恋歌 (講談社文庫)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062931915

作品紹介・あらすじ

樋口一葉の師・中島歌子は、知られざる過去を抱えていた。幕末の江戸で商家の娘として育った歌子は、一途な恋を成就させ水戸の藩士に嫁ぐ。しかし、夫は尊王攘夷の急先鋒・天狗党の志士。やがて内乱が勃発すると、歌子ら妻子も逆賊として投獄される。幕末から明治へと駆け抜けた歌人を描く直木賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 幕末、水戸藩尊王攘夷派天狗党の志士である一人をただ男として、愛して嫁いだ娘、登世。恵まれた商家の贅沢な生活を惜しげも無く捨てる。
    水戸藩は、困窮していた。嫁いだ先でも、持参金を使い果たす生活が続く。それでも、世間知らずな娘には、幸福な日々であった。
    官軍になれなかった天狗党は、その妻子までも逆賊として投獄されていく。そこは、飢えと処刑の凄惨な泥梨だった。
    内乱と殺戮の水戸から江戸へ逃れた、登世は、和歌の修行に励み、歌人中島歌子となっていく。
    この小説は、弟子の一人が歌子の手記を読むという構成になっています。明治になり歌子は「萩の舎」を開き和歌や古典を教えていました。教え子の一人には樋口一葉。彼女には大変期待していたようです。今の娘達は、と自分の過去を振り返りながら嘆く事が多かったようですね。
    過酷な幕末を生き抜き、悲惨な歴史を見てきた彼女ですが、歌人として、美しい伝統を残しました。
    和歌って良いよねえ。辞世の句までも、美しくという生き様とか。

    • kuma0504さん
      おびのりさん、こんにちは。
      本書は読者モニターで、プルーフ版というのを読んでレビューを送ったら、サイン本をくれるというので読みました。まさか...
      おびのりさん、こんにちは。
      本書は読者モニターで、プルーフ版というのを読んでレビューを送ったら、サイン本をくれるというので読みました。まさか、まかてさんが、これで直木賞を獲るとは思わず、今ではサイン本は宝物です。

      水戸藩の陰惨な派閥争いは初めて知りました。弱い者が、藩の貧しさがうちに籠って弱いものを叩く。まるで現代の日本のようです。直木賞納得です。
      2022/12/10
    • おびのりさん
      kuma0504さん、コメントありがとうございます。
      水戸藩の困窮や節約、派閥争い。節約系は知っていたかもしれないのですが、天狗党の妻子の投...
      kuma0504さん、コメントありがとうございます。
      水戸藩の困窮や節約、派閥争い。節約系は知っていたかもしれないのですが、天狗党の妻子の投獄の様子は、初めて知りました。
      小説として、まとまりもしっくりしていて、直木賞ですよね、と思いました。
      以前、樋口一葉展に行ったことがあり、萩の舎が多くの生徒さんを持ち、中島歌子さんが、その中でも、一葉にかなり期待していたことに触れられていました。一葉もお金が無いのに、客人にご馳走してしまうようなところがあったり、自分でお店を構えたり、もしかしたら、二人は似たところがあったのかもしれません。
      サイン本、すっごく羨ましいです。
      2022/12/10
    • 4tamaさん
      おびのりさん、1年くらい前に、コメント頂いていたみたいで今、気づきました。コメント、ありがとうございました。
      読書歴を見て、似ているところ...
      おびのりさん、1年くらい前に、コメント頂いていたみたいで今、気づきました。コメント、ありがとうございました。
      読書歴を見て、似ているところがあるなぁと思ったので、フォローさせていただいたのです。
      この恋歌も詠みました。
      まかてさん、これでファンになったのですが、最近は軽い本ばかりで、少し残念に思っています。先生のお庭番が、このまかてさん調がありました。
      2022/12/23
  • 水戸藩中士で天狗党に属する林以徳は、腕の立つ良識派志士(かつ憂いを帯びた美男子)。そんな以徳に一目惚れした池田屋の娘・登世は、その強い想いが通じて以徳の妻女となることができ、至福を味わう。だが、不穏な空気漂う水戸に下った登世には、武士の妻としての貧しく窮屈な暮らし、そして過酷な運命が待っていた。

