役人の生理学 (講談社学術文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062922067

作品紹介・あらすじ

一九世紀の半ば頃、パリの書店は、「生理学」ものと呼ばれれる小冊子で溢れかえっていました。それは、扱う主題はさまざまで、風刺に満ちた出鱈目を書いたもので、青か黄の表紙がついており、読者を笑わせることを目的とした娯楽本でした。革命後、ジャーナリズムが勃興したフランスで一気にブレイクしました。現代の「スーパー・エッセイ」のたぐいでしょうか。
しかしその観察眼にはなかなか唸らせられます。
冒頭に定義があります。
「役人とは生きるために俸給を必要とし、自分の職場を離れる自由を持たず、書類作り以外なんの能力もない人間」
現在と同じではありませんか!
能なし役人とは「郊外に一戸建てを借りて住んでいる。中背、小太りで、ゆっくりと歩き、官吏であることを誇りにしている。どんな場合でも、体制に奉仕することに心血を注ぎ、政治音痴を自慢にしている。……『ジュルナル・デ・デバ紙』の意見をそのまま採用し、どんな権力であろうと、かならず権力の味方をする。」
この後、産業革命が起こり、金融資本が勢力を拡大してくると、民間企業で働く「サラリーマン」が誕生してくる。役人のようなライフスタイルが市民の間に広がっていくのである。『役人の生理学』で戯画化された人々は、現代のサラリーマンの原型なのです。
役人・会社員というのは、進歩していないことに驚かされます。
大文豪による抱腹絶倒のエッセイです。
付録に、一九世紀の役人文学3篇を追加。

感想・レビュー・書評

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  • オノレ・ド・バルザックのシニカルに満ちた役人論エッセイです。王政から民主政への過渡期の時代において、必然的に導入されることになった官僚制について、いち早くその本質を見極め、滑稽に描写したものになっています。
    訳者の鹿島茂の指摘通り、官僚機構が非効率で無駄が多い理由として、バルザックは間接選挙で支配者が決まる民主国家そのものの構造にあるとしていて、「賞罰を心得た君主に仕える」のではなく、民主国家に仕えるということは、「すべての人びと」が主人である国家に仕えるということであり、それは「『だれにも』仕えないというに等しい」のであって、報酬と名誉が満たされない以上、だれだって真面目に働こうという気持ちにはならない、としていてその草創期において早くも卓見な見解をしめすに至っています。
    内容としては一般大衆向けに役人の「生態」をこれでもかと笑い飛ばす軽い読み物なので、少し可哀そうなところもあるのですが、こうした本質をつく鋭い洞察力により今日でも活きている部分があるのと同時に、鹿島茂によれば現代ではサラリーマン社会全体に適用されるものだということで、そう言われてみれば身に滲みる部分もかなりあるなあという気にもなってきました。(笑)そういう意味ではむしろ併録のモーパッサンの『役人』の方がより身に滲みたかな。(笑)
    キャッチコピーのいう「抱腹絶倒のスーパー・エッセイ」といわれると、さすがに現代にはマッチしない部分や当時のフランス社会を風刺している部分などはわからないので、そこまで抱腹はできませんでしたが(笑)、バルザックの鋭い観察眼に接するだけでも楽しめたかなと思います。
    その他の併録としては、バルザックの小説『役人』の概要と、フローベルの『博物学の一講義・書記属』で、フローベルの方はバルザックに負けじとシニカルな文章です。
    『役人の生理学』の「退職者」の章では、ああ早く定年にならないかなあと待っているという話でしたが、自分も図星をつかれたようで、これまた「公理」ですね。(笑)

  • 役人とはいうものの、今日組織からお金をもらって働いている多くの人が、こんな人いるいる、と共感できるとともに、クスッと笑える内容となっている。

  • 141101 中央図書館
    19世紀前半のパリの役人たち・・のカリカチュアを、大文豪バルザックが描くのだから、面白くないわけがないが、特に重要な洞察や機知が含まれているということでもない。
    組織の中で生きるヒトというのは、今もかわらないということを納得するには、最高のガイドブックか。

  • フランス七月王政期あたり、フランスが近代国家の形を成しはじめた頃の、役人の生態を描くエッセイ。付録にバルザックの小説抄訳とフロベール・モーパッサンのエッセイがついている。それらの時代背景等については、巻末の訳者解説223頁~229頁に実にうまくまとめられている。現代のサラリーマン的な生活様式が、たしかに200年近く前に生まれたことが、同時代を生きた筆者たちの筆により確認できる。月並みだが、本当に今の役人・サラリーマンと変わらないと思った。またバルザックの抄訳小説では、「小さな政府」論が展開されており、そうした論が近代的な政府の成立とほぼ同時に生まれていたことに驚きもした。

  • 祝復刊

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    「一九世紀の半ば頃、パリの書店は、「生理学」ものと呼ばれれる小冊子で溢れかえっていました。それは、扱う主題はさまざまで、風刺に満ちた出鱈目を書いたもので、青か黄の表紙がついており、読者を笑わせることを目的とした娯楽本でした。革命後、ジャーナリズムが勃興したフランスで一気にブレイクしました。現代の「スーパー・エッセイ」のたぐいでしょうか。
    しかしその観察眼にはなかなか唸らせられます。
    冒頭に定義があります。
    「役人とは生きるために俸給を必要とし、自分の職場を離れる自由を持たず、書類作り以外なんの能力もない人間」
    現在と同じではありませんか!
    能なし役人とは「郊外に一戸建てを借りて住んでいる。中背、小太りで、ゆっくりと歩き、官吏であることを誇りにしている。どんな場合でも、体制に奉仕することに心血を注ぎ、政治音痴を自慢にしている。……『ジュルナル・デ・デバ紙』の意見をそのまま採用し、どんな権力であろうと、かならず権力の味方をする。」
    この後、産業革命が起こり、金融資本が勢力を拡大してくると、民間企業で働く「サラリーマン」が誕生してくる。役人のようなライフスタイルが市民の間に広がっていくのである。『役人の生理学』で戯画化された人々は、現代のサラリーマンの原型なのです。
    役人・会社員というのは、進歩していないことに驚かされます。
    大文豪による抱腹絶倒のエッセイです。
    付録に、一九世紀の役人文学3篇を追加。 」

    筑摩書房
    http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480032836/

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著者プロフィール

オノレ・ド・バルザック
1799-1850年。フランスの小説家。『幻滅』、『ゴリオ爺さん』、『谷間の百合』ほか91篇から成る「人間喜劇」を執筆。ジャーナリストとしても活動した。

「2014年 『ジャーナリストの生理学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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