飛魂 (講談社文芸文庫)

著者 :
  • 講談社
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感想 : 22
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062901734

作品紹介・あらすじ

ある朝突然やってくる虎、一生現れないかもしれない虎。古より虎を待ち続ける人は数多く、その道を究めたいと願う。若い女たちは女虎使い・亀鏡の弟子となるため家を捨て森の奥深くにある奇宿学校へと向かうのであった。そしてわたし梨水も入門の承諾を得る手紙を送り…。表題作に「盗み読み」「胞子」「裸足の拝観者」「光とゼラチンのライプチッヒ」の短篇を加えた作品集。

感想・レビュー・書評

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  • 表題作はなんとも不思議な世界観でした。登場人物たちの名前などすべて漢字だらけのせいで一見中国風なのだけれど、実際にはどこにもない国の架空の文化。「虎の道」を究めるために「女虎使い」の亀鏡の学舎に集ってくる子弟ならぬ子妹たち。

    虎とはなんなのか(何の暗喩なのか)よくわからないまま、動植物の名前やそれらしいことわざなど、すべてがありそうで実際にはないものばかりの中で、まるで女子高のような、カリスマ師匠の亀鏡をめぐる子妹たちの葛藤や不思議な現象が繰り広げられます。

    なかでも異様だったのが「字霊」というものの存在。主人公がある文字の「字霊」と幽密(この世界でいう性交のこと)に及ぶ場面はエロティックなような恐ろしいような。物語性よりむしろ「日本語」とくに「漢字」というものの在り方について考えさせられる作品。

    同時収録の他の短編は、悪夢的不条理なものが多かったですが、とくに印象的だったのは「胞子」。なにげなく使っている言葉(日本語)が、どんどん解けてわけがわからなくなっていく(あるいは原始の形に近づいている?)不思議な感覚が味わえます。

    ※収録作品
    「飛魂」「盗み読み」「胞子」「裸足の拝観者」「光とゼラチンのライプチッヒ」

  • 短編集。とくに表題作『飛魂』の密度には驚いた。一抹の現実と日本語への異様なこだわりが作品を作り上げている。
    日本語における漢字の曖昧な立場を、さまざまな視点から遊んでいる。ふと、すさまじい真理を述べているかと思いきや、それが言葉遊びから導き出された帰結だったりして、
    人間は言語無しには生きられない、むしろ言語によって支えられている動物だ、言語が人を作る、と実感させられる。
    そこにものすごい風通しのよさを漢字もした。いま自分が日本語を話していることの偶然性。しかし意外なことに、その必然性も漢字られた。

  • 「ある日、目を覚ますと、君の枕元には虎が一頭、立っているだろう。」この冒頭一文で心を奪われた。『飛魂』は、これまで読んだ多和田さんの作品で一番好きな作品。皮肉まじりな幻想的な世界も、多和田さんの生み出す言葉のセンス、力にもずっと浸っていたい。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/682433

  • 先に書いた読書会の際にサインをいただきました。読書会自体は日本語、ドイツ語、フランス語、英語が入り混じり、この年で1番「リテラシーの高い人が集まっている空間」でした。非常にユニークな読書会で先生もとても気さくな方でした。やっぱり文章表現が素晴らしい。特に元々修道院が身近になかった語り手とそうでない人々、そうである人々、関係のない人々。嫉妬や尊敬、愛情が入り混じる土修羅展開も良きでござんした★

  • 献灯使で懲りたはずなのだが、一番はじめに見たおすすめ本ということで、ようやく本屋で見つけて一頁目をめくる。
    一行目に心奪われた。
    この一行を所有したいがために、1600円だしたといっても過言ではない。
    そのあとはぎっちり詰まった日本語と妄想とが入り混じる世界観の凝縮でやはり具合が悪くなった。
    あとがきを見るととてもスッキリとした文章なんだけどね。
    魂削ってかいていそうな文章。

  • 2020/3/29購入

  • 未知の世界は楽しい。
    初めていく街の標識の形にも驚くことができる。
    曲がり角から漂う香りであったり、聞こえてくる知らないイントネーション。

    飛魂は中国風の道具立ではあるが、
    あくまでファンタジーの世界であって、
    知らない植物が生い茂り、知らない食べ物を食べている。
    しかし、それが読みづらさを感じないのは
    漢字の字面をとらえて文中に馴染んでいるからだ。

    二度と呼ばれない不明な固有名がそれがとても楽しく、
    森の奥深いところにある学舎の、
    霧立ち込める空気感の陰影を印象的にしてくれる。

    掌編も悪くはないが、
    彼女の場合はそれなりに長くないと
    アイデア一本勝負に見えてしまうような気がしてもったいない。

    また、最後に著者から読者へというコラムがあり、
    肩肘張らない作者の愉しみが伝わってよかった。

    [asin:4062901730:detail]

    >>
    人の頭の中はどうやら、本のページや書架のようにはできていないらしい。五日間、雨が続いて、六日目に晴れれば、その日の光は五日という時間の尻尾に置かれるのではなく、濡れ曇った五日をひとまとめにして逆光の中に球状に浮かび上がらせるのだ。書物を朗読する時には二行を同時に読むことはできない。行を下から上へ読むこともできない。出来るのは、繰り返し読むことだけである。読んでいるのが自分なのか他人なのか分からなくなるまで、繰り返し読む。(p.33)
    <<

    言葉は肉感的に、また逆に身体は不安定に。

    >>
    あなたが読んでいると意味が全然違って聞こえる、意味の不明な意味が不明のままに立ち上がる、と何人かが言い始めた。(p.36)
    <<

    これはまさしく著者の企みだろうが、
    ここでは「音読された言葉」たちの霊力が現されているのであって
    もっと潜在的な書の、書棚に秘められたままの虎はいまだ現れない。

  • 飛魂のみこの文庫のオリジナルで、ほかの小説はほかの単行本に含まれている。
     飛魂は、中国を舞台のようには思えるがいまひとつよくわならない。

  • はじめに言葉ありき。
    独特の世界を、独自に生み出した言葉で描いた作品。
    こちらの、想像力も試される。
    スリリングな読書体験。

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著者プロフィール

1960年東京都生まれ。小説家、詩人、戯曲家。1982年よりドイツ在住。日本語とドイツ語で作品を発表。91年『かかとを失くして』で「群像新人文学賞」、93年『犬婿入り』で「芥川賞」を受賞する。ドイツでゲーテ・メダルや、日本人初となるクライスト賞を受賞する。主な著書に、『容疑者の夜行列車』『雪の練習生』『献灯使』『地球にちりばめられて』『星に仄めかされて』等がある。

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