庫であると再認識させられた/
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同じ人物について他の人が書いたものも読んでみたい。
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先に読んだ「同和と銀行」でも疑問だった、そもそも部落解放運動とは何を目標にしていた活動なのか、ということ。
私が小学校の道徳の授業で受けた同和教育や「部落解放」という本来の意味では、部落というレッテルそのものが無くなり、人びとがその身分から解放されることを目指していたのではないか。
しかし、雇用の平等や地域の活性化ならわかるが、差別を盾に行き過ぎた優遇措置にばかり特化してしまい、行政も大手銀行もそれを利用して美味い汁を吸っていた。
差別からの解放というのは「底辺から頂上へ」ではなく「全てをフラットに」であるべきだ。
悪人の面も善人の面もあると書かれた小西の人物像だったが、私には悪人としか思えない。一部の人には役立ち、どれだけ優しく接しようと、差別を悪用したことは許されない。
この巨悪が明るみに出たことによって、市井の人々の中で部落解放運動、ひいては被差別部落の印象はどう変わってしまっただろうか。
あとがきでは、現在の被差別部落地域の関心の低さや土地の変わり様が記されていたが、それこそが官民一体で目指すべき本来のゴールだったはずだ。 -
部落解放運動の幹部で暴力団の構成員。ともすればバイアスかけまくりの話になりそうなところ、どこまでも中立・冷静な筆致で書かれている。話がどちらかに傾きそうになると「でもこんな側面もある」と必ず視点をフラットに戻す。単語しか知らなかった世界で何が起こっていたのか、基礎知識を得られた本。
終盤、飛鳥会事件の公判にまつわる陳述と本人取材とのギャップは怖い。これは今も無意識のうちに自分らも晒されている問題。裁判だから真実とは言えないのだと、再認識した。 -
どんな事件でも単純じゃない。
ここまで斬り込んだ著者に脱帽。