小説の神様 (講談社タイガ)

著者 :
  • 講談社
3.68
  • (122)
  • (186)
  • (161)
  • (43)
  • (14)
本棚登録 : 2365
感想 : 215
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062940344

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 漫画で言うとバクマン。を読んでいるときのような、
    業界の内情を覗き見て、どこまで本当なのだろうとドキドキするような
    感覚に陥る。
    多かれ少なかれ、相沢先生の実体験も混じっているのだろうかと
    邪推してしまった。

    ただ、他の方のレビューでも見かけたが
    バクマン。は作中で傑作が描かれる。
    こんな作品なら本当に面白そう、読んでみたいと思わされた。
    だが大抵のこういう系統の物語は、作中で傑作が描かれない。
    「素晴らしい作家が傑作を書いた」という一行でそれが事実になるのが
    小説の良さでもあるのだが、本当にその作家が素晴らしくて
    書いた作品が傑作なだという説得力にはどうしても欠けてしまう。

    実際に傑作を生んでいる天才たちの苦悩、
    学生でありながら働いているならではの苦労
    その両方が書かれている物語に比べると、傑作部分が曖昧なので
    勤労学生の大変さが主軸になってしまってはいる。

    同じところをぐるぐる回ってばかりで、テンポ良く話が展開するわけでもなく、
    問題が解決したわけでもないが、
    迷った末に一歩踏み出す物語。
    好き嫌いは分かれるかもしれない。

    自分は本や映画など創作物に触れるとき、
    泣きたいとも、泣かないためにとも思っていない。
    ただ、面白い物語を見たいだけだ。
    だから、『泣ける』という帯には嫌悪感があるし、
    この登場人物たちの考えとも全くイコールではない。

    小説を読むことが、現実に立ち向かう力になるというのはわかる。
    小説だけでなく、自分の好きなものに触れることは
    力になるだろう。

    物語を紡ぐ意思と、それを待ってくれている人がいる限り物語はきっと続く。
    でもそれは綺麗事だ。
    待ってくれている人がいるかどうかは見えないことも多い。
    たった一人しか待っていなかったら、プロとして発表する意味はない。
    それでも、本が売れない現代だからこそ
    自分でサイトで本を売ったりフリマに出たりという方法は取れるだろう。
    プロ作家がコミケに出て、商業で出せなかった本を売るというのは
    そこまで珍しいものでもない。
    売れたいから書くのか、書きたいから書くのか。
    売れるというのはそれだけ多くの人に届けられるのが利点でもあり
    届かない物語を綴ることに意味があるのか。

    素人でも悩むだろうに、プロとして書いていて
    打ち切りに遭えば、打ちのめされるのはわかる。
    千谷のキャラは嫌いではないし、気持ちもわからなくもない。
    リアルだと言えるのかもしれないが、どうしてもヘタレ過ぎには感じてしまった。
    悪夢に魘され自傷行為をするのは、最早精神を患っているので
    母親は優しく手当していないで病院へ連れて行ってあげるべきだと思う。

    詩凪のキャラの方が好きだし、強気に振る舞っていたという
    いかにもラノベのヒロイン的な感じは好きだ。
    小説が書けなくなった、ではなく文字が書けなくなったというが
    構想を話すことはできる。
    なら、音声入力ではどうだったのだろう。
    何故か文字が書けなくなるほど追い詰められたのに、
    千谷に話すことはできた。
    実は千谷の父のことも千谷のことも知っていたから。

    ご都合主義と言えなくもないし、顔を晒して活動していたのに
    クラスの他の誰も彼女の正体に気が付かない。
    そんな数年で面影が無いほど顔は変わらないし
    若い子達は基本的に小説を読まない、が下敷きになっていて
    小説を読む成瀬が特殊なだけ。
    主人公の妹は難しい病気で入院しており
    医療費を稼ぎたいから小説を書く。
    追い込まれて『書きたい』だけで書けない為の設定なのかもしれないが
    少々無理がある。
    確かに事実は小説より奇なりで、そういうこともあるかもしれないが
    小説にしてしまったら都合が良すぎる『人物が書けてない』設定ではある。
    ただ、ラノベだと思えばそこまで気にならないところでもある。

