霧のむこうのふしぎな町 (文学の扉)

著者 :
  • 講談社
4.12
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感想 : 31
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  • Amazon.co.jp ・本 (198ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062832069

作品紹介・あらすじ

水玉もようのかさをおいかけているうちに、リナは、ふしぎな町へやってきた。森の深い緑の中に、赤やクリーム色の家が六けん。石だたみの道は、雨がふったようにぬれている。ここが、リナのさがしていた、霧の谷のめちゃくちゃ通りだった。小学中級から。

感想・レビュー・書評

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  • 再読だが、何度読んでも色褪せない名作だと感じさせられ、時代や流行に左右されることのない、変わらぬ普遍性を持っており、おそらく、海外児童書の名作たちにも、決して引けを取らないであろう本書は、柏葉さんのデビュー作である。

    そして、以前読んだ、青い鳥文庫の新装版である本書は、ハードカバーの愛蔵版仕様となり、杉田比呂美さんのイラストも大きくなったし、何より、今回の表紙の新しいイラストが、私には、また違った「リナ」に会えたような嬉しさで、胸がいっぱいになった。

    また物語は、ふしぎな町における、小学六年生のリナの成長物語を軸に、ちょっと不思議だけど心に残る、愛すべき楽しい仲間たちとの交流によって、今の時代にも通じるような素晴らしい事を、たくさん教えてくれる。

    先に、リナの事を書いておくと、彼女は、自分ひとりでは何も出来ないことをコンプレックスとしており(要するに自分に自信が持てない)、早速それを、下宿先の「ピコット」ばあさんに突っ込まれて、早くも帰りたいと思ってしまうのだが、もしかしたらここで、今の時代にこういうモラハラみたいな接し方は無いよなと、読むのをやめる方もいるかもしれないが、もう少し我慢して欲しい。この後でピコットばあさんは、こう言っているのである。

    『手があって、足があって、目も鼻も耳も、見たところ異常はなさそうじゃないか』

    『だれが、なにもできないっていったんだい』

    感受性の強い子供だったら、言葉尻を素直に捉えてしまい、「何を言ってるんだ?」となりそうだが、ここでは、もう少し、じっくりと自分自身を見つめてみなさいよと、ピコットばあさんが言っているようにも思われて、実際、これをきっかけに、リナは変わっていくのだから、捻くれた性格も捨てたもんじゃないね。

    しかし、ここで皮肉にも面白いのは、リナが、ピコットばあさんと同じような事を、王族のチヤホヤされた環境で育った王子に言う事で、これは、リナ自身が変わったことを、リナ自身が実感として認識していることであり、ピコットばあさんの事を、表向きはあんな風に言っているけれど、おそらく、感謝の気持ちを抱いているのだと思う。

    そこには、最初こそ、ここでは自分で働いて稼がないと暮らしていけないといった、やらされてる感が強かったリナだったが、いろんなお店で働いていくうちに、元々芽生えつつあった、彼女自身の、心の強い真っ直ぐさと優しさ、そして責任感がついに花開き、ふと気が付いたら、自分への見返りやご褒美の一切関係ない、『人のために何かをしてあげたい』思いで行動するようになっていて、それは人と人とが繋がり合える喜びを実感させられるとともに、決して独りでは無いことも実感させられて、リナにとって、大きな心の財産となる。

    そして、そんなリナに心を打たれたかのように(勿論、読んでいる私も)、周りの人達も次第にリナを頼るようになり、終いには、リナに、このふしぎな町に、ずっといて欲しい思いを抱くまでになり、そうなるまでの人間関係の築き方には、今でいう、多様性を思わせる言葉もあり、柏葉さんのものの見方、人柄の素晴らしさを思い知る。

    『でも、欠点のない人間ほどつまらねえものもねえんでさ』

    『かわいそうになあ。おとなしいとら(虎)がいたってふしぎはないんだ。自分たちのつごうを動物におしつけてもしかたがない』

    『わたしたちはおたがいをよく知らないから、こわいのかもしれない。正面からぶつからないで、遠くから見ているだけだから』

    それから、何度読んでも、思わず吹き出してしまうのが、リナと、オウムの「バカメ」のやり取りで、このバカメの減らず口がまた凄いのだが、負けず劣らず、リナも対抗出来るまでになり、しかも、リナはバカメの良いところをちゃんと口に出して言ってあげるから、滅多に他人に心を開かないバカメの心も・・ね。

