- Amazon.co.jp ・本 (496ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062936996
作品紹介・あらすじ
ゴッド・オブ・ミステリー・島田荘司推薦! これは歴史の重厚に、名探偵のケレン味が挑む興奮作だ。
シャーロック・ホームズが現実の歴史に溶けこんだ。いかに彼は目撃者のいないライヘンバッハの滝で、モリアーティ教授に対する正当防衛を立証し、社会復帰しえたのか。日本で実際に起きた大津事件の謎に挑み、伊藤博文と逢着する。聖典【シリーズ】のあらゆる矛盾が解消され論証される、二十世紀以来最高のホームズ物語。
細谷正充 (文芸評論家)
松岡圭祐の新刊は、なんとシャーロック・ホームズと伊藤博文が、明治の日本で共演する。おまけに扱う事件が、日本とロシアを震撼させた大津事件。時代ミステリーの秀作にして、新たなるホームズ譚の収穫。これほどの物語が文庫書き下ろしで入手できるとは、なんとも嬉しいことである。
北原尚彦(作家・ホームズ研究家)
ホームズが死亡していたと思われ不在だった時期(ホームズ研究家=シャーロッキアンは「大失踪期間」と呼ぶ)に何をしていたのかについて、「チベットなど東洋へ行っていた」と説明されるものの、詳述されることはない。その謎に秘められた期間、ホームズは秘かに日本に渡っており、伊藤博文とともに難事件を解決していた。それも、歴史に残る重大な出来事に隠された真実を。──それが本書『シャーロック・ホームズ対伊藤博文』なのである。
本作では、歴史上の出来事とシャーロック・ホームズの年代記を巧みに組み合わせている。博文は一八六三年から六四年にかけて、実際に仲間とともに渡英している。だからこの際に、博文とホームズの(最初の)出会いがあっても不思議ではないのだ。
本作は虚実の混ぜ具合が、実に絶妙だ。山田風太郎や横田順彌の明治小説と似た味わいの、重厚でありながら第一級のエンターテインメントなのである。
感想・レビュー・書評
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虚実入り混じれた話。ホームズはあまり好きではないし、伊藤博文にもなんら思い入れはない。なのでつまらない。特にホームズは傲慢な性格が強調され、いっそう不愉快。話も史実から大きくハズレられない、歴史を変えられないので、爽快さがない。切り取った歴史の先が暗いからだろう。ホームズには3年間の空白があり、その3年間に起こった出来とごとで物語を構成する必要があったからだろう、他に爽快な気持ちで終えられる事件がなかったということと思う。
著者の小説はいくつか読んでいる。バラエティに飛んだ物語を作る小説家だ。昔のヒーロー物『キカイダー』のノベルティなど面白かった。読みやすいし。でも、ちょっと気負いというかごてごてしさがある。そこが本作では目立った感じ。
個人的に嫌いで興味がないキャラクタ、爽快さがない結末にならざるを得ない話。読みやすかっただけに読後の満足感は半減。まあ、好き嫌いの話だ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
幼い頃一通りホームズを読んだけれど、そこまでの思い入れはなかったので、一小説として読んだ。ホームズが人間くさいように思ったけど、ホームズを好きなほど楽しめるのかな?
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面白かった!映画にもしてくれないかな。
実力行使、自力救済から法治主義へ。せめぎ合いながら進んでいく。
ホームズが事実の中に出てきた。明治時代日本の大津事件。ホームズってほんとにいそうな気がするから…伊藤博文もかっこいい。
クライマックス、松岡圭祐さんらしい面白さ -
ホームズがラインバッハの滝にモリアーティと共に落ち、空家の冒険で再登場するまでの空白期間の物語。伊藤博文と無二の親友になりますが、とにかく伊藤博文が格好良すぎる。ホームズが霞むほど魅力的。
ホームズの謎解きはもちろんあるけど、ケレン味がなくすっきりした印象。
友情、謎解き、魅力的な登場人物、史実に絡めた事件…。
最高に面白いはずなんですが、幾分上品すぎるせいか手に汗握る展開とはならず。
ただラストにはじんわり感動。
もう一度シャーロック・ホームズの帰還を読み返したくなります。 -
面白かった!
シャーロックホームズが、現実に存在していたら??というタラレバで伊藤博文と絡むお話。
しかも実際の大津事件をもとにしており、
本当にいてこんなことがあったら?とワクワクしながら読めた。
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シャーロック・ホームズと伊藤博文にまさか大津事件を絡めるなんて!更に終盤は予想外の展開に(ネタバレになるので書きませんが)。
ストーリーテラーの松岡圭祐ならではの発想に加えて、全編シャーロック・ホームズへのオマージュに溢れた作品。ラストの終わり方もシャーロキアンは満足なのでは。 -
ホームズと、実在の伊藤博文とのかけあい、そして実際にあった事件でのホームズの活躍。
言葉はわからずとも、類まれな推理力でホームズが日本と溶け合っていくような感覚がとても面白かった。
伊藤家との触れ合いの中で、ホームズの思考が変化していくのも興味深い。
その流れも不自然ではなく、しっかりとした潮流の中にあったと思うし、全体的に「家族」というものが理念的にあったように思う。
そして、日本がの劇的な変化と建設を背景に繰り広げられる、ホームズの推理と博文の行動力。
テンポや展開も非常に読みやすかった。
2人がしっかり相棒のように噛み合ったり、少々意見が食い違ったりと、物語が絵になって浮かんでくるようであった。
シャーロキアンではないが、シャーロキアンでないからこそと言うべきか、とても楽しめた1冊となった。
そして今の情勢にも通ずるところがあるような気がした。
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日本人作家による、シャーロック・ホームズワールドの本格パスティーシュ小説。
舞台は19世紀末の英国、そして明治日本。
幼少期のホームズ兄弟と、密航者である長州藩士・伊藤春輔(後の博文)はロンドンで邂逅し、束の間の交流を果たす。
やがて、新政府の要人として欧州を歴訪する伊藤と、名高き探偵として活躍するシャーロックの再会と物別れ。
そして、スイス・ライヘンバッハの滝で宿敵・モリアーティ教授との死闘から生還して後、失踪中のシャーロックは、密かに日本に潜伏し、伊藤と共に、大津事件に絡む謎と、ロシアからの外圧と謀略に晒される日本の危機を回避すべく奮闘する。
実在の人物と史実の事件に、創作上のキャラクターが巧みに融合し、正典の大空白時代との整合性を図りつつ、壮大なスケールの歴史ミステリ冒険活劇がスピーディーに展開する。
丁寧な時代考証に裏付けされた近代日本という舞台で、世界的名探偵が期待に沿う面目躍如の活躍を見せ、相棒役の伊藤が年齢を感じさせぬ気骨と肉弾戦を魅せてくれる。
後半の派手なアクションシーンは、特に映像映えしそうだ。
そうして、急激に近代化を図り、邁進しようとする明治日本の弱点や、法治主義を貫く困難さを通して、“なぜ、この二人でなければならなかったのか”という本書の根幹を、素晴らしい説得力をもって描き切っている。
さらには、シャーロックの鼻持ちならない偏屈さが、伊藤やその家族らとの関わりの中で、少しずつ矯正されていき、英国帰還後の変貌の理由にも繋がっていくという、隙の無い構成も見事に尽きる。
終盤、シャーロックの屈折の根っこにあったであろう、兄との和解のシーンは、思いがけず泣かされた。
歴史物・推理物・冒険譚と複数のジャンルを跨いで成立しながら、虚実を織り交ぜたエンターテイメントとしても質の高い作品である。