不屈の棋士 (講談社現代新書)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062883788

作品紹介・あらすじ

羽生善治は将棋ソフトより強いのか。

渡辺明はなぜ叡王戦に出ないのか。

最強集団・将棋連盟を揺るがせた「衝撃」の出来事、
電王戦でポナンザに屈した棋士の「告白」とは。

気鋭の観戦記者が、
「将棋指し」11人にロングインタビューを敢行。

ここまで棋士たちが本音を明かしたことはなかった!

由緒ある誇り高き天才集団は、はたしてこのまま、
将棋ソフトという新参者に屈してしまうのか。

劣勢に立たされ、窮地に追い込まれた彼らはいま、
何を考え、どう対処し、どんな未来を描いているのか。

プロとしての覚悟と意地、将来の不安と葛藤……。

現状に強い危機感を抱き、未来を真剣に模索する
棋士たちの「実像」に迫った、渾身の証言集。

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◆本書のおもな内容◆

序章 窮地に立たされた誇り高き天才集団

第1章 現役最強棋士の自負と憂鬱
◆羽生善治 : 何の将棋ソフトを使っているかは言いません
◆渡辺 明 : コンピュータと指すためにプロになったのではない

第2章 先駆者としての棋士の視点
◆勝又清和 : 羽生さんがいきなり負けるのは見たくない
◆西尾 明 : チェス界の現状から読み解く将棋の近未来
◆千田翔太 : 試行錯誤の末に見出した「棋力向上」の道

第3章 コンピュータに敗れた棋士の告白
◆山崎隆之 : 勝負の平等性が薄れた将棋界に感じる寂しさ
◆村山慈明 : 効率を優先させた先にあるものへの不安

第4章 人工知能との対決を恐れない棋士
◆森内俊之 : 得られるものと失うものの狭間で
◆糸谷哲郎 : ソフトの「ハチャメチャ」な序盤にどう慣れるか

第5章 将棋ソフトに背を向ける棋士
◆佐藤康光 : 将棋はそれほど簡単ではない
◆行方尚史 : 自分が描いている理想の棋士像とのズレ

感想・レビュー・書評

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  • 「人工知能に追い詰められた「将棋指し」たちの覚悟と矜持」。帯に書かれているコピーがまさに本書の内容です。トップ棋士が相対しても、すでに人工知能には簡単に勝てなくなっているのが現状。その中で、棋士たちは自らの存在意義をどう考えているのか、人口知能との付き合い方をどうしようとしているのか、そして、将棋界はこれからどうなっていくのか。トップ棋士11人へのインタビューで構成されています。

    どんなに人工知能が強くなっても、人間と人間の対局の魅力は失われない。人間はミスをする生き物で、そのミスで勝負が決まるのが将棋。それでも人間が知恵を振り絞って対局する姿の魅力は失われない。

    人工知能がある限り、自らの勝負に最大限役立たせようとする。一方で、人間と人間が対局するのが将棋と、人工知能から距離を置く者もいる。

    棋士という職業は、将棋の魅力を伝えていくために、無くてはならない存在。人工知能はその思考プロセスを人間にわかるように説明できない以上、その役割を担えない。

    将棋を題材にしているが、これから人類が人工知能とどのように対峙していくのか、共存していくのかを考えるうえで非常に興味深い内容でした。人工知能が得意なもの、人間にしかできないものは何なのかを、一人一人が真剣に考えないといけませんね。

  • 人工知能、AI、Iot、などとやたら耳慣れない言葉が急速に存在感を示し始めた2015年、その後の技術進歩とともに「20年後失われる職業」などというリストが並び、私の務める“銀行融資担当者”も堂々のその仲間入りを果たした。

    先月、たまたま登壇した地元大学でのシンポジウムで学生から、「あなたの仕事はそのうち人工知能が全て行う様になると聞きました。今から僕たちが銀行員になる意味はあるのでしょうか?あなた自身の20年後の存在価値はどこにあると思いますか?」と、なんの悪意もなく聞かれその答えに窮した。

    そんな矢先に出会った本。単なるサラリーマンですらその存在意義を問われ腹を立てた。いわんやプロ棋士をや。である。

    これまで、100手先を読む天才同士の戦いを神聖な気持ちで見守っていた最中、突如現れた1000手先までをも労なく読み取る人工知能。これまでの常識が通じない破天荒な盤面。表情なく、感情なく指される有効手に翻弄される思考の達人たちの心情に迫る。

