殺人出産 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062934770

作品紹介・あらすじ

祝!芥川賞受賞
村田沙耶香 最大の衝撃作はコレだ!
10人産んだら、1人殺せる。「殺意」が命を産み出す衝動となる。

今から100年前、殺人は悪だった。10人産んだら、1人殺せる。命を奪う者が命を造る「殺人出産システム」によって人口を保つ日本。会社員の育子には十代で「産み人」となった姉がいた。蝉の声が響く夏、姉の10人目の出産が迫る。未来に命を繋ぐのは彼女の殺意。昨日の常識は、ある日突然変化する。表題作、他三篇。

感想・レビュー・書評

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  • 文庫本に解説が入っていなかったので、ちょっと、解説を書かせていただくような気持ちで書いてもいいですか?

    本作品は、表題作「殺人出産」を含む4つの作品を収録した短編集。割合としては、表題作「殺人出産」が全体の3分の2を占めていて、他の作品は徐々に少なくなってゆく。最後の「余命」は約4ページほどだ。

    「殺人出産」の世界は、今から100年後。
    医療技術の発展と価値観の変容により、出産は人工受精が主流となり、セックスは単なる愛情表現と快楽のためになされるようになった。この世界では、女性は基本的に手術をして避妊を行い、男性も妊娠が可能になった。偶発的な妊娠がなくなるため、人口は減少し、社会が維持できなくなったことから、「殺人出産システム」が採用されることになった。それは10人産んだら一人殺してもいい、という殺意を原動力とした人口維持システムである。
    P15「恋愛とセックスの先に妊娠がなくなった世界で、私たちには何か強烈な『命へのきっかけ』が必要で、『殺意』こそがその衝動になりうるのだ」。

    次に、以前読了した「消滅世界」を例に挙げたい。今の時点で挙げるのは順番としておかしいかもしれないけれど、この流れの中で伝えたい。この世界は、セックスではなく人工授精で子どもを産むことが主流となり、女性は避妊処置を行い、男性も妊娠が可能な世界。夫婦でのセックスは近親相姦としてタブー視され、夫婦とのセックスで産まれた子どもは特殊で、人工授精で産まれた子どもこそが普通であるという世界だ。好きな人と結婚して、セックスをして子どもを産むこと。それを「正しい世界」として母親にたたきこまれた主人公。だんだんと、その「正しい世界」に疑問を抱くようになり、夫婦間でのセックスを忌避するようになる。また、この世界では夫婦=家族であるので、セックスは夫婦間ではなく恋人とすることとされていて、婚姻関係を継続させながら他の人と恋愛、セックスをするのが普通だ。お互いの恋愛の話をする夫婦もいる。

    そして今回の作品に収録されている「清潔な結婚」。それはつまり、「『性』を可能な限り排除した結婚」のことだ。夫婦間で、セックスを行わない結婚。
    P167「性とは僕にとって、一人で自分の部屋で耽る行為か、外で処理する行為なんです。仕事でつかれて、ただいま、と帰ってくる家にセックスがある。そのことに生理的嫌悪感があるんです」「のんびりくつろいでいたのにいきなり相手の手つきが性的になったりすることが、辛いんです。性欲のスイッチは自分で入れたり切ったりしたいし、家ではオフにしていたいんです」。

    「余命」では、医療技術の発展により「死」がなくなった世界を描いている。
    「トリプル」では、「二人で付き合う」ことに疑問を持ち、「三人で付き合う」ことが認められている世界を描いている。しかし主人公の親は「正しい人」であって、その正しさとぶつかる。