    『まあ、こういうふうに歌うんだな』といい、あとはだまってしまった。

    『人魚がいいにきまってるぜ、トーマス。
    メドーサなんかも、おりゃかわっててすきだが、
    むすめっこにゃ、やっぱり人魚かビーナスだなあ』

    やがて、このふしぎな町のめちゃくちゃ通りで、西に沈む太陽の色が好きになったリナと、夏休みの宿題に取りかかる場面を読むことで、読んでいる私の心を、黄昏の少し切なくもの淋しい風が過る。

    もしかして、お別れの合図?
    嫌だ! まだまだ、リナと仲間たちの楽しい毎日が読めると思っていたのに・・・でも、こればかりは仕方ないか。

    と思っていたら、実は・・・この先は実際に読んで確かめて欲しいのですが、ピコットばあさんも素直じゃないからね。たまには、本人のいる前で言ってあげたら、とても喜ぶと思うんだけど、でも最後の最後に込められた気持ちは、リナにとって、何よりも嬉しかったよね!!

    そして、その込められた気持ちは、「佐藤さとる」さんの「手づくりのファンタジー」での一文、

    『この作者が頭で書かずに心で書いている』

    ことを、はっきりと証明しているのだと思う。

    • たださん
      こんにちは。
      コメント、ありがとうございます(^^)

      すごい偶然に驚きまして、姪っ子さんにとって、素敵なプレゼントだと思います。

      おそら...
      こんにちは。
      コメント、ありがとうございます(^^)

      すごい偶然に驚きまして、姪っ子さんにとって、素敵なプレゼントだと思います。

      おそらく、成長を重ねるにつれて、物語から感じ取れるものもまた異なる、奥の深さが本書にはあると思い、大人になっても、愛読書として持っていただければ、何よりの幸せですよね。
      2023/02/21
    • 慎也さん
      温かいお返事ありがとうございます。
      この本は私も子供の頃からお気に入りだったので、姪も好きになってくれるといいなと思っています。
      姪に本を選...
      温かいお返事ありがとうございます。
      この本は私も子供の頃からお気に入りだったので、姪も好きになってくれるといいなと思っています。
      姪に本を選んで贈るとなると、つい力が入ってしまいます。自分のことを思い起こせば、どんな本でもいいから片っ端から読んでいれさえすれば、それで幸せだったんですけどね。
      でもせっせと送り続けているお陰か、本をくれる叔父さんとして覚えてくれたようです(顔は残念ながら怪しそうです)。
      2023/02/21
    • たださん
      こちらこそ、お返事ありがとうございます(^^)
      子供の頃からお気に入りだった、分かる気がします。私は、ブクログで児童書の素晴らしさを、ようや...
      こちらこそ、お返事ありがとうございます(^^)
      子供の頃からお気に入りだった、分かる気がします。私は、ブクログで児童書の素晴らしさを、ようやく知ったので、リナと同じ年代で読めなかった悔しさこそありますが、おそらく子供の頃に感じた事と、大人になって改めて読んだときに感じる事は違うのだろうなと思ってまして、この本は、まさに世代を問わず、その時その時における大切なことを教えてくれる作品だと実感致しました。

      本を贈り続ける叔父さん、素敵だと思います。お顔は怪しそうとの事ですが、きっと、この本の魅力や素晴らしさに気付いた瞬間、ふと姪っ子さんの脳裏に浮かび上がってくるような気がしております。
      2023/02/22
  • Amazonさまにオススメされて、読んでみた本です。

    児童向けの作品だと思いますが、なんの大人が読んでも十分に面白い作品です。

    ある小学6年生の少女リナがこの不思議な街で様々な仕事を経験しながら、成長していく物語です。

    この不思議な街の住人たちとリナとの交流が良い。
    それぞれがじんわりと暖かいんです。

    こんな出会いがあるから読書は面白い。
    オススメです♪

  • 6年生のリナは、お父さんが子供の頃過ごした「霧の谷」に遊びに行くことになります。
    ピエロの傘に連れられてたどり着いた霧の谷。リナが泊まることになったのは「働くもの食うべからず」といい、不機嫌で皮肉的な言葉や態度を見せるおばあさん、不思議な発明家さん、表通りを気にする家事とくいのお母ちゃん…。
    リナは色々なお店おを手伝うことになります。
    本当に読みたい本と出会える本屋、海辺の雑貨屋さん、水夫のコックさんとおしゃべりオウム。
    四季の花が咲き、子鬼がお菓子をくれて、お面をはずさない男の子がいる。
    不思議で楽しい町、そう、霧の谷は、魔法使いの子孫たちが住む秘密の場所だったのです…。


