発達障害のいま (講談社現代新書)

著者 :
  • 講談社
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感想 : 60
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  • Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062881166

作品紹介・あらすじ

発達障害から発達凸凹へ。発達障害児の陰に潜む家庭の問題とは?こころの骨折・トラウマはどう治す?脳と神経に何が起こっているのか。

感想・レビュー・書評

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  • 2011年の本なのだけど、紹介されていただけあって、分かりやすかった。

    分かりやすい反面、読んでいると、色々苦しいことを思い出したり考えたりしたし、今もそれが考え方や行動に及んでいたりする。

    発達障害と虐待は結び付きやすく、愛着形成の阻害とトラウマが加わることで悪化すること。
    そして、虐待は親の代から連鎖的に受け継がれていき、親御さん自身が発達障害を抱えている場合も少なくないということ。
    自閉症スペクトラム、緘黙、不登校などの背景にはこうした問題が解決されないまま、大人になっていく子どもたちもいる。

    私が知っている中でも、やはり親自身も精神的に病んでいたり、兄弟も学校に行けていなかったりという背景を持っている人がいた。

    ただ、トラウマや拒食症を治していく話や、発達障害への対応の仕方、また大人の発達障害の話など、筆者が患者さんたちと向き合ってきた姿が見え、希望も感じられる。

    学校に行けないとか、会社に行けないという状況に対して、行きたくなければ行かなくていいよ、という言葉を私自身はすんなり言えずにいる。
    よく「困り感」という言葉で表されるけれど、その困った部分を取り除けるように様々な場所に頼りながら一緒にやっていく姿勢が、まずは大事だと思う。

  •  発達障害は遺伝的要素と環境的要素があり、適切な介入により緩和(完治ではない)できる、というのが本書の趣旨であると思う。
     2001年から2010年まであいち小児保健医療総合センターで心療科(児童精神科)部長として赴任した著者が、その臨床の中で得た知見をまとめた本書は、2011年現在の「発達障害のいま」を伝えてくれる。もちろんこの世界は日進月歩で2017年現在には2017年の「いま」があるわけだが、まずは知る所から始めたい。

     「発達障害」というのは法律で決められた用語であるのだが、その「障害」という字面から重く、しかも悪いものと受け止められがちである。しかし必ずしも自立した生活が営めないわけではないし、むしろその特性から偉大な成果を上げた人も少なくない。
     哲学者ウィトゲンシュタイン、詩人ウィリアム・バトラー・イェイツ、作家にして数学者ルイス・キャロル、インドの数学者ラマヌジャン、他にもアインシュタインやニュートン、ゴッホも発達障害(あるいはその傾向があった)と言われている。
     著者は臨床の中で、いきなり「障害」という言葉を使ってしまうと、仮に「疑い」とつけたとしても言われた人やその家族が強い衝撃を受けてしまうので、次のように答えることにしている。
    「いえ、お子さんは発達障害ではまだありません。診断を下すとしたら発達凸凹です。これはマイナスとは限りません。発達障害にならないようこれから一緒にやっていきましょう」
     「凹凸(おうとつ)」でなく「凸凹(デコボコ)」としたのはマイナスとは限らない、というニュアンスを強調するためである。この発達凸凹を放置しているとやがて適応障害を併発し「発達障害」へと進化していくのである。

     さて発達凸凹の原因として、まず遺伝が挙げられる。双子の一人が自閉症スペクトラム障害の場合、一卵性双生児なら7割から9割の確率でもう一人も自閉症スペクトラム障害を持つ。二卵性だと5~10%程度に下がる。兄弟姉妹だとやはり5%程度である。また発達凸凹を持つ子の親もまた発達凸凹的要素を持つことが多い。
     出産年齢の上昇によってもリスクが高まる。正確には婚姻年齢というか、男性の晩婚化である。自閉症スペクトラムなどのリスクは父親の年齢とともに高まり、母親の年齢は関係ない。(高齢出産になる前に卵子を凍結するというニュースがあるが、どちらかといえば精子の凍結保存のほうが重要なのかもしれない)
     こうした出生前、出生時のリスク上昇とはまた別に、新生児の神経系のバランスに影響を与えるような要因、例えば刺激が多すぎたり少なすぎたりということでもまたリスクは上がる。
     太りやすい体質の人でも、食事量や運動量に気を使っていれば肥満は避けられる。逆に太りにくい体質の人も暴飲暴食を続ければ肥満になる。発達凸凹においてもそれと似たことが言える。

