第一次世界大戦と日本 (講談社現代新書)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (276ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062882668

作品紹介・あらすじ

2014年は第一次世界大戦の開戦100年目です。その影響は第二次世界大戦以上で日本にも深く及んでいました。大戦前後の日本社会を観察すると「複数政党制への過渡期」「好景気から長期停滞へ」「大衆社会のなかの格差拡大」という、まさに今日的な課題がみえてきます。この戦争が浮かびあがらせた課題は21世紀の現在も構造としては変わっていないのです。本書は、さまざまな側面から「現代日本」の始まりを考える一冊です。

感想・レビュー・書評

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  •  第二次世界大戦は。日清・日露戦争と太平洋戦争の間で、日本人にとっては今一つピンこないと思う。「世界大戦」といっても、主戦場は日本から遠く離れた欧州。そして、「大正」時代も15年しかなく、これまた明治と昭和の間に埋没しがちだと思う。

     本書は大正時代を解説するように、外交、軍事、政治、経済、社会、文化の各分野について網羅して述べられている。しかし、概して総花的な記述になっており、記憶に残るような事項はあまりなかった,。ただ「戦後」に国際協調が広がり、国際連盟が創設される。後に日本は国際協調の象徴たる国際連盟を脱退し、戦争への道を突き進んでいくことに。

  • 本書は、第一次世界大戦前後から1930年代までの日本を、外交・軍事・政治・経済・社会・文化の6つの視角から描写。当時の日本の再現を試みている。

    最初はちょっと文章のリズムに馴染めない部分もあったが、まずは国際協調の時代としての第一次大戦後の世界が外交という大枠から描写され、次に軍事、政治とそれが規定する国内状況へと筆が進められていくうちに、100年前の日本の姿が見事に浮かび上がってくる。

    経済の状況も「成金」という普通、あまり経済史家が正面から取り上げない事象や人物に多くページが割かれ、ユニークな叙述となっている(経済の章は成金論と高橋是清の話でほぼすべて)。「社会」「文化」の項目においても調査の時代という視角を前面に押し出したり、あるいは「平和記念東京博覧会」(1922)を当時の大衆文化状況の集約として取り上げるなど、著者の独自の視点が前面に出ている。

    それでいて全体的にはバランスの良い叙述となっており、勉強になった。オススメ。

  • 明治や昭和に比べると印象の薄い大正だが、ここ数年現代との時代状況の類似性が指摘されている。その大正時代の出来事として第一次大戦を中心に据えて歴史を概観する事により「歴史を学んで、歴史に学ぶ」という趣向の作品。
    政治・経済といった分野毎に叙述するという試みにより、やや冗長になってしまったようにも思えるが、日本にとっては第二次大戦に比べてあまり論じられる事のない第一次大戦が、世界的には大きな出来事であり、日本も世界情勢の変化に巻き込まれていた事が確認できる良書。
    幅広く読まれるためには題名はもうちょっと工夫してもよかったのではないかと思うが、講談社現代新書だとこうなってしまうのは仕方ないか。

  • 東2法経図・6F指定:B1/2/Inoue

  •  日本人にとってはあまりよく知らない、第一次世界大戦と日本のつながりについて書かれた本。日本では第二次世界大戦の記憶のほうが鮮明で、この大戦については詳細は知らない、という人が多いのではないでしょうか。
     しかし、日本は英仏米側に連合国の一員として参戦し、戦勝国となり、地中海まで海軍を派遣して貢献したこともあって、戦後発足する国際連盟の常任理事国となります。 
     この大戦は、日本が国際的に大国としての地位を築くきっかけとなったといえる重要な戦争だったといえます。
     本書では、この大戦当時の外交・軍事・政治のほか、経済・社会・文化についても解説しています。文体がちょっと読みづらく感じますが、当時の雰囲気がよく伝わってきます。

