- Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062900546
感想・レビュー・書評
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これも数年の積読だったもの。
大好きな小沼丹、ゆっくり楽しんで読んだ。
先日読み終わった「懐中時計」と異なり、こちらは初期作品。
この中では白孔雀と、紅い花、汽船だけは既読だった。
ニコデモ、登仙譚、バルセロナの書盗、などの時代場所の異なる作品を除いて、いずれも戦前、戦中の空気が漂い、ふわふわと詩的で、不穏な世界にのらりくらりとしたユーモアと仄暗いペーソスがある。
読んでいて巧みだと思ったのは、白い機影。
怖いし、気味が悪かったが、鮮烈な印象を残す。
好きなのは汽船、白孔雀、ニコデモ。
次に読み返すのはきっと上記3作だろう。
頗る、尠し、最后迄、悉皆、怕い、而も、こういう表記が目に賑やか。ビイルにソオダ水、メッセンジャア・ボオイ、サアビス、トラムプ、って、おしゃれーーー。
人物名は無機質で、イケダ・ゴロオとか、ヨシダ・マモル、ハタ氏、タキ氏。
これが小沼ワールドの楽しみ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
初期作品集 やっぱり大寺さんが登場する話のほうが好みだ。
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まだ作家の方向性が定まっていない感じ。もっと後期の作品の方がすきだな。
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大学生になったばかりの頃、僕はひと夏、宿屋の管理人を勤めたことがある。宿屋の経営者のコンさんは、その宿屋で一儲けして、何れは湖畔に真白なホテルを経営する心算でいた。何故そんな心算になったのか、僕にはよく判らない。
……湖畔に緑を背負って立つ白いホテルは清潔で閑雅で、人はひととき現実を忘れることが出来る筈であった。そこでは時計は用いられず、オルゴオルの奏でる十二の曲を聴いて時を知るようになっている。そしてホテルのロビイで休息する客は、気が向けばロビイから直ぐ白いヨットとかボオトに乗込める。夜、湖に出てホテルを振返ると、さながらお伽噺の城を見るような錯覚に陥るかもしれなかった。
コンさんは、ホテルに就いて断片的な構想を僕に話して呉れてから云った。
――どうです、いいでしょう?ひとつ、一緒に考えてください。
(「白孔雀のいるホテル」本文p.148)