原発社会からの離脱――自然エネルギーと共同体自治に向けて (講談社現代新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062881128

作品紹介・あらすじ

官僚支配、電力独占から抜け出すには-明日のエネルギー政策を、わかりやすく示す。これからのエネルギーとこれからの政治を語ろう。

感想・レビュー・書評

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  • 大震災の後、トータル的に自然エネルギーについて語れる人はこの人しかいないという状態になって、ずーとマスコミに出っ放しになっている飯田哲也氏の震災後初めての本になった。時間がないから対談本になっているのは仕方ない。いつかきちんと整理した自然エネルギーシフトへの啓蒙書を出して欲しいと思う。

    対談相手は、私は初めてだが、社会学者の宮台真司氏。氏によっておそらく今回の対談は歴史的な広がりを持った。今回の原発問題が、何度も繰返してきた日本の社会システムの過ちをまた繰返していることが明らかになった。歴史の教訓からどのように未来デザインを描くのかをある程度は示した。

    今回の原発問題が、戦前の大本営の失敗の歴史的教訓をそのまま繰返していることには気がついていたが、その問題の本質に「官僚問題」があり、それは幕末から続いていることについては、今回初めて知らされた。

    またびっくりしたのは、お二人とも私と同世代の1959年生まれ。大学入学時代には、しらけ世代全盛期で、その中で違和感を感じ、(身動きが取れなかったのは私だけだろうけど)人生を模索しながら生きて来たことに共感を覚えた。

    飯田氏は特に理工系の学部に進んだけど、今西錦司ゼミの学生と付き合う中でどうも鍛えられたらしい。表立っては行動に移せないけど、議論だけはする雰囲気があった。それが後々、原子力村の中枢に入っても違和感を覚えてそこをステップに次ぎに移る素地になったようだ。

    以下、幾つかなるほどと思ったところをメモ。

    ●【宮台】日本は、政治が主導的だった時代は明治維新以降、ほんの僅かな間しかなく、長く見積もって明治はんばぐらいまでしか続かなかった。それ以降は役人の力が巨大な官治主義が続きます。(略)大正になると政党政治つまり民治主義になるけど、政友会と民政党の政党争いの末、政友会が民政党浜口内閣のロンドン軍縮条約締結を統帥権干犯として批判したのを機に、軍官僚が総てを握る。(略)政治家と行政官僚はどこの国でも対立するわけですが、日本では圧倒的に政治家が弱く官僚が強いわけです。政治家の活動の余地は単なる利権の調整しかないので、ドブ板選挙をするしかない。政策にはほとんどタッチできません。
    ●【宮台】自立に向けて舵を切ろう、アメリカに依存する国であることをやめよう。田中角栄はそう考えて、対中国外交と対中東外交でアメリカを怒らせる独自路線を走ろうとしたわけです。それが例の「ピーナツ」という暗号が書かれたものが誤配されて見つかったという発覚の仕方で五億円事件まで行く。(略)いろいろな政治家に聞いてもアメリカの関与は良く分からないのですが、「田中角栄のようなことをやってはいけないんだな」という刷り込みにはなりました。
    ●【宮台】行政官僚には「無謬原則」がある。官僚機構の中では人事と予算の力学が働くので、「それは間違っていた」とは誰も言い出せない。これは大東亜戦争中の海軍軍司令部や陸軍参謀本部問題でもあります。
    ●【飯田】世界では自然エネルギーへの投資額が毎年30%-60%ほど伸びています。10年後には100兆円から300兆円に達する可能性がある。20年後には数百兆円、今の石油産業に匹敵する可能性がある。
    日本はこの投資の1-2%しか占めていません。日本は「グリーンエコノミー」の負け組みなのです。新しい経済を生み出す側で負けてしまっている。
    一方で日本は化石燃料を年間23兆円、GDPの約5%を輸入しています(2008年)。石油、天然ガス、石炭です。(略)(石油と石炭の)二つが、今後貿易黒字を縮小させるなど日本経済の負担になっていきます。新しい経済の側でどんどんチャンスを失い、しかも日本の電力は石炭だらけですから、その石炭代と、それで増えたCO2を減らしたことにするためのクレジット代でますます電気料金が上る。原子力はコストパフォーマンスが極めてお粗末ですから、新しい原発はできず、稼働率は低く、事故だらけ。それをまた石炭で補う。という極めて暗い未来像になります。
    →常識的に言えば、自然エネルギーへの転換が、日本の未来にとって、中国対策にとってでさえも、米国支配からの脱却という面でも、ベストな選択だろう。芥川の「危険思想とは、常識を実行に移そうとする思想である」という言葉が思い浮かぶ。唯一の心配は、飯田のこの試算がほんとうに正しいかどうか、ということだろう。
    ●【飯田】霞ヶ関文学の本質はフィクションと現実を繋いでいく言葉のアクロバットです。
    ●【宮台が飯田の半生を要約】p74

