笛吹川 (講談社文芸文庫)

著者 :
  • 講談社
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感想 : 26
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062901222

作品紹介・あらすじ

信玄の誕生から勝頼の死まで、武田家の盛衰とともに生きた、笛吹川沿いの農民一家六代にわたる物語。生まれては殺される、その無慈悲な反復を、説話と土俗的語りで鮮烈なイメージに昇華した文学史上の問題作。

感想・レビュー・書評

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  • 分かりづらく凄いものを読んでしまった感。
    表題の笛吹川に沿って、武将と農民の六代に渡る盛衰を淡々と見せられてしまう。
    町田康氏の「どうにもならない」というあとがき題が印象的。読後は呆然。

  • 戦国武田氏の支配する甲州が舞台である。この作品はいわゆる戦国物と違い、農民が主人公で、戦乱の中で虫けらのごとく殺されて行ったある一族六代の物語だ。兵農分離が進んでいない甲州では農民が戦に出ており、主家との確執もあって、半蔵の一家では殺された者も多い。しかし、物語の終焉には武田家の滅亡とともに取り立てられた惣蔵、安蔵、平吉をはじめウメ、おけいまで死ぬ。その残酷さにはただただ戦慄を覚えた。

  • 最後の数十ページの怒涛のような、しかし妙に静かな一族の死に様に圧倒される。
    作品全体を通して誰も彼も死んでいき、特にその悲哀も語られないままなので、このまま終わるのかしらと思っていたら、息子たちの「先祖代々お屋形様にお世話になったのに」発言である。ゾッとした。なんと人間は矛盾した生き物であることか。

    その淡々とした筆致に全く作為的なものが感じられないのにも関わらず、最後まで読むと恐ろしいほどの完成度に舌を巻いた。これが著者の初長編とは、やはり深沢七郎は怪物作家である……。

  • このころの農民の命の重さが悲しい。親方様に従うのが悲しい。はらはらしながらよんだ。
    お爺が粗相をして殺されたシーンが辛かった。足を怪我して手当じゃなく。汚したとして殺された。 
    最後まで褒美なんて貰えるはずもないものをきたいしてて。辛い。

    すきなのはおけい。おけいがこどもが生まれない理由を責められて暇をいただきやす。とあっさりでていつたとこはかっこよかった。素直で働き者でマッぐな正確がとても羨ましい。

    ボコ。戦。農民。
    巻き込まれてしまうのは弱者。生まれ変わりの考え方が興味深かった。たくさんの人が死んでしまった。死には意味はないかもしれないけど、平和だったら生はまっとうできたのになとおもう。

  • 同郷の出身であること、楢山節考の作者であることは知っていたが、それ以上の知識はなかった深沢七郎の作を初めて読んだ。生のままの甲州弁で紡がれる武田三代の時代に生きた農民一族の物語は、荒々しくあり、リアルであり、熱っぽく、と同時に一歩俯瞰した冷徹さも感じ、密度濃く迫ってくる作品だった。面白いとは言いがたく、読みやすいとも言いがたく、いや、地元の方言だから読み易いのか、しかし一気に読ませる魅力があり、なんとも評価し難い。モヤモヤが残るが、それが決して嫌ではなく、手に余るこの圧倒された感は逆に清々しい。

  • 時代小説というと、智謀に秀でた軍師が策を廻らし、勇猛な武将が血湧き肉躍る合戦を繰り広げ…、という筋書きをおもいうかべる人が多いと思います。

    しかし、さすがは普通に生きる人々に常に優しい視線を持ち続けた深沢七郎です。戦国の世、山梨の石和・笛吹川沿いに生きる小さな農家一族にスポットを当てた物語。
    向こう見ずで恐れられた半蔵が戦争に出て功を立て、お屋形様(武田信玄で有名な武田家)の部下に召し抱えられます。しかし、半蔵の祖父が祝いの席である粗相をしでかし、斬殺されてしまい…。それを皮切りに一族の者たちは病死や焼き討ち、戦死などさまざまな死を迎えます。