     自閉症や自閉症スペクトラム障害は、純然たる「心の問題」ではなく、大脳辺縁系の機能障害という具体的な要因を持つ。たとえば、人間はある行動を繰り返すことにより身体が行動を覚えて、あまり考えなくても動けるようになる。この「自動化」をつかさどる部分に異常があると物事を覚えにくい、いわゆる「発達障害の症状」が現れる。
     ある種のホルモンが出にくいことがその機能障害の原因であれば、適切な薬の投与によって症状は改善する。だから投薬治療が効果的なのである。

     さて、投薬によって症状が緩和したとしても、発達凸凹が直ちに治るわけではない。発達障害とは読んで字のごとく、発達に障害があることをいう。人間はさまざまなことを学習しながら発達していくわけだが、先述した脳の機能障害、例えば物覚えが悪い子というのは、集団学習の中では「あの子はできなくても仕方ないね」というように適切な学習を受けられない事が多い。
     となれば、仮に12歳で投薬を始めたとして、しかしその時点での発達が8歳程度でしかなければ、4年分を埋めなければ集団生活、社会生活に困難を抱える、「生きづらい」ままである。だからこそ投薬とあわせてさまざまなフォローが必要なのである。ここに関しては「心の問題」である。
    (発達障害のある子を無理矢理普通学級に通わせる親という話が時折見られるが、何故これが批判されるかといえば、普通学級はどうしても健常者のペースになるので落ちこぼれてもフォローされず、ますます発達が阻害されてしまうからであろう)

     近年発達障害を持つ人が増えたといわれるが、要は診断基準が変わったということで、かつてはかなり重度でなければ自閉症と判断されなかった。しかしよくよく調べるとさまざまなレベルがあり、重度だけでなく軽度でも自閉症、あるいは自閉症スペクトラム障害と診断されるようになったのである。
     もともと脳の機能障害には遺伝的要素があり親から引き継がれやすいのと、子育ては健常者でさえ難しいのに、そうした障害を持つ親にとってはなおさらで、障害を持つ子は輪をかけて育てにくいタイプなので結果的に虐待を招き、虐待によりトラウマが生じ、このトラウマが発達障害を悪化させるという哀しき連鎖である(ここでは割愛するが、トラウマが発達障害の重要因子であることも本書では述べている)。
     こうした親に発達凸凹の自覚がなく、「なぜ普通の人にできるのに自分にはできないのか」という自責の念が親を追い込み、うつやネグレクト、虐待を招くという悪循環にも繋がりかねない。
     だからこそ発達凸凹の治療を行う場合は、専門の知識を持った医師の介入が必要であるとともに、親にも発達凸凹の要素があるかを確認し、もしあれば親の治療も併せて行わなければならないのである。
     このように「子供が育てにくいと思ったら、子供だけでなく親も発達障害でした」という事例がかなり多いようで、「生きづらいと思ったら親子で発達障害でした(モンズースー著)」にも詳しい。こちらの書籍は漫画で読みやすいので入口として良書であると思う。

     発達凸凹を引き起こす脳の機能障害を持つ人は決して珍しいものではなく、21世紀には自閉症スペクトラム障害は人口の1~2%程度と報告され、筆者の実感としてはもっと多いだろうと述べている。
     機能障害は容易に治るものではないので、該当者は治療というよりは「障害との付き合い方」を学ぶ必要がある。それは程度によってさまざまで、投薬が有効な人もいれば、日々の習慣づけで良化する人もいる。周囲に理解者がいれば心強いだろう。
     自分が物をおぼえにくいことを知っていれば、意識して覚えるように努めるとか、忘れても思い出せるようにメモをするとか、あるいは周囲に説明して理解してもらうとかいった対策もできる。「自分は物覚えが悪い、文句あるか」と認めてしまうことである種の諦観、達観を持つと、ストレスが和らぐこともある。
     先述の通り発達凸凹を持つ人の中には特異な才能を発揮する人も多い(残念ながら発達凸凹だからといって必ずしも天才である訳ではない)。興味のないことにまったく集中力が続かなくても、好きなことにはとことんまで集中し、結果として産業や研究、芸能で偉大なイノベーションを果たすかもしれない。むしろそうした「アスペ」な人たちによって世の中が進んでいる部分もあるのではないか、と著者は言う。