    ここまで書いてきて、改めて「消滅世界」と重なり合う部分が多い作品だと思った。「殺人出産」の初出は2014年7月。「消滅世界」の初出は2015年12月。「殺人出産」の方が早いのだ。
    本作に収録されている世界の共通点、それをベースに「消滅世界」という長編を作り上げたのかもしれない。
    性に対する疑問、夫婦=家族、夫婦がセックスをした結果の妊娠であることへの拒絶感、家族を性の対象としてみることへの違和感、性別がなくなることを切に祈るような医療技術発展に対する願望。そして、過去の常識を「正しい」と押し付けてくる人たちとの、正義とのぶつかり合い。彼女の作品では、正しさを押し付けてくる人は家族など、近くにいる人であることが多い。「コンビニ人間」でもそうであったように。

    今わたしたちが生きる社会の中での「正しさ」や「常識」はもちろんあって、それは人それぞれに異なるのだけれど、ある程度共通した「正しさ」や「常識」というのは、ある。例えば、人を殺してはいけませんよ、であるとか、不倫をしてはいけませんよ、であるとか、そういった類のものだ。
    わたしたちは、それを生きていく中で学んで身につけて、常々それを意識しなくてもいいくらいの気持ちで、生きていくようになる。だって、常に「人を殺してはいけない」とつぶやきながら生きてない。たとえそういう気持ちを持っていたとしても、それは外には出ていなくて、心の奥深くに眠らせているのだ。
    彼女の作品は、人の心の底に眠らせている、社会を機能させるために封じ込めている感情、つまり倫理的によしとされない感情をぐいぐいと引っ張りあげて、そのような感情を持っていることが当たり前であるという世界に連れ出してくれる。他の作家さんの作品にももちろん同様に、普段封じ込めている感情をぐいぐい引っ張りあげてくれるものはあるけれど、彼女の作品のすごいところは、倫理観や性といった、タブーとされがちなところにフォーカスし、しかも現実世界に作品の世界を落とし込むのではなく、倫理観やタブーと向き合うために、世界をゼロから構築し、今ある現実世界の方を「異常」にしてしまうことだ。そして作り上げたその世界から、絶対に目をそらさない。描き始めたその世界を諦めない。

    相変わらずクレイジーだし、共感はしにくいんだけど、彼女の作品は共感とかそういうところとは別のところに位置している。この作品でいうところの100年後の世界を、想像し、軽蔑しないことができるかどうか。自分が正しいと信じ切っている世界がいつか、正しくなくなることを受け入れられるかどうか。
    身近にいる、過去の常識にしがみついて、その視点でしか社会を見ることができない人たち。つまり、正しさを押し付けてくる人たち。
    コロナウイルスが蔓延している社会で絶対にテレワークを導入しない会社、女性がお茶汲みをするのが当然だと思っている男性、結婚するのが当然だと思って結婚をけしかけてくる人たち、家事や子育てを一切しない男性。
    彼女が描く世界は極端だけれど、「常識が異なる世界」と考えれば、今わたしたちが生きている世界でも、こんなに自分の常識を信じて疑わない人たちがいる。
    今自分が生きている時代の常識は今の時代の常識であって、時代が変われば常識だって異なる。その変化についてゆけなければ、過去の自分が心地よかった時代の常識を持ち続けて、他人に押し付けようとする。それが醜いのだ。時代は変わる。それに伴い変わるべきは、人だ。人が、価値観と常識、つまり時代を作っているのだから。未来に対して想像力をもって、来る未来を尊重すること。それができるのは、人だけだ。

    余談になりますが、例えば、恋愛の先に結婚があるという今の価値観こそ、今の常識ではあるけれど、それは未来の常識と異なる可能性は十分にある。
    最近、芸能界では不倫をすれば猛烈にバッシングされる。一人収まればまた別の誰かが標的にされる。その繰り返し。このバッシングの背景にあるものは、何か。結婚したらその人としかセックスをしてはいけない、というしがらみに実はみんな苦しめられていて、でも本当はどこかで、家族は家族、恋愛は恋愛って分けたいと思ってるとか。でもそれは倫理に反しているからしていないのに、パートナーは恋愛を楽しんでいる。それが悔しくて、その怒りをぶつけるために、自分とは全く関係のない人たちをたたいてるんじゃないかな…なーんて。

