- Amazon.co.jp ・本 (432ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062881890
感想・レビュー・書評
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現在のハマスとイスラエルの衝突について理解を深めたいと思い読んでみた。どうしても宗教問題として見てしまいがちだったが、根本は領土問題であること、そのきっかけはオスマン帝国の滅亡や植民地支配を望むイギリスの三枚舌外交であることに加え、もともとユダヤ教徒はヨーロッパにおいてキリスト教徒からも排斥や差別を受け、自国からユダヤ教徒を追い出したい人たちがシオニズム運動を支持することや、アメリカが911以降始めた戦争により広めたイスラモフォビアもこの問題の泥沼化の要因の一つであることなど、結局大国やヨーロッパの国々にも大きな責任がある問題であるということが理解できた。
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2013年発行の新書。イスラエルとパレスチナが抱える長年にわたる拗れた関係性を、ユダヤ/イスラム/キリストという3つの一神教の成立、十字軍、近代以降の西欧諸国の中東地域の植民地支配、第二次大戦以降のシオニズム運動の勃興、イスラエル建国、3次にわたる中東戦争、湾岸戦争、21世紀初頭のアラブ革命までを俯瞰。
あまりにも細かく複雑なので一読しただけだと関係性が理解できない。Kindleハイライトしまくって、何度か読み返して理解していく感じ。
2013年の本なので、アフガニスタンにおけるタリバンの政権掌握、シリア内戦の激化、トランプ政権時のアメリカの対イスラエル外交政策の変化、といった最近の事象はもちろん書かれていない。
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「パレスチナ」をめぐる政治的紛争はなぜ解決できないのか? 難問の構造を歴史から読み解いていく。
第一部 パレスチナという場所
第1講 パレスチナという地域とその宗教と言語
第2講 ユダヤ教から見たキリスト教と反ユダヤ主義の起源
第3講 イスラームから見たユダヤ教とキリスト教
第4講 ヨーロッパ対イスラーム─「一四九二年」という転換点
第5講 オスマン帝国と東方問題
第二部 列強の対立に翻弄されるユダヤ人とアラブ人
第6講 帝国主義時代の宗教、民族、人種
第7講 第一次世界大戦とパレスチナ委任統治
第8講 第二次世界大戦と国連パレスチナ分割決議案
第9講 イスラエル国家建設とナクバ
第10講 アラブ・イスラエル紛争の展開
第三部 「アメリカの平和」の終わりの始まり
第11講 第三次中東戦争以降のパレスチナ問題とイスラエル
第12講 冷戦終焉後の中東和平の挫折
第13講 九・一一事件後のパレスチナ/イスラエル紛争
第14講 アラブ革命とパレスチナ問題の現状
第15講 パレスチナ問題と日本 -
著者の臼杵陽氏は、東京外語大アラビア語学科卒の、在ヨルダン日本大使館専門調査員、エルサレム・ヘブライ大学トルーマン平和研究所客員研究員などの経験を持つ、現代中東政治・中東地域研究を専門とする政治学者。
本書は、過去一世紀に亘り、中東問題、更には世界政治問題の中心の一つであり続け(ここ数年でこそ、中東の焦点はISに当たってはいるものの)、かつ、未だに解決の糸口さえ見いだせない「パレスチナ問題」を、世界史という長期的・広域的な観点から位置付け、問題の根源がどこにあり、それがどのように展開し、現状はどうなっているのかを詳細に考察したものである。
内容は、大きく3部に分かれ、第1部では、3つの宗教(ユダヤ教、キリスト教、イスラム教)の相互関係から始まり、十字軍、東方問題まで、第2部では、帝国主義時代から第一次世界大戦後の英仏支配、第二次世界大戦後の米ソ冷戦期におけるアラブ・イスラエル紛争のうち第三次中東戦争に至るまで、第3部では、パレスチナ・イスラエル紛争への変質(アラブ・イスラエル紛争のパレスチナ化)から、湾岸戦争後のアメリカ単独一極支配とそのアメリカの覇権の終焉、アラブ革命の勃発までを扱っている。
