村のエトランジェ (講談社文芸文庫)

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感想 : 11
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062900546

作品紹介・あらすじ

都会的感覚で描かれた戦時下の心象風景

小さな村に疎開してきた美しい姉妹。ひとりの男をめぐり彼女らの間に起こった恋の波紋と水難事件を、端正な都会的感覚の文章で綴った表題作ほか、空襲下、かつての恋人の姿をキャンバスに写すことで、命をすりへらしていく画家との交流をたどる「白い機影」など、初期作品8篇を収録。静かな明るさの中に悲哀がただよい、日常の陰影をさりげないユーモアで包む、詩情豊かな独自の世界。「小沼文学」への導きの1冊。

長谷川郁夫
パリサイ人・ニコデモは、いわば善意の傍観者として描かれていた。と記せば、新約聖書ヨハネ伝中のこの人物に小沼さんが興味を惹かれた理由は明らかだろう。父親とも、キリスト教とも、戦争とも等間隔の距離を置く傍観者としての立場を病める文学志向者は選択した、いや選択せざるを得なかったのだ。(中略)傍観者であることの苦痛は、憂鬱と倦怠、ニヒリズムの暗い気分となって、「村のエトランジェ」1冊に一刷毛の翳りを残している。――<「解説」より>

感想・レビュー・書評

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  • これも数年の積読だったもの。
    大好きな小沼丹、ゆっくり楽しんで読んだ。
    先日読み終わった「懐中時計」と異なり、こちらは初期作品。
    この中では白孔雀と、紅い花、汽船だけは既読だった。
    ニコデモ、登仙譚、バルセロナの書盗、などの時代場所の異なる作品を除いて、いずれも戦前、戦中の空気が漂い、ふわふわと詩的で、不穏な世界にのらりくらりとしたユーモアと仄暗いペーソスがある。

    読んでいて巧みだと思ったのは、白い機影。
    怖いし、気味が悪かったが、鮮烈な印象を残す。
    好きなのは汽船、白孔雀、ニコデモ。
    次に読み返すのはきっと上記3作だろう。

    頗る、尠し、最后迄、悉皆、怕い、而も、こういう表記が目に賑やか。ビイルにソオダ水、メッセンジャア・ボオイ、サアビス、トラムプ、って、おしゃれーーー。
    人物名は無機質で、イケダ・ゴロオとか、ヨシダ・マモル、ハタ氏、タキ氏。
    これが小沼ワールドの楽しみ。


  • これは取っ付きの遅さを後悔した良作家。
    短編が得意なのか、作品ごとに柔軟で多面的な魅力がある。
    一貫しているのは上品さと小気味いいユーモア、読んでいて楽しいミニミステリ要素。
    このコント仕立てと純文学のバランス感は意外と新鮮かもしれない。

  • 書くのが遅くなってしまった。(4/19)
    白孔雀のいるホテルと、村のエトランジェがとくに良かった気がする。次点で紅い花、汽船。けどどう良かったか書くとなると難しいな。チェーホフぽかったのかなと、かもめを読んだからかそう思う。人の死ぬタイミングや動機、そこまでの経緯に近しいものを感じた。そうだ、主人公の立ち位置がいいんだ、これらの小説は。解説で傍観者の文学と言われていたけれど、まさにそんな彼(=主人公)の内面が、それを見る視線、起きる出来事によって浮き彫りにされている。で、その内面というものは小説でしか書き表せない曖昧ななにかだったりする。だからいいんだ。村のエトランジェはとくにそういうものを感じる作品で、冒頭で女が詩人を川に落とす場面からはじまり、回想を挟んで、川に落としたのを見ていなかったと僕とセンベイがともに嘘をつくという流れがたまらなく素敵だった。
    そういえばカプリ島が作中に登場していた。庄野潤三の本で、「小沼の好きな曲だった『カプリ島』...」という風に出てきた覚えがあったのでなんだか嬉しくなった。

  • 小沼丹の初期短編集。大寺さんに辿り着く前にはこんなにも多彩な作品を手掛けていたのですねと云うのがまず第一印象。瀟洒なミステリから東西問わずの歴史掌編までバラエティ豊かな1冊で、非常にお腹いっぱいになれます。
    お気に入りは「登仙譚」「白孔雀のいるホテル」「ニコデモ」あたりですが、ちょいちょい出てくる気の強そうな美人キャラと、ひょろりとした長身の詩人キャラも好きです。

  • 「都会的な感覚」「ユーモア」という世評に惹かれて読んでみた。が、よくわからない‥>< 特に、女性陣の魅力がさっぱり、で悲しい。

    太平洋戦争前後に書かれた8篇を収録した短編集。星2つは、作品のせいじゃない。。(2018.5.17読了)

  • 小沼丹初の作品集。
    表題作は、主人公の疎開先でのざわざわした出来事が綴られていて、なんだかミステリぽい。
    作者はミッション系の学校出身で、自身英語教師でもあったので、使われているカタカナ語が目新しく思えました。巻末には年鑑と作者写真も載っていて、ひととなりを知る事もできる贅沢な文庫です。

  • 初期作品集 やっぱり大寺さんが登場する話のほうが好みだ。

  • まだ作家の方向性が定まっていない感じ。もっと後期の作品の方がすきだな。

  •  大学生になったばかりの頃、僕はひと夏、宿屋の管理人を勤めたことがある。宿屋の経営者のコンさんは、その宿屋で一儲けして、何れは湖畔に真白なホテルを経営する心算でいた。何故そんな心算になったのか、僕にはよく判らない。
     ……湖畔に緑を背負って立つ白いホテルは清潔で閑雅で、人はひととき現実を忘れることが出来る筈であった。そこでは時計は用いられず、オルゴオルの奏でる十二の曲を聴いて時を知るようになっている。そしてホテルのロビイで休息する客は、気が向けばロビイから直ぐ白いヨットとかボオトに乗込める。夜、湖に出てホテルを振返ると、さながらお伽噺の城を見るような錯覚に陥るかもしれなかった。
     コンさんは、ホテルに就いて断片的な構想を僕に話して呉れてから云った。
     ――どうです、いいでしょう?ひとつ、一緒に考えてください。
    (「白孔雀のいるホテル」本文p.148)

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著者プロフィール

小沼丹
一九一八年、東京生まれ。四二年、早稲田大学を繰り上げ卒業。井伏鱒二に師事。高校教員を経て、五八年より早稲田大学英文科教授。七〇年、『懐中時計』で読売文学賞、七五年、『椋鳥日記』で平林たい子文学賞を受賞。八九年、日本芸術院会員となる。海外文学の素養と私小説の伝統を兼ね備えた、洒脱でユーモラスな筆致で読者を得る。九六年、肺炎により死去。没後に復刊された『黒いハンカチ』は日常的な謎を扱う連作ミステリの先駆けとして再評価を受けた。その他の著作に『村のエトランジェ』『小さな手袋』『珈琲挽き』『黒と白の猫』などがある。

「2022年 『小沼丹推理短篇集 古い画の家』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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