  • [評価]
    ★★★★★ 星5つ

    [感想]
    日本では世界大戦といえば、第二次世界大戦もしくは太平洋戦争のことを指し、第一次世界大戦のことは余り話題に登ることはないが、この本を読むと当時の日本にとっては大きな影響を与えていたということが分かりやすく書かれている。
    ただし、外交、軍事、政治、経済と言ったように分野毎に書かれているため、時系列順に起きたことを追うのには不向きな本なので注意が必要だ。
    世界大戦後の日本政府は自らの国際的な立場を高めるために欧米との協調外交を推進していたことは意外な事実だった。そして、その評価が高かったことも意外だった。
    一方で大戦によるバブルが格差を増長し、戦後恐慌による格差拡大が日本の対外政策を大きく変える結果となったことは大きく注目するべきだと思う。
    大正時代の日本には今こそ学ぶべきことが多く存在しているよ。なんだかんだ言っても国際関係は多数の国家間の関係性であることには変わり無いと思うからね。

  •  第一次世界大戦は初の総力戦だった、ということぐらいは世界史の教科書にも書いているが、それが基本的には戦場から遠く離れた1910~20年代の日本に与えた影響を書いている。
     「欧州大戦によって対等な主権国家関係の拡大=国際政治の民主化が進む。国際政治の民主化は国内政治の民主化に波及する・・・帝国主義と専制政治の時代から国際協調と民主主義の時代へ、日本の外交と国内政治は大きな変貌を遂げていく。」とある。国内の社会・文化の面では、戦争景気とその後の反動不況の中で格差が拡大、地方から都市、朝鮮から日本への人口移動の一方で、行政の報告書は救済の必要性を指摘もしている。生活難を背景に女性の社会進出も進んだという。文化面では、戦争の報道を通じて大衆は国際社会の当事者意識を持ち、戦後の皇太子(昭和天皇)欧州歴訪を通じて天皇は立憲君主像に変わっていったという。
     総じて言うと、21世紀現在の現実に近い方向に大きく舵を切っていったという感じである。格差拡大はともかく、国際的・国内的民主化や女性の社会進出は現在望ましいとされている価値観だし、人口移動は既に現実である。それが、なぜ10年そこそこの間に満洲事変から日中戦争が起こり、太平洋戦争までのレールが引かれたのか。第二次世界大戦も起こっているのだから日本だけの理由ではないのだろうが、なお日本独自の要因を挙げるならば、「国際政治の民主化」についていくのが遅れ立ち回りが下手だったとか、「国内政治の民主化」により大衆が熱狂しまた動員されたとか、だろうか。

  • それぞれの歴史的記録は詳細なのだが、読んでも今ひとつ面白くない。事実を追いかけるのみで解釈に踏み込みが足りないように思えた。読み切るのが困難。

  • 書名通りの本。
    第一次世界大戦と日本の「外交」「軍事」「経済」「社会」「文化」の関係について述べられる。
    戦争がもたらした好景気と「船成金」、そして、その反動となる恐慌。経済格差。
    翌年の起こる「真珠湾攻撃」までの記述。しかし、消費文化に勤しむ上流階級の姿が描かれていて空寒い。

    第一次世界大戦が「日本」へ及ぼした影響などを知るための良書だと思う。

    高校の日本史で習ったことより、更に深く内容を知ることができ有益だった。

  • 「日清・日露戦争と第二次世界大戦との間の第一次世界大戦に具体的なイメージがともなわないのは、明治と戦前昭和に挟まれた大正の時代像があいまいなことに関連している。」

    第二次世界大戦に向かう戦前の体制に関して、なぜそうなったのか関連書籍を何冊読み進めていってもよくわからない、よくわからないものをわからせてくれる本を探す旅はまだまだ続いている。

    本書もその一環で手に取った。
    冒頭に引用した一文、まさにボクの中でもその通りなのである。
    第一次世界大戦は学校で習った知識の中では欧州の戦争に日本が東の方からどさくさ紛れにちょっかいを出したくらいにしか思っていない。
    大正時代関しては期間が短かったということもあるのだろうが、頭に残っているのは『大正デモクラシー』と『関東大震災』くらいである。
    しかし、デモクラシーが成立した時代の後になぜ戦前の軍国主義のような時代がまかり通ったのかに繋がる知識がごっそり抜けているのだ。