    ここまで炎上騒ぎになっていて、当の舟城は何も言わなかったのだろうか。
    もし、盗作ではないと思っていたら、況して相手は子供なのだし
    自分のファンに向けて冷静になれと発言するなり
    逆手に取って不動との対談でも組んでもらって仲良くするなり
    できたと思う。
    それがなかったのは、舟城も盗作だと思っていたからなのか
    担当者から絡まないよう釘を刺されていたのか。

    物語に力なんてない、という言葉は傷つくし
    詩凪と千谷の喧嘩を見て、後輩の成瀬が間違わずに
    『小説を愛するが故の怒り』だと認識したのは凄い。
    救われる思いもした。
    が、もう少しその辺りの、千谷が歪んでまるで持論のように
    詩凪や成瀬に言うようになってしまった経緯に説得力が欲しかった。

    唯一好きなキャラクターは九ノ里だが、彼にしても
    美味しすぎるというか、何故なんでも知っていてうまいところに
    適度なやり方で絡んでくるのかの説得力はない。

    続編を読むと、二人の合作は好評だったようだが
    これだけ苦悩として描かれても、ならば結局外部から見れば
    問題もなくトントン拍子に売れている感は否めないと思う。

    映画化されるというので読んでみて、
    現在の出版業界への問題提起というよりは
    でも頑張って書いたら誰か見てくれているかも、という感じなので
    やっぱりぐるぐる悩んだ末に同じところに戻ってきている印象。
    面白かったしところどころぐっとくる台詞もあった。

    九ノ里は映画はだいぶキャラを変えていそうで、
    佐藤流司さんなら原作通り九ノ里も演じられるだろうに
    何故キャラを変えたのだろうか。監督の意図なのだろうか。
    詩凪が橋本環奈さんなのはかなりイメージ通りで
    映画は観に行くつもり。楽しみにしている。

  • 高校生作家たちの青春小説といった感じだろうか。
    作家の気持ちが代弁されていると思うが、私は創造的な才能は無いので凄く羨ましくもあり、関わらなくて良かったという安心感もある。
    ただ私は高校生くらいから本を読むようになり世界は広がったと思う。「物語に力なんて無い」という主人公のセリフが作中にある。その通りで小説に「チカラ」は無い、が能力はある。それは現実逃避だったり憧れだったり気晴らしだったりするかも知れないが影響を与える能力だと思う。漫画や映画に比べると映像がない分インパクトは弱い。でもそこには想像力を使うという余白がある。その自由度が良い。

  • とても胸を打つ小説だった。
    小説は「ねがい」だとわたしも思う。

  • mediumの著者の相沢沙呼さんの本とういうことで読みましたが、、。最初は主人公の千谷君の心理描写などから、重苦しい本だと思いながら読んで行ったのですが、途中から千谷君が小説を書くのが楽しいと思っている様子が見えて、最初に感じたイメージを覆されました。
    10代ならではの不器用さが目立った青春小説で、最後の方では涙してしまう程の感動だったと思います。

  • 大好きな作品。
    青春小説が好きな小説家志望としては
    かなり楽しく読めたし
    私も作家にやはりなりたいなぁ
    と感じました。

  • 評価が高いので読んでみました。結果、面白かったんですが、どうにもヒロインが好きになれず…。男の人が書くヒロインっぽいなあと思って調べたら、作者は男性なんですね。名前のイメージから女性だと思っていました。後輩の女の子は可愛いです。

  • 中学生の時に小説家デビューした男女が主役。

    かなり、重い(- - 苦しい(- -;
    小説に限らず、何か「物を生み出す」人には
    共通の悩みを深く、赤裸々に描き抜く。

    「産みの苦しみ」「スランプ」など、
    避けては通れぬが「直視したくない」苦しみを
    これでもかと言うほどに突きつけられ、
    正直、読んでいてかなり辛い(- -;

