永山則夫 封印された鑑定記録 (講談社文庫)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (496ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062936286

作品紹介・あらすじ

19歳の連続射殺犯・永山則夫。生前、彼がすべてを語りつくした膨大な録音テープの存在が明らかに。犯罪へと向かう心の軌跡を描く。

感想・レビュー・書評

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  • 私が生まれる前の事件なので詳しくは知らなかった。

    この本を読んだら、永山を糾弾できるのは、被害者遺族を除いては彼と全く同じ境遇に育った人だけなんじゃないかと思った。

    私が彼のような事件を起こさないで、まっとうに生きていられるのは、たまたま幸せな子ども時代を過ごせたからなんだなと…

    子どものころに、親や信頼できる大人に甘えられることって、人間にとって何より必要なことなんだな。

  • 『死刑の基準』と本作と読み進めてきて、子どものころにかけられる愛情がどれだけ人間になるのに必要なものか、つくづく思い知る。母性は本能ではなく、母をもとめる気持ちだけが唯一の本能。
    今も毎日虐待の報道がある。
    どうしてあんな可愛い子どもを、と他人は思う。
    さらに無視、ほったらかし、今でいう放置子は、事件化せず表面化しないだけでたくさんいるだろう。ごはんとスマホだけ与えられ、今だって皆、生きること、社会生活をすることに必死だ!
    彼らの心の奥に空いた穴はいつか永山則夫のように愛をもとめて爆発するのではないだろうか。

    あのはにかんだ笑顔の写真、どう見ても、やっと彼はほんとうに人間になった、そう思える写真がどうやって撮られたのかということがはじめてわかった。

  • 1968年、アメリカ海軍基地からピストルを盗み、日本各地でタクシー運転手など4人を次々と撃ち殺した連続殺人犯 永山則夫。
    彼が死刑となる前、石川医師より受けた精神鑑定の様子を録音したテープ(49本、100時間超)が2012年に発見される。
    本書は、その膨大な記録をもとに、永山の壮絶な生育家庭や犯罪に至る背景を明らかにしたドキュメンタリーである。

    彼の精神状態がうかがえる興味深い記述がいくつかある。
    「自分が殺した4人が一生、自分の中にいて、自分は5人を生きている、だから自分を書きたいのではない、書くことで4人を殺した罪を償うんだ(中略)自分は弱い人間で、自殺するにも4人殺さないといけなかった」(p.50)
    「違うんだ、自分と違う人を持ってきて、貧困でも、こういう人がいるっていうのはね、それは違うんだ……。」(p.401)
    他にも、「離人感」(人間としての関係が断絶し、現実感を失った異常心理)(p.388)を覚えるまでに追い詰められていたことや、ドストエフスキーに傾倒しており、自身を『カラマーゾフの兄弟』のスメルジャコフになぞらえていたことなどが語られている。

    しかし、彼が刑執行の直前に大暴れし、刑務官に取り押さえられて絞首台まで運ばれた事実については記述がない。
    だから、小説の印税を遺族に寄付し、基金を設立してペルーの子どもたちを救っていたという話を聞いても、死の直前のこの様子を知れば、結局は刑を免れるための偽善であったのだろうとしか思えない。
    本当に罪を償う気持ちがあるのなら、大人しく罰を受け入れるのではないだろうか?

    この著者、光市母子殺害事件で被告に死刑判決が出たとき、遺族の支援者たちから「拍手と歓声があがった」ことに戦慄を覚えたという。
    それって本当にいけないことなのかな?そもそも、永山の(犯罪者の)心情だけにスポットを当て、同情を買うような生い立ちを披露して、「死刑廃止」を進めようとする論調って正しいのかな?
    殺された方の遺族にしてみれば、殺人者がどんな境遇を生きてきた人物であろうと知ったことか!となると思うのだが。
    日本のメディアって、どうしてこうも加害者の人権ばかり守ろうとするのだろう。

    幼い頃から、永山に愛情を注いでくれる家族がいたなら。極限状況にあるときに、彼に声をかけてくれる人がたった1人でもいたなら。こんな悲劇は起こらなかったかもしれない。
    根本のところで、著者と自分の考えとに相容れない部分もあるのだけれど、「永山基準」という言葉ができるほどに死刑問題に一石を投じた世紀の事件について、深く知るためには非常に優れた著作であると感じた。

  • 発掘された100時間の肉声テープ。衝撃のノンフィクション

    連続射殺犯・永山則夫。犯行の原因は貧困とされてきたが、100時間を超す肉声テープを託された著者は、これに真っ向から挑む。そこには、家族の荒涼とした風景が録音されていた。少年の心の闇を解き明かす!