    著者は言う。
    「第一次世界大戦前後の大正時代は振り返るに値しないのか。そうではないだろう。大正と今との間には時代状況の類似点があるからである。類似点を三つ挙げる。」
    ・第一は大衆社会状況下の格差の問題
    ・第二は長期の経済停滞
    ・第三は政党政治システムの模索
    「以上の三つの類似点は、大正の新しい〈光〉と〈影〉の時代像とともに、歴史的な示唆を与える。大正時代の日本は光り輝く文明国だった。この時代がモダンで平和だったのは、長期の経済停滞にもかかわらず、経済的な国際協調が基調になっていたからである。」

    引用が長くなったが、国内においては上記の3つの類似点の観点で大正時代を中心とした国内の在り方が整理されている。
    なるほど、類似という点ではまさに類似していると言えなくもない。
    ただ、それよりもボクにとって意外だったのは『経済的な国際協調』、第一次世界大戦の仕組み・枠組み・戦略の違い、この戦争の前後において世界の在り方が変わっていったという部分である。

    第一次世界大戦のボクのこれまでの拙い見方は『欧州における列強の戦争』以外の何モノでも無かった。
    しかし、この戦争の大義は欧州に限らず、戦後の枠組みも考慮すると『「徳」=国際正義を代表するアメリカと「力」を代表するドイツの戦争だった。「力」は敗けて「徳」が勝った。』という整理の仕方が新鮮であった。
    この時代からアメリカの大義は名目上『国際正義』なのである。
    実際、戦中から戦後の国際体制の再構築を想定した国際連盟の枠組みが連合国を中心に進められる。

    しかも、日本は国際連盟の常連国としてアジアの利益に止まらず、国際協調という新外交の枠組みを忠実に実行し、国際連盟を通して列強の義務を果たしていくのである。

    ここまで国際連盟において当時の日本がコミットしていたとは驚きであった。
    歴史の教科書では国際連盟脱退は触れられているが、国際連盟での日本の役割についてはほとんど言及されていない。

    ただ、ここから先が問題なのである。
    国際協調の下に国家戦略を進めていた日本がなぜ、それに反するような道を20数年のうちにたどることになるのか。

    その原因は様々なものがあるだろうが、全ては最初に触れた原題との類似点の3つに起因するものである。
    長期の経済停滞は持てるものと持てないものの格差を広げ、デモクラシーが浸透し政党政治が機能すると、政党は多数派工作のためにより大衆に阿る政策に傾いていく。大衆に阿る政治はプロフェッショナルを排斥し、大衆の声に阿るアマチュアリズムに傾倒していく。

    アマチュアリズムは勢いが過ぎると腐敗を生み、国を憂う高い志はナショナリズムの昂揚で大衆の不満を吸い上げ、力で克服する。

    大正から昭和へ向かう時代、このように整理をすると薄ら寒いほど現在の状況に酷似する。
    しかし、大衆はそれほど愚かではないという部分をまだ信じたいボクとしては、まだ『なぜ力で克服する』という方向に大衆が熱狂していったのか?という大衆心理についてはまだまだなっとくできない部分があるのである。

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著者プロフィール

井上寿一
1956年(昭和31)東京都生まれ。86年一橋大学大学院法学研究科博士課程単位取得。法学博士。同助手を経て、89年より学習院大学法学部助教授。93年より学習院大学法学部政治学科教授。2014~20年学習院大学学長。専攻・日本政治外交史、歴史政策論。
著書に『危機のなかの協調外交』(山川出版社、1994年。第25回吉田茂賞受賞)、『戦前日本の「グローバリズム」』(新潮選書、2011年)、『戦前昭和の国家構想』(講談社選書メチエ、2012年)、『政友会と民政党』(中公新書、2012年)、『戦争調査会』(講談社現代新書、2017年)、『機密費外交』(講談社現代新書、2018年)、『日中戦争』(『日中戦争下の日本』改訂版、講談社学術文庫、2018年)、『広田弘毅』(ミネルヴァ書房、2021年)他多数

「2022年 『矢部貞治 知識人と政治』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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