ソビエト連邦史 1917-1991 (講談社学術文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062924153

作品紹介・あらすじ

1917年の革命で誕生し、1991年に崩壊したソビエト連邦は、20世紀最大の政治事件であったことは異論がないでしょう。
この74年間に失われた人命は、数千万以上です。ロシア革命、内戦、新経済政策、集団化、粛清、第2次大戦に至る一九三〇年代の外交、「大祖国戦争」、なによりも1945年以降、超大国となる冷戦期のソ連、スターリンの死と批判、平和共存とフルシチョフ改革から、ペレストロイカ……。20世紀のもっとも陰惨にして重要な時代を、ソ連国家の中枢で動かした人物が存在しました。モロトフです。
工業化が進展した近代国家の労働者による革命が、農民国家ロシアで勃発したのはなぜか? 党が国家を所有するという転倒した関係はソ連に何を引き起こしたのか? 「古儀式派」という宗教と党中枢との知られざる関係とは?
ソ連・ロシア政治研究の第一人者が、ソ連崩壊後明るみ出た数多の資料を読み解いて、ソビエト連邦という人類史上最大の「社会主義国家」の全貌を明らかにします。2002年刊の選書メチエ『ソ連=党が所有した国家』を大幅に増補改訂した新版です。

感想・レビュー・書評

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  • 御近所の書店が閉店するというその日に立寄り、眼に留めて求めた一冊であった。ゆっくりと読んだ。
    随分と以前から関心を寄せている事項に纏わる本ということにもなる。主に“政治史”ということで、「ソ連」が辿った経過を振り返る内容である。
    ヴャチェスラフ・ミハイロヴィチ・モロトフ(1890-1986)という人物が在る。「モロトフ」は、「レーニン」や「トロツキー」や「スターリン」と同様、往時の革命家が使っていて、そのまま通称として有名になった“ペンネーム”である。本名はスクリャービンというそうだ。
    近現代の歴史に関心を寄せる方であれば、「モロトフ・リッペンドロップ協定」という、第2次大戦の前のソ連とドイツとの間の密約という話しを耳にしているかもしれない。この話しに出て来るソ連の外務大臣がモロトフである。
    モロトフは、ペンネームを通称として使い続けたことが示すように、革命が成る以前からのボリシェヴィキである。党の仕事や政府の仕事を手掛け、スターリンに近い幹部として要職を歴任した。フルシチョフ時代になって党を離れ、やがて1984年に復党する。そしてゴルバチョフ時代に入った1986年に96歳で他界している。
    本書はこのモロトフを“キーマン”と位置付け、彼が関与した事案等を軸に据えながら、「ソ連」が辿った経過を振り返る内容である。
    極々大雑把に顧みる。
    ロシア革命の後、第1次大戦の後始末や内戦というような状況が在りながら、レーニンを指導者として体制が構築されて行く。レーニンが逝去した後、スターリンを中心とする流れと、その他の流れとの抗争のような情況が在って1930年代に入って行く。
    1930年代には農業集団化の件等、実に色々と在って、やがて第2次大戦の時期に進む。戦争を乗り切った後、国際政治の様々な動きも在るが、やがてスターリンが逝去する。
    以降、スターリンに近かった人達が排され、フルシチョフの時代に入る。そしてフルシチョフはブレジネフに追い落とされてしまう。やがてブレジネフの下で「停滞の時代」になる。
    ブレジネフが逝去した後は、アンドロポフ、チェルネンコと何れも短命政権であった状態が続き、1985年にゴルバチョフが登場する。
    ゴルバチョフの下での動き、「上からの革命」が「下からの革命」の挑戦に晒されるような状況、ソ連共産党の維持することや、連邦体制を維持することが困難になり、ソ連の旗は1991年に下ろされてしまう。
    こういうような大雑把な流れに関して、様々な事柄を挙げて掘り下げているのが本書だ。
    現在、ソ連の旗が下ろされてから30年余りということにはなる。「ソ連の歴史」を振り返ると、バルト3国とソ連後の12の国々が成立して辿る経過、ソ連が旗を下ろすようになって行く頃の「色々と在った…」または「課題を残し過ぎた?」ということが在って、それ故に「昨今の様々な問題」も生じているのかもしれないというようなことを思った。
    「30年余り」というのも“微妙”かもしれない。本書の終章辺りに綴られている、1980年代末や1990年代冒頭の色々な出来事に関しては、極個人的な話しになるが、「自身の人生の中での見聞」というようなことで記憶に留まっている場合も多く在った。そういう情況でもあるが、それでも30年以前と最近とでは、色々な事柄を巡って随分と様子が変わってしまっていることも思わざるを得ない。そういう「個人の人生の中での時間」であると同時に「余りにも多くが大きく変わり得る時間」ということで、30年余りを“微妙”と表現したくなる。
    そういう訳で、「ソ連の歴史」というようなことになると、やや複雑な想いも沸き起こるのだが、それはそれとして「振り返っておきたい事柄」であると強く思う。これもまた「昨今の様々な問題」を考える大事な材料だと思う。
    本書は、最初のモノが2002年に登場していたが、その後の研究成果―ロシア革命の“担い手”というような役割を負った人達に関する事等―を加味して加筆し、2017年に「ロシア革命100年」を意識して改めて登場したモノであるという。「ソ連の歴史」に登場する人名等に不慣れな方に関しては、やや「入り悪い?」のかもしれない。が、自身はその種のモノに少し馴染んでいるので、何か凄く夢中になってしまった。