    本作品をお読みになる際は、ぜひ「消滅世界」とセットでお読みださい。

    • todo23さん
      お返事ありがとうございました。
      そうですか、思い当たるフシは無いと。
      昔アップした作品について「xxさんがあなたのレビューにいいね!しま...
      お返事ありがとうございました。
      そうですか、思い当たるフシは無いと。
      昔アップした作品について「xxさんがあなたのレビューにいいね!しました。というメールがブクログから届くと、同じ作品について別の方からの「いいね」のメールが2-3件続いて届くのです。
      なにかブクログ側の仕掛けの問題なのでしょうね。
      つまらぬことで御手間を取らせ申し訳ありませんでした。ありがとうございました。
      2020/07/13
    • todo23さん
      そうなんでしょうね。
      特にnaonaonao16gさんも読魔虫もフォロワーが多いので起きやすいのでしょうね。
      ありがとうございました。
      ...
      そうなんでしょうね。
      特にnaonaonao16gさんも読魔虫もフォロワーが多いので起きやすいのでしょうね。
      ありがとうございました。

      >todo23さんのレビューに誰かがいいねをする→その誰かからその人のフォロワーに拡散される→さらにいいねをされる→さらに拡散される
      こういったことが起きてるのだと思いますよ^^
      2020/07/14
    • しずくさん
      イイネ! ボタンの疑問をtodoさん同様に感じていました。推察通りでしたねぇ~

      「殺人出産」のレビューにme too。
      イイネ! ボタンの疑問をtodoさん同様に感じていました。推察通りでしたねぇ~

      「殺人出産」のレビューにme too。
      2020/07/15
  • 生殖と繁殖、そして殺人。
    偶発的な出産が減少して(愛があってもなくても、合意でも事故でも)、少子化が進んだ社会。10人産んだら1人殺せる制度「殺人出産」が確立されている。反道徳的なこのシステムは、この社会においてあまりに合理的。殺人を犯す予定の人が「産み人」。殺される予定の人は「死に人」。命をかけての殺意。そして、その行為が、人の繁殖を支えている。当然、産まれた子供は大切に育てられる。
    村田さんの作品は、彼女の作り上げた虚構外の部分は、いたって現実的な描写で、常識と否の境界線を曖昧にさせる。そして、どの作品も数ページで彼女の世界観に引き込む。
    主人公は、「産み人」となった姉を支えながらも矛盾は感じ、姉の「死に人」の胎児の為にか「産み人」となる決心をする。贖罪としての選択ではなく、この「殺人出産」の正常な世界の為に。

    「清潔な結婚」
    性別のくくりに囚われない仲の良い兄弟のような穏やかな日常、それが結婚に対する希望の夫婦。その家庭に持ち込まれない性行為の現実。
    何を持って清潔とや。

    「余命」医療の発達し、”死”がなくなり、自分で死期を選択するという社会。ショートで、軽妙な語り口からシュールな世界。現実でも、自然死はなかなか難しい。死がなくなることと、生き続けることは、矛盾をはらむのかもしれない。

  • お盆中 風邪で寝込み中に読了

    死と生を繋げ、我々の普通に疑問を投げかける
    発想がぶっ飛んで怖い
    まさにクレイジー沙耶香

    性の営みを、生きるためとするか快楽とするか
    現代は両方だが100年後は?

    10人生んだら1人殺せる 
    私ならその時間を自分の未来に費やします
    恨むのはしんどいし生産性がないから
    意思が弱いのでしょうか?

