スペードの3 (講談社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062936132

感想・レビュー・書評

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  • 朝井リョウの文章は、あぁ、こういう感覚って言語化するとこうなるんだ、と気づかされる。そんな文章がたくさん散りばめられている。

    ポジションに縋る優等生、環境と共に自分も変えてやるという実は強い意志を持った地味な少女、人生に何も物語がなく主人公にはなれないとライバルに引け目を感じる舞台女優。
    こんなに色んなタイプの人の心情や言動を書き分ける文章力は素晴らしいと思う。

    そして、誰でもこんな部分少しはあるよなっていう、あんまり自慢できない感情やできれば知られたくない奥底に沈んでる思いも描かれるので、ひっそりと共感を得やすいのでは。

  •  朝井リョウという作家は、他の作家が膨大な文章量で表現するような人の感情を、少ない文章でぎゅっと的確に表現できる人だなと思った。
    一文一文読むごとに、悔しさ、恥ずかしさ、暗い思い、変わろうとする勇気、たくさんの感情が伝わってきた。
    特に女性に響く作品だと思った。

  • 朝井リョウさんの女子視点の話は女の私よりも女子のドロドロとした感情を良く捉えて描写されていると思う。今回の話もよかった。
    今回は3つの連作短編集。
    ・スペードの3
    学級委員、ファンクラブのリーダー。集団を率いて、時に人の嫌がることを率先してやることにより自分は集団を動かせるほどのすごい人間だと思い込みたい女の感情が露になっている。終始仲良くしていた子達を「取り巻き」と呼んでいたのが印象深かった。美千代にとってはあの子たちは自分を持ち上げる人間A、人間B程度のものだと思っているのだろう。最終的に、呼び名を上司に伝えることで、プライドを捨てきれないけれどそれでも1歩踏み出した美千代。終わり方がいいと思った。

    ・ハートの2
    中学時代のむつ美の話。弟を助けるためという大義名分を得ることによりようやく思い切り進みたい道へと進めたむつ美。愛季と再会した時の「神様はいる。むつ美はそう思う。神様はこうして、たまに、忘れられないようにしてくれる。自分が生きていくべき場所を、勘違いさせないようにしてくれる」という文が好きだ。くれるを使うことにより、むつ美が世界の在り方、視点をどうしようもなく冷静に見ていて、自分は愛季のようなキラキラとした女の子にはなれないしなってはいけないということに自覚的なことが伝わってくる。

    ・ダイヤのエース
    つかさ様の話。果たして、むつ美が思った通り、つかさはむつ美に似ていた。同期の、人々に憐れみを誘う物語を背景にゆらめかせる円に、嫉妬を抱かせていた。確かに順風満帆な人よりも、悲劇的な背景をもつ人物の方が世間では評判をうみやすい。安易な不幸話はその人を見る目に物語を育ませることはよく共感出来たので、ずるいというつかさの気持ちには何度も頷いた。ずるいことを自覚していることが1番ずるいと思うのもよく分かる。ただの不幸な女の子なのではなく、不幸で、だけどそれに甘えることなく確かな実力と努力をも併せ持つ円は本当にずるい。全体的に特に共感する部分が多い話だった。

  • 朝井リョウさん独特の、爆弾のような仕掛けがあり展開に飽きずに読めました。
    ああいるよなあ、クラスや仕事場にこういう人…という感じ。
    憧れの人や、人気者のうざーい感じが描写されていますが、何もない人はこれから起こりうる不幸を勘づいてないだけで、気付かないとそのまま人生を終えると勘違いしてしまいがち。
    だけど、そんなことは誰にもなくて、やはり変わらなければいけない転機というものがいつか必ずやってくる。
    朝井リョウさんの本は「桐島…」「何者」以来でしたが、もっと読んでみたいと思わせる一冊です。

  • 読んでいる間、ずっと心がざわざわした。けど読了後はすっきり。

  • この本で朝井リョウさんを知りました。
    すぐ名前を検索して男の人なのにびっくりしたなあ。
    人の覗いてはいけないところを覗いてしまって、そのまま見続けていいの?大丈夫?と思いながら見てしまうお話。特に最初のお話。

  • 「誰かのため」に行っていたことは全て「自分のため」に行っていた。「誰かのため」と言いつつ、周りよりも少し自分がリードしていることに優越感を感じる。
    朝井リョウさんの作品は自分の醜い部分をえぐり取られることが多くて、読んでいて思わず笑ってしまう…。こういう作品が本当に大好きです。
    「誰かのため」という前提の前に「自分のため」という前提。自分は自分のためにより良くなりたい、という素直な気持ちをもつ勇気をもらえました。

  • エゴ、エゴ、エゴがすごい。自分の腹の底にある汚いドロドロしたものを、目に見える形にされるというか、なんというか。いろんなことが刺さりまくって、読み進めるのに時間がかかった。朝井リョウさん、何気に初。

    愛季や円は、シンデレラのようだと思った。無自覚でそういうことをやっちゃう子、いるんだよね。円は自覚していたみたいだけど。もし“革命”が起きるとしたら、こんな子たちになんだろうな。

    結果、そうじゃない人には革命なんていくら待っても起きないもので。自分で地道にちょっとずつ行動していくしかない。

    なにも持ってないんだから、革命なんて起きやしない。現実を見ろ、愚か者。

  • 「いい子」や「優等生」が無意識に抱いていた自己顕示欲や他者への優越感、劣等感、マウント欲をえげつない程丁寧に書いていて戦慄した。側から見れば一見何もかも持ち得ていて満たされているように見える人でも、実は誰しも多かれ少なかれ劣等感や嫉妬といったマイナス感情を抱えていて、でも言うことはできずに皆一人で抱えて生きているのだと思わせられた。朝井リョウはそんな言語化できない負の感情を書くのが本当に上手いと思う。第一章では、主人公の立場をおびやかす「アキ」の正体がまさかのミスリードになっていて「やられた!」と思った。

  • 時間軸を過去の自分に置くことについて考えさせられた。未来に向けて変わろうとする人にとっての過去と本作に出てきた彼女達の過去は大きく違うのかもしれない。
    また、過去を終わったものとして捉えることの難しさや重要性を感じた。

著者プロフィール

1989年岐阜県生まれ。2009年『桐島、部活やめるってよ』で、「小説すばる新人賞」を受賞し、デビュー。11年『チア男子!!』で、高校生が選ぶ「天竜文学賞」を受賞。13年『何者』で「直木賞」、14年『世界地図の下書き』で「坪田譲治文学賞」を受賞する。その他著書に、『どうしても生きてる』『死にがいを求めて生きているの』『スター』『正欲』等がある。

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