  • レーニンからゴルバチョフまで。二次大戦期に外相を務め、スターリン時代のNO.2でもあるモロトフを軸としてソビエトの始まりから終わりまでが書かれてる。よく分からないところもあったけれど、ソビエトの社会主義とはなんだったのか改めて考えさせられた気がする。

  • 多すぎる数の犠牲のうえに存在していたソビエト連邦。ロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに、再度この地域の歴史を勉強したいと思って手に取ってみた。

    現実を見ず、自らの理想を通すための政略だけで動かすには、領土も広大すぎ、人々の考えも多様すぎたのだと、無理に一言にまとめるとそうなるのであろう。

  • モロトフを軸に叙述するのは、ちょうどその生涯がソ連の誕生から崩壊に至る歴史とほぼほぼ重なる要素もあるだろう。それにしても、ソ連の誕生から崩壊に至る過程はまさに壮大な社会実験そのものという気がする一方、その実験で失われた命はあまりにも多い。
    米ソ冷戦が終結といったニュースを聴いた子供の頃、これから戦争というものは起こらなくなるのだなとぼんやり思った記憶があるが、現代は覇権主義やポピュリズムなどが台頭し、冷戦時の二極から多極化して混迷の度を深めている。未来の世界史の行方が気になる。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/741711

  • モロトフを基軸に、ソビエトの勃興から崩壊までを最新の研究成果も交えながらコンパクトにまとめ上げた力作。
    アナクロニズムの連続、そもそも革命政権が肥大化していくことの内包する矛盾が、ソ連の崩壊の端的な理由だと改めて。

    ただ、ソビエト史と共産主義史へのある程度の知識がないと、事実の羅列を追うだけになってしまうので、入門的には使えない。
    スターリンの時期はかなり丁寧に記されているが、崩壊のメカニズムに迫りたい、という個人的なこの本を手に取った動機を満たすものではなかったかな、、

    個人的には、モロトフという着眼はとても面白く、彼の人生こそソ連の歴史そのものだというのはまさしくその通りだと思った

  • 1917年のロシア革命から1991年のソ連崩壊までを、モロトフを切り口に描いた研究書。
    モロトフは
    1930-1941 首相
    1939-1949 外相 (39-41は首相兼務)
    1953-1956 外相
    と、スターリンの腹心として、スターリン存命中も1953年のスターリン死後も
    ソ連の国家中枢にいました。

    1949年以降はスターリンから疎まれたものの、モロトフは1986年に死ぬまで一貫して、
    大粛清ですら"仕方ないこと"とするほどに、スターリン主義者であったそうです。