    蟬を当たり前のように食べる姿が印象
    昆虫食はもうすぐ受け入れられそうな予感

    衝撃度は地球星人が上


  • 表題作を含む"生命"と"性"がテーマとなる4つの短編集。

    読了のコンビニ人間の時にも感じたが、著者が描く物語の視点や発想は、自身の持つ価値観や常識を平気でひっくり返してくる。

    殺人出産システム、トリプル交際、性別なき結婚、余命の閉じ方を自分で決めないと死ねない世界。

    いつの日か、あり得る時代がくるのではないかと、年甲斐もなく妄想させられた。

  • 久しぶりのレビュー。

    ちょっと時間が取れなくなってしまい、こまめにレビューできなかったのですが、本は読んでます(笑)。

    僕の愛する村田沙耶香の『殺人出産』を読了した。

    もう、

      常識ってなんだっけ??

    この一言に尽きる。

    村田沙耶香が
      殺人
    についてここまで入れ込んで書いたのを読んだのは初めてだし、いままでもこのテーマについては深く書いていなかったのではないだろうか。

    もちろん、
      殺人
    が肯定される世界はどんな人間社会でも無いが、もしそれがあったならばという気持ちにさせられた物語であった。

    この短編集すべての物語がそれぞれタブーを取り扱った物語であるが、いままで村田沙耶香作品を読んできて、もっとも自分にとって
      問い詰められた
    物語であったと思う。

    『殺人出産』も『トリプル』も自分がいままでに想像もしたことのないような世界が繰り広げられるのだが、この自分がいままで体験してきた世界観が抱懐する様は、いままで一番だ。

    村田沙耶香作品の中でもっとも問題作であるといってもいいと思う一冊である。

    改めて村田沙耶香・・・恐るべし・・・

  • 100年後の近未来のお話、子供を10人産んだら人を一人殺せる。
    斬新な設定ですが、面白かったです。
    出産という概念や殺人を犯してしまった時の刑罰、男性の出産など、110ページのお話なのに結構読み応えがあった。
    殺したい人、またその理由は人それぞれ…

    この本は他に三つの短篇があるのですが、そちらも結構おもしろかったのです。
    カップルよりトリプルで男女交際するのが流行っている『トリプル』
    医療が発達し、死が無くなった100年後の世界『余命』
    私はこの二つが良かったですね、こんなに薄い短篇集でここまで楽しめるなんて♪
    『余命』はたった5ページのお話しですが、また読みたいです。

  • あなたは殺したいほど憎い人はいますか?
    この世界は殺人が許容された世界。
    表題作の殺人出産では10人産んだら1人殺してもよい。この世界観はなんだと思いながら読み切れた本。
    ありふれた風景では想像できない思いもしない出来事を堪能してほしい。
    殺人出産以外も少しずれた日常。すごい特殊な世界じゃないのに少し発想が変わるだけでこうも変わるかと思える作品ばかり。もしこうなったらと少しずれた世界観で展開されるどれも面白く読める作品。

  • 『コンビニ人間』後に読むことになった。 今回も奇抜な発想に引き込まれ、活字ではなくマンガを一気読みした…読後感。

    視点が社会の常識や普通に敢えて挑んでいる気にさえなって、思わず作家の生い立ちを調べてしまった。お父様が裁判官だったようで…厳しい家庭で育ったのかもしれない。

    法律や判例などは社会情勢に追いつくべく更新される。普通・常識の判断も変わり続ける。人との繋がりの中で…自分軸でいることに疑問をもち柔軟に考えて行こうと思った。気持ち悪さがないと言ったら嘘になるが…少し時間を空けてきっと又読みたくなる作家だ。

  • いやー、「衝撃」の一言につきる。

    10人産んだら一人殺してもいい。三人で交際する「トリプル」がブーム。「性」を可能な限り排除した夫婦生活。医療の発達により「死」がなくなりセンスのいい死に方で自分を葬る。

    そんな世界想像したことなかったよ…。けれど「絶対ありえない」とも言い切れない。

    常識って?当たり前の価値観って?
    普通を突き破ってくるこの世界観、中毒性があるっていうのもわかるかも。
    (私は読み進めるのが怖い気持ちもあって疲れてしまった)

  • 短編4部作ですが、表題となっている殺人出産が3/2位あり、他の3作品が少し短く感じます。
    作中では生と死、恋愛や家族・性的指向の在り方などが今の常識とは違う一方で、有り得なくはない世界観が展開されています。