    水戸藩は、天狗党と諸生党の二派に分かれ、激しく対立していた。天狗党の首領・武田耕雲斎が失脚すると、天狗党の旗色が悪くなり、跳ねっ返りの急先鋒・藤田小四郎は、以徳らの説得に耳を貸さず、同志を集めて筑波山で勝手に蜂起してしまう(天狗党の乱)。諸生党から徹底弾圧を受け、不本意ながら乱に合流せざるを得なくなった以徳ら天狗党穏健派こそいい迷惑(後先考えない直情型の小四郎の振る舞い、ホント酷い)。天狗党憎しの諸生党は、天狗党藩士の妻子を投獄しては虐待を加え、順次斬首していった(いつの世も、憎悪に凝り固まった集団は身の毛もよだつ残虐な行為を平気で行うんだな)。牢獄でのこれでもかというくらい悲惨で理不尽な日々の描写はとくに圧巻だった。

    牢獄暮らしを何とか生き延びた登世(中島歌子)は、明治に入り、私塾「萩の舎」を立ち上げて一定の成功を収める。そして、死の病に侵された歌子は、憎しみの連鎖を断ち切るためにある遺言を認めた。

    幕末期、混乱に次ぐ混乱の水戸藩の情勢を、藩士に嫁いだ商家の娘の視点で描いた、直木賞受賞も納得の力作。遺言に込めた登世の思いも感動的だった。読み応えあり。

  • 作家・樋口一葉の師である歌人・中島歌子さんの生涯ともいえる
    若き日の歩みを歌人自らが語る形で描かれるストーリー。

    江戸の宿屋の一人娘登世(歌子の本名)は、見染めた相手が
    水戸藩士だったがために、波乱に満ちた人生を辿ることになる。

    時代は幕末の水戸藩。天狗党...。その名は聞いたことがありましたけれど
    勉強不足ゆえ、こんなにも壮絶で惨忍な出来事が強いられていたとは
    知りませんでした。惨い。あまりにも惨すぎる...。

    登世のみならず、捕らわれた女性たちはみんなよく耐えた。
    自分の身の上のことでさえ、耐え抜くのはどれほどのことだったかと
    身につまされるというのに我が子まで...

    ここに寄せられている辞世の句はどれも、その人生の歩み
    (恋歌というこの物語)を知ればこそ、心に深く響き感慨に打たれます。

    歌子さんの最後はあの若かりし頃の、例え我が身が苦しみの中にあっても
    人を慮る心のある登世のままでよかった。

    ”君にこそ恋しきふしは習ひつれ
    さらば忘るることもをしへよ”

    切ないね...。このたった三十一文字の言葉のなかに、これほどまでに
    切ない心の想いが奥深く刻まれている、和歌の美しさというものにも魅了されます。

    苦しみに耐え抜いた登世の、中島歌子さんとしての歌人の人生もぜひ知りたい。
    いつかまたどこかで出会えたらいいなと思います。

  • 第150回直木賞受賞作。
    著者初読み。
    樋口一葉の師と言われる中島歌子の半生を綴った作品。
    水戸藩の天狗党の関係書籍と言うことで読んでみたが、想像以上に歴史に関する部分が詳しく描かれており、水戸藩の歴史の勉強にもなった。
    そして、タイトルにもなっている「恋歌」。愛する人を幕末の戦乱で失った主人公・登世や他の天狗党の関係者達の31文字に込めた想いが何とも切ない。

