内憂外患を一気に解決する鬼神の知謀。
図書館の魔女マツリカの本領発揮。
面白くなってきました!
『図書館の魔女 第三巻』 高田大介 (講談社文庫)
ニザマにそそのかされたアルデシュは、一ノ谷との戦端を今にも開こうとしていた。
版図縮小論を掲げる一ノ谷は戦役を回避するべく知恵をしぼる。
マツリカの秘策とは。
麦の不作に苦しむアルデシュの穀倉を回復し、ニザマの帝室と渡りをつける。
この一見無関係に見える二つのことが海峡地域を平定する鍵になろうとは、誰が想像できただろう。
時に大胆に時に繊細に、年端のいかぬ少女が仕掛ける駆け引きが、読者を引き込み胸躍らせる。
病気のニザマ帝に薬剤を供与する代わりに、帝室にアルデシュと一ノ谷との間の和睦を主導させ、まず西方での戦の火を消し、同時にニザマ帝の存在感をアピールすることで北方の覇権を帝室に回復させ、対立する宦官宰相の力を弱める。
いやーややこしい。
ややこしいけど面白い。
三巻までくると登場人物たちの個性も際立ってきて、そこもまた楽しみのひとつだ。
マツリカにぼろくそ言われても怒らない心優しき衛兵の皆さんが何だか可愛いし(場所ふさぎとか空気が薄くなるから息をするなとか本当にひどい 笑)、アルデシュの農地回復のために集められた学者や職人たちは、プロの矜持を持ち己の技術の粋を尽くして、実に生き生きと楽しそうに仕事をしている。
さてそんな中、なんとマツリカが刺客に襲われる。
しかも今回は、前のような“巨人に叩き潰される”とかいう原始的なものではなく、“暗示”によるもの。
催眠状態での強い暗示によって、マツリカの“言葉”である左手の自由が奪われてしまったのだった。
ここでいいなと思ったのは、マツリカ自身が自分の体に起こったことについて、論理的にきちんと理解しているということ。
ファンタジーなんだし、魔法使いに呪いをかけられてしまいました!なんてことでもオッケーな気がするけど、そうしないところがきっぱりしていていい。
前半、結構な紙幅をとっていたマツリカの文献学講義の中で、彼女は魔導書の類を駄本であるとばっさり切り捨て、魔法や秘技は戯言であると言い切っていた。
のちのニザマ帝との会談の折りには、検閲を非とする態度を崩すことはなかった。
この図書館のありようは、権謀術数渦巻く混沌とした世界の中での正義の指針のように私には思えて、とてもリアリティーをもってこの物語を読むことができている。
一方、マツリカとキリヒトの二人のシーンが時折挟み込まれることで、ゆらりと輪郭がにじんで見える瞬間があって、ぐっと心を掴まれる。
マツリカが弱さを見せるのはキリヒトの前だけなのだ。
字が書けなくて自暴自棄になり当たり散らすのも、指から指へ苦しみを訴えるのも、海が恐くてしがみつくのも、キリヒトだった。
二人の先代たちは、ここまで計算をしていたのだろうか……
先代タイキ様のラスボス感が増してきた。
一度も姿を現していないにもかかわらずこの存在感!
しかもキリヒトの先生が随行しているというスペシャルさ!
タイキ翁はマツリカにじじい呼ばわりされてはいるが、きっと孫娘のことを心配しているはずだし、きっとものすごいカードを隠し持っているに違いない。
戦雲急を告げる状況でありながら、実際に目に見える形で何かが起こっているわけではない。
水面下で策謀が行き渡り、静かな闘いが進んでいる。
まさに本書の惹句にもある「魔法でも剣でもなく“言葉”で世界を拓く」物語。
そしてそれは、「起こらなかった第三次同盟市戦争」を、先代タイキが書簡のやりとりのみで治めたことから始まっていたのだ。
次でファイナル。
アルデシュとの話し合いはうまくいくのか。
タイキが切る最後のカードは何なのか。
マツリカは“言葉”を取り戻せるのか。
個人的には、二回もマツリカを狙ったミツクビに強烈なお仕置きをしてやりたいところではある(笑)
では次巻!