    表題作の殺人出産は人口減少を食い止めるため、10人産んだら1人殺めることができるというシステムが構築された世界で生きている主人公と、その周囲の人達とのやり取りが絶妙に興味深いです。
    今の常識としては殺人はしてはならない罪であり、出産とは切り離されています。また、人口減少が進んでいます。作中のシステムは合理的といえば合理的なのですが、そこまで強い殺意といった感情を抱き続けられるのかな…と考えてしまいました。

    個人的に気に入ったのは3作目の清潔な結婚です。こちらは性的指向の多様化を題材にしていますが、消滅世界と似ている流れであり、事前にそちらの作品を読んでいた場合は内容が理解しやすいと思います。実際に夫婦間で性指向が相手に向かない場合もあり、今の状況に近いのかなと。
    ただ、人工授精以外の先進医療の方法の描写を読んでいる時に笑ってしまいました。高尚な体験と表現されていますが、このやり方は主人公たちにとって理解しにくいものではないか…と感じました。

  • 良くも悪くも村田沙耶香さんらしい短編集だとおもった。本作が面白いと感じた人は「生命式」、「地球人間」なんかも読んでみてもいいのでは。僕が「村田沙耶香さんらしい」と表現した意味がなんとなく分かってもらえると思うので。

    村田さんの作品は「普通とは?」ということを考えさせられる作品が多い。僕たちが感じる「普通」とは、その時代の、その社会の、その文化におけるという極めて限定的なもので、たとえば時代が違えばその「普通」が簡単にひっくりかえってしまうことがありえる。

    本作は「僕たちが思う普通」が揺らいだ世界で、10人も生んで人口増加に貢献したのだから一人くらい殺してもOKだよねという考え方だったり、セミやトンボを食べたり、はたまた恋人関係も「カップル」ではなく三人で付き合う「トリプル」という考え方が「普通」となっている。
    村田さんの作品は一読すると奇抜と感じるものが多いけど、奇抜と感じること自体に僕たちが「普通」という考え方に強く影響していることを思い知らされる。

    まあ結局いろいろ書いたけど、本作のいいところは「自分では到底思いつかないような不思議な世界観」を味わえるところだとおもう。
    堅苦しい作品にちょっと飽きてしまったなという人にはオススメ。

  • 「殺人」「出産」「恋愛」「夫婦」「死」
    これまで「当たり前」「それが普通」と人々が考えている既成概念を丸ごとひっくり返してくる衝撃作。
    あれ?そういえばなんでそれが普通って思ってたんだっけ?と、ふと日常に色々な疑問符が。
    「普通って何?」って意味で、コンビニ人間に近いメッセージみたいなのを感じました。

    殺人出産はちと飛躍しすぎでも、どの話も近い将来あり得なくもない話ばかりでリアル。もしこんな世の中になったら、新しい価値観をすんなり許容することが出きるだろうか…。

  • 沙耶香ワールド全開の4編。将来、このような社会になっていたら受け入れることができるだろうか...。標題作のラストが悍ましくて震え上がる。
    「清潔な結婚」が好み。何が正しくて何が誤り、間違いなのかを自身に問いかけるには恰好の一冊でした。

  • 村田さんの作品を読んでいるとその根底にはいつも今の家族制度への疑問を強く持っていることがわかる。
    恋愛と結婚を別として考えているのだ。

    たしかに、60代70代になっても尚互いのことに恋愛感情を持っている夫婦の方が、普通ではないと正直思ってしまっている自分がいることに気がついた。
    「不倫こそ悪」だと言わんばかり、日常茶飯事に芸能人の二股だの、不倫だののスクープが出されて、徹底的に世間は叩く。
    不倫が起きるのも、恋愛と結婚を結びつけると上手くいかなくなることが多いからであると痛感させられた。