    小学校の頃に読みましたが、今読んでも楽しめます。
    魔法の町は可愛らしい町並みで、何が出てくるかわからない楽しさがあります。
    新装版のこちらは挿絵も可愛いですね。この挿絵のリナは小柄でスレンダーなんだけど、本文では「太ってる」「大きなお尻」「このお菓子は太らないから食べても大丈夫」などと言われているので、もっとどっしりした体型なのか?それならもうちょっとそれっぽい挿絵にしてもよかったのでは。。

  • いつか読みたいと頭のすみでずっと気にしているのに、なかなか読まないままきてしまっている本がたくさんあります。
    本書もその中の1冊だったのですが、読み始めたらとてもすてきなお話で一息に読んでしまいました。

    小学生最後の夏休み、リナは1人でお父さんの知り合いのところで過ごすことになりました。
    水玉模様の傘を追いかけて濃い霧を抜けた先で、リナの目の前に現れたのは外国のような雰囲気の小さな町。
    たったの6軒しかない家は、本屋やおかし屋、せともの屋など、それぞれがお店を営んでいます。
    この町では「はたらかざる者、食うべからず」。
    ピコットばあさんのお屋敷に下宿しながら、リナはいろいろなお店で仕事をすることになります。

    この町も住民たちも、あまりにすてきで終始ときめきながら読んでいました。
    ピコットばあさんはいじわるだし、住民たちはちょっとヘンなところもあるけれど、リナがだんだんみんなと仲良くなって町に馴染んでいく様子がほほえましいです。
    最初は働かなきゃいけないことに戸惑っていたリナも、自分で考えて行動したり、ちゃんと自分の思ったことを相手に伝えることができるようになったり、どんどん頼もしくなっていきます。
    個人的には、リナとおうむのバカメのエピソードがとても好きでした。

    ひと夏で成長したリナの姿に元気をもらいました。
    年度末の時期に読んだので、私まで少し成長したような気持ちで新年度を迎えられそうな気持ちになったのでした。

  • こちらも、きつね山の夏休み同様、夏休みのあいだに読みたいと思った一冊。
    (でも実際には9月2日に読み終えた)
    オリジナルは1975年刊。ちょー有名な一冊だけど、今までなんとなく縁がなく、今回ようやく手に取った。
    タイトルからはもっとシリアスな内容を想像していたけど、新版の表紙はカラフルで明るくかわいい。
    内容もそれにつられて、わりとあっさりしたものに思えた。
    (オリジナルの挿絵はもっとこまかなタッチだったらしい)

    少女リナが迷い込むふしぎな街。
    そこで下宿して働き、またもとの世界に戻っていく。
    千と千尋の神隠しのモチーフになったという本書。
    どちらかといえば少女向きかな。

    たまたまこの本を買った翌日に、新聞に著者のこの本についてのインタビューが掲載されていた。
    外国への憧れのあった祖母たちの影響があったこと。主人公リナは最初と最後にとくに変わりはないこと(成長して帰ったわけではない。いわゆるビルディングスロマンと思われがちの本書だが、作者は否定しているわけだ)、とあった。

    この本を読むのに大切なのは、たぶん出会いが早いほうがいいということ。
    小4くらいで読めるとよかったな。私にとって、大事な友達のような本になっただろうね。

    ピコットばあさん、というキャラクターと、西の空や垣根に見惚れるシーンがとてもパワーがあって好きです。

  • 夏におすすめ、という紹介に載っていて、子どもの頃に読んでたな懐かしいなと思いながらよく見てびっくり。
    新しくなってる!
    しかも絵が杉田比呂美さん!
    素敵!
    6歳の娘にはまだ長すぎるかなと思ったのだけど、興味を持っていたので、1章ずつ毎晩読み聞かせしてみた。
    物語が動き出すまでは戸惑っていた娘は、3章くらいから引き込まれて、まほうだ!と目を輝かせたり、皆のやり取りにくすくす笑ったり。
    最後に泣きそうになったのは私の方だけど。
    国レベルのハイファンタジーももちろん楽しい、でも6軒だけの通りという規模がこの物語ではいいんだなぁ。
    『ロビンソン・クルーソー』の顛末が大好き。

  • ずっと気になっていた物語です。

    とてもおもしろかったです!
    めちゃくちゃ通りの住人たちがみんな魅力的です。
    リナもかわいくてとても優しい女の子でした。
    リナと住人たちの間に起こる風変わりな事件。本屋さん、せともの屋、船具屋、おもちゃ屋・・・どの章もお気に入りです。
    みんながリナのことを優しく見守っている感じがほほえましかったです。

    最後のみんなからのおみやげで泣かされました。
    意地悪に見えるピコットばあさんもなんだかんだリナのことがかわいかったんだなぁ。
    ピコットばあさんのおかげで夏休み前よりリナは強くなれました。優しい登場人物だけではここまでの成長はなかったのではないでしょうか。