    11名の孤高の天才集団が感じている覚悟と矜持。現役最強棋士の自負と憂鬱、コンピュータに敗れた棋士、人工知能との対決を恐れない棋士、将棋ソフトに背を向ける棋士、そのスタンスは三者三様ではあれどすべての棋士が「今、将棋と棋士の未来が劇的に変化している。」と唱える。危機感とともに。

    これはもはや、サラリーマンが共感出来る次元の話しではないのではないか。好奇心と先述の学生に対する自分なりの答えを求めて本書を手にしたものの、棋士が抱える危機感は、私の持つそれとは比較にならないものだった。そのリアルを紡いだ本書、当然の良書である。

    良書なのではあるが、本書にはキラーセンテンスが見当たらない。即ち、‘このワードを座右の銘として繰り返そう’と思える箇所が一つも無いのだ。再読したいと思える箇所が無い。何故か。

    そう、著者も棋士もガチ暗中模索なのだ。

    初めて、“プロ棋士の価値とは何か”に外部から疑問符が投げかけられているのだ。綺麗な言葉や上手い言い回しで整理できるほど穏やかな話では無い。思考の達人が戸惑う自己の存在価値に対する問い。フェイスブックでリア充アピールの過ぎるサラリーマンが上っ面の言葉で回答できるものではでは無いのだ。良かった一安心。

    いやいや、一安心では終われない。

    これは、これからの全ての人にとっての問い。これまでの哲学的思想とは少し異なり、現実問題としての存在価値の定義探索に、これから日々の少しの時間を注ぎたいと思う。


    そうそうなにより本書は、棋士の名を「羽生善治」しか知らない私にプラス10名もの魅力的な天才の存在を教えてくれた。そして彼らが矜持を掛けて戦い抜くこれからの将棋界へ、敬意と好奇心とをもたらせてくれた。

    今年12月、第二回電王戦の挑戦権は誰が獲得するのか…ここに新たなファンが誕生していることを、細々と宣言したい。

    http://www.eiou.jp

  • その能力を飛躍的に高めついに棋士を破るようになった将棋ソフトに対して、棋士たちの想いをインタビューした作品です。
    具体的に、特定の個人の業績について書かれている本ではなく、11人のプロ棋士たちが「AI」や「将棋ソフト」についてどのような考え(≒感情)を持っているか、またソフトとどのような付き合い方をしているか(理想としてはどのような付き合い方をするべきか)、試合のレギュレーションが適切かどうか、研究の方法として取り入れることは「認められる」べきことか、そして何より、「ソフト」の方が強くなった後の「棋士の存在意義」とは何か、という問いに答えてくれます。

    羽生善治という将棋界を代表する棋士のインタビューや、双璧を為すといわれる渡辺明のインタビューは読みごたえがありますし、ソフトの利用を積極的に取り入れている西尾明の見解(棋士としての「存在意義」は、ファンからの「ニーズ」があるかどうかにかかっている。ファンが「見たい」と思うような将棋を打つ必要がある)は、将棋界だけでなく広く社会全般についてもいえることではないでしょうか。

  • 将棋ソフトと棋士界の対決についてのインタビュー本。ここ4・5年間「どうすれば競わずに済むのか」を念頭にずっとアスリート・棋士・eSports選手達の本を読んできたけれど、本書ではもう只「勝負事って何て美しいんだろう」とだけ思うに至りました。

  • ’’人工知能はもはや人間を超えたのか’’’’棋士(棋士のつくる棋譜)という職業の存在価値はそのときどこにあるのか’’’’人工知能とどう向き合うか(戦うのか戦わないのか)’’
     2016年6月という非常に絶妙の時期に、現役最強棋士・人工知能に特に詳しい棋士・実際に人工知能と公開対局して敗れた棋士・人工知能と闘う気はないと公表する棋士、同じ質問を11名の棋士にぶつけることで、いろんな考え方をあぶりだしてくれた、名著と呼べるインタビュー集です。
     タイトルがその切り口を彷彿させないだけに勿体ない。登場してる棋士が豪華絢爛。将棋指しでない人でも、人工知能に凌駕されつつある時点での人類最高頭脳集団の苦悩や覚悟や決意を体感できる名著です。千田翔太プロの完敗と宣言した上での若い人ゆえの割り切りと、既に上り詰めた立場にいる佐藤康光永世棋聖や渡辺明永世竜王のいらだちが印象的でした。羽生善治永世6冠はやっぱ飄々としてる不思議な人です