    -------------------------------------------

    トリプルでの圭太の一言がこの短編集を総括するような言葉に感じた。
    「真弓は清らかだよ。きっと真弓もお母さんも、友達も、三人とも清らかだよ。だから他人の清潔な世界を受け入れることができないんだよ」
    「殺人出産」でも、「トリプル」でも、「清純な結婚」でもそれぞれが思う常識があり、それこそ清らかな世界だと思っている。
    だからこそ自分とはちがう常識を持っている人を受け入れることができないんじゃないかな。

  • #読了 2019.9.8

    10人産めば1人殺せる世界「殺人出産」。3人での交際が普通の世界「トリプル」。性行為のない夫婦生活「清潔な結婚」。死ぬことがなくなりセンスのいい死に方を求められる「余命」。全4話197ページ。あっという間に読み切った。

    芥川賞を受賞した「コンビニ人間」しかり、こちらも人の「当たり前」の感覚を問う4話。
    「そういう」世界になったときの大衆心理の描写がすごく好き。百年法(山田宗樹)もそうだけど、みなさんほんとリアルに「こんな考えの人もいてこんな考えの人もいてテレビや雑誌ではこんなこと言ってて…」って綴ってる。おもしろいなぁ。

    村田沙耶香さん自身には、すごく不思議ちゃんなイメージがあるから、こんなに闇深かったり、「当たり前」の感覚に真っ向勝負で疑問をぶつけてくるかんじが想像つかない(笑)
    村田沙耶香さんの他の作品も俄然気になる!&楽しみ!

    自分では偏見なく自分の価値観がそれなりにあると自負していても、村田沙耶香さんの作品を読むと、結局は既存(マジョリティ)の価値観の存在を無意識に認識した上で構築した価値観なんだろうなぁと思う。枕詞に「みんなは普通こう思うだろうけど〜」って付けるような。
    例えば、今現在この世界において「出産」や「殺したいほど憎い」という感覚を自分なりに持っていたとして、では「殺人出産」の世界だったら自分は同じ価値観を持つのか?‪どんな選択をして、どんな行動をするのか?‬

    死生観や性について、今の社会が「当たり前じゃん!常識じゃん!」ってぶつけてくる価値観や、自分が持っている価値観を改めて考えさせる作品。村田沙耶香さんの世界観や文章がすごく好きです。

    ◆内容(BOOK データベースより)
    今から百年前、殺人は悪だった。10人産んだら、1人殺せる。命を奪う者が命を造る「殺人出産システム」で人口を保つ日本。会社員の育子には十代で「産み人」となった姉がいた。蝉の声が響く夏、姉の10人目の出産が迫る。未来に命を繋ぐのは彼女の殺意。昨日の常識は、ある日、突然変化する。表題作他三篇。

  • 果たして何が正しくて、何が間違った世界なのか。

    メインの殺人出産のみならず他の短編も生命倫理や性の価値観等について考えさせられる作品だった。
    そんな世界がこの人の脳の中にあるのだと思うと一瞬で村田沙耶香という小説家に魅せられてしまった。

    今私たちが当たり前のように生きている世界ももしかすると正解ではないのかもしれないし、当たり前だと思っている常識や倫理観も間違いなのかもしれない。

    いつか今の私たちの日常は数百年後の未来で非日常、非常識となっているかもしれない、その可能性は十分にある、そんな可能性が生々しく物語として実現している。

    殺人出産のラストシーンは生々しくストレートな殺傷表現に気持ち悪くなってしまいそうだった。しかし不覚にも美しいと思わせてしまう世界観に一気に引き込まれた。
    他にもこのラストシーンに美しさを感じた人もいるのではないだろうか。