  • (2012.10.17読了)(拝借)
    【東日本大震災関連・その104】
    副題「自然エネルギーと共同体自治に向けて」
    かみさんの本棚から拝借しました。東日本大震災の後比較的早く出版された本です。
    福島第一原発の事故により、原子力発電は事故が起こると実に大変な事態を引き起こすことが実感されました。そこで、原子力以外の方法で、電力を確保する方法が可能なのかについて考察した本です。
    海外の事例や東京、長野での取り組みが紹介され、工夫次第で、原発社会から自然エネルギー社会への転換が可能であろうと・・・・・・。

    【目次】
    まえがき 「原発をどうするか」から「原発をやめられない社会をどうするか」へ 宮台真司
    1章 それでも日本人は原発を選んだ
    2章 変わらない社会、変わる現実
    3章 八○年代日本「原子力ムラ」探訪
    4章 欧州の自然エネルギー事情
    5章 二○○○年と二○○四年と政権交代後に何が起こったか
    6章 自然エネルギーと「共同体自治」
    7章 すでにはじまっている「実践」
    あとがき フクシマ後の「焼け跡」からの一歩  飯田哲也

    ●無謬原則(45頁)
    行政官僚制には「無謬原則」がある。官僚機構のなかでは人事と予算の力学が働くので、「それは間違っていた」とは誰も言い出せない。これは大東亜戦争中の海軍軍令部や陸軍参謀本部問題でもあります。(宮台)
    ●霞が関文学(70頁)
    霞が関文学=官公庁の文章
    「霞が関文学」の本質は「フィクションと現実を繋いでいく言葉のアクロバット」です。(飯田)
    ●自己の時代(76頁)
    僕は『終わりなき日常を生きろ』(筑摩書房)という95年の本で、冷戦体制が終わる時代が、科学が輝く時代の終焉と重なると書いています。「未来の時代」が終わり、「自己の時代」が本格的に始まります。(宮台)
    ●アメリカ依存(86頁)
    日本で奇妙なのは、エネルギーを外から得なければだめだという問題が安全保障に繋がってないことです。単にアメリカに依存すれば大丈夫という話ですべてスルーされるのがおかしい。普通は食料とエネルギーはいざとなったら自給できなくてはいけないという話になるはずです。(宮台)
    ●原子力推進派(114頁)
    原子力発電所をひとつ作ると、非常に大きな波及効果がある。発電量も大きく、温暖化防止にもなる。原子力を推進すれば、技術も磨かれ、産業としてもエネルギー対策としても発展する有望な技術だ、と考えている。(飯田)
    ●再処理と直接処分の経済性(119頁)
    福島瑞穂さんが国会で「再処理と直接処分の経済性を比較したことがあるのか」と質問して、当時の日下一正資源エネルギー庁長官が「今までは検討したことがありません。これから検討します」と答弁した。実は日下さんの後ろのキャビネットには、直接処分のほうが安くつく報告書があったのです。(飯田)
    ●蓄電池付き(150頁)
    自動車の蓄電池を活用するより早いのは蓄電池付きの冷蔵庫やテレビかもしれません。計画停電になって冷蔵庫が止まり、みんなが困った。だから蓄電池付き冷蔵庫の発売がすぐ決まりました。技術的には簡単です。(飯田)