  • 題名から恋愛小説としていいだろうが、幕末期の水戸藩の悲劇を描いた歴史小説と言ってもいいか。
    幕末から明治へと激動の時代を生きた実在の歌人中島歌子の半生記。小説は、その歌人の手記を弟子が詠むという構成になっており、それがこの小説に深みを持たせている。
    情熱的でおきゃんな江戸の商家の娘が、水戸藩士に一目惚れ。その初々しい恋物語は、嫁いだ途端一変する。
    江戸との文化の違い、小姑との諍い。さらに藩内抗争の余波が襲いかかる。凄まじいばかりの牢獄生活の描写は、アウシュビッツもかくやと。
    血を血で洗う藩内抗争もこの小説の肝か。多くの有為の人材を失わせた内乱が、尊皇派でありながら水戸藩士を明治新政府の顔ぶれから遠ざけた原因だろう。
    書中、薩長と水戸との違いを語らせる箇所がある。
    「温暖な薩摩や長州も懐は豊や。けど、水戸は藩も人も皆、貧しかった。水戸者は生来が生真面目や。質素倹約を旨とし過ぎて頑なになって、その鬱憤を内政にむけてしもうたのや・・・」
    歴史小説としても読めるこの作品を貫いている主題は、やはり歌人の一途な恋。折々に綴られる和歌に、歌人の思いが込められている。
     君にこそ悲しきふしは習ひつれ
               さらば忘るることもをしえよ

  • 「恋することを教えたのはあなたなのだから、どうかお願いです、忘れ方も教えてください。」
    己の心を命懸けで三十一文字の歌に注ぎ込む中島歌子の半生。

    幕末から明治にかけて全力疾走した登世(のちの中島歌子)。
    幕末における水戸藩の内紛や尊王攘夷等について、色々思うところもある。
    しかしなんと言っても、どんなに辛い仕打ちを受けても「恋い焦がれたあの人の妻になれた」ことを胸に生き抜いた登世は天晴れだと思った。

  • これは面白かった!歴史小説は苦手だけど、これは一気に読めた。どこまでが事実なのだろう。構成が絶妙で、文体も綺麗。何より、登場する女性たちの芯の強さと気高さがとてもかっこいい。だらしなく生きてる私には、背筋を正される思い。朝井まかてさんの他の作品も読んでみたいと思う。

  • 朝井まかてさんの水戸天狗党の乱を背景にした歴史小説。
    幕末時代、何かつながりが感じられずポツンとした印象ばかりで、どんな事件だったのかよく知らなかった天狗党の乱。そういえば小説で取り上げられることも少ないですね。
    この本を読んでようやく判りました。御三家の一つ水戸徳川家で起きた尊王攘夷。薩長(土肥)の尊王攘夷が初期はともかく最終的には討幕を目的にした旗印に過ぎなかったのに対し、天狗党は目的が尊王攘夷。そのために幕末の様々な流れの中で孤立した印象があになるのですね。それにしても、こんな悲惨な事件だとは思いませんでした。
    天狗党の志士に出会い、一途な思いを実らせそのもとに嫁いだ明治の歌人・中島歌子。
    1000人もの門下生を持ち、いくつもの浮名を流したという維新以降の生き様を見れば、傲慢で我儘なやり手だったのかもしれません。しかし朝井さんは中島の一首「君にこそ恋しきふしは習ひつれ さらば忘るることもをしへよ」をもとに、夫にぞっこんで、おきゃんで純粋な若き歌子像を描いて見せます。史実はどうだったのでしょう。しかしそんなことは関係なく、浅井さんの描く歌子はとても魅力的です。
    タイトルを見て歴史を背景とした恋愛小説かとちょっと手を出すのをためらったのですが、骨太な見事な歴史小説でした。

  • 日本文学だと思う。この人の作品好きです

  • 物語を通して描かれていた人生の恋も良かったけれど、なにより、この時代を生きた人々の強い思いや魂みたいなものが感じられたのが印象的。
    時代に翻弄されて途方に暮れたり、昂ぶったり、憤ったり、信じたり、裏切られたり。まさに激動の人生が、ひとりひとりにあったんだなと思う。
    こうやって人生が積み重なって、歴史ができていくんだ。
    作品の中でいくつか記されていた、文字どおり命を賭けた辞世の句が胸にぐっと迫ってきた。
    読むのが苦しくなるほどの場面もあるけど、読んでよかった。
    こんなふうに心や風景や人間ひとりの人生をも表現する、短歌とは素晴らしい文化だとも思った。

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著者プロフィール

作家

「2023年 『朝星夜星』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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