私は、本年1月にエルサレムとパレスチナを1週間ほど一人旅をするにあたり、知識を深めるために本書を購入した(旅にも持参した)のだが、新書ながら400頁を超える中身は非常に濃く、大変役に立った。特に、前近代における「ユダヤ教徒という信徒集団」が、近代に入って社会進化論・人種論あるいは優生学などの疑似科学的な議論の広まりの中で「ユダヤ人という人種」とみなされるようになっていったこと、第1次中東戦争の裏側には、イスラエルとトランスヨルダン(現ヨルダン)とそれ以外のアラブ諸国の三者にそれぞれの思惑があり、全体としては事前の秘密合意に従った軍事作戦を展開していたことなどの詳しい記述は、大いに興味を惹くものだった。
著者は最後に、「私自身、かつてパレスチナ問題を語ることは人類の解放を語ることにつながるのだという確信をもち、差別や抑圧のない社会を作るための一助になりたいという理想に燃えていたことがありました。・・・このような新書を著すことによって問題の所在を明らかにして解決の方向性を見出そうと試みたのですが、いっそう深い森に迷い込んだ感じで、むしろ将来的な展望が見出せなくなってしまったというのが本音といったところです」と記しているのだが、実際に現地を歩いてみると、宗教と民族とナショナリティが多次元的に複雑に絡み合っていることを実感し、自分としても著者と同様に混乱の度合いが深まったような気がする一方で、エルサレムやベツレヘムやラーマッラーでは、少なくとも表面上は穏やかで平和な時が流れているということも強く印象に残ったのである。
宗教・歴史・政治あらゆる面からの現代世界の縮図ともいえる「パレスチナ問題」を深く理解し、更に世界の将来を考えるために有用な一冊と思う。
(2017年1月了) -
イスラエル/パレスチナ問題を、聖書の時代から現代に至るまで、懇切丁寧に解説してくれる本著。「どうしてこうなったの?」と思う方々は、ぜひ、手にとってもらいたい。
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パレスチナを含む、中東の泥沼事情を知るために読了。
「イエス・キリスト殺し」「十字軍」「レコンキスタ」「大航海時代」「オスマン帝国の東方問題」などなど、重要な世界史の事件を時代ごとに切り抜いて現代のパレスチナ問題を巨視的に捉えている良書。
かなり専門用語も多く、複雑な問題が折り重なっているので
「読んでだいたい分かった?」と聞かれると、うーんと唸ってしまう。
歯切れの悪い答えしかできない。
ただ、国際政治の登場人物が誰なのか、いつぐらいに何をきっかけにして登場してきたのかというのは、読む前に比べるとだいぶ理解が深まった気がする。頭の中の中東地図がだいぶクリアになってきた。
<引用>
パレスチナ問題がいまだに解決を見ないのは
国際政治と地域政治と国内政治の三層構造の中で、相互にがんじがらめになっているからです。 -
大変わかりやすい構成で、歴史的背景がとてもよく分かる本。
これ一冊で大体のパレスチナ問題の大筋は分かる読みごたえのある本。
紛争当事者たちも解決を求めている。
イスラエル人のシャローム(平和)とパレスチナ人のサラーム(平和)がそんなにもかけ離れてるとも思えない。
にもかかわらず、和平交渉は難航し、解決の糸口さえも見つからない。
言うは易しやるは難し
【どうすれば解決できるかよりも、なぜこれまで解決できなかったのかという視点を持たなければならない。】
このアプローチの仕方は大変遠回りではあるけれど、大変興味深い問題だ。
会社組織においても小手先の解決策や、企画をうったところで何も変わらない。やった気になってるだけの奴が多い。
歴史を学び、擦り合わせることをしなければ、新たな視点も見えてこない。そう感じた。
パレスチナ問題を学ぶことは、
人/物/金/情報
が国境を飛び越え瞬時に分かるこのグローバル化した社会で、当事者も第3者も平和を求めているにも関わらず、現在進行系で戦争が行われている
「世界規模の矛盾」
だと思った。
僕たちは一個一個の小さな矛盾から解決していかなくてはならない。
自分の利益のために、自分が招いたある1つの矛盾は、その矛盾を上塗りするがごとく「嘘」で塗り固められる。
その「嘘」は「噂」により真実になり、「当事者の矛盾」は「第3者の真実」になりうる。
それは巡り巡って、糸が解けなくなり、
当事者は「そんなつもりじゃなかった。」と思っても、SNSがはびこる世の中は許さない。
僕らが出来る事は矛盾をできるだけ無くすこと。大きな問題にしないこと。そして、小さな矛盾を解決してあげること。
そのぐらいだと思った。