枢密院議長の日記 (講談社現代新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (436ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062879118

作品紹介・あらすじ

幕末に生まれ、明治、大正、昭和を生き、三代の天皇に仕えた倉富は、時代の変遷をどう見つめ、年月の足音をどう聞いて、記録にとどめたのか?宮中某重大事件、皇族・華族のスキャンダル、摂政問題、白蓮騒動、身辺雑記…誰も読み通せなかった近代史の超一級史料をノンフィクションの鬼才が味わい尽くす。

感想・レビュー・書評

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  • 個人の日記。それが天皇のことについてなら面白い。

  • ペリーが浦賀に来航した1853年に、久留米藩の漢学者の家に生まれ、司法・宮内省・枢密院議長という職歴を持つ倉富勇三郎の日記を読み解いた本。いや、読み解くにはあまりに膨大で、かいつまんだ本といったほうがただしいかもしれません。
    日記の巻数は、手帳・大学ノート・便箋・半紙などに297冊、執筆期間は大正8年から昭和19年の26年に及びます。1日の執筆量は、多いときには四百字詰め原稿用紙に50枚を超える日もあります。そのほとんどが、ミミズがはったような難解なペン字、文語体で、しかも、会話をそのまま書き写しているような内容なので、読み進むのも困難。以前、倉富氏縁の作家が解読を試みましたが、挫折したという経緯のあるものを、この著者がチャレンジ。さすがに全文は読み解いていませんが、大きな事件が起こった箇所を中心に解読、この本を執筆しました。

    この本で注目するのは、皇族方のスキャンダル。ベールに隠されて、なかなか表に出てこないこういった話題を、宮内省で働く倉富が、同じ職員と井戸端会議のような形で話題に上がった内容が、そのまま日記にしたためられています。
    また、ロンドン海軍条約締結時のごたごたや、昭和天皇の即位の大礼の様子、五・一五事件など、歴史的に重要な資料ともなっています。

    この倉富氏の「とにかく書く、長くても書く、内容がどうあろうとも書く」という姿勢には頭が下がります。

  • 文学

  • なんで日記なのにこんなに分厚いんだ…と思いつつ手に取ってみたら,主に収録されている部分はまさかの2年分だったというそこにどえらい衝撃を受けてしまった。26年間で298冊ってなかなかな分量だと思う…。
    今でも何かあると皇室スキャンダル的なネタはよく週刊誌に出てるなぁと思うけれども,当時も随分といろいろあったんだなぁ,と思った。あと,やっぱり時代が時代だったので身分制度と切り離せない問題も多くあったんだろうなぁ,とも思ったりなど。この本に収録されているのは枢密院議長になる前,宮内省に勤めていた期間の分がほとんどだったので皇室ネタに偏っている部分はあったけれども,愛妻家だった一面なども窺い知れるような内容で,読むのは骨が折れそうな分量だけれども,他の時期の部分もチラ見してみたい。

  • 2009年刊。◆戦前、東京控訴院検事長、帝室会計審査局長官、更に枢密院議長を歴任した倉當勇三郎。彼は類稀な記録魔で、現存するだけでも大正8年(枢密顧問官就任が翌9年)から昭和19年までの日記が保存されている。◆この日記自体が他の歴史研究において重要な役割を果たしているが、本書は、政治研究とは少し離れ、日記から伺える史的事象の裏面に光を当てる。例えば、日韓併合のシンボル的存在の朝鮮王族の来し方、あるいは宮中某重大事件に比する皇族・家族のスキャンダル史がそれ。◇また、倉當の私生活面から伺える華族の生活実態も。