  • AIを用いた将棋ソフトに対する考え方について現役11人の棋士にインタビューした内容をまとめた本。インタビューの対象はソフト利用に肯定的な棋士、ソフト利用に否定的な棋士、実際にソフトと対戦した棋士、そして現時点で棋士の最高峰と目される羽生氏、渡辺氏の2人という多岐にわたります。
    著者がインタビューで投げかける質問が非常に鋭く、対象となっている棋士の考え方をうまく引き出している印象です。
    どの棋士の考え方にも納得させられるものがあり、まず感じるのは棋士というのは自分の考えを非常に分かりやすく表現されるなあ、という点です。これは棋士という職業が論理的な思考を常に求められているからかもしれません。
    ちょうどソフトの力量が人間に並びかけている微妙なタイミングである今だからこそ、棋士のソフト(AI)に対する姿勢は様々なスタンスがあり、これは将棋界に限らず今後AIが進出してくる領域と関りを持つ私たち一般の人間が体験し、考えさせられる事なのかもしれないと感じました。
    棋士という職業がどんなものかという点でも理解を深めることができる1冊です。

  • 現役棋士にコンピュータとの対戦について聞くインタビュー集。個人的には山崎さんと糸谷さんのインタビューに興味を惹かれた。将棋のことはよくわからないけど、インタビューを受けたほぼすべての棋士が、「コンピューターに頼り過ぎると自分の頭で考えなくなるから危険」と話していたのが印象的。プロ棋士でも20分考えないと答えが出ないようなことも、コンピューターなら1秒で解答がわかる時、ポチッとクリックして答えを得るのではなく、あえて自分の頭で考えることを選択できるか――これって、棋士だけでなく自分の日常にも言えると思った。

  • 【簡易目次】
    まえがき(2016年6月) [003-007]
    目次 [008-009]

    序章 窮地に立たされた誇り高き天才集団 011

    第1章 現役最強棋士の自負と憂鬱 037
    ▲ 羽生善治 :何の将棋ソフトを使っているかは言いません 011
    ▲ 渡辺 明:コンピュータと指すためにプロになったのではない 064

    第2章 先駆者としての棋士の視点 087
    ▲ 勝又清和:羽生さんがいきなり負けるのは見たくない 090
    ▲ 西尾 明:チェス界の現状から読み解く将棋の近未来 116
    ▲ 千田翔太:試行錯誤の末に見出した「棋力向上」の道 141

    第3章 コンピュータに敗れた棋士の告白 165
    ▲ 山崎隆之:勝負の平等性が薄れた将棋界に感じる寂しさ 168
    ▲ 村山慈明:効率を優先させた先にあるものへの不安 190

    第4章 人工知能との対決を恐れない棋士 217
    ▲ 森内俊之:得られるものと失うものの狭間で 220
    ▲ 糸谷哲郎:ソフトの「ハチャメチャ」な序盤にどう慣れるか 239

    第5章 将棋ソフトに背を向ける棋士 261
    ▲ 佐藤康光:将棋はそれほど簡単ではない 264
    ▲ 行方尚史:自分が描いている棋士像とのズレ 286

    あとがき(2016年6月 大川慎太郎) [310-317]
    参考文献・写真 [318]

  • AIが将棋界にもたらした変化は、ビジネスを考える上で参考になる点が多いと、改めて実感。

  • AIと棋士の関係を様々な棋士へのインタビューを通じて解き明かしていく。
    あまりAI将棋に重きをおいていない方、積極的に自身の棋風に取り入れている方様々な方がいた。ただ、考えなくなってしまって棋力が落ちるという発言を何名の方がしていたのがおもしろいのと、AI将棋はそのための戦略が必要になってそこに割く時間がもったいないという発言があったのが興味深かった。年齢を重ねるにつれ、集中力が落ちてしまうのは棋士の方も同じなのだなとほっとした。
    将棋のおもしろさに、人はまだ気づいていないのかもしれないというのは、非常に奥深さを証明していて面白い。

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著者プロフィール

(おおかわ しんたろう)1976年静岡県生まれ。日本大学法学部新聞学科卒業後、出版社勤務を経てフリーに。2006年より将棋界で観戦記者として活動する。著書に、将棋ソフトとの関わりや将棋観について羽生善治や渡辺明ら棋士11人へのロングインタビューを収録した『不屈の棋士』(講談社現代新書)のほか、『将棋・名局の記録』(マイナビ出版)、共著に『一点突破 岩手高校将棋部の勝負哲学』(ポプラ社)がある。


「2020年 『証言 羽生世代』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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