    • yamatamiさん
      九月猫さん、はじめまして、こんばんは!
      yamatamiと申します。

      こちらこそフォローしていただいてありがとうございます!とても嬉...
      九月猫さん、はじめまして、こんばんは!
      yamatamiと申します。

      こちらこそフォローしていただいてありがとうございます!とても嬉しかったです(*^^*)

      柏葉幸子さん、とても気になっていた作家さんです。九月猫さんもお好きな作家さんだったのですね。他の作品も是非読んでみたいと思っています!
      おすすめの作品とかございますか?お時間のあるときによろしければ教えてくださいね♪
      こちらの装丁バージョンがお住まいの地域で見つかりますように(^^)

      九月猫さんの本棚とレビューは拝見してて、読書欲がふつふつと沸いてきます。
      さらには私の好きな本もたくさん登録されていてなんだか嬉しいです(*^-^*)
      こちらこそ参考にさせていただければと思います♪

      これからどうぞよろしくお願い致します(*^^*)
      2014/02/06
    • 九月猫さん
      yamatamiさん、こんばんは♪

      柏葉幸子さん作品、やはり一番最初に読んだのがこの「霧のむこうのふしぎな町」だったので、
      これが一...
      yamatamiさん、こんばんは♪

      柏葉幸子さん作品、やはり一番最初に読んだのがこの「霧のむこうのふしぎな町」だったので、
      これが一番好きで一番おすすめです。
      同じようなテイストだったのが「地下室からのふしぎな旅」「天井うらのふしぎな友だち」
      なので、続けて読むならこの辺りがいいのではと思います♪

      比較的、近著の「つづきの図書館」と「帰命寺横丁の夏」が気になる作品で、
      評判もよいようなので、近いうちに読みたいな、と思っています。
      yamatamiさんもご一緒にどうですか、とお誘いしてみたり( *^艸^)むふ。

      2014/02/06
    • yamatamiさん
      九月猫さん、早速のお返事ありがとうございます(*^^*)

      「地下室からのふしぎな旅」「天井うらのふしぎな友だち」ですね。読みたい本が増...
      九月猫さん、早速のお返事ありがとうございます(*^^*)

      「地下室からのふしぎな旅」「天井うらのふしぎな友だち」ですね。読みたい本が増えて嬉しいです!早速図書館で探してみます♪

      わー!「つづきの図書館」、私も気になってたんです。
      図書館でずっと貸出中で、機会を逃してました(>_<)
      「帰命寺横丁の夏」、よい意味で不気味でどこかノスタルジックなタイトルにすごく惹かれます。

      わーい!お誘いいただいて嬉しいです(^-^*)笑
      この機会に私も読んでいきたいと思います~♪

      私の中の柏木さんの一番好きな作品はどれになるだろう。楽しみです(*^^*)
      2014/02/07
  • 児童文学の名作。
    主人公リナがふしぎな町に迷い込み、働きながら成長していく物語。
    未成年だけど、働かざる者食うべからずなの。
    優しい世界観で安心しながら読める。

    美味しそうなお菓子やごはん、ファンタジーながら手が届きそうな…子供の頃に読んだらもっとワクワクしたかな?

  • 千と千尋の神隠しの元となったお話

    ピエロの傘によって導かれて、たどり着いたのが霧の谷のめちゃくちゃ通りだった
    働かざる者食うべからず
    ということで色んなお家に働きにいく
    意地悪なことばかり言うピコットばあさんは湯婆婆なんだろなっと

    独特の空気感を味わいながら読めた

  • 宮崎駿監督が、この作品にインスピレーションを受けて「千と千尋の神隠し」をつくったという話を聞き、読んでみようと思いました。

    日本のどこかにある、ふしぎな町「霧の谷」。
    ほどよくファンタジー、ほどよく少女小説といったところでしょうか。
    ひと夏の少女の成長物語です。

    ちょっと書かれた時代的に、ジェンダー意識がちらちらと見えますが…。

    っていうより、小学校6年生『ジェーン・エア』読んでるもんなんですか??えーっ??

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著者プロフィール

児童文学作家。岩手県生まれ。東北薬科大学卒業。大学在学中に講談社児童文学新人賞を受賞し、『霧のむこうのふしぎな町』でデビュー。ファンタジー作品を多く書き続けている。『牡丹さんの不思議な毎日』で産経児童出版文化賞大賞、『つづきの図書館』で小学館児童出版文化賞、『岬のマヨイガ』で野間児童文芸賞受賞、『帰命寺横町の夏』英語版でバチェルダー賞受賞など受賞歴多数。


「2023年 『トットちゃんの 15つぶの だいず』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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