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- Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062902670
感想・レビュー・書評
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いくつかのアンソロジーで「お供え」と「大広間」を読んでいたく気に入ってから、ちゃんとまとめて読みたかった吉田知子。しかしほとんど絶版で、苦し紛れに文芸文庫のアンケートはがきに吉田知子が読みたいと書いて出したことがあったので、この文庫みつけたときはとても嬉しかった!期待通り、どの短編も好みで満足。
基本的にアウトラインはどれも類似していて、主人公がどこかへ赴く→初めて行く場所のはずなのにどうもよく知っている→そのうち死んだはずの人が当然のように現れたりして、過去と現在、死者と生者の境界が曖昧に混濁していく。悪夢系不条理、とでも呼びましょうか。
過去や死者の世界にふわっと移行してしまうあたりは百閒などにも通じるけれど、方向音痴を自認する著者の言葉を読むと、どちらかというと「猫町」なのかもと思ったりもする。猫町の前半で朔太郎が書いている、いつもと違う方向から歩いただけで知らない町に来たように感じてしまうあれ、あの感覚にとても近い。夢の展開のように理不尽なのに、風景(植物)や家の中の描写などが細々とリアルで、しかしそのその細部ばかりクローズアップされる感じがまた怖い。
お気に入りは何度も読んでる表題作の「お供え」のほかは、伯母の香典を届けに行ったのに当の伯母は生きていて別の死者が顕れる「海梯」、唯一男性主人公、しかも逃亡する殺人鬼の「艮」は、同じ時空間を永遠にループしてる感じでとても怖かった。
※収録作品
「祇樹院」「迷蕨」「門」「海梯」「お供え」「逆旅」「艮」詳細をみるコメント0件をすべて表示