- Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062879927
作品紹介・あらすじ
金融危機は何を意味するのか?経済は成長し続けなければならないのか?なぜ専門家ほど事態を見誤ったのか?何が商の倫理を蒸発させたのか?ビジネスの現場と思想を往還しながら私たちの思考に取り憑いた病と真摯に向き合う。
感想・レビュー・書評
-
エッセーみたいな語り口なので、スラスラ読むことができます。
特に印象的だったのは、P179の「教育をビジネスで語るな」という内容です。
自分達の言葉遣いには、時代の影響が色濃く反映されています。
最近だとコスパという言葉が、時代を象徴していると感じます。
コスパは、コストパフォーマンスの略語ですが、今、社会のいたる所で、
この表現を見聞きします。
コスパは、ある商品が、その価格に見合うだけの価値が「自分にとって」あるORないかという判断基準のことです。
自分にとって、価値があるのか、ないのかをシビアに判断することが、当たり前になりました。
教育の世界にも、
投資、リターン、効率といった言葉が氾濫するようになりました。
母親の学歴が相対的に高く、
そして、一家の年収が高く、子供へ投資できる教育費が多ければ、多いほど、
子どもの学歴は高くなり、年収も高くなる。こういった知識を、
誰もが知るようになりました。
良いか悪いかは、別として、なぜ、そういった言葉が氾濫するようになったのか、
平川氏は、こう語っています。
教育の問題を経営の問題として、語っている。
(以下引用)
経営の問題、すなわち、ビジネス上の問題とは、利潤の確保という現実的、
即物的な目標達成のための処方箋を書き、それをひとつひとつ着実に実行してゆくことで解決されるべき問題である。
例えば、ある生徒の、数学のテストが悪い。テストの点数を30点上げるためには、どうすればいいか。
①毎日、問題集をやる、②わからない問題を先生に聞く、③間違った問題を繰り返し行う。
①~③を継続すれば、高い確率でテストの点数が上がります。
日本では、今、これを「教育」といっています。果たして、これが教育なのか?
私は、ビジネスの論理として、問題を考えることは、非常に大切なことだと思いますが、
それをやってはいけないという領域は、やはりあると思います。
教育にビジネス用語が氾濫しているということは、自分達を、商品として考えるということです。
つまり需給バランスで商品価格が決まる。それは、学歴、年齢、経験、知識、所属先を考慮して、
労働市場が個人に値札をつけている社会です。ここ20年で、日本社会は、人を見る基準が、かなり商品化していると思います。
つまり年収300万円の人は、年収600万円の人よりも、価値が劣るということです。
今の日本社会がまさにそうなっている感じがします。
ここ20年で、かなり、日本社会は階級的になったと感じます。
平川氏は、さまざまな著作で、警告していますが、
あまり効果は上がっていません。
多くの人が、今の社会に違和感を持っていると思いますが、
どうにも、ならないというのが、今の現状です。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
☆☆☆2019年9月☆☆☆
最近、平川氏の著作を読むことが多い。
共感できることが多いのだ。
ここのところ、日本は「お金」こそが人の価値を決めるかのような風潮が強い。貧しいことを恥と考える。
その根底には、経済成長至上主義や市場至上主義があるという。もっと人々の生活やヒューマンスケールを意識した「定常モデル」を確立することが大事だと筆者は説く、と僕は解釈している。 -
経済成長ありき、だけでは今後日本は行き詰るだろうという、著者の言いたいことの芯はぶれてないと思うが、どうにも煮え切らないようにも思える。では日本人はこれからどう生きていけばよいのか、対策や処方箋といったものが欠如しているせいかもしれないが、エッセイのように感じたことを述べて終わっている。著者もそれを承知で書いているし、読み手も承知しないといけないのだろう。ものの思考の方法として読むぶんには面白い。
-
お金
ビジネス
社会 -
日頃世の中に感じてる違和感を、見事に文章化してくれていました。「ほんとそうだよな〜」という箇所がたくさんあって本が付箋だらけになりました。
-
日頃感じていた事を言葉で伝えてくれると感激する、だから本を読みたくなる。
-
経済の話ではなかった。我々の世界を考える時に、本当によく考えよう、という話。専門家的ジャーゴンの外で、一枚うがち、かつ一歩引いて見ることが必要。「多様性/ダイバーシティ」ともてはやされているものは、実は既にある欲望を細分化しただけではないか、という指摘は痛烈。
経済成長についてのアプローチは「わからないが、どうわからないかをわかりたい」という迂遠なものなので、なかなか頭がひねられるが、広井良典さんの著作と合わせて読むと理解の助けになると思う。 -
著者の「事実に対する解釈」が非常に参考になるとともに、反省させられる。
大切なのは問いを持つこと、持ち続け、答えを模索することだ。 -
あまりにも哲学的な経営者・平川克己が、経済成長という神話に取りつかれた現代の問題を論じています。
著者は、経済、医療、教育など、あらゆる分野が、ビジネスのフレームワークの中で語られるようになり、そのフレームワークからこぼれ落ちたものに目が向けられなくなりつつある現状を批判します。こうしたフレームワークの中で、人びとはあらゆる問題について喧しく論じていますが、それは「考える」というよりも、経済を持続的に成長させることが何よりも正しくそれによってあらゆる問題が解決されるという「神話」によって「考えさせられている」という側面があります。著者は、盟友である内田樹と同様、こうした問題に対する鋭敏な感覚を示しています。
著者のめざすところはそれなりに理解できるのですが、話題が多岐に渡っている割には具体性に乏しく、けっきょくどのように考え方を変えればいいのか分からないまま放り出されてしまったという読後感を持ってしまいました。