- Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062883214
作品紹介・あらすじ
現場の声から見えてきた驚きの実態とは?
ゼロから原発を考え直すために
ひとりの音楽家が全国の原発労働者を訪ね歩き
小さな声を聴きとった貴重な証言集!
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【平時の原発労働を知る】
日本に地震があるから、津波があるから、ではない。
安全基準が信用できないから、放射能が漏れると怖いから、でもない。
今から私がスポットをあてるのは、
チェルノブイリや福島のような大事故となった非常時の原発ではなく、
平時の原発で働き、日常的な定期検査やトラブル処理をこなしていく人々だ。
彼らの視点に立つことで、社会にとっての原発、ではなく、
労働現場としての原発、労働者にとっての原発、といった角度から、
原発をとらえなおしたい。――序章より
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【目 次】
序 章 三十年間の空白
第1章 表に出てこない事故
第2章 「安全さん」が見た合理化の波
第3章 働くことと生きること
第4章 「炉心屋」が中央制御室で見たもの
第5章 そして3・11後へ
第6章 交差した二つの闇
終 章 人を踏んづけて生きている
感想・レビュー・書評
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著者の寺尾紗穂(1981年~)は、元シュガー・ベイブのベーシスト・寺尾次郎を父に持つ、シンガーソングライター、エッセイスト。東京都立大夜間部卒業後、東大大学院に進み、修士論文が『評伝川島芳子 - 男装のエトランゼ』として文春新書より刊行され(2008年)、また、様々なウェブや新聞等でエッセイを連載する異色のキャリアを持つ。
著者が本書を執筆したのは、学生時代にたまたま山谷の夏祭りに行ったことをきっかけに、自ら主宰する音楽イベントでホームレスの自立支援をサポートするようになり、更に、原発の現場の労働者の少なからぬ人々が山谷や釜ヶ崎のようなドヤ街から流れてきたことを知ったことによるのだという。
本書では、福島やチェルノブイリのような大事故となった非常時の原発ではなく、“平時の”原発で働き、日常的な定期検査やトラブル処理をこなしていく人々へのインタビューを通して、彼らの視点から、社会にとっての原発、ではなく、労働現場としての原発、労働者にとっての原発を描き出している。
そして、そこに描かれているのは、驚くような労働現場の様子、及び、現場の労働者がそれらを明らかにして改善を求めにくい多重請負の構造と、原発があるために出稼ぎに行かずに生計が立てられる地域の事情など、メディア等で取り上げられることは少ない(取り上げにくい)実態である。
著者は、そうした実態を踏まえて、原発について賛成or反対というような結論は導いてはいない。そして、「しばしば原発とその地域の問題については、「いろんな立場の人がいるから・・・」「いろんな問題が絡まってるから・・・」と言葉が濁される。しかし、推進派反対派に二分した、原発問題について、本当に必要なのは、そうやって問題に踏み込まないことではなく、いかに「わがごと」として、問いを立て、問題を考えていけるか、ではないだろうか」、「人間の美しさ、醜さ弱さと強さ。原発立地地域をめぐってあらわになる、人間の在りようを胸にとどめ、これからの選択にどのような答えを出していけるのか、それぞれが一度「わがこと」として考えてみること、その上で意思表示をしていくこと。・・・到底変わりそうもない、原発労働の構造や原発をめぐる問題が少しずつ好転していくとしたら、そんなささやかな、でも裾野の広い、人間のつながりが生まれた時ではないだろうか」と結んでいる。
原発に対する自らのスタンスを考える上で不可欠である、原発の労働現場の一端を垣間見られる一冊である。
(2017年9月了) -
著者の取材姿勢や書きぶりは誠実だ。どのような経緯で取材を始めたのか、どのようにしてインタビュイーを見つけたのか、著者自身がどのような気持ちや考え方でインタビューをしたのか、インタビュイーはどんな人なのか、インタビューで、語られたことの信憑性や一般性について、著者自身がどこまで確認できているか、等々、できる限り単純化や図式化を避け、その上で自身の思いを述べている。汚染水の放出や原発再稼働が既得権層によって叫ばれる中、この本が多くの心ある人に人にもっと読まれるべきだと思う。
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ここに収録されているのは、たくさんの原発労働者の中のほんの数人の語りでしかない。だけど個人の、生の体験からしか捉えられないものがある。
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なかなか読むのが進まない本だった。
自分の思いを少し強調しているような気がした。その部分で少し引っかかりを感じる。
原発の労働現場は過酷なんだと思う。放射線がどれだけ体に悪いのかがハッキリしていないのだと思う。 -
知らないことがたくさんあった。知らないことだらけだった。どうしてこんなにも無関心でいられるのだろう。それが許される訳ではないのに。
(20160610) -
原発を有する我がまちの市有地に、3号炉の建設作業員さんの飯場があり訪ねたことがある。といっても彼らと接触したわけではなくて、その飯場横の倉庫で仕事をしつつ傍目から見ていたに過ぎんが、昼間から麻雀牌の音が響いていた。その近くの港には、いかにも場末の雰囲気漂う気に入りの居酒屋があり、かつては流れの作業員と地元漁師が酒の勢いで絶えず喧嘩していたという。これまでは「ひとごと」であったそんな諸々も、紗穂さんのこの本で「わがこと」に近づいたやに感じる。今でも廃炉と再稼働炉の工事で3千人近い下請けが入っている我がまちの原発。原発労働者と打ち解けて話せれば学ぶことは多いだろうけど、現職でありのままを語ってはくれまいね。
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原発の出鱈目さがよく分かった。
使い捨ての労働者がここにもいる。