    それぞれの死の影にはお屋形様がつきまとい、好むと好むまいと権力(=お屋形様)に引き寄せられてしまう人の在り方がテーマとなっています。
    「どうしてこんな描き方ができるんだ!作者は鬼のような人じゃないか?」と思えるくらい、人が死んでいく様を感情をまじえず即物的・客観的に描写しています。しかし、それだけに感情が湧き上がってきて、最後の壮絶な展開は読み進めるのが辛かった…。
    深沢は、頭でわかっていても誰もが受け入れるのが難しい、人が死んで行くのは当然だという認識をすっかり受け入れてしまっているのでしょう。

    「楢山節考」「みちのくの人形たち」もそうでしたが、深沢七郎の描くムラ社会には権利とか民主主義とか、西洋流の価値観の影響を全く感じさせません。それだけに、普遍的な共同体の本質を捉えることができているように思えました。

    この小説が刊行されて50年以上もたっているのに、いまだに古びないなんて、やはりこの作家、ただものではありません。

  • 「流れていくなあ」と読みながら何度か思った。いや、タイトルが『笛吹川』だからではなくて本当に語りが流れて横滑りしていく。実際作中では川の流れが変りもするが、「ぎっちょん籠」だけは流れずにそこにある。それ以外はめまぐるしく流れていく。3行くらいで数年があっさり過ぎたりする。まるで蟻の巣を観察しているような印象を受けた。けれども読んでいる自分は同じ人間だから、かれらの心理がわかってしまう。だから、他人事ではなくなってしまう。この不思議な感じ、やめられない。
    もしも深沢七郎が甦ってあと1作書いてくれるとするならば、ぜひ深沢さんなりの日本史を書いてくださいとお願いしたい。

  • 小説なのに小説でないような不気味ささえ感じる不思議な感覚。激動の戦国時代、武田信玄前から勝頼の死に至るまでの甲府の領地下のある村のある一族の側のドキュメントを淡々と眺めている感覚。戦国時代の勇猛さ、野心、裏切り、信念のような燃えたぎる情念はなく、一族の淡々としたよくある喜怒哀楽の日常と、日常だからこそ訪れる起承転結のない不条理な死もまたドキュメントの一コマとして過ぎていく。
    解説にもあったが、練りに練っていない生の人物が生に思い、生に話す、それをカメラで撮るように無機質に感じさせる描写に恐れ入る。論理的とはいえない穴だらけの農民の言葉、感情が、ダイレクトに読者の五感にまで染み入る感覚。面白かった。

  • 楢山節考の深沢さん、小説を読むのは7年ぶりくらいか。甲州武田家の盛衰に合わせ、無惨に殺される農民一家。次々に生まれては、次々に殺される。武士の機嫌やなんでもない病気、ちょっとした不注意や勘違いなどで呆気なく死ぬ。知恵も金もツテもない。実際にこんなふうだったんだろうなと思わせるリアリティを感じる。リアルすぎて、救いがなく、嫌な感じ、残念な感じが残る。みてきたかのように描く筆力がすごい。

  • 戦国時代、農村の、片目がつぶれてもうひとつの目も視力が悪いおけいが結婚して夫にいたわられたりしながら家族を思って生きていくのがたんたんと書かれてる。農民を、美人でもなければ特別いじめられるのでもない人を主人公にしてるのが良い。

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著者プロフィール

大正三年(一九一四)、山梨県に生まれる。旧制日川中学校を卒業。中学生のころからギターに熱中、のちにリサイタルをしばしば開いた。昭和三十一年、「楢山節考」で第一回中央公論新人賞を受賞。『中央公論』三十五年十二月号に発表した「風流夢譚」により翌年二月、事件が起こり、以後、放浪生活に入った。四十年、埼玉県にラブミー農場を、四十六年、東京下町に今川焼屋を、五十一年には団子屋を開業して話題となる。五十六年『みちのくの人形たち』により谷崎潤一郎賞を受賞。他に『笛吹川』『甲州子守唄』『庶民烈伝』など著書多数。六十二年(一九八七)八月没。

「2018年 『書かなければよかったのに日記』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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