なぜ僕はドキュメンタリーを撮るのか (講談社現代新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062881135

感想・レビュー・書評

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  • ドキュメンタリー映画を最近好んで見る。多額のお金をかけずにプロの俳優も使わずに、自分たちのお金で自分たちの映画を撮るドキュメンタリー映画。有名になって大ヒットしたりすることもないけれども、じわじわと感じられるよさがある。

    そんな映画の中でもマイナーのドキュメンタリー映画の中で、ちょっと変わった映画が想田監督のドキュメンタリー映画である。彼はセレンディピィティを追い求めて映画を撮るという。
    “Serendipity” :思いがけないものを偶然発見すること、能力
    想田監督の映画は「観察映画」というスタイルを標榜する。台本を書かない観察映画の方法は予期せぬ偶然や発見を呼び寄せ人々の内面のやわらかい部分を描き出す。
    作り始めの時にはテーマもなく撮影がどうなるか分からず、一種のギャンブルともいえるが、偶然が拾える準備は入念にしておき、Serendipityが訪れるときを逃さない。

    もともと彼はNHKのドキュメンタリー番組を撮っていた。ひとつのドキュメンタリー番組では撮影スタイルは今とは間逆で、台本通りに撮ることに重きが置かれていた。
    一方、観察映画を撮るにあたっての10の具体的方法論は以下の通り。
    1. 被写体や題材に関するリサーチを行わない。
    2. 被写体との撮影内容に関する打合せは原則行わない(集合場所などは除く)
    3. 台本は書かず、撮影前や撮影中に作品のテーマや落としどころを設定しない。行き当たりばったりでカメラを回し、予定調和を求めない。
    4. 機動性を高めるためカメラ・録音は原則一人で回す。
    5. 必要ないかも?と思ってもカメラは原則長時間で回す。
    6. 撮影は広く浅くではなく狭く深くを心がける。
    7. 編集作業でもあらかじめテーマを設定しない。
    8. ナレーション、説明テロップ、音楽を原則として使わない。
    9. 観客が十分に映像や音を観察できるよう、カットは長めに編集し、その場に居合わせたかのような臨場感や時間の流れを大切にする。
    10. 制作費は基本的には自社から出す。

    本当に上記の方法でうまく撮影できるのだろうか、と思ってみてみたのが、想田監督の最新映画は「牡蠣工場」という映画。奥さんの実家のある岡山県牛窓で漁師さんに出会う。日本の漁業に関しての映画が撮れると思い、「仕事場」に行くと、そこは牡蠣の殻剥き工場。船で魚を撮るイメージを想像していたがはじめから大きく覆される。
    しかし、監督は観察を欠かさない。工場のカレンダーの脇に「9日中国来る」という書き込みがあり、そこから牡蠣工場の牡蠣剥きという作業が高齢化が進み中国からの研修生無しには成り立たなくなっている現状や、しかし中国から来た研修生がいつの間にかいなくなってしまって受け入れが必ずしもすんなりうまく言っているわけではない現状が次から次へと明らかにされていく。

    多分いいドキュメンタリー映画は遊びがあり、見た人それぞれの感じ方が異なり、いろいろな解釈がある映画を指すのだろうと思う。
    例えば、普段の仕事でも、計画通り(台本通り)にある決められた範囲の答えに向かって進めるのはとても大事なことだけれども、計画や結論ありきの仕事はこなす感じになってしまうし、なにかとても大事な出会いを失ってしまうような気もする。
    そんなことを考え、来るべきセレンディピティが来たときに気付けるように、適度に計画を緩めて過ごして行きたいと思う。

  • 778.7

  • ドキュメンタリーというジャンルで映画を作っている監督が自分が撮った映画『選挙』『精神』『peace 』という作品をベースにドキュメンタリーについて、自分の作品について深く記述してある。ドキュメンタリーといっても様々な方法や手法があることや、監督自信が撮影するに当たって気をつけていることや自分の作品への回顧など、ドキュメンタリー映画の業界の事など、映画好きの人は楽しく読める。

  • タイトル通り。
    「選挙」「精神」「Peace」の裏話も知ることが出来ます。

  •  「精神」や「選挙シリーズ」のドキュメンタリー映画監督の想田和弘が「PEACE」の撮影の裏側交え、ドキュメンタリー映画とは何かを語る。

     ナレーションもBGMもない観察映画を手法とする想田監督。テーマを持たず撮影をし、撮り終えてからテーマが見えてくるのだと言う。だからこそ、映画を見る方は多彩な感じ方をすることができるのだと思う。
     ドキュメンタリー撮影のカメラを向けることの怖さについても触れられている。その危険性は常にあるが、ドキュメンタリーの必要性は決して揺るがないと思う。