    読みやすい文章で書かれているので、ソ連の通史を軽く知るには良いと思います。
    なお、もうひとつの切り口である、ロシア正教の古儀式派については、
    まったく知識が無いため、そのアプローチが良いものなのか否かは分かりません。

  • 単純な通史ではなくモロトフの立場からロシア近代史はどう評価しうるのか。といった視点で記述がされていると思う。ただ、いかんせん、スターリンの時代から第二次世界大戦後をモロトフの目線で見ることはとてつもなく無理を生じる。読み進める中で、革命期の活動家がその後何を発言しうるのか、という点が面白かった。はっきり言えば、時代錯誤である。

  •  スターリン時代のソ連ナンバー2として知られるモロトフを焦点に据えたソヴィエト連邦通史。ソ連共産党とソ連国家との関係の変容に重きを置いている。近年のロシアでの研究動向を反映して「古儀式派」(正教異端派)の影響と人脈を重視しているが(モロトフも古儀式派が強い地域の出身という)、一歩間違えると宗教還元論や陰謀論に堕す危険性があり、これには疑問が多い。

  • そういえば、ソ連という国はもう始まりも終わりも分かっている歴史上の出来事なのだと思うと隔世の感がある。アンドロポフやチェルネンコの没報が新聞の一面を黒々飾ったのはなんとなく記憶にある。
    本書は2000年以降にも新たな発掘公開が続いている旧ソ連史料も交えて、1917年のロシア革命から1991年の崩壊までの政治史を追っている。ロシア正教会の非主流派である古儀式派が大きな役割を果たしていたと言うのが耳新しい。
    権力闘争、飢餓輸出、極端な重工業偏重、大粛清、、、こんな国が世界の半分の一極を担っていたと思うと20世紀はすごい。今も変わらないのかもしれないが。

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著者プロフィール

法政大学法学部国際学科教授。
1948年生まれ。東京大学法学部卒業、同大学法学博士。成蹊大学教授をへて1988年より現職。専門:ロシア政治、ソ連史、冷戦史。
主な著書:『ソビエト政治と労働組合─ネップ期政治史序説』(東京大学出版会、1982年)、『ソ連現代政治』(東京大学出版会、1987年/第2版、1990年)、『ゴルバチョフの時代』(岩波新書1988年)、『「ペレストロイカ」を越えて─ゴルバチョフの革命』(朝日新聞社、1991年)、Moscow under Stalinist Rule, 1931-34(Macmillan, 1991)、『スターリンと都市モスクワ─1931~34年』(岩波書店、1994年)、『独立国家共同体への道─ゴルバチョフ時代の終わり』(時事通信社、1992年)、『ロシア現代政治』(東京大学出版会、1997年)、『ロシア世界』(筑摩書房、1999年)、『北方領土Q&A80』(小学館文庫、2000年)、『ソ連=党が所有した国家─1917~1991』(講談社、2002年、2017年文庫版『ソヴィエト連邦史』予定)、『アジア冷戦史』(中公新書、2004年)、『モスクワと金日成─冷戦の中の北朝鮮1945~1961年』(岩波書店、2006年、露版、2010年)、『図説 ソ連の歴史』(河出書房新社、2011年)、『日本冷戦史─帝国の崩壊から55年体制へ』(岩波書店、2011年)、『ロシアとソ連 歴史に消された者たち─古儀式派が変えた超大国の歴史』(河出書房新社、2013年)、『プーチンはアジアをめざす 激変する国際政治』(NHK出版新書、2014年)、『日ロ関係史─パラレル・ヒストリーの挑戦』(共編著、東京大学出版会、2015年)、『宗教と地政学から読むロシア─「第三のローマ」をめざすプーチン』(日本経済新聞出版社、2016年)。論文に「クバン事件覚え書」(『成蹊法学』No.16、1982年)、「労働組合論争・再論─古儀式派とソビエト体制の視点から」(『法政志林』No.1-3、2016年)など。

「2016年 『ロシアの歴史を知るための50章』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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