「ものづくり」の科学史 世界を変えた《標準革命》 (講談社学術文庫)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062921879

作品紹介・あらすじ

フランスのオノレ・ブランという技術者による「互換性部品」に始まる近代の標準革命。アメリカでその技術は、困難を乗り越え、「アメリカ式製造方式」として確立された。さらにテイラーによる作業の標準化は、アメリカを製造業大国にする。公的機関が標準を決めるデジューレから市場での占有によるデファクトの時代へ。「標準」をキーワードに、製造の現場のドラマと国家、企業、市場の関係、そして背後に潜む思想を探ります。

感想・レビュー・書評

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  • 私は日本のメディアとかで使われている「ものづくり」という言葉があまり好きではなく、それってスタンダードにもレジェンドにもなれない、徒花的で自己憐憫的な言葉だな~という感じがしていたので、この本を最初見たときは、よくある職人賛歌の本かと思っていたら、真逆の内容だったことにビックリ。


    この本は、現代の産業を支える「標準」や「規格」といった概念がどこから生まれ、どう発展し、世界に受け入れられたのか……を概説している本。「標準」や「規格」というと、私たちが接する「ものづくり」という言葉から感じる、下町の町工場の職人がオンリーワンのものを作る……みたいなものとは正反対の、味も素っ気もないもののように思えるけれども、その重要性と、この概念が受け入れられ世界を制覇するまでの悪戦苦闘の道のり、そして課題が語られている。


    この「標準」や「規格」といった概念は、他の機械技術と同様に、戦争の道具である大砲や銃火気の扱いから生まれた。かつては銃や大砲は設計図もなく、職人たちが自分の腕と経験を頼りに部品を作り、それをヤスリがけして、一つ一つ組み合わせて作られていた。当然、そこに互換性はなく、部品の一つがダメになると、全部がダメになるという仕様だった。これでは、戦争中に迅速な対応ができないというわけで、フランスで互換性を持つ大砲や銃火気の生産が試みられることになる。


    それを発展させたのが、資源はあっても人が少なかった19世紀のアメリカで、20世紀の特色となる大量生産へと繋がることになる。でも、現在では当然のことと考えられている「互換性」や「標準」や「規格」は、機械生産の発展なくしては成り立たないものであり、しかもイギリスやフランスでは職人の根強い反発によってアメリカに遅れをとってしまう、というのは面白かった。職人気質が最新設備の導入を妨げるというのは、古今東西で良くあることみたいで。


    世紀の移り目になると「互換性」の考え方は、兵器からミシンや自転車に転用され、さらにはフォード社の流れ作業へと進化していく。また、「標準」や「規格」についての考えも、度量衡の統一からはじまって、ネジなどの部品の標準化、材料の標準化、さらには作業の標準化や運用の標準化(操作マニュアルとか)、運送方法の標準化(コンテナの導入)などが図られる。これらの標準化によって生産効率がどんどん上がったことの背景にも、第一次世界大戦や第二次世界大戦といった大戦争があった。


    日本は、この標準化を第二次世界大戦中は確立することができず、ようやく朝鮮戦争によってアメリカ軍の要望に応えることで、そのノウハウを蓄積することができた。それまでは飛行機の生産などでもヤスリがけをしないと使えないレベルだったというから、彼我の差は本当に大きかったのだと思う。というか、やはり生産力の絶え間ない効率化というのは、アメリカのような「資源はあるけれど人は少ない」ところでしか生まれ得ない発想だと思う。資源がなければ、日本のように一品一品を綺麗に仕上げることを重視するだろうから。どちらも一長一短あるけれども、現代の戦争ではそれが勝敗を分けた。


    現在、ビジネスが世界規模になって、標準や規格を巡る攻防はさらに激しくなっている。こういう世界統一の標準や規格ができて、これまで職人の感覚頼りだった複雑な作業が、機械に代替できるようになると、短期的には失業問題や貧富の差が広がるだろうけれども、長期的には人類文明の発展に繋がる。そこまで話を拡げなくても、マイクロソフトやアップルのように、規格や標準を押さえることができれば、ビジネスでは一人勝ちすることができる……そう言われて久しいけれども、この考え方って日本では無視されがちだよね~と思った。