    ざっくり言ってしまえば「ハッピーエンド」になるが、
    それは「オマケ」みたいなもので。
    悩み、苦しみ、もがき、ぶつかり、戦い抜く様が
    この本の真骨頂と言えるのでは(^ ^;

    終盤、小余綾の「問題」が発覚するのは、
    展開としてはちょっと安易な気もしたし...
    それで発奮する一也も単純で(^ ^;
    少年漫画の世界か(^ ^;

    九ノ里がいい味出してるが、スーパーマン過ぎ(^ ^;
    成瀬さん、もう少し絡んで発展するかと思ったが(^ ^;
    雛子はどうなったか、後半忘れられてるような(^ ^;

    ...などと、ツッコミどころは数あれど(^ ^;
    楽しく読ませていただきました(^ ^

  • 高校生の売れない作家の主人公と、同級生で売れている作家の少女が合作で小説を綴っていく作品。

    主人公の小説が好きな故に書きたくても書けない心の葛藤が見えるのと、周囲にいる人々の小説への純粋な思いが描かれています。

    すべての小説家は同等の悩みを持って執筆しているのかもしれませんね。また、自分は小説に力をもらって生きていることも実感しました。

  • 紅玉いづきの吟遊詩人探偵とか、王城夕紀の青の数学みたいな雰囲気。くるしくても、くるしくても。
    そして、この小説のレビューには大変書きにくいけど(笑)アラサー女が読むには主人公が卑屈すぎてしんどかった。大人は諦めることも、それでもあがいて前へ進むことも、自らの責任において選択して行動できるから。このレーベルの読者層には感情移入しやすい苦悩であり葛藤だったのかな、どうかな。

  • +++
    いつか誰かが泣かないですむように、今は君のために物語を綴ろう。

    僕は小説の主人公になり得ない人間だ。学生で作家デビューしたものの、発表した作品は酷評され売り上げも振るわない……。
    物語を紡ぐ意味を見失った僕の前に現れた、同い年の人気作家・小余綾詩凪。二人で小説を合作するうち、僕は彼女の秘密に気がつく。彼女の言う“小説の神様”とは? そして合作の行方は? 書くことでしか進めない、不器用な僕たちの先の見えない青春!
    +++

    中学生でデビューした作家が同じクラスに二人もいるというのは、奇跡としか思えない設定ではあるが、もしそんなことがあったとしたら、普通に考えて、意気投合するか反発しあうか、完全に無視するかのどれかだろう。だが、彼らの場合はそのどれでもなく、二人でひとつの物語を紡ぐことになる。本作は、さまざまな要因を含みつつ、それをひとつずつ呑み込んで消化し、それでも消化しきれないものは少しでもかみ砕いて、二人でやっていこうとしっかりと思えるまでの物語である。自分と自分の編み出した物語を愛せるようにならないままでは、どうしたって二人でやっていくことはできなかったのである。自分たちの立ち位置を見極めたここからが、彼らの始まりなのだと思わされる一冊でもある。

全215件中 51 - 60件を表示

著者プロフィール

1983年埼玉県生まれ。2009年『午前零時のサンドリヨン』で第19回鮎川哲也賞を受賞しデビュー。繊細な筆致で、登場人物たちの心情を描き、ミステリ、青春小説、ライトノベルなど、ジャンルをまたいだ活躍を見せている。『小説の神様』(講談社タイガ)は、読書家たちの心を震わせる青春小説として絶大な支持を受け、実写映画化された。本作で第20回本格ミステリ大賞受賞、「このミステリーがすごい!」2020年版国内編第1位、「本格ミステリ・ベスト10」2020年版国内ランキング第1位、「2019年ベストブック」(Apple Books)2019ベストミステリー、2019年「SRの会ミステリーベスト10」第1位、の5冠を獲得。さらに2020年本屋大賞ノミネート、第41回吉川英治文学新人賞候補となった。本作の続編となる『invert 城塚翡翠倒叙集』(講談社)も発売中。

「2022年 『medium 霊媒探偵城塚翡翠(1)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

相沢沙呼の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×