     発達凸凹に悩む人たちにとっては当然我が事であるが、世界の発展のためにも、こうした人々が生きやすくなるような変革が求められるのではなかろうか。

  • 2023/08/24 Kindle
    いい本だと思った

  • とても内容の濃い本だった。発達凸凹はマイナスではなく、得意を伸ばせば独創的な活動のできる人になる。だが、発達障害となると社会や周囲への適応が難しくなり、加害性、被害性を帯びることもある。また、従来の精神科診断では見落とされがちであった「発達」と「トラウマ」の問題の重要性を指摘。発達凸凹を障害にしない、トラウマを作らないための周囲の対処法も説明されている。より理解を深めたい。

  • 凸凹理論、ここに。被虐待児童と被虐待経験のある成人を数多く診てきた著者だから語れるものがここにある。ラベルを貼るのではなく、特性として理解し、アセスメントすることが共生への第一歩だろう。システム論を援用した構造的な理解との併用が必要であるが...。

  • 発達障害治療者視点の本。重症な発達障害(虐待・第二世代・クレーマー化など)の対策も網羅されていて、専門的。本気で発達障碍者と向き合おうとしてきた著者の姿勢がうかがえ、症例も多数。

  • 前著も目から鱗だったが、本書も本当に知っておくべきことが学べた、という衝撃をもって読み終えた。読むのと読まないのとでは、全く人を見る目が変わってしまう著書だ。今後の精神医学にとって、トラウマと発達障害の扱いがメインテーマという著者の主張に深く首肯した。日本の転換期を作る本だ。

    ・胎盤の重さに関係が認められるのは、母親の年齢ではなく、父親の年齢。
    ・男性脳と女性脳の明確な違い。自閉症率の違いが。
    ・自閉症スペクトラム同士の結婚と自閉症スペクトラムと元被虐待児の結婚例が多い。
    ・虐待的絆。いくら忌避される記憶でも、子どもたちにはそれこそ生きる基盤になっている。
    ・虐待の脳への影響は、発達障害よりもはるかに甚大で広範囲。
    ・緘黙に自閉症が併存。入院が奏功する。外来で遊戯療法は無意味。
    ・人に評価されるには目立つのがよいと、無理をして立候補して、逆に顰蹙を買う。
    ・二つのことが一度にできない
    ・整理整頓が出来ない、整理魔も。
    ・興味の偏りが激しい。興味のないことを完全に無視する。代償はハウツー本の信奉として現れる。
    ・KYと他者配慮が出来ないはべつもの。
    ・集団での介入は難しい。親への指導を含んだ個別対応が良い。
    ・強く叱責された時は周囲の情報が飛んでしまい、叱られたということだけが残る。

  • 発達凸凹。新しい概念。障害というより個性尊重な感じで、とらえやすい。

  • 精神病と自閉症スペクトラムの関係がわかりやすく説明されている本。トラウマ治療の方法EMDRをもっと詳しく知りたいし、簡易的にでも自宅で対処できる方法があれば知りたい。

  • 【書誌情報】
    製品名:発達障害のいま
    著者:杉山 登志郎
    発売日:2011年07月15日
    定価:本体800円(税別)
    ISBN:978-4-06-288116-6
    通巻番号:2116
    判型:新書
    ページ数:264
    シリーズ:講談社現代新書

     18万部のロングセラー『発達障害の子どもたち』に、待望の続編が登場! 発達障害児の陰に潜む家庭の問題とは? こころの骨折・トラウマはどう治す? 脳と神経に何が起こっているのか? 「発達凸凹」という新しい考え方とは? 保護者、教育関係者から小児科医まで必読の書。
    http://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000210602


    【簡易目次】
    目次 [003-005]
    発達障害の新たな分類とその経過 [006-007]

    序章 母子並行治療をおこなったヒナコ 009
    第一章 発達障害はなぜ増えているのか 025
    第二章 発達凸凹とは 043
    第三章 発達凸凹の可能性 065
    第四章 トラウマの衝撃 087
    第五章 トラウマ処理 117
    第六章 発達障害とトラウマ 136
    第七章 発達障害と精神科疾患 その1 159
    第八章 発達障害と精神科疾患 その2 189
    第九章 未診断の発達障害、発達凸凹への対応 221
    終章 療育、治療、予防について 239

    主要参考文献 [253-255]
    あとがき [256-259]



    著者紹介
    杉山登志郎(スギヤマ トシロウ)
    1951年、静岡県生まれ。あいち小児保健医療総合センター心療科部長などを経て、2010年より浜松医科大学児童青年期精神医学講座特任教授。日本における児童精神医学の第一人者で、多くの患者や家族、医療関係者、教育関係者から信頼を得ている。

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著者プロフィール

福井大学, 子どものこころの発達研究センター, 特任教授

「2023年 『そだちの科学 40号』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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