- Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062901222
作品紹介・あらすじ
信玄の誕生から勝頼の死まで、武田家の盛衰とともに生きた、笛吹川沿いの農民一家六代にわたる物語。生まれては殺される、その無慈悲な反復を、説話と土俗的語りで鮮烈なイメージに昇華した文学史上の問題作。
感想・レビュー・書評
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分かりづらく凄いものを読んでしまった感。
表題の笛吹川に沿って、武将と農民の六代に渡る盛衰を淡々と見せられてしまう。
町田康氏の「どうにもならない」というあとがき題が印象的。読後は呆然。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
戦国武田氏の支配する甲州が舞台である。この作品はいわゆる戦国物と違い、農民が主人公で、戦乱の中で虫けらのごとく殺されて行ったある一族六代の物語だ。兵農分離が進んでいない甲州では農民が戦に出ており、主家との確執もあって、半蔵の一家では殺された者も多い。しかし、物語の終焉には武田家の滅亡とともに取り立てられた惣蔵、安蔵、平吉をはじめウメ、おけいまで死ぬ。その残酷さにはただただ戦慄を覚えた。
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同郷の出身であること、楢山節考の作者であることは知っていたが、それ以上の知識はなかった深沢七郎の作を初めて読んだ。生のままの甲州弁で紡がれる武田三代の時代に生きた農民一族の物語は、荒々しくあり、リアルであり、熱っぽく、と同時に一歩俯瞰した冷徹さも感じ、密度濃く迫ってくる作品だった。面白いとは言いがたく、読みやすいとも言いがたく、いや、地元の方言だから読み易いのか、しかし一気に読ませる魅力があり、なんとも評価し難い。モヤモヤが残るが、それが決して嫌ではなく、手に余るこの圧倒された感は逆に清々しい。
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「流れていくなあ」と読みながら何度か思った。いや、タイトルが『笛吹川』だからではなくて本当に語りが流れて横滑りしていく。実際作中では川の流れが変りもするが、「ぎっちょん籠」だけは流れずにそこにある。それ以外はめまぐるしく流れていく。3行くらいで数年があっさり過ぎたりする。まるで蟻の巣を観察しているような印象を受けた。けれども読んでいる自分は同じ人間だから、かれらの心理がわかってしまう。だから、他人事ではなくなってしまう。この不思議な感じ、やめられない。
もしも深沢七郎が甦ってあと1作書いてくれるとするならば、ぜひ深沢さんなりの日本史を書いてくださいとお願いしたい。 -
小説なのに小説でないような不気味ささえ感じる不思議な感覚。激動の戦国時代、武田信玄前から勝頼の死に至るまでの甲府の領地下のある村のある一族の側のドキュメントを淡々と眺めている感覚。戦国時代の勇猛さ、野心、裏切り、信念のような燃えたぎる情念はなく、一族の淡々としたよくある喜怒哀楽の日常と、日常だからこそ訪れる起承転結のない不条理な死もまたドキュメントの一コマとして過ぎていく。
解説にもあったが、練りに練っていない生の人物が生に思い、生に話す、それをカメラで撮るように無機質に感じさせる描写に恐れ入る。論理的とはいえない穴だらけの農民の言葉、感情が、ダイレクトに読者の五感にまで染み入る感覚。面白かった。 -
楢山節考の深沢さん、小説を読むのは7年ぶりくらいか。甲州武田家の盛衰に合わせ、無惨に殺される農民一家。次々に生まれては、次々に殺される。武士の機嫌やなんでもない病気、ちょっとした不注意や勘違いなどで呆気なく死ぬ。知恵も金もツテもない。実際にこんなふうだったんだろうなと思わせるリアリティを感じる。リアルすぎて、救いがなく、嫌な感じ、残念な感じが残る。みてきたかのように描く筆力がすごい。
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戦国時代、農村の、片目がつぶれてもうひとつの目も視力が悪いおけいが結婚して夫にいたわられたりしながら家族を思って生きていくのがたんたんと書かれてる。農民を、美人でもなければ特別いじめられるのでもない人を主人公にしてるのが良い。