  • 明治大正昭和の知られざる歴史を扱っていて興味深くはあるが、なにぶん佐野眞一の自意識の強すぎる叙述が繰り返されて辟易した。

  •  枢密院議長・倉富勇三郎といっても、現在では、ほとんど知る人はいないのではないか。本書は、その歴史上のB級人物といっても過言ではない人物の膨大な「日記」をもとにした歴史解析の書であるが、いや、実に面白く興味深い。分厚い430頁の新書であるが、最後まで興味は尽きない思いで読み終えた。
     本書によると、倉富勇三郎は1853年(嘉永6年)に生まれ、1948年(昭和23年)に96歳の生涯を終えた人物であるが、東京控訴院検事長、朝鮮総督府司法部長官、宗秩寮総裁事務取扱、枢密院議長を歴任し、宮廷順位4位にまで昇進した宮廷官僚である。主に活躍したのは大正期から昭和初期になる。
     この現在ではあまり知られていない宮廷官僚が残したものが、297冊の膨大な日記であり、その執筆期間は大正8年から昭和19年までの26年に及び、平均するとひと月にノート1冊分、1日あたりでは多い時には400字詰め原稿用紙で50枚を超える、まさに「世界最大最長級の日記」だという。まさに驚きとしか言い様がない。
     しかも、その内容がミミズがのたくったような判読不能の文字で書かれており、しかもそのほとんどは、死ぬほど退屈な冗長な繰り返しが多いしろものなのだが、また一方では、綺羅星の如き皇族と華族の日本近代史を代表する人物達が登場したり、皇室と家族に対する噂話やゴシップの数々、皇室にまつわる慣例や決まりごとの集大成のような、他に見られない貴重な歴史資料だとは驚いた。
     そして、大正10年の「宮中某重大事件」にまつわる宮中裏面の動きや、「朝鮮王家」の諸状況・それに関連する日韓併合裏面史、「柳原白蓮騒動」の詳細、華族のスキャンダルの数々、どれも興味深く、面白い。
     とりわけ当時の華族の堕落の現状には、華族達はこの当時の時点で既に腐敗しきっており、華族制度はその社会的意義からは、すでに終焉していたのではないのかとの思いを持った。
     また、「ロンドン海軍条約」についての詳細も当時の日本の混迷する内部事情がよくわかる秀逸なものとなっていると思えた。
     そして、この膨大な「倉富ワールド」ともいえる難解な「日記」を面白いノンフィクションに仕上げた著者もまた凄い。
     本書は、華族のスキャンダル等を面白く読みながらも、当時の歴史と社会の空気をいつの間にか理解できる良書であると思う。歴史に興味がいささかでもある人にはぜひお薦めしたい一冊であると本書を高く評価したい。

  • 倉富勇三郎日記を解読しながら、彼の性格や当時の皇室スキャンダルを紹介。一風変わった角度から近代史が眺められます。
    やや馴染みの薄い人選ですが、難解でも”癖になる”日記のようで、原資料への挑戦心がくすぐられる人もいるのでは。
    併行して読んでた山本さんの有馬本にも似たような記述がありましたが、「倉富の文章は日記を装った究極の私小説なのではないか」など、総括してこういう感想を抱かせるのは華族の日記の特性?(初版発行もほぼ同時期のこの2冊は、内容を補い合って読めました。)

    細かい仕草まで描写する執念は、松本日誌をちょっと思い出したなあ。ただ、倉富のほうは日常の些細な起伏を中心に書きつけていたようです。

  • [ 内容 ]
    幕末に生まれ、明治、大正、昭和を生き、三代の天皇に仕えた倉富は、時代の変遷をどう見つめ、年月の足音をどう聞いて、記録にとどめたのか?
    宮中某重大事件、皇族・華族のスキャンダル、摂政問題、白蓮騒動、身辺雑記…誰も読み通せなかった近代史の超一級史料をノンフィクションの鬼才が味わい尽くす。

    [ 目次 ]
    序章 誰も読み通せなかった日記
    第1章 宮中某重大事件―怪文書をめぐる「噂の真相」
    第2章 懊悩また懊悩―倉富勇三郎の修業時代
    第3章 朝鮮王族の事件簿―黒衣が見た日韓併合裏面史
    第4章 柳原白蓮騒動―皇族・華族のスキャンダル
    第5章 日記中毒者の生活と意見―素顔の倉富勇三郎
    第6章 有馬伯爵家の困った人びと―若殿様と三太夫
    第7章 ロンドン海軍条約―枢密院議長の栄光と無念
    終章 倉富、故郷に帰る

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  •  2008年40冊目

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著者プロフィール

1947年東京生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。編集者、業界紙勤務を経てノンフィクション作家となる。1997年、民俗学者宮本常一と渋沢敬三の生涯を描いた『旅する巨人』(文藝春秋)で第28回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。2009年、『甘粕正彦乱心の曠野』(新潮社)で第31回講談社ノンフィクション賞を受賞。

「2014年 『津波と原発』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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