- Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062901642
作品紹介・あらすじ
生母への想いを『蜻蛉日記』の書き手・紫苑の上や下賤の女・冴野に投影。
「言語表現の妖魔」といわれた犀星の女性への思慕を描いた名篇。
※本書は『日本現代文学全集61 室生犀星集』(増補改訂版 1980年5月 講談社刊)を底本としました。
感想・レビュー・書評
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「嘆きつつ独り寝る夜の明くる間はいかに久しきものとかは知る」(右大将道綱母)
平安時代、右大将道綱母の記した『蜻蛉日記』を題材に、夫・兼家の女性遍歴に苦しむ女性たちを描いた外伝です。
当時の女性の実名は後世には知られていないため、犀星は右大将道綱母に「紫苑の上」という名を与え、また、『蜻蛉日記』で兼家の遍歴相手の一人でわずかにしか描かれなかった「町の小路の女」を主役級として、「冴野」という名を与えて、それぞれの愛情の葛藤を平安文学さながらの巧みな言語表現にて物語を紡いでいきます。
正妻・時姫のもとには3人の子供。美しいが文学の才が邪魔をして心身ともに兼家に全てを開かない紫苑の上。第3の女で身分は低いが兼家を全て受け入れてくれる冴野。そして、ふらふらと女たちに癒しを求め歩く兼家。それぞれの昼ドラのような愛情葛藤劇が格調高く進行していくのが面白かった。
最初は当然ながら?「紫苑の上」が中心に描かれていて、題名も題名だけにてっきり主役かと思っていたら、途中から「冴野」に比重が移り出し、それからまた、「紫苑の上」に戻ったりと視点の変更も違和感なく進んでいくので、それぞれの心情の移ろいを高次の視点から眺めているような気分になります。犀星自身の解説によれば、「冴野」の人物設計は自分の生母への思慕と、自らを助けてくれた女性たちの思いを込めたとのこと。
それにしても、兼家の遍歴の心根はわかるようなわからないような・・・。(笑)最終章は、これまでのリアル恋愛物路線?とは一転、平安文学のような展開でこれにはびっくりしました。(笑)
まるで平安時代の文学にどっぷり浸っているかのような味わいの現代文学作品です。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
作者の、美しい女性への執着が結晶していて、描写されている時代にもかかわらず読みにくさを全く感じなかった。
ファントムな結末も好み。 -
ISBN-10: 4062901641
ISBN-13: 978-4062901642