    ☆関連図書(既読)
    「私たちにとって原子力は・・・」むつ市奥内小学校二股分校、朔人社、1975.08.03
    「食卓にあがった死の灰」高木仁三郎・渡辺美紀子著、講談社現代新書、1990.02.20
    「私のエネルギー論」池内了著、文春新書、2000.11.20
    「ぼくとチェルノブイリのこどもたちの5年間」菅谷昭著、ポプラ社、2001.05.
    「これから100年放射能と付き合うために」菅谷昭著、亜紀書房、2012.03.30
    「原発と日本の未来」吉岡斉著、岩波ブックレット、2011.02.08
    「緊急解説!福島第一原発事故と放射線」水野倫之・山崎淑行・藤原淳登著、NHK出版新書、2011.06.10
    「津波と原発」佐野眞一著、講談社、2011.06.18
    「福島の原発事故をめぐって」山本義隆著、みすず書房、2011.08.25
    「官邸から見た原発事故の真実」田坂広志著、光文社新書、2012.01.20
    「飯舘村は負けない」千葉悦子・松野光伸著、岩波新書、2012.03.22
    (2012年10月28日・記)

  • デモには最早、意味がないという宮治教授の記事を読んで、なんとなく感じていたことを形にしてもらった気がした。

  • 何かに依存することで得られる安定や安心が、実は不安やリスクの裏返しであることを改めて認識。さて自分はこの先依存体質から脱却できるだろか。

  • 宮台真司の本を買うのなんて、たぶん20年ぶりくらい。正直、その「口調」があまりフィットしなかったのだが、この本は興味深く読んだ。

    東北電力における白洲次郎のファンクションは僕には謎である。案外、言われているようなレジェンドではないのかもしれない。今後調べてみたいテーマだ。

    CO2と原子力の関係や六ケ所村の問題など、いろいろと勉強になる本だった。

  • なぜ日本が原発推進から軌道修正できないのか。明らかに文化的、組織的問題、国民的問題。エネルギーや技術の問題ではない。ただ、この霞ヶ関が変わらない一旦が日本の政治の問題でもあり、国民の意識と
    行動の結果であることは目を背けられない。3/11の直後に流れを作りたくて発刊していることがすごい。にも関わらず、日本は変わらなかったことが悔しい…

  • 「原発を止めた裁判長」というドキュメンタリー映画を見た。
    裁判長の本も読んだが、その中に登場する技術者・飯田哲也氏のことを知りたくて手に取った一冊。

    https://saibancho-movie.com/

  • 悪い心の習慣を私たちは排除できるか。
    それができなければ、私たちの社会は安定化せずに、滅びていくだろう。

  • 宮台さんと、飯田さんの知識が、どうやって原発に向かっていくのか、わくわくしながら読了。2人の生きてきた背景と、そこに結びつく経験と知識が、直接原発について語られなくても、浮き上がってくるのが面白い。

  • 非常におもしろかった。我々が知らない画期的な自然エネルギーについての話がたくさんあってとても勉強になる。飯田さんの豊富な知識もさることながら宮台氏の鋭い考察も読んでいて唸らされる。なぜもっと早く読んでおかなかったんだろう?

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著者プロフィール

宮台真司:1959年宮城県生まれ。社会学者、映画評論家。東京都立大学教授。1993年からブルセラ、援助交際、オウム真理教などを論じる。著書に『まちづくりの哲学』(共著、2016年、ミネルヴァ書房)、『制服少女たちの選択』(1994年、講談社)、『終わりなき日常を生きろ』(1996年、筑摩書房)、『私たちはどこから来て、どこへ行くのか』(2014年、幻冬舎)など。インターネット放送局ビデオニュース・ドットコムでは、神保哲生とともに「マル激トーク・オン・ディマンド」のホストを務めている。

「2024年 『ルポ 日本異界地図』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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