  • 死刑制度について考えたことがなかったと思い知らされる。未成年の凶悪事件って昔からあったのか。など自分の無知が情けない。圧倒的な筆力でぐいぐいと永山と石川の対話や、永山の生い立ちに引き込まれていく。ズドーン!心に重くのしかかる、小説ではないから余計に。

  • 図書館

  • 永山氏が事件を起こした頃に自分は生まれた。
    彼が育った時期は、今思えば、そんなに昔のことではない。自分の父母が育った時期よりは、現代に近い。
    しかし、想像もつかないくらい、厳しい環境に育ったようだ。

    あるいは、これほどまでに厳しい環境に育てば、「正常」な判断は期待し得ない。責任能力は期待できない。という人もいるのかもしれない。

    「責任」とはなんだろうか。
    法とはなんだろうか。
    法の根底には、論理が存在するのだろうか。
    「社会」を成り立たせるための虚構として存在しているに過ぎない、という論を読んだことがある。
    私もその論に傾いている。

    永山氏についてどうか、と問われたら、それは不運な悲運な人だったと思うが、だから死刑が不当かといえば、事情が事情だから不当だったなどとは思えない。
    大体、量刑の過不足なんてこと自身さっぱりわからない。多分ほとんどの人がそうだろうけど。

    そうした意味では、(ほとんどの人に)よく分からない種類の話でしかない話であって、法だの刑罰だの量刑だのというのは、考えてもしょうがない話なのかもしれない。

    しかし、堀川惠子さんの、取材対象に対する、真摯で労を惜しまない粘り強い姿勢には感動する。
    そうして得たコンテンツを、基本的に硬質で抑制的に描き、押し付けにならない絶妙な筆致で、自ら伝えたいことを、しっかり伝えるという技術にも改めて感動した。

  • 最初の30ページくらいまでは何と素晴らしい文を書く作家なのだろうと感心して良い作家を見つけた喜びに満ちていた、正直痺れた。ここでブクログの本書の評価を見てみると、4.5超えか確かにその通りだとも思った。こう書くとその後が悪いみたいになってしまったが、当初の期待を上回る程でもない。
    永山の逡巡が随所というかずっと続く。ルポルタージュであり人間とはこう言うものだと言えばそれまでだが・・・。
    読み物としては、ややグダグダしたものに感じられた。

  • 精神鑑定を通して姉以外の他者に理解され、ようやく自分を理解出来たのだと思う。
    理解者を得て過去の自分の存在を認められたからこそ、心神喪失という鑑定記録を受け入れられなくなったように思えた。

    無知、貧困、虐待、刑罰と償いなど様々な社会問題について考えさせられる。

  • 思ってたよりずっと面白かった。
    精神鑑定って何やってんのかなとずっと思っていたが、こんな風に被疑者が生きてきた軌跡を聞き取ることでなぜ犯罪を起こしたのかに迫っていくのかーと、初めて得心した。
    永山の犯罪の理由は単なる貧困ではなく「家族」に端を発するものであることが、特に上京後の描写から如実に分かり興味深い。犯罪は直接的には「家族」への当てつけであったことも鮮やかに明らかになる。
    まるで小説を読んでいるようだった。

    裁判記録ってすごいなと、今後の仕事へのやる気がむくむく湧いてくる。

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著者プロフィール

1969年広島県生まれ。『チンチン電車と女学生』(小笠原信之氏と共著、日本評論社)を皮切りに、ノンフィクション作品を次々と発表。『死刑の基準―「永山裁判」が遺したもの』(日本評論社)で第32回講談社ノンフィクション賞、『裁かれた命―死刑囚から届いた手紙』(講談社)で第10回新潮ドキュメント賞、『永山則夫―封印された鑑定記録』(岩波書店)で第4回いける本大賞、『教誨師』(講談社)で第1回城山三郎賞、『原爆供養塔―忘れられた遺骨の70年』(文藝春秋)で第47回大宅壮一ノンフィクション賞と第15回早稲田ジャーナリズム大賞、『戦禍に生きた演劇人たち―演出家・八田元夫と「桜隊」の悲劇』(講談社)で第23回AICT演劇評論賞、『狼の義―新 犬養木堂伝』 (林新氏と共著、KADOKAWA)で第23回司馬遼太郎賞受賞。

「2021年 『暁の宇品 陸軍船舶司令官たちのヒロシマ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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