哀歌 (講談社文芸文庫ワイド)

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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062955034

作品紹介・あらすじ

肉体の恐怖の前には精神など全く意味を失ってしまう。
臆病に生き臆病に埋もれて、自分がどんなに卑怯なのかどんなに弱いのか、たっぷり承知している――弱者。
弱者を凝視して聖書とキリストの意味を追求し、『沈黙』への展開を示唆した注目すべき短篇集。
人間の深層によどむ〈哀しみの歌〉を表題に据え、「その前日」「四十歳の男」「大部屋」「雲仙」など十二編を収める。

感想・レビュー・書評

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  • 沈黙に通ずる

  • 遠藤周作の『イエスの生涯』を読書中で、そんな関心があって図書館でこの本に目が留まり、何気なく借りた。
    「『沈黙』の前奏曲ともいえる短編集」とあるけれど、遠藤周作さんの文学に対する姿勢がよくわかったし、『イエスの生涯』などという少々敬遠してしまうような内容の本にも理解の助けになる。

    なぜ『イエスの生涯』を読んでいるかというと、古いことになるけれども、9.11のアメリカでのテロ事件の直後、イスラム教とは何か、それに関係するキリスト教文明を知りたいと思い、いささか読んだその関係書物の一つである遠藤周作氏の本であったけど、なかなか手を出せていなかったもので。

    そういう前奏曲がないと、この短編集に描写される人間たちのふるまいは、どうしようもなくかなしいけれども、哀れにもなり、笑ってしまうかもしれない。

    いや、一遍ごとにやり切れない思いも募り、いやな気分にもなる短編だ。

    人間の存在とはこんなものだよ、うそつきで、おくびょうで、ずるいかぎり。
    冷静に人間の浅ましさを見て、それを人間の日常に創作再現する。その罪の意識を暴く。
    一見私小説のように創作されているが、遠藤周作さんの文学上、人生上の思想の変遷途中経過なのである。

    キリスト教を理解するのは難しいけれども、一つの宗教を追求するその精神的な苦しみは理解できる。つまり、遠藤氏が幼いときに自覚もなく洗礼を受け、成長して後の悩む精神上の煩悶が文学として結晶している。


    なお
    40年以上前に『沈黙』は読んでいるのだが、すっかり忘れていて再読せねばと思う。

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著者プロフィール

1923年東京に生まれる。母・郁は音楽家。12歳でカトリックの洗礼を受ける。慶應義塾大学仏文科卒。50~53年戦後最初のフランスへの留学生となる。55年「白い人」で芥川賞を、58年『海と毒薬』で毎日出版文化賞を、66年『沈黙』で谷崎潤一郎賞受賞。『沈黙』は、海外翻訳も多数。79年『キリストの誕生』で読売文学賞を、80年『侍』で野間文芸賞を受賞。著書多数。


「2016年 『『沈黙』をめぐる短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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