- Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062923996
作品紹介・あらすじ
北一輝は昭和11年(1936)の二・二六事件の、蹶起将校たちの思想的指導者として知られる。すなわち、戦前の代表的な国家主義運動家・思想家とされる。
もちろん、そのとおりなのだが、彼は若い頃、独学で当時の国家論や社会主義論を学び、二三歳にして、主著『国家論及び純正社会主義』を自費出版した。ここで、普通選挙制度の導入と議会による社会主義革命を主張し、刊行直後に発禁処分になっている。
以来、在野の活動家・思想家として活動する。
そして、1911年、中国の革命を支援するため上海に渡る。これを機に、一転して、軍隊主導の暴力革命を唱えるようになる。
このような経緯から、これを左から右への「転回」と捉え、思想的な断絶を指摘するのが、従来の北一輝論であった。
本書では、この思想的断絶を認めない。
主著『国体論及び純正社会主義』では、「国家人格実在論」なるものが主張されている。北にとって、国家は、物理的に実在する法人格であり、それは、進化するべきものであった。つまり、国家論と進化論が接合されたところに、北の思想的本質があったのだ。
この国家が進化するという思想は、ある意味では、近代日本の根底を支えた思想でもある。
北一輝を読み直すことは、近代日本に通奏低音としてながれていた国家論の系譜を読み直すことでもあるのだ。
本書は、いわば、「近代日本」という国家論を考え直す試みでもある。
感想・レビュー・書評
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本書を読んだ理由は、2・26関連で必ず北が触れられ、その思想を確認したかったからなのだが、、、意外にも自身で漠然と謎と思っていたことの一つの解を本書で得た。
国民総動員体制時代に愛国心の醸成等の必要性は理解できなくもないが、建国時、古事記にしても、国体論にしても国を興すときになぜこんなにまで正当性、拠り所を古今東西求めるのが謎であった。その一つの解として、著者が示したのはヴァレリーの「神話」は一つの考えとしては納得できた。
「神話」
・人が何かを創造する際にそれに意味を与え、それを理解するための公理。
・自然における創造がそうであるように原因を要求し、自ら出現した後で
原因や合理性を求めて過去に遡行する
・事後的に原因を生み出す
・虚偽であっても「神話」がなければ、人間は(中略)無意味の錯乱に陥る
マルクスから始まり、ニーチェ、ヘーゲル、プラトンまで用いて語られる北自身の思想には「神類」、「(天皇と国民)一体化」あたりから論理の飛躍が大きすぎて共感はできない。
また、青年将校たちが北の思想に何を見出したのだろうか?天皇と国民の間の「君側の奸」が彼らにとって統制派でそれを打倒するのに北のロジックは必要だったのか?そもそも彼らに事件その後の明確なイメージがあったようには今時点では感じていない。
著者は北の思想に一貫性を見出すが、他の思想家だと矛盾だが、北だとなぜか「妥協」後に「妥協」ですらなく、理想と現実の中でたどり着いた「境地」となるのは甘くないか?詳細をみるコメント0件をすべて表示