     この本を読めば、想田監督の作品に限らずドキュメンタリー映画をもっと楽しむことができるはず。

  • 恥ずかしながら今まで知らなかった映画監督、想田和弘さんの著作です。
    「台本や事前のリサーチ、ナレーションや音楽などを使わない「観察映画」の提唱者」だそうで、本書ではドキュメンタリーとは何か、なぜ人がドキュメンタリーに惹かれるのかについて、想田さんの丁寧な言葉で綴られています。
    4章にある、

    究極的には「人間の心の中を垣間見たい」と思って劇場にやってくるのだと思う。

    という意見に物凄く納得させられました。
    私は観察映画と聞いて、大好きな「花とアリス」を連想しましたが、あくまであの作品から私が感じたのは、主演二人の演技力であり、それを引き出す岩井監督の技量であり、「人間の心の中を垣間見た!」とまでは思いませんでした。
    と、いうワケで今、「映画作家が撮れるのは、撮影者の存在によって変わってしまった現実以外にあり得ない」と言い切ってしまう想田さんの作品をモーレツに観てみたい。

  • フレデリック・ワイズマン

    結果的にテーマが出てくるのはよいが、製作中にテーマに縛られないことが肝心なのである

    個人的には、タイトルはシンプルであればシンプルであるほど、観客の頭の中でイメージが広がりやすく、強い印象と余韻を残すのではないかと思っている

    ショットが長ければ長いほど、観客に自分の目で観察・解釈できる時間が与えられるので、映像は多義的になる。逆にショットが短ければ短いほど、作り手による操作の強度が高くなり、映像は多義性を失っていく

    観客に観察モードを立ち上げさせるために、長いショットを使う

    つくづく思うのは、作品が結果だとすれば、方法論は原因である。旧態依然たる作り方をすれば、必ず作品もそうなる。原因をそのままにして、結果だけ変えようとしても無理だからである。逆に言うと、作品を変えたければ、方法論を変えればよい。それは映画だけでなく、あらゆる分野の「イノベーション」に言えることだと思う

    マース・カニングハム チャンス・オペレーション

    ブレアウィッチは、映し出された学生たちが現実に存在し、彼らの身に降り掛かった出来事が実際に起きたものだという前提があってはじめて、観客を魅了することができた
    同じ映画を観ても、それをドキュメンタリーだと思って観るのと、フィクションだと思って観るのでは、こうも印象が違うものか

    観察は、他者に関心を持ち、その世界をよく観て、よく耳を傾けることである。それはすなわち、自分自身を見直すことにもつながる。観察は結局、自分も含めた世界の観察にならざるを得ない

    映像にはそのような言葉の呪縛、つまり固定観念を乗り越えられる可能性がある。既成の言葉を介在させることなく、現実をダイレクトに映し出すことが可能だからだ。だからこそドキュメンタリー映像は、うまくすれば、現実を理解する枠組そのものを溶解させ、更新するための契機になり得る。ドキュメンタリーにナレーションによる説明が不要であることの、もう一つの重要な理由であろう

    演劇を観る人々は、「人間の心の中を垣間見たい」と思って劇場にやってくる(平田オリザ)
    そして、俳優が演じる演劇なら、いくら人間の心の内側を覗き見ても、倫理に反することはない

  • ドキュメンタリーの面白さが伝わってくる。
    観察映画を撮ってみたいと思った。

  • なんかパッとみて、パッとわかるものが増えた。

    そりゃ白黒つけるのが好きな性格だけど、
    世の中はもっと曖昧な方が生きやすそう。

    この人の見た世界を覗きたいな。

    2015/01/21
    また読んだ。
    偶発性、偶然性。
    セレンディピティ。
    妄想をさせる余白。

  • 今夏「Peace」という映画を見ました。
    その監督がこの本を書いているのですが、映画の裏側、思いを綴っていて、予備知識なく映画を見た私の(映画を見て不思議に思っていたことの)謎解きをしてもらいました。

著者プロフィール

1970年、栃木県生まれ。映画監督。東京大学文学部宗教学科卒。ニューヨークのスクール・オブ・ビジュアル・アーツ卒。台本やナレーション、BGM等のない、自ら「観察映画」と呼ぶドキュメンタリーの方法を提唱・実践。監督作品に『選挙』『精神』『peace』『演劇1』『演劇2』『牡蠣工場』『港町』『The Big House』『精神0』等があり、海外映画祭等での受賞多数。

「2022年 『撤退論 歴史のパラダイム転換にむけて』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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