    あと、個人的にはギルブレス夫妻による、レンガ積みの労働の研究が面白かった。ありとあらゆるものが分析され、人間もまた歯車の一つとして効率化されていく……というのは、私の感覚にある「ものづくり」と対極にある生産の姿だなぁと。

  • [評価]
    ★★★★★ 星5つ

    [感想]
    部品の互換性や標準化を始めたのはてっきりアメリカだと思っていたが、その発祥がフランスにあることは全く知らなかった。フランスで部品の互換性に関するデモンストレーションを後に大統領になるジェファーソンが目撃し、大統領としてアメリカで互換性の実現することでアメリカが大国となるきっかけとなったということは面白い事実だった。
    ただし、部品の互換性の実現には多くの困難が存在していたということがこの本を読み進めると理解できる。単に設計時に互換性があったとしても生産時に誤差なく全く同じ部品を作る事が難しい事があり、その場合には同じ部品を生産するための仕組みが必要となる。
    また、職人との対立も印象に残った標準化はだれでも同じように製造できるようにする仕組みだから実現してしまうと多くの職人は不要となるからみたいだ。
    また、標準化が進む流れについても面白かった。現在では技術が改善され、よりよい方法があるにもかかわらず仕組みを変更するコストが多すぎるために変えられないとうことがあるということを知れたのは面白かったな。

  • 戦争によって一時に大量に必要とされたことが大きなキーポイントとなったのがよくわかる。工程を単純作業へ落とし込んだこと (高技能を必要としなくなること)、大量生産と大量消費による環境負荷など、いいことばかりではない点は不明瞭と言わざるを得ない気がする。

  •  互換性、ひいては標準の歴史を辿った本。「部品単位で替えが効く」というのは現代では当たり前のことだが、ほんの200年前には、見た目は同じ製品でもネジ1本使い回すことができなかった。当時は部品ごとにヤスリがけをしてうまく組み立てるのが当たり前だった。
     戦争をきっかけに互換性が実現し始め、さらには同一製品どころか別々の製品間での互換性、標準規格までもが制定されるようになる。アメリカでは機械化により職人たちが解雇されたり、イギリスでは一旦推し進められた機械化から職人による手作りに逆戻りしたり、その過程は一筋縄ではいかなかったようだ。タイトルに「科学史」とあるが、おおよそ現代の300年前から話が始まるのでとっつきやすいと思う。

  • 【目次】(「BOOK」データベースより)
    第1章 ジェファーソンを驚かせた技術ー標準化技術の起源/第2章 工場長殺人事件を越えてー「アメリカ式製造方式」の誕生/第3章 工廠から巣立った技術者たちー大量生産への道/第4章 ネジの規格を決めるー互換性から標準化へ/第5章 旋盤とレンガ積みの科学ーテイラー主義の出現/第6章 標準化の十字軍ー国家による標準化とその限界/第7章 技術システムの構築と標準ー二〇世紀の交通輸送革命/第8章 標準化の経済学ーデファクト・スタンダードの功罪

  • 請求記号 509.13/H 38

  • Amazon,B00FEBDWYG,「ものづくり」の科学史 世界を変えた《標準革命》 (講談社学術文庫),2014/01/12,2014/01/12,気
    になる,,,

    図書館 楽しみの読書 歴史 科学 経済 社会 カテゴリ:キンドル キンドル 登録日:2014年01月12日 00時18分00秒 2014/01/12

  • ネタの宝庫
    特に製造業に使われているもの(例:旋盤)などの歴史的経緯がわかる

  • 本屋で見かけて購入。技術の標準化の歴史。1番おもしろかったのは18世紀フランスで兵器の互換性を確保する話。2番目は19世紀アメリカで工作機械が発達し互換性技術と大量生産システムが確立したという話。意図を持って取り組んだ人々が詳しく描かれていて感銘を受けた。世界史と連動していてわかりやすかった。
     
    標準化のデメリットも触れられていてなるほどだった。市場の嗜好への適応性に欠ける(フォードとGM)のと、性能を最大限活かした設計を失うこと(木村秀政の独米比較)。

  • ★科学道100 / まるで魔法
    【所在・貸出状況を見る】
    http://sistlb.sist.ac.jp/mylimedio/search/search.do?target=local&mode=comp&materialid=11330206

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著者プロフィール

東京大学大学院総合文化研究科教授。科学史家。

「2010年 『〈科学の発想〉をたずねて』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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