    この私達が感じる美しさこそ私たちの当たり前と殺人出産の世界における当たり前、全く違う世界が繋がりうる可能性なのかもしれない。

  • 芥川賞の「コンビニ人間」が面白かったので、文庫化した「殺人出産」を読んでみた。ずっと気にはなっていた本。だって殺人出産だよ…! 殺人出産。すごい言葉。
    舞台は、産み人になって10人子どもを産むと、1人、誰でも殺すことができる制度がある、未来。産み人は、男の人でもなれる。人工子宮なるものを埋め込んで産む。
    産み人を崇める人、崇めるほどじゃないけど、すごいよねと肯定する人、自然じゃないと批判する人、昔の正しい倫理に戻るべきだと嫌悪する人。立場はそれぞれで、一体「普通」とか「正義」ってなんだろう、と考えさせられた。それから、出産てなんだろう、とも。
    さっさっと読めてしまうんだけど、常に次の一行を読むのが怖かった。わたしを傷つける言葉が待っているような気がした。

  • 凄い話ばっかり。
    4遍とも生死にまつわる話。
    聖書は同性愛を否定していたけど、最近は同性愛を否定するほうが怒られたりする。
    もっと新しく出てきた概念、アセクシュアルやパンセクシュアルは中立的意見の人がほとんどだろう。
    そして短編で描かれたポリアモリー(複数人との同時交際)はまだ批判的に見られている。

    このように恋人との関係でも時代によって受容ラインはどんどん変化している。
    同性愛がこれほどオープンになるとは、100年前どころか10年前でも考えられなかった状況だ。このぐらいの速度で意識の変革が起こりうるなら、ポリアモリーが一般的になる時代も来るのではないか?と思い至るのは自然なことだろう。
    だって今は結婚して同姓になるとも限らないし、男に生まれた人が女として、あるいは性別のない人間として生きていくこともあり得るのだ。性的行為を家庭に持ち込まない夫婦関係も、もしかしたら既にあるかもしれない。

    現在の私たちが行なっているポリコレ的な思考のブラッシュアップが行き着く先はどこなのか?その感覚についていけない側の意見を無視し続けた結果がこれなのかもな。
    いまのご老人からしてみれば現代社会ってこれくらいグロテスクに見えてるんかな。


    「殺人出産」
    命を扱う思想はどんどん変化している。
    死刑が合法だったり違憲だったりするこの世界で、「10人産んだら1人殺してもいい」思想が出てこないとも限らない、本当に。
    それが社会システムの柱となるにはよほど生死に纏わる大事件が重なるとかしないと無理だろうけど…。

    倫理観ってまじで大事に育てていきたいな。

  • 「殺人出産」 村田沙耶香(著)

    2014 7/15 第1刷 (株)講談社
    2016 6/28 第4刷

    2020 5/13 読了

    「殺人出産」「トリプル」「清潔な結婚」
    「余命」の4編からなる本書。

    「コンビニ人間」で芥川賞を受賞する前の2作品を
    続けて読んだわけですが…

    やっぱりクレイジーですよ!沙耶香は!

    何処か違う時空で
    違う世界を見てきたかのように

    ぼくの知らない世界の事を描く村田沙耶香は
    「こんな世界もあるのよ?知らないの?」

    と、言わんばかりに女性の生きている「今」を突きつけてくる。

    読後は一瞬、世界が歪んで見える。

  • 久しぶりに面白い本に出会えた!
    エグすぎる、の一言につきる。
    淡々とした内容のコンビニ人間とは、天と地の差だ。

    村田さんの描く、こんな未来が
    来ないとも言えないから、なんとも恐ろしい。

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著者プロフィール

村田沙耶香(むらた・さやか)
1979年千葉県生れ。玉川大学文学部卒業。2003年『授乳』で群像新人文学賞(小説部門・優秀作)を受賞しデビュー。09年『ギンイロノウタ』で野間文芸新人賞、13年『しろいろの街の、その骨の体温の』で三島由紀夫賞、16年「コンビニ人間」で芥川賞を受賞。その他の作品に『殺人出産』、『消滅世界』、『地球星人』、『丸の内魔法少女ミラクリーナ』などがある。

「2021年 